救急搬送患者を極めて多く受け入れる病院、「新たな加算」で評価へ―中医協総会(1)
2019.12.4.(水)
「救急搬送件数が年間2000件以上の病院(15%)で救急搬送患者全体の71%を受け入れ、同じく1000件以上の病院(29%)で救急搬送患者の85%を受け入れている」ことや、「救急搬送件数が年間2000件以上の2次救急病院では、勤務医が極めて長時間の労働を行っている」ことなどを踏まえ、2次救急患者等の受け入れ件数が極めて多い病院について「新たな加算」などで経済的な下支えを行ってはどうか―。
また一般病床で実施される緩和ケアを評価する【緩和ケア診療加算】は、2018年度の前回診療報酬改定で「がん(悪性腫瘍)」のほかに、「後天性免疫不全症候群」と「末期心不全」にも対象疾患が拡大されたが、上乗せ加算である【個別栄養食事管理加算】についても対象疾患を「がん」以外に拡大してはどうか―。
12月4日に開催された中央社会保険医療協議会総会で、こういった議論が行われました。
目次
救急医療管理加算、算定患者の重症度スコア記載を求める
2020年度の次期診療報酬改定に向けた議論が最終コーナーに差し掛かっています。12月4日の中医協総会では、個別項目として▼救急医療▼小児・周産期医療▼がん対策▼脳卒中対策▼生活習慣病対策―について議論を深めました。2021年度に予定される「第7次医療計画の中間見直し」に向けて、「5疾病5事業(がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病、精神疾患、救急、災害、へき地、周産期、小児)および在宅医療」の評価指標の在り方に関する議論も進んでおり、こうした方向(5疾病5事業等の方向)も踏まえた診療報酬改定項目案が厚生労働省保険局医療課の森光敬子課長から提示されています。
まず「救急医療」に関しては、10月25日の中医協総会で「【救急医療管理加算】を取得病院の中には、重篤でない患者のみを受け入れているところもある」ことが明らかにされました。さらに今般、森光医療課長は次のような新たなデータも示し、「【救急医療管理加算】に相応しくない非重篤な患者がほとんどを占める病院もある」ことを改めて明確にしています。
▽加算1の「意識障害または昏睡」の15%は入院日に「意識清明」(入院日のGlasgow Coma Scaleが15点)で、一部に「加算算定患者のほとんどが意識清明」である病院がある
▽加算1の「呼吸不全または心不全で重篤な状態」の1割超は入院時に「呼吸が正常」(P(動脈血酸素分圧)/F(吸入気酸素)比が400以上)で、一部に「加算算定患者のほとんどが呼吸正常」である病院がある
▽加算1の「ショック」の3割超は入院時に「昇圧剤投与が不要」(平均血圧70㎜Hg以上)で、一部に「加算算定患者のほとんどが昇圧剤投与不要」である病院がある
また、「救急医療管理加算算定患者のほとんどが【救急医療管理加算2】で占められている病院がある」ことも分かっています。
【救急医療管理加算】は、重篤な救急搬送患者を受け入れた病院において、入院初期に濃密な検査・治療が必要となる(救命や傷病確定のために投下する医療資源投入量が必然的に多くなる)点を考慮した診療報酬項目であり、「非重篤な患者」についての算定は許されません。森光医療課長は、「項目によっては重症度のスコアを記載する」などの対応を行ってはどうか、との考えを提示しました。
【加算1】(900点)については、「意識障害」や「呼吸不全」など患者の状態等を8項目明示されていますが、上述のように「重篤でない」患者が一定程度おり、一部に「重篤でない患者ばかりに加算を算定している」病院があることが分かりました。このため、例えば▼「意識障害または昏睡」についてJCS(Japan Coma Scale)やGCS(Glasgow Coma Scale)等▼「呼吸不全または心不全で重篤な状態」についてNYHA心機能分類やP/F比を▼「ショック」について平均血圧―の測定・記録などを求めていくことになりそうです。
