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地域医療連携推進法人、病院の再編・統合や医師確保に向けた重要ツールの1つ―厚労省・地域医療連携推進法人連絡会議

2019.1.28.(月)

 地域医療連携推進法人は、病院の再編・統合を進める際、また地域での医師確保等において極めて有効なツールである。ただし、診療報酬算定などで壁もあり、柔軟な対応ができないか検討してほしい―。

 厚生労働省が1月25日に開催した「地域医療連携推進法人連絡会議」で、こうした議論が行われました。

1月25日に開催された、「地域医療連携推進法人連絡会議」

1月25日に開催された、「地域医療連携推進法人連絡会議」

 

これまでに7つの地域医療連携推進法人が発足、先達の意見踏まえて制度改善目指す

2022年からは、いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になりはじめ、2025年には、すべての団塊の世代が後期高齢者となります。その後、2040年にかけて高齢者の増加ペースそのものは鈍化するものの、現役世代の人口が急激に減少していきます。このように少子高齢化が進行すれば、医療従事者の確保などが困難になり、限られた医療資源を、これまで以上に効率的かつ効果的に活用することが求められ、「医療提供体制改革」が極めて重要なテーマとなります。

このため、病院・病床の機能分化・連携を強化する「地域医療構想」の実現や、高齢者の在宅限界を高めるための「地域包括ケアシステム」の構築が急務となっています。その一環として、厚労省は「地域医療連携推進法人」制度を2017年4月からスタートさせました(地域医療連携推進法人制度の詳細はこちら(厚労省サイト))(関連記事はこちらこちらこちら)。

地域医療連携推進法人制度の概要

地域医療連携推進法人制度の概要

 
地域の医療機関等が、いわばホールディングカンパニーである「地域医療連携推進法人」を設立。そこで参加医療機関等が、それぞれ地域でどのような役割を担うかの方針を定め、その方針に沿って機能分化・連携を進めていきます。参加医療機関間では、「病床の融通」や「人事交流」「医薬品や医療機器などの共同購入」が可能となり、限られた医療資源をより効率的・効果的に活用することが可能となります。

これまでに、次の7つの地域医療推進法人が発足しています((1)-(4)は2017年度発足、(5)-(7)は2018年度発足)。
(1)尾三会(愛知県、藤田保健衛生大学病院などが参加)
(2)はりま姫路総合医療センター整備推進機構(兵庫県、兵庫県立姫路循環器病センターと製鉄記念広畑病院が参加)
(3)備北メディカルネットワーク(広島県、三次市立三次中央病院などが参加)
(4)アンマ(鹿児島県、瀬戸内町与路へき地診療所などが参加)
(5)日本海ヘルスケアネット(山形県、山形県・酒田市病院機構(日本海総合病院、日本海酒田さリハビリテーション病院)などが参加)
(6)医療戦略研究所(福島県、医療法人社団正風会などが参加)
(7)房総メディカルアライアンス(千葉県、富山国保病院、安房地域医療センターなどが参加)

1月25日の連絡会議初会合では、厚労省医政局の吉田学局長が「地域医療連携推進法人の普及・改善に向けて、先行者である7法人から、行政に期待するさらなる支援策や制度の深化などに関する提言・アドバイスをしてほしい」と要望しました。定期的に連絡会議を開き、アドバイス・提言等を踏まえて制度改善につなげていくことになります。

各法人の状況や提言などを紹介しましょう。

まず(1)の「尾三会」は、特定機能病院である藤田保健衛生大学病院が参画し、参加病院の中で高度急性期医療から回復期・在宅医療までを切れ目なく提供することを狙っています。すでに30の医療機関等が参画し、「人材育成」「人事交流」などによって医療水準の底上げ・標準化を進めるとともに、「医薬品等の共同購入」などによる経営の効率化も進めているといいます。

ただし、「地域医療構想の実現」や「地域医師会との連携」といった点に関しては、参加法人によって温度差もあるようです。また、「地域医療連携推進法人の業務において、医療連携推進業務(研修や共同購入、参加医療機関等への貸付、医療機関の開設など)の比率が50%以上」といった規定により、例えば「看護師の派遣」(大学病院から地域の中小病院等への派遣など)などにおいて若干の「使い勝手の悪さ」もあるようです。

病院の再編・統合の前段階として地域医療連携推進法人を設立し、人事交流等を

また(2)の「はりま姫路総合医療センター整備推進機構」は、兵庫県立姫路循環器病センターと製鉄記念広畑病院の再編・統合に向けた前段階として設立された地域医療連携推進法人です。

病院の再編・統合に当たっては、「医療従事者の壁」「診療内容の違い」「風土の違い」などを解消するために、十分な準備期間が必要となるため、まず地域医療連携推進法人を設立して人事交流等を進め、機が熟すのを待ち、実際の再編・統合を行うこととしたものです。機構の八木聡理事は、「地域医療の中でどういった役割を果たすべきかを職員1人1人が考えて行動するようになってきている。再編・統合の推進に向けて、地域医療連携推進法人の設立は極めて有用である」と強調しています。

