入院料減額されても、なお「自院の急性期後患者」受け入れ機能に偏る地域包括ケア病棟が少なくない―入院医療分科会(1)
2021.7.9.(金)
2020年度の前回診療報酬改定では、「許可病床数400床以上の病院に設置した地域包括ケア病棟について、入棟患者のうち『自院の一般病棟から転棟した患者』割合が6割以上の場合に入院料を10%減額する」との見直しが行われたが、改定後も「自院の一般病棟から転倒した患者」割合が6割以上である地域包括ケア病棟が相当数ある―。
「一部の役割・機能(post acute機能)しか果たしていない地域包括ケア病棟」の実態を明らかにするべきではないか―。
7月8日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(入院医療分科会)で、こういった議論が行われました。2022年度の次期診療報酬改定でも「3機能(▼急性期後(post acute)患者の受け入れ▼自宅等からの軽度急性期(sub acute)患者の受け入れ▼在宅復帰—)のバランス確保」を目指す見直しが検討されそうです。
目次
入院料減額されてもなお「自院の急性期後患者」を6割以上受け入れる地ケア病棟
地域包括ケア病棟は、「上述した3機能を同時に持つ」病棟として、2014年度診療報酬改定で創設されました(従前の「亜急性期病棟」からの改組)。
しかし、現急性期一般1(旧7対1)を維持するために、「post acute」機能のみで「sub acute」機能を果たしていない地域包括ケア病棟があると指摘されます。
急性期一般1病棟を届け出るためには、「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)を満たす患者割合が一定以上(評価票を用いる看護必要度Iで31%以上、DPCのEF統合ファイルを用いる看護必要度IIで29%以上)などの施設基準を満たさなければいけません。この施設基準をクリアするために、「自院の急性期病棟の一部を地域包括ケア病棟に転換し、看護必要度を満たさなくなった患者を転棟させる」ことが行われています。これ自体には何らの問題もありませんが、「度が過ぎる」ケースが少なからず見られていました。
極端な例としては、地域包括ケア病棟の入棟患者が「すべて、自院の急性期病棟からの転棟患者である」ケースもあります。当然、「在宅療養患者が急変した場合の受け入れ」機能を果たしてはいません。
こうした地域包括ケア病棟と、「3機能をバランス良く果たしている地域包括ケア病棟」とが、同じ評価で良いのか?という議論が行われ、2020年度の前回改定で「許可病床数400床以上の病院に設置した地域包括ケア病棟について、入棟患者のうち『自院の一般病棟から転棟した患者』割合が6割以上の場合に入院料を10%減額する」という仕組みが設けられたのです。
しかし、今般の調査では2020年度改定後も地域包括ケア病棟のおよそ半数で「『自院の一般病棟から転棟した患者』割合が6割以上である」ことが分かりました。「『自院の一般病棟から転棟した患者』割合が100%」という病院も少なくありません。この中には「許可病床数400床以上」のケースも含まれていると見られ、「入院料の減額」措置の効果を今後検証していく必要がありそうです。牧野憲一委員(旭川赤十字病院院長、日本病院会常任理事)は「病院の病床規模別の分析」を要望しています。
各地ケア病棟が3機能をバランス良く果たしているか、機能が偏る地ケア病棟の実態は?
また、今般、▼入棟元別の患者状況分析(「どこから地域包括ケア病棟に入棟したか」による分析)▼病床種別の患者状況分析(「一般病床」か「療養病床」化による分析)—の結果も公表されました。
そこからは、例えば、地域包括ケア病棟入棟患者の主傷病を見ると、▼一般病棟からの入棟患者では「大腿骨転子部骨折」が最も多い▼自宅等(自宅や特別養護老人ホームなど)からの入棟患者では「腰椎圧迫骨折」が最も多い▼その他(介護老人保健施設など)からの入棟患者では「誤嚥性肺炎」「尿路感染症」が多い―ことが分かりました。
また、病床種別に入棟患者の主傷病を見ると、▼一般病床の地域包括ケア病棟では「大腿骨転子部骨折」が最も多い▼療養病床の地域包括ケア病棟では「誤嚥性肺炎」「腰部脊柱管狭窄症」が多い―ことも分かりました。
さらに、大規模病院でも取得できる「地域包括ケア病棟入院料2」と、200床未満病院でなければ取得できない「地域包括ケア病棟入院料1」とで比較すると、▼大規模病院も含まれる「入院料2」において「自院の一般病棟から転棟した患者」(post acute)割合が高く▼中小希望病院の「入院料1」では「自宅等からの入院患者」(sub acute)割合が高い―ことなども明らかとなっています。
ここから、例えば▼大規模な急性期病院における地域包括ケア病棟(一般病床である急性期一般1などからの転換が多い)では、「大腿骨転子部骨折」などで急性期病棟に入院し、そこで治療を終えた「急性期後患者」(post acute)の転棟が多い▼中小規模の慢性期病院における地域包括ケア病棟(療養病棟からの転換)では、介護保険施設などの入所者に「腰椎圧迫骨折」や「誤嚥性肺炎」「尿路感染症」などが生じた場合に直接受け入れている(地域包括ケア病棟への緊急搬送)ケースが多い―ことなどが推測されますが、もちろん「異なるケース」も少なくないと考えられ、より詳しい分析が待たれます。
中野惠委員(健康保険組合連合会参与)は「一部の役割・機能(post acute機能)しか果たしていない地域包括ケア病棟の実態を明らかにする必要がある」と強調しています。
なお繰り返しになりますが、「急性期病院において地域包括ケア病棟を設置し、そこに看護必要度の基準を満たさなくなった(=post acute)患者を転棟させる」ことに問題があるわけではありません。これは、創設当初から「地域包括ケア病棟の1つの役割・機能」として設定されています。問題は、このpost acute機能に偏りすぎ、「在宅等で療養する患者が急変した場合の受け入れ」(sub acute患者対応)を置き去りにしている病院が一部にあるという点です。3機能をバランス良く果たすことが期待されます。
「DPC点数>地ケア点数」となった時点での転棟集中は是正されたのか?
「DPC点数」<「地域包括ケア病棟入院料」となった時点で、「DPC病棟から地域包括ケア病棟への転棟が集中」しているケースが多数あります(「DPC点数」>「地域包括ケア病棟入院料」となっている診断群分類では、こうした集中は生じず、「平均在院日数時点での転棟」が多い)。これは「患者の状態」(回復の度合い)ではなく、「収益性」にのみに着目した転棟であると見ることができ、決して、公的医療保険制度の中で「好ましい」とは言えません。このために上記ルールが設けられたものです。
この仕組みも「post acute機能への偏りすぎ」を是正する方策の1つと考えられ、山本修一委員(地域医療機能推進機構理事)や猪口雄二委員(日本医師会副会長)、井原裕宣委員(社会保険診療報酬支払基金医科専門役)らは「『DPC点数』<『地域包括ケア病棟入院料』となった時点での地域包括ケア病棟への転棟集中が是正されているのか、状況を検証すべき」と要望しています。今後のデータを待つ必要があります。
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