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日本人に最適ながんゲノム医療を提供するため、ゲノム情報を国内で一元的に集約・管理せよ―日本医学会

2019.5.22.(水)

 がんゲノム医療の推進にあたっては、国民のゲノム情報を「我が国で蓄積」し、アカデミアや企業が迅速かつ公平・公正に学術研究等に利活用できる体制を、官民をあげて整備する必要がある。また、ゲノム情報を「国内に一元的に集約・管理する体制」を整備するべきである―。

 日本医学会は5月20日に、こういった声明を発表しました(日本医学会のサイトはこちら)。

遺伝子パネル検査の中には、検体を海外に送付して検査するものもある

 ゲノム(遺伝情報)解析技術が進む中で、「Aという遺伝子変異の生じているがん患者にはαという抗がん剤投与が効果的、Bという遺伝子変異のある患者にはβとγという抗がん剤の併用投与が効果的である」などといった情報が明らかになってきています。こうしたゲノム情報に基づいた治療法選択が可能になれば、個々のがん患者に対し「効果の低い治療法を避け、効果の高い、最適な治療法を優先的に実施する」ことが可能となり、▼治療成績の向上▼患者の経済的・身体的負担の軽減▼医療費の軽減―などにつながると期待されます。

 我が国においても、産学官が一体的に「がんゲノム医療」を推進すべく、「がんゲノム医療推進コンソーシアム」(共同体)を構築。次のような流れで、がんゲノム医療を提供する仕組みが整ってきています(関連記事はこちら)。

(1)がんゲノム医療を希望する患者に対し、がんゲノム医療中核拠点病院等が十分な説明を行い、同意を得た上で、検体を採取する

(2)検体をもとに、衛生研究所などで「遺伝子情報」(塩基配列など)を分析し、国立がん研究センターに設置された「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT)に送付する

(3)がんゲノム医療中核拠点病院等は、あわせて患者の臨床情報(患者の年齢や性別、がんの種類、化学療法の内容と効果、有害事象の有無、病理検査情報など)をC-CATに送付する

(4)C-CATでは、保有するがんゲノム情報のデータベース(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験情報などの情報をがんゲノム医療中核拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)に返送する

(5)がんゲノム医療中核拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)において、当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療をがんゲノム医療中核拠点病院等で提供する
がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議2 190308
がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキング1 190426
 
 厚生労働省は、▼遺伝子検査等の実施▼エキスパートパネルによる遺伝子情報の解釈▼医療提供▼人材開発▼治験―などを実施する「がんゲノム医療中核拠点病院」として、(1)北海道大学病院(2)東北大学病院(3)国立がん研究センター東病院(4)国立がん研究センター中央病院(5)慶應義塾大学病院(6)東京大学医学部附属病院(7)名古屋大学医学部附属病院(8)京都大学医学部附属病院(9)大阪大学医学部附属病院(10)岡山大学病院(11)九州大学病院―の11か所を指定(関連記事はこちら)。さらに、新たに「がんゲノム医療拠点病院」の指定を今年度(2019年度)中に行うため、現在、指定基準の策定を進めています(関連記事はこちら)。
がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキング2 190426
 
 また、「多数の遺伝子の変異の有無を一括して検出する検査」(遺伝子パネル検査)の開発も進められ、▼先進医療B(保険診療と保険外診療(先進医療)との併用が可能)として国立がん研究センター中央病院(NCCオンコパネル、登録は終了)、東京大学医学部附属病院(Todai Onco Panel)、大阪大学医学部附属病院で遺伝子パネル検査を実施▼2種類の検査法(NCCオンコパネル、FoudationOne CDx)について、薬事・食品衛生審議会で有効性・安全性を確認(薬事承認)―という状況です(関連記事はこちらこちらこちら)。近く、遺伝子パネル検査の保険収載も中央社会保険医療協議会で審議される見込みです(関連記事はこちら)。
中医協総会(1)3 190424
 
 このようにがんゲノム医療提供体制の整備が進められていますが、日本医学会は「我が国では、法制面、行政面、倫理・教育面などの社会的基盤の整備が十分でない」「遺伝子パネル検査の中には、日本人のがん組織の一部を海外に送付して検査を行うものもあり、ゲノム情報管理の面で問題がある」と指摘。こうした問題を解消するために、次の2点を提言しました。

▽日本人に最適化されたゲノム医療を提供するため、国民のゲノム情報が「我が国で蓄積」され、アカデミアや企業が迅速かつ公平・公正に学術研究等に利活用できる体制を、官民をあげて整備する必要がある

▽患者のゲノム情報の管理を徹底して学術研究を進めるため、今後、塩基配列の元データを含む遺伝子変異リストをゲノム情報として、「国内に一元的に集約・管理する体制」を整備する必要がある

 
 なお中医協では、遺伝子パネル検査を保険診療として実施するための要件として「C-CATへのデータ提出を必須とする」考えを固めています(関連記事はこちら)。C-CATは国立がん研究センターに設置されており、保険診療分では国内でのゲノム情報の一元的な集約・管理体制が可能なりますが、例えば自由診療部分については必ずしもこの点が担保されません。医療機関・メーカー・学会など、がんゲノム医療に携わる関係者が一丸となって、日本医学会の提言に沿った検討を進めることが期待されます。

 
 
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