また【加算2】(300点)は「加算1に準ずる重篤な患者」が対象ですが、「実際、どういった状態の患者について算定されているのか」が不明なことから、厚労省では▼加算1のどの項目(意識障害や呼吸不全など)に準ずるのか▼重症度のスコアはどの程度か(上述)▼加算1の項目には該当しない場合、具体的にどういった状態なのか―などの記録を求めることになりそうです。
ただし重症度の要件化(例えば意識障害について「JCS〇点以上」など)には時間がかかる点を診療側・支払側ともに確認。2020年度から測定・記録等を義務付け、データに基づいた基準値を検討し、2022年度以降に「要件化」を行うことになりそうです。もっとも、「明らかに重篤でない」(例えば意識障害としながら、意識が清明であるなど)患者への加算算定継続は好ましくないため、2020年度の今回改定でも「何らかの要件厳格化」が行われる見込みです。
救急搬送患者の受け入れ件数が極めて多い病院、新たな加算で評価へ
ところで、「医療計画の中間見直し」論議の中で、救急医療について、次のように▼一部の病院が大半の患者受け入れを行っている▼救急搬送患者受け入れ数が多い病院では、医師の労働時間が長くなる―ことが明らかとなりました。都道府県の医療計画において、地域の「救急医療の整備状況」を評価する指標として「救急搬送件数」が盛り込まれる見込みです(2021年度から)。
▽救急搬送件数が年間2000件以上の病院(15%)で救急搬送患者全体の71%を受け入れ、同じく1000件以上の病院(29%)で救急搬送患者の85%を受け入れている
▽年間救急搬送件数2000件以上の2次救急医療機関では、⻑時間勤務(週60時間以上等)を⾏う医師の割合が高い
こうした点を踏まえて、森光医療課長は「必ずしも入院時に重篤な状態であるとは言えないが(【救急医療管理加算】の対象外)、緊急入院が必要な2次救急等の患者を多く受け入れている医療機関」の評価を検討してはどうかと中医協に提案。診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)をはじめ、多くの委員から「救急搬送患者を多く受け入れている病院の評価を別途考える必要がある」と賛意を示しています。
個別患者ではなく、病院の受け入れ体制・実績を評価するものであり、【救急医療管理加算】とは別の、新たな体制加算(入院患者すべてに算定可能な加算)などが検討される見込みです。具体的な要件等は今後検討されますが、「医療計画の中間見直し」で浮上している「年間1000件以上」「年間2000件以上」の救急搬送受け入れなどが参考数値となるでしょう。
NICUの集約化、診療報酬でも進めるべきか
「小児・周産期医療」については、▼NICUの整備が2017年度に達成できた▼大規模なNICUのほうが「低出生体重児の入院時数」「人工換気を実施した入院児数」「手術を実施した入院児数」「新生児搬送の受け入れ総件数」などが多い▼大規模なNICUのほうが「早産児」「重症新生児」を多く受け入れていると推測される―ことなどを踏まえ、森光医療課長は「新たに【新生児特定集中治療室管理料1】を届け出る場合の要件」を検討してはどうかと中医協委員に提案しました。例えば、【総合周産期特定集中治療室管理料2】(MFICU、新生児特定集中治療室管理料1と同点数)に倣って「6床以上でなければならない」などの病床数要件設定が考えられるでしょう。
医療の質を確保するためには「一定程度の集約化」が必要であり、「医療計画の中間見直し」や「診療報酬改定」でも集約化を促す方向に動いていると見ることができそうです。
ただしこの方向に対し、診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は「NICUは言わば救命救急であり、『アクセスの確保』が極めて重要である。また、NICU新設時には小規模(3床程度)で整備し、軌道に乗ってきた時点で規模拡大を検討することもよくある。病床数要件の設定は行うべきではない」と反対。同じく診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)も「整備目標を超えたNICU増床を行っている地域に、その理由を聞いたり、入室患者の状態を調べたりなどの現状把握が急がれる。そのうえで整備計画の見直し、診療報酬の在り方検討につなげるべきで、2020年度改定での要件見直しは時期尚早である」とやはり反対姿勢を明らかにしています。
