仮に国民医療費が4兆円(医療費の1割弱)削減されれば、まっとうな医療提供が行えなくなってしまう—日病協
2025.3.3.(月)
政界からは「医療費4兆円削減」の考えも示されているが、これでは「まっとうな医療提供」が継続できなくなってしまう—。
2026年度の次期診療報酬改定に向けて、4月に総論、6月の各論となる意見・提言・要望を病院団体として行っていく—。
2月28日に開かれた日本病院団体協議会の代表者会議でこうした点が確認されたことが、会議終了後に仲井培雄議長(地域包括ケア推進病棟協会会長)・小阪真二副議長代理(全国自治体病院協議会副会長、島根県立中央病院長)から明らかにされました。なお、小阪副議長代理は個人的見解として「医療DX推進による重複検査・投薬等の削減は可能であるが、高額薬剤も登場しているがん医療などの削減は困難である」「厚生労働省・総務省・財務省が一丸となって、借金をせずともまっとうな医療機関経営が可能な環境を構築してほしい」との考えも示しています。
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2月28日の日本病院団体協議会・代表者会議後に記者会見に臨んだ仲井培雄議長(地域包括ケア推進病棟協会会長、向かって左)と小阪真二副議長代理(全国自治体病院協議会副会長、向かって右)
2026年度診療報酬改定に向け、4月に総論、6月に各論の病院団体提言を行う
先の衆議院総選挙で「少数与党」となったため政界が大きく揺れています。少数与党のままでは法律案・予算案等を可決することが難しいため、野党側の主張、とりわけ医療に関する野党側の主張を組み入れる場面が数多く見られます。例えば「高額療養費」制度について、当初は「3段階の見直し(2025年8月、2026年8月、2027年8月)を行い、所得区分の細分化、上限額の引き上げ」を行う方針が示されていましたが、衆議院で予算委員会が開かれてから、一部患者団体や野党が反対意見を示し、見直し論議が続いています。
また、2025年度予算案の成立を目指した自由民主党・公明党・日本維新の会の3党合意では「国民医療費を年間で最低4兆円削減する」点を検討していくこととなっています(日本維新の会のサイトはこちら)。
この「医療費4兆円削減」方向に対し、15の病院団体で構成される日本病院団体協議会の代表者会議(会長・副会長クラスのトップ会合)では「現在の医療費(2022年度国民医療費は46兆6967億円)の1割弱を削減することとなれば、まっとうな医療提供を継続できなくなる」と警戒感を示し、「今後の動きを注視していく」ことを確認しました。まだ具体的な内容は明らかになっておらず、「日病協として何かアクションをとるべきではないか」といった議論にまでは至っていません。
なお、この点について全国自治体病院協議会副会長である小阪副議長代理は「個人的な見解」としたうえで、「4兆円削減の内容を見ていく必要があろう。内容を見なければ、こうした部分の削減であれば理解できる、こうした部分の削減は困るといった判断ができない」と指摘。さらに「削減可能な部分」の医療として「医療DXが推進する中で、重複検査や重複投薬などは削減できるであろう」と例示する一方で、「がん医療などでは、高額な薬剤が登場しているが、そうした部分の削減は困難である」などと見通しています。
国民皆保険の維持・現役世代の負担軽減のために医療費を抑制していくことは極めて重要ですが、そのために「必要な医療を受けられない」「医療の質が低下する」ことがあっては本末転倒です。まずは「診療内容の見える化」をこれまで以上に進めることから始める必要がありそうです。
このほか仲井議長・小阪副議長代理は、▼2026年度の次期診療報酬改定に向けて、日病協としての「医療提供の継続」に向けた意見・提言・要望を4月(総論)・6月(各論)に明らかにする▼病院経営の維持に向けて補助金などを積極的に活用していく—考えも示しています。
なお小阪副議長代理は、やはり「個人的な見解である」ことを前提に、「総務省では自治体病院の運営費確保に向けた債権発行を認めているが、『借金』であるから、当然、しかるべき時期に返済しなければならない。しかし、こうした経営状況下では『借金をして当座をしのいでも、返済できず運営が困難になる』事態に陥りかねない。厚生労働省・総務省・財務省が一丸となって『病院経営を維持できる』環境を構築してほしい」との見解も示しました。
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