新規の医療技術、安全性・有効性のエビデンス構築を診療報酬で促し、適切な評価につなげよ―中医協総会(2)
2019.6.14.(金)
新たな医療技術について、安全性・有効性が「既存技術より優れている」とのエビデンスがない限り、既存技術と同じ点数になる。ただし、後に安全性・有効性のエビデンスが示されれば、評価の見直し(点数引き上げ)が行われることから、エビデンス構築を診療報酬でも促進するよう、例えば新規技術について「レジストリへの登録」などを算定要件などに盛り込むことを検討してはどうか―。
6月12日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こういった議論も行われました。今後も新たな医療技術の開発が続くと予想され、経済的な評価の在り方が非常に重要なテーマとなります。
目次
既存技術に比べた優越性が示されなければ、新規技術は既存技術と同じ点数
医学・医療、さらに関連科学技術等の進展により、新たな医療技術が開発され、安全性・有効性が確認されたものは、広く国民がその恩恵に預かれるよう、保険収載されます。その際、どのように経済的な評価を行うのか、つまり診療報酬点数をどう設定するのかが重要なテーマとなります。点数があまりに低く設定されれば、治療を受ける患者・国民にとってはありがたいですが、技術開発や技術提供が進まなくなってしまいます。逆にあまりに高い点数が設定されれば、技術開発・提供者側にはありがたい話ですが、患者・国民にはアクセスへのハードルが高くなり、さらに医療保険財政を圧迫してしまいます。
この点について厚労省保険局医療課の古元重和企画官は、いくつかの論点を示しました。
1つ目の論点は、「新技術の有効性・安全性が既存技術と同等であった場合の評価」をどう考えるか、というものです。
2018年度の診療報酬改定では、「da Vinci」システム等のロボットを用いた「ロボット支援下内視鏡手術の対象が、従前の「前立腺がん」「腎がん」に加え、▼胃がん▼食道がん▼直腸がん▼肺がん▼子宮がん―など12術式に拡大されました。しかし、その点数(診療報酬)は、腹腔鏡手術と同等に設定されています(厳密には、診療報酬点数表の「手術」の「通則18」で、内視鏡下手術用支援機器を用いた場合も算定可能とされている)これは、現時点では「腹腔鏡手術に比べたロボット手術の優越性」が必ずしも示されていないことによるものです(関連記事はこちら)。
古元企画官は、2020年度改定でもこの考え方、つまり「新技術の有効性・安全性が既存技術と同等であった(優越性が示されなかった)場合には、診療報酬でも同等の評価とする」ことを維持してはどうか、と提案。中医協委員も、この提案に賛意を示しました。
優越性のエビデンス構築を診療報酬でも促進する仕組みを検討してはどうか
もっとも、保険収載によって症例数が確保され、その中で「有効性・安全性に関する新しいエビデンス」(既存技術に比べた優越性)が示されることがあります。この点、エビデンスが構築された段階で、診療報酬改定の機会に「再評価」(点数の見直しや、施設基準、対象疾患などの見直し)を行いますが、古元企画官は、▼「レジストリ」への登録を新技術の算定要件や施設基準などに盛り込む▼エビデンスの評価に当たっては「中立的な立場から行われた専門家の評価」を活用する―ことなどを検討してはどうかと提案しました。
前者は、再評価に向けた「エビデンス構築」の促進を狙うものです。レジストリ登録をしなければ「既存技術と同点数の算定も認めない」という、いわば「鞭」を振るうものと言えるかもしれません。この提案に中医協委員から異論・反論は出ていませんが、今村聡委員(日本医師会副会長)は「あまりに厳格に運用すれば、登録作業が医師の負担を過剰にし、働き方改革に逆行することにもなりかねない。バランスを考慮すべき」旨の注文を付けています。この今村委員の注文は、新規技術のレジストリ登録にとどまらず、既存の診療報酬についても同じことが言えます。医療保険財政の安定化や診療の質向上の面からは、「どのような診療行為を行ったのか、患者の状態はどうか」などのデータを詳しくとる必要がありますが、一方で、それは医療現場にとっては大きな負担となることから、「両者のバランス」をいかに考えていくかも、今後の重要な検討テーマとなります。
なお、外科系学会ではロボット手術についてレジストリ登録を進め、将来の「点数引き上げ」に向けた、安全性・有効性に関するエビデンス構築に積極的に取り組んでいます(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
このようにレジストリに登録されたデータをもとに安全性・有効性に関するエビデンスを構築しますが、エビデンスと一口に言っても、その信頼性にはさまざまなレベルがあり、我が国では専門家の集団である「学会」によるデータなどに期待が集まります。ただし、「学会」が技術の提案者となるケースも少なくありません。この場合には「中立性」が問題となります(提案者のデータについて、提案者のデータをエビデンスとして評価することは困難)。
中医協では、「例えば、新たに設けられた『費用対効果評価』では、専門家で構成される『公的分析班』がメーカー提出のデータを検証する仕組みなどが設けられており、これも参考にしてはどうか」などの提案が出されました。今後、厚労省・中医協でより深く検討していくことになります。
効果の低い既存技術、評価の見直しや保険からの削除を検討してはどうか
このように新しい技術が保険収載されると、従来の技術について▼効果が低い▼臨床現場で使用されない―というケースが生じてきます。
例えば、多発性骨髄腫の診断にあたり、骨髄腫細胞がつくり出すMタンパクの1つ「ベンスジョーンズタンパク(BJP)」の有無を調べます。その際、従前はD001【尿中特殊物質定性定量検査】の「2 Bence Jones蛋白定性(尿)」が用いられていましたが、現在は精度の高いD015【血漿蛋白免疫学的検査】の「22 Bence Jones蛋白同定(尿)」が用いられています(学会も推奨)。
また、アルブミン定量検査については、従前からの「BCG法」のほかに、新たな「BCP法」があり、いずれもD007【血液化学検査】の「1 アルブミン」の算定が可能です。しかし、▼BCG法はアルブミン以外の物質にも反動し、偽高値を示すことがある▼BCG法とBCP法では測定値が乖離するため、同じ患者に対し、A医療機関でBCG法で検査した結果と、B医療機関でBCP法で検査した結果とは、比較ができない(継続性がなくなる)―という問題点があり、日本臨床検査医学会は2019年4月に「BCP法に統一すべき」との提言を行っています。
このした問題を放置することは「医療の質を下げる」ことにもなりかねず、古元企画官は「評価の見直し」や「診療報酬点数表からの削除」を検討してはどうかと提案しています。この考え方にも中医協委員は賛同していますが、松本吉郎委員(日本医師会常任理事)や城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「医療現場に混乱が生じないような配慮が必要」との注文も付けています。例えば「新たな技術の提供体制が整っていない地域はないか」の検証や、一定の経過措置期間を設け「新技術への置き換えを支援していく」ことなどが考えられそうです。
ところで、診療報酬には「学会等の作成したガイドライン等の遵守」を求める項目が多数あります。これは、医療技術が安全かつ有効に患者に提供されることを目指すものです。
こうしたガイドライン等は、医学・医療の進展とともにバージョンアップされていきますが、現在、必ずしも十分にバージョンアップ情報が把握されていないという課題があります。古元企画官は、学会等の協力も得て、ガイドライン等のバージョンアップ情報を把握し、診療報酬の算定要件や施設基準などに活かしていく考えも示しており、中医協委員もこれに賛同しています。
新たな優れた技術が積極的に開発され、それが適切な評価を受けて保険収載される環境が、より精緻に整うことが期待されます。
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