さらなる調整が進められるのか、2020年度改定では「集約化への布石」は見送られるのか、今後の動きに注目する必要があります。
また城守委員のコメントに関連して、森光医療課長は「NICU入室患者の状態を詳しく把握する」考えも示しています。NICUについて、現在▼高度の先天奇形▼低体温▼重症黄疸▼未熟児▼意識障害または昏睡▼急性呼吸不全または慢性呼吸不全の急性増悪▼急性心不全(心筋梗塞含む)▼急性薬物中毒▼ショック▼重篤な代謝障害(肝不全、腎不全、重症糖尿病等)▼大手術後▼救急蘇生後▼その他外傷、破傷風等で重篤な状態―での入室が想定されていますが、【救急医療管理加算】と同様に「重症度の詳細」について記録を求めるイメージでしょう。この方向そのものに反対意見は出ていませんが、診療側委員は「NICUスタッフ等の負担が重くならないような工夫・配慮」を求めています。
超急性期脳卒中加算、薬剤師配置などの要件緩和を検討
「がん対策」については、次の見直し方向が示され了承されました。
▽がん診療連携拠点病院等のうち「地域がん診療連携拠点病院(特例型)」(要件を満たさなくなったケース)は、地域がん診療病院と同様の評価とする(拠点病院は「500点」が加算されるが、地域がん診療病院は「300点」となる)
▽「がんゲノム医療拠点病院」は、がんゲノム医療中核拠点病院と同様の評価とする(がんゲノム医療を提供する保険医療機関に対する加算250点)
▽【個別栄養食事管理加算】(一般病床における緩和ケア提供を評価する【緩和ケア診療加算】の上乗せ加算)について、▼ベースとなる【緩和ケア診療加算】と算定対象を揃える▼学会が「緩和ケアチームへの管理栄養士参加」を推奨している―点を踏まえて、対象疾患を「がん(悪性腫瘍)」のほかに、「後天性免疫不全症候群」と「末期心不全」にも拡大する
また「脳卒中対策」では、▼rt-PA療法について、治験段階よりも頭蓋内出血リスクは低いことが明らかになった▼rt-PA療法を実施しながら、薬剤師配置や診療放射線技師配置等が難しく【超急性期脳卒中加算】を取得できない▼rt-PA療法の実施ガイドラインは診療報酬の施設基準よりも緩い基準を設定している―点を踏まえた、【超急性期脳卒中加算】の施設基準緩和が検討されます(関連記事はこちら)。
さらに「生活習慣病対策」に関しては、次の2つの見直し方向が検討されます。
▽【血糖自己測定器加算】(【在宅自己注射指導管理料】等の加算)について、膵全摘後の病態(頻回かつ永遠のインスリン注射が必要で、低血糖リスクがあるため頻回の血糖自己測定が必要)を踏まえ、▼月90回以上(1170点)▼月120回以上(1490点)―の対象患者に「膵全摘後の患者」を追加する
▽統合失調症治療薬「クロザピン」投与中には「4週ごと」にヘモグロビンA1cの測定が必要となる症例があることを踏まえ、クロザピンを投与中の患者に限り、D005【血液形態・機能検査】の「5 ヘモグロビンA1c」(49点)の算定頻度を見直す(現在は「月1回」とされており、1日に測定した場合、4週目の算定が不可能となる)
これらについては、診療側・支払側ともに異論を唱えておらず、今後、具体的な要件等の詰めを行うことになります。
【関連記事】
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新設される「がんゲノム医療拠点病院」、中核病院なみの診療体制を敷きゲノム医療を自院で完結―がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキング
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