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ポリファーマシー対策を診療報酬でどう進めるか、フォーミュラリの報酬評価には慎重意見―中医協総会(1)

2019.6.26.(水)

 「効率的」かつ「有効性・安全性」を確保した医薬品使用を進めるうえで、ポリファーマシー対策やフォーミュラリの活用などが重要となる。こうした取り組みを診療報酬でどのように推進していくべきか―。

 6月26日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こういった議論が行われました。

6月26日に開催された、「第417回 中央社会保険医療協議会 総会」

6月26日に開催された、「第417回 中央社会保険医療協議会 総会」

 

ポリファーマシー・重複投薬・長期投薬、診療報酬でどう防止していくべきか

 6月26日の中医協総会では、2020年度の次期診療報酬改定に向けた「総論」として、▼医薬品▼医療機器―の効率的かつ有効・安全な使用等をテーマに議論を行いました。本稿では「医薬品の効率的かつ有効・安全な使用等」に焦点を合わせ、「医療機器の効率的かつ有効・安全な使用等」については別稿でお伝えします。

厚労省保険局医療課の森光敬子課長は、医薬品使用に係る重要論点として▼重複投薬、ポリファーマシー、残薬への対応▼後発医薬品の使用促進▼長期処方時の適正使用、向精神薬の長期処方への対応等▼薬剤耐性(AMR)への対応▼フォーミュラリ―などを掲げました。

このうちポリファーマシー対策は、高齢患者が増加する中で非常に重要です。ポリファーマシーとは「多剤投与の中でも害を伴うもの」と定義されます。高齢になれば、どうしても複数の傷病を抱え、各傷病治療のために「多剤投与」が行われがちです。他方、高齢になると、▼細胞内水分の減少▼血清アルブミンの低下▼肝血流や肝細胞機能の低下▼腎血流の低下―といった生理機能の低下が生じますが、薬物吸収能には大きな変化がないことから「医薬品が効き過ぎる」、つまりポリファーマシーが生じやすくなります。

高齢者におけるポリファーマシーを防止するために、厚生労働省は「高齢者医薬品適正使用検討会」の議論を踏まえ、昨年(2018年)5月に「高齢者の医薬品適正使用の指針【総論編】」(主に急性期入院医療を対象)を、今年(2019年)6月に「同指針【各論編(療養環境別)】(外来・在宅医療、回復期・慢性期入院医療、介護保険施設を対象)をまとめした。医師・薬剤師・看護師等が協働して、▼高齢者の状態▼治療の必要性▼薬剤処方内容―などを総合的に勘案し、「医薬品処方の適正性」を常に評価するとともに、必要があれば減薬や薬剤投与の中止などの見直しを行うことを具体的に提言しています(関連記事はこちらこちら)。

さらに、2016年度の診療報酬改定では、入院患者に対する減薬を評価する【薬剤総合評価調整管理料】【薬剤総合評価調整加算】の創設、2018年度改定では、薬局による減薬の提案の評価する【服用薬剤調整支援料】の創設を行い、上記指針の内容を一部先取りし、「薬剤の減量」の評価を行っています。

また、ポリファーマシー防止は、「重複投薬の防止」(複数の医療機関にかかり、同一の、あるいは同効の医薬品投与が行われることも少なくない)、「長期処方の適正化」(処方期間が長くなれば、残薬が生じやすく、重複投薬やポリファーマシーなどに結びつきやすい)とも深く関連します。

2020年度の次期改定でも、こうしたポリファーマシー対策が重要論点の1つになると思われ、6月26日の中医協総会でも活発な議論が行われました。

診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は「個別医療機関単位でなく、患者単位での減薬を評価すべき」と指摘。さらに「後発医薬品の普及啓発と同様に、保険者等が積極的に『ポリファーマシー』防止に向けた普及啓発を行うべき」とも提案しています。また同じく診療側の猪口雄二委員(全日本病院協会会長)は、「入院医療においては薬剤量の管理は比較的実行しやすいが、外来では多科受診により多剤投与・重複投与が生じやすい。かかりつけ医、かかりつけ薬剤師・薬局の推進が重要になる」とコメントしています。

一方、診療側の今村聡委員(日本医師会副会長)は、「医薬品の種類・量が増加すれば、それと比例して有害性が高まるというわけではない」という点を確認したうえで、先進的なポリファーマシー対策を行っている病院では、「病棟薬剤師」が中心となって、医薬品の必要性を十分に勘案した上で、減薬を行っている点に着目。病棟薬剤師のさらなる活躍に期待を寄せました。
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また、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、2016年度の診療報酬改定で導入された「分割調剤」(医師の指示に基づき、長期処方患者に対し、薬局薬剤師が数度に分けて調剤することを可能とする仕組み)を促進すべきと提案しています。健保連の調査によれば「分割調剤」は進んでおらず(減少傾向にすらある)、「まず一般国民への認知度を上げる必要があり、より分かりやすい仕組みを検討すべき」と幸野委員は訴えています。

フォーミュラリに沿った医薬品使用、普及は重要だが、診療報酬での評価は慎重に

フォーミュラリとは、医療機関等において作成した「医学的妥当性や経済性などを踏まえた医薬品使用方針」のことで、「●●疾患には原則としてA医薬品(特定の銘柄や成分)を使用する」といったリストをイメージすると分かりやすいでしょう。一部の病院ですでに導入されており、また山形県酒田市の地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」では、地域の病院・診療所・薬局を巻き込んだ、いわば「地域版フォーミュラリ」の作成も進んでいます(関連記事はこちらこちらこちら)。
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フォーミュラリによって、医療機関等では使用・備蓄する薬剤を絞り込むことができ、「価格交渉における優位性の確保」(大量購入が可能となり、医療機関等にとって価格交渉がしやすくなる)や「廃棄医薬品の減量」といった経済性を確保することが期待されます。また、医学的・薬学的な観点で使用医薬品を限定するため、有効性・安全性も向上することが期待されます。

この点について中医協総会では「フォーミュラリの活用を診療報酬で評価する」ことへの慎重意見が相次ぎました。診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)はフォーミュラリを進めていくことの重要性・必要性を確認したうえで、「医療には個別性がある」と指摘します。同じ疾患と闘っていても、多くの患者ではA医薬品が効果的ですが、ある患者ではB医薬品のほうが効果的である、というケースもあり、この場合、診療報酬での定めが設けられ、「A医薬品が推奨される」とのフォーミュラリを厳格に運用しなければならないとなれば、個々の患者に不利益が出かねないという指摘です。同じく診療側の島弘志委員(日本病院会常任理事)も同旨の考えを述べています。

一方、支払側の幸野委員は、フォーミュラリに沿った医薬品使用を、具体的な点数で評価することはせず、診療報酬の一般的な規定で「推進していく」ことが重要との見解を示しました。

 
この点について森光医療課長は、フォーミュラリに沿った医薬品使用を「経済性の観点(医療機関経営に資する)のみから診療報酬で評価することは好ましくない」とした一方で、「フォーミュラリに基づく医薬品使用で、有効性・安全性が確保され、医療の質が向上するのであれば、診療報酬での評価を検討する価値がある」旨の考えを述べています。

 

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