公立病院のさらなる経営改善に向けて「近隣の病院との統合・再編」の検討を―内閣府
2016.8.17.(水)
大中規模の公立病院は、医療の質の向上を図りながら、他院を意識した合理的かつ意思決定の早い経営が求められる。さらなる経営改善に向けて「近隣の公立・公的病院との統合・再編」や「地方公営企業法の全部適用」を検討することが有用である。一方、小規模病院では患者数の減少が経営を厳しくしており、その背景にスタッフ不足が影響している可能性がある。「勤務環境の改善」と同時に、場合によっては再編や統合等も検討する必要がある―。
内閣府は、16日に公表した政策課題分析の第10回「公立病院改革の経済・財政効果について」の中で、公立病院の経営状況を分析し、このような提言を行っています(内閣府のサイトはこちら)。
目次
医業収益の増加が収支改善の鍵
今回の分析は、総務省の地方公営企業年鑑における個別病院の経営データを用いて、公立病院改革による経営改善効果を探ることが狙いです。
総務省は自治体病院の経営改善を狙い、2007年に「公立病院改革ガイドライン」を公表。その後、各自治体で▽経営効率化▽再編・ネットワーク化▽経営形態の見直し―といった改革プランを策定シ実行してきました。その結果、2008年度には公立病院の7割が経常赤字を計上していましたが、2013年度には赤字病院の割合は5割程度に減少しています。
内閣府では2007-13年度を中心に、632の公立病院について医業収益・費用の変化を分析しています。なお、今般の分析では、「病院自体の経営改革努力」をより明確にするため、自治体からの繰入金は医業収益から除外しているほか、過去の投資などの影響を除くために医業費用から減価償却費・減耗費を除外しています。
また分析にあたっては、病院を次の4つに区分しています。
【分類I】不採算地区病院(200床未満で、最寄りの一般病院まで15km以上離れている、あるいは国勢調査の人口集中地区以外の地域にある一般病院)
【分類II】採算地区にある200床未満の病院
【分類III】200-400床の病院
【分類IV】400床以上病院―に分けて、
分析の結果からは、次のような状況が明らかになりました。
【分類I】不採算地区病院(250病院)
▽医業収益、医業費用とも増加した病院は79、うち収支が改善しているのは29病院、悪化しているのは50病院
▽医業収益が増加し、医業費用が減少したのは10病院で、すべてで収支が改善している
▽医業収益が減少し、医業費用が増加したのは51病院で、すべてで収支が悪化している
▽医業収益、医業費用とも減少した病院は100、うち収支改善が19病院、収支悪化が91病院
【分類II】採算地区の200床未満の病院(106病院)
▽医業収益、医業費用とも増加した病院は54、うち収支が改善しているのは36病院、悪化しているのは18病院
▽医業収益が増加し、医業費用が減少したのは8病院で、すべてで収支が改善している
▽医業収益が減少し、医業費用が増加したのは13病院で、すべてで収支が悪化している
▽医業収益、医業費用とも減少した病院は31、うち収支改善が6病院、収支悪化が25病院
【分類III】200-400床の病院(144病院)
▽医業収益、医業費用とも増加した病院は98、うち収支が改善しているのは70病院、悪化しているのは28病院
▽医業収が増加し、医業費用が減少したのは7病院で、すべてで収支が改善している
▽医業収益が減少し、医業費用が増加したのは10病院で、すべてで収支が悪化している
▽医業収益、医業費用とも減少した病院は29、うち収支改善が6病院、収支悪化が23病院
【分類IV】400床以上の病院(132病院)
▽医業収益、医業費用とも増加した病院は123、うち収支が改善しているのは97病院、悪化しているのは26病院
▽医業収益が増加し、医業費用が減少したのは0病院
▽医業収益が減少し、医業費用が増加したのは6病院で、すべてで収支が悪化している
▽医業収益、医業費用とも減少した病院は3、うち収支改善が2病院、収支悪化が1病院
ここから、「医業収益の増加」が経営改善に大きな影響を与えている状況が伺えます。コストコントロールによる医業費用の抑制ももちろん重要ですが、費用増が経営改善に与える影響はそれを上回っていると考えることができます。
