2040年にかけて人口が70%減少する地域も、医療提供体制の再構築に向け診療報酬で何ができるのか―中医協総会
2019.7.16.(火)
地域によっては2040年にかけて人口が大きく減少するため、医療提供体制の再構築が必要となるが、診療報酬で何ができるのか。また、医療機能の分化・連携の強化を進める中で、電子カルテの標準化が重要なテーマの1つとなるが、診療報酬でどのようなサポートができるのか―。
7月10日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こういった議論が行われました。
入院医療については、下部組織である診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」で技術的な検討が進められており、こちらの報告を受けてから活発な議論が行われることになるでしょう。
目次
三重県の南伊勢町では2040年にかけて人口が70%も減少
7月10日の中医協総会では、「地域づくり・街づくりにおける医療の在り方」という切り口で議論が行われました。厚労省保険局医療課の森光敬子課長は、(1)地域の状況を踏まえた入院医療の在り方(2)地域における情報共有・連携(3)医療資源の少ない地域等における医療提供体制―という大きく3つのテーマについて、関連資料と論点が提示されました。
まず(1)の地域の状況を踏まえた入院医療に関しては、地域によっては人口が増減していく中で、どのように入院医療提供体制を確保していくかが重要となります。人口増が見込まれる地域ではベッド数の確保が大きな課題になる一方、人口減が見込まれる地域では「病床数の削減」も考えていく必要があります。なぜなら、医療においては「供給が需要を生み出す」傾向にあると指摘されるためです(具体的には稼働率・利用率を維持するために、在院日数を延伸させるなど)。
この点、森光医療課長は総務省「自治体戦略2040構想研究会」の第一次・第二次報告の概要を提示。そこでは自治体の人口規模別に、2040年にかけて人口がどう変動していくかが試算されています。
例えば、人口100万人以上の埼玉県さいたま市・神奈川県川崎市・福岡県福岡市では、2040年にかけてさらに人口が増加していくと見込まれますが、同じ人口100万人以上の宮城県仙台市では、2040年にかけて人口が20%近く減少し、「人口100万人」を割る見込みです。
また、人口10-20万人規模の埼玉県戸田市や朝霞市などでは、2040年にかけて人口が増加していくと見込まれますが、同じ規模の北海道小樽市では、2040年にかけて人口50%近くも減少し、「人口10万人」を切る見込みです。
さらに、人口1-3万人規模の三重県南伊勢町では、2040年にかけて人口が70%近く減少すると見込まれています。
人口の増減は、すなわち医療需要の増減にも直結するため、これまでの医療提供体制では将来の医療需要に適切かつ効率的な医療提供が困難になってくることを意味します。このため地域医療提供体制の再構築が急がれており、その1手段として「地域医療構想」の実現に向けた取り組みが進められています(なお、地域医療構想は2025年度を射程に入れており(「さらに先を見据える」よう注意喚起はされているが)、その後の人口動態については必ずしも十分に考慮されていません)。
このように人口動態が地域、地域で異なるため、全国一律の診療報酬で地域医療提供体制の構築をサポートすることはなかなか難しそうです。この点、診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「地域ごとに事情が異なる中で、全国一律の診療報酬で地域医療構想の実現を誘導していくことはできない」ことを強調しています。
一方、支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は、2018年度の前回診療報酬改定で入院医療の診療報酬体系を大きく見直したことの影響・効果を十分に見極めることがまず重要と指摘しています。この点については、現在、下部組織である「入院医療等の調査・評価分科会」で技術的検討・分析が進められており、その報告を待つ必要がありそうです。
ところで、2016年度の診療報酬改定では、精神科入院医療において、言わば「病床数の削減」を条件として高点数算定を可能とする【地域移行機能強化病棟入院料】が創設されました。人口減少の地域では、現在のベッド数を抱えたままでは「病床過剰」となり、不適切な医療提供が生じないとも言えません(在院日数の延伸など)。今後、一般病棟や療養病棟でも、このような「病床数の削減」を上限として高点数算定を可能とする仕組みが検討される可能性も否定できません。