大学と地域病院との間に地域医療連携推進法人が入り、医師派遣の調整を

(3)の「備北メディカルネットワークでは、これまで「大学(広島大学)と個別病院との間では、医師派遣要請等の議論が必ずしも十分できていなかった」点を踏まえ、参加病院間での医師派遣等を円滑にするために発足。医師派遣について「大学 → 地域医療連携推進法人 → 個別医療機関」といった流れの構築に向けた取り組みが進められているといいます。

いくら大学医学部とは言え、数多ある地域の医療機関の要望をすべて吸い上げ、それを調整して医師派遣を行うことは、大変な労力を要します。また、個別医療機関側が大学へ医師派遣を要請するには大きなハードルがあることは想像に難くありません。そこで地域医療連携推進法人が間に入ることで、各医療機関の要望を吸い上げて調整することが可能となり、医師派遣が相当程度円滑に進むと期待されます。

地域医療連携推進法人は、医師偏在対策においても重要ツールの1つとなりそうです。

 
一方、(4)の「アンマ」は、へき地医療を支えるための連絡協議会を核として設立されました。へき地においては、医療・介護資源が極めて限られているため、連携を強化し、相互補完を行い、機能強化を図ることが必要不可欠です。

ただし、現時点では「病院」が参加していません(クリニックと介護施設のみが参加)。病院については、設立母体が研修等を実施しているため、「地域医療連携推進法人への参加メリットが現時点では薄い」との判断があるようです。このため、連絡協議会も残し、2本立て(地域医療連携推進法人と連絡協議会)で、地域の病院や薬局、助産所等との連携を図っているといいます。今後、「病院の参加」が重要な課題であると桂和久代表理事は強調しています。

パスの共有ヤフォーミュラリ構築を進め、医療・経営の質向上を狙う

また(5)の「日本海ヘルスケアネット」では、かねてから地域医療連携を進めている山形県・酒田市病院機構の栗谷義樹代表理事が音頭を取り、機能分化・連携を推し進めています。▼入退院に関するクリニカルパスの共有▼病床回転率の向上▼フォーミュラリ(医薬品の処方ルール)の構築▼ポリファーマシー(弊害のある多剤投与)の解消―などの成果が出始めており、医療内容の質向上・標準化が図られるとともに、経営の質も向上してきています(関連記事はこちらこちら)。

栗谷代表理事は、「地域全体で黒字が達成できなければ、地域医療におけるキャスティングが難しい」(1病院だけ黒字では、地域医療連携は不可能である)と強調し、現在、地域医療連携推進法人の中で「費用の連結管理を可能とする手法」を検討しているといいます。医療提供体制はもちろん、経営面についても地域連携を進める時代に入ってきたと言えるかもしれません。

なお栗谷代表理事は、「フレイル高齢者の再入院の繰り返し」が地域医療において大きな問題となっていると指摘し、地域医療連携推進法人の中での対応や手続きの簡素化などが今後の検討課題になると指摘しています。

 
また(6)の「医療戦略研究所」では、東日本大震災により「地域医療が完全に崩壊した」地域における地域医療の再構築に取り組んでいるといいます。人間関係・信頼関係が構築されている地域医師会の有志が核となって、「地域における医療・介護連携モデル」を研究・構築し、それを県内に普及することを目指しています。そのために例えば、「電子カルテデータの連結」などに向けた研究も進めています。

石井正三代表理事は、そうした連携に当たってのハードルとして、診療報酬等の厳格な「施設基準」を例示しました。地域の医療機関が連携し、例えば、重症症例に対応するために「一時的な人材(医師や看護師等)の集中的配置」を行おうとしても、診療報酬の施設基準を満たさなくなるため(当然、診療報酬が算定できなくなる)実施が困難であると強調。一定の柔軟化を検討してほしいと要望しています。

地域医療連携推進法人への参加で、民間病院から自治体病院への医師派遣がスムーズに

他方(7)の「房総メディカルアライアンス」は、医師が数名ずつしか配置されていない自治体病院への医師派遣等を行うことを目指しています。民間病院から自治体病院への医師派遣には法令の壁等がありますが、地域医療連携推進法人を設立することで、参加病院間では、設立母体の壁を越えて医師や看護師等の派遣が比較的スムーズに実施できるためです。

この点について亀田信介代表理事は、「ICTを活用した遠隔診療が進んでいく。地域医療連携推進法人への参加については、距離よりも活動内容に重きを置いて認められるような仕組みとすべきではないか」との考えを示しました。地域医療連携推進法人への参加は、都道府県をまたぐことも可能ですが、どこまで柔軟な参加を認めるべきなのか、今後、より具体的に例示することなども検討する余地がありそうです。
 
 
 
 
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