また収益を増加させるためには、病院の規模を大きくすることが重要であるといったこともこの分析結果から示唆されていると言えそうです。
単価の上昇が収益を増加させ、患者数の減少が収益を悪化させる
医業収益は、「単価」(患者1人当たりの平均診療報酬)と「患者数」に分けることができます。この点、内閣府の分析によれば、いずれの分類においても単価の要因がプラスに寄与しており、患者数の要因がマイナスに寄与していることが改めて明確となりました。当然のこととも思われますが、単価の上昇によって収益がプラスに働き、患者数の減少によって収益がマイナス方向に動くのです。
このうち患者数(特に外来)の変化は、病院の立地地域の人口動態からも一定の影響を受ける可能性があります。内閣府の分析では、とくに不採算地域において患者数の減少効果が、平均単価の上昇を上回り、全体の医業収益を減少させると指摘しています。
また不採算地区では、職員不足などの「医療供給能力の低下」が患者数減を招く可能性にも言及しています。
地方公営企業法の全部適用によって、経営改善の可能性も
さらに内閣府では、公立病院の経営形態(地方公営企業法が全部適用か一部適用か)にも着目。
2013年度には、法全部適用283病院と法一部適用349病院を比較すると、次のような状況が明らかになりました。
【法全部適用病院】283病院
▽医業収益、医業費用とも増加した病院は184、うち収支が改善しているのは128病院、悪化しているのは56病院
▽医業収が増加し、医業費用が減少したのは11病院で、すべてで収支が改善している
▽医業収益が減少し、医業費用が増加したのは23病院で、すべてで収支が悪化している
▽医業収益、医業費用とも減少した病院は65、うち収支改善が16病院、収支悪化が49病院
【2007年以前からの法全部適用病院】183病院
▽医業収益、医業費用とも増加した病院は122、うち収支が改善しているのは82病院、悪化しているのは40病院
▽医業収益が増加し、医業費用が減少したのは6病院
▽医業収益が減少し、医業費用が増加したのは15病院で、すべてで収支が悪化している
▽医業収益、医業費用とも減少した病院は40、うち収支改善が8病院、収支悪化が32病院
【2008年以降からの法全部適用病院】100病院
▽医業収益、医業費用とも増加した病院は62、うち収支が改善しているのは46病院、悪化しているのは16病院
▽医業収益が増加し、医業費用が減少したのは5病院
▽医業収益が減少し、医業費用が増加したのは8病院で、すべてで収支が悪化している
▽医業収益、医業費用とも減少した病院は25、うち収支改善が8病院、収支悪化が17病院
ここから内閣府は、「公立病院の経営形態について、地方公営企業法の全部適用が医業収支に対して正の効果をもつ(つまり経営改善効果がある)」ことが確認できたとしています。ただし、どのようにして収支改善がなされているのかについてはさらなる分析が必要とするに止めています。
公立病院では、規模にかかわらず統合・再編の検討も必要
こうした状況を総合して、内閣府は公立病院の経営改善は、病院の規模に応じて次のように考えるべきと提言しています。
●大中規模病院
診療単価の上昇による経営改善が中心であり、医療の質の向上を図りつつも、民間病院や公的病院を意識した合理的かつ意思決定の早い経営が求められる。さらなる経営改善に向けて「近隣の公立・公的病院との統合・再編」(規模の拡大とコスト削減)や、「地方公営企業法の全部適用」を検討することが有用である(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。ただし、形式的な形態の変更のみでは、必ずしも経営改善につながらない。
●小規模病院
診療単価の上昇効果が小さく、患者数の減少によって経営の改善が厳しい状況にある。特に一部の不採算地区病院では、病院として十分な医療供給体制を整えることが困難となっている可能性が見受けられる。今後、医師や看護師が勤務しやすい環境づくりを進めると同時に、場合によっては再編や統合なども検討し、地域医療の維持と病院経営とのバランスを常に見直していく必要がある。さらに、介護・福祉分野との事業連携等を進めることも重要である。
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