なお、厚労省では、地域医療構想の実現と合わせて、「医師の働き方改革」「医師偏在対策」を三位一体で進めていく方針(相互連関しているため)を示しており、ここに診療報酬がどう関係してくるのかも重要な検討テーマの1つとなるでしょう。
医療資源の少ない地域の診療報酬特例、活用が低調な原因はどこにあるのか
また、大幅に人口が減少する地域では、医師や看護師などのマンパワーをはじめとする医療資源も減少していくでしょう。この点、2012年度の診療報酬改定で(3)の「医療資源の少ない地域」における診療報酬の特例(要件の一部緩和など)が創設され、その後の改定で逐次見直しが行われてきましたが、全体として活用状況は低調で、とくに▼緩和ケア診療加算の特例▼地域包括ケア病棟⼊院料1の特例―などはまったく活用されていません。
この点について診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は、「活用が低調な背景に何があるのか、詳しく分析する必要がある」と指摘。森光医療課長も「分析を進め、近く提示する」考えを示しています。
また同じく診療側の今村聡委員(日本医師会副会長)らは、「医療資源の少ない地域でこそICTの活用が重要になる」との考えを示しています。この点、森光医療会長は、すでに6月12日の中医協総会で「例えばオンライン診療について『離島・へき地での活用』と『その他の活用』とで分けて議論してはどうか」との方針を示しており、中医協委員と事務局(厚労省保険局医療課)との考えは一致していると考えられます。
なお、診療側の猪口雄二委員(全日本病院協会会長)は、「現在の診療報酬は言わば『都市部の医療』を評価する仕組みであるが、『非都市部の医療』を評価する新たな仕組みを検討する時期に来ているのではないか」とも指摘しています。上述のように、地域によってはこれから大幅な人口減が生じ、医療資源の少ない地域がさらに増えていく中では、こうした検討も必要になってきそうです。
電子カルテの標準化、中医協委員からは「国主導の抜本解決」を求める声も
ところで入院医療については、かつての「急性期治療から回復期、リハビリテーションを行い、在宅復帰するまでを1つの医療機関で提供する」モデルから、「急性期、回復期、慢性期などの状態に応じて機能分化された複数の医療機関で、いわば地域単位で医療を提供する」モデルへと変化が進められています。これを定量的に「急性期医療に必要な病床は●床、慢性期医療に必要な病床は●床」と推計し、地域の医療機関に機能分化を促しているのが上述した地域医療構想です。
このように機能分化が進む中では、必然的に「医療機関間の連携」の重要性が増していきます。連携の第一歩は「情報共有」でしょう。例えば、急性期の治療を終えた患者がリハビリテーションを行う病院に転院する際に、「急性期治療として〇〇を実施。今後、リハビリを実施する際には、△△の状態が生じる恐れがある点に注意されたし」などの情報を提供することで、隙間のない、円滑な治療が実現できます。この点、診療報酬でも▼診療情報提供料▼退院時共同指導料―などさまざまに評価がなれており、2020年度の次期改定でも重要論点の1つになると見込まれますが、現場からは「電子カルテの情報連携ができない」という指摘が相次ぎました。
電子カルテについては、各ベンダーがそれぞれに開発し、ユーザー(医療機関)の声を踏まえて進化を遂げてしまったことから、「データの連携が非常に難しい」「互換性がなく、電子カルテの入れ替えができない」などと指摘されています。検査値などについては一定の標準化が進んでいるものの、診療行為については「連携できない」のが実際です。
この点、厚労省は2019年度の予算で「医療情報化支援基金」を創設し、国の指定する標準規格を用いて相互に連携可能な電子カルテシステム等を導入する医療機関での初期導入経費を補助(ほかにコンバータシステムの導入経費補助なども検討されている)することとしています。しかし診療側の松本委員や猪口委員は「国が主導して電子カルテの標準仕様などを作成するなどの動きをとるべきではないか」と、さらに一段階上の抜本的な対応を求めています。
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