2022年度診療報酬改定に向け「入院医療改革」で早くも舌戦、「看護必要度」などどう考えるか―中医協総会
2021.6.23.(水)
急性期一般入院料1取得病院など急性期病棟では、全体として「重症度、医療・看護必要度の基準」を満たす患者の割合」(看護必要度割合、重症患者割合)が向上しているが、これは「看護必要度の項目・定義見直しによるもの」なのか、「新型コロナウイルス感染症の影響によるもの」なのか、などを詳しく分析する必要がある―。
地域包括ケア病棟では、「自院の急性期病棟からの転棟患者」(post acute)割合が高いところが依然として少なくない。2022年度の次期診療報酬改定では「sub acute」(軽症急性期)患者のより積極的な受け入れを評価することを検討してはどうか―。
回復期リハビリテーション病棟では、リハビリテーション実績指数が要件化されていない入院料2・4・6取得病棟でリハビリ実績指数が低い。この点を是正していくべきではないか―。
療養病棟では「死亡退院」の割合が高いが、この点をどう考えていくべきか―。
6月23日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こういった議論が行われました。今後、中医協総会や入院医療分科会で本格的な議論が行われますが、早くも「舌戦」が開始された格好です。
目次
急性期病棟の看護必要度割合向上、基準見直しによるものか、コロナ感染症の影響か
2022年度の次期診療報酬改定に向けて、中医協の下部組織である診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(入院医療分科会)において「2020年度の前回診療報酬改定を受けた入院医療の状況」に関する膨大な調査結果が示されました。
詳細はすでにGem Medでお伝えしており、例えば次のような状況が明らかになっています(関連記事はこちら(地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟)とこちら(DPC特別調査)とこちら(急性期病棟))。
【急性期一般等】
▽看護必要度II(DPCのEF統合ファイルを用いて患者の状態を評価する手法)を導入した病院では、2020年度改定後に「看護必要度を満たす患者(いわば重症患者)の割合」が大きく高まっている
▽新型コロナウイルス感染症患者を受け入れた病院に比べて、「受け入れなかった病院」のほうが看護必要度割合(重症患者割合)が、より高くなる傾向があり、とりわけ手術等を評価する「C項目」でその度合いが顕著である
▽看護必要度IIを導入する病院が2020年度改定後に大きく増加しているが、急性期一般1病院でも、まだ4割が「看護必要度Iのまま」である
【地域包括ケア病棟】
▽2020年度改定で「自院の急性期病棟からの転棟患者(post acute)受け入れ」特化を是正するための措置が導入された。その効果が現れてきているようにも見えるが、まだまだ「自院の急性期病棟からの転棟患者割合が高い」病院が存在する
【回復期リハビリテーション病棟】
▽2020年度改定後に「リハビリテーション実績指数」が、いずれの入院料取得病棟でも向上している
6月23日の中医協総会では、こういった状況が改めて報告されるとともに、今後の入院医療分科会・中医協での改定論議に向けた意見交換が行われました。
まず【急性期入院医療】に関しては、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)から、▼多くの病院で看護必要度割合(重症患者割合)が向上しているが、「A・B・C各項目の見直し」によるものか、「新型コロナウイルス感染症で急性期患者像が変化した」ことによるものか、などを可能な限り精緻に分析する必要がある▼A・B・C各項目などの該当状況を精緻に見ていく必要がある▼コロナ患者受け入れ病院の方が、看護必要度割合(重症患者割合)の分布にバラつきが大きいように見え、「コロナ患者受け入れの規模」などを見ていく必要がある▼評価票を用いる「看護必要度I」に比べて、DPCデータを用いる「看護必要度II」のほうが看護必要度割合が高くなるように見え、その要因を分析する必要がある―などの意見・要望が出されました。
前回の2020年度改定では、看護必要度のA・B・C各項目について、例えばA項目では「『緊急に入院を必要とする状態』の患者について、2点カウントの評価期間を従前の『2日間』から『5日間』に拡大する」、C項目では「1点カウントの評価期間を、例えば開頭手術では従前の『7日間』から『13日間』に、開胸手術では同じく『12日間』に延長する」などの見直しが行われました(関連記事はこちらとこちら)。つまり、これらの見直し項目だけを見れば、「看護必要度の基準を満たす」(重症である)と判断される患者割合が高まるのです。
また、新型コロナウイルス感染症患者を受け入れる病院の中には、当該患者に限られた医療資源(マンパワーやベッド、設備など)を集中させるために、一部の病棟を閉鎖するところも少なくありません(一部病棟を閉鎖し、そこに配置していた看護師等のマンパワーを、コロナ対応病床に集約する)。この場合、閉鎖病棟の入院患者を「転院」等させる必要がありますが、その際には「比較的軽症の患者を他院に転院させる」ケースが多くなるでしょう(重症患者を転院させるのであれば、転院先の方が「高度医療」を提供していると考えられ、そこでコロナ感染症の重症患者を受ける方が自然な選択である)。この場合、必然的に「重症患者の占める割合」(看護必要度割合)が高まることになります(もちろん、「予定手術の延期」などにより、看護必要度割合が下がる病院も出てくる点には留意が必要)。
幸野委員は、こうした点を見極められるような分析を求めていますが、厚労省保険局医療課の井内努課長は「可能な限り精緻に分析するが、データの内容や分析するマンパワーにも限界がある」点を説明しており、どこまで見極めることが可能か、今後の資料を待つ必要があります。また診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は「これらのデータだけで『看護必要度IIの方が有利である』『コロナ患者受け入れ病院と、受け入れなかった病棟との違い』などを判断することはできない」と幸野委員の指摘に釘を刺しています。
DPCの「外れ値」病院の実態を調査し、必要があればルール設定も検討する可能性
急性期医療に関連して、DPC病院に関する特別調査についても中医協で了承されています。▼標準化が進んだ急性心筋梗塞治療などについても「医療資源投入量が極めて少ない病院」▼在棟日数が極めて短い病院―を対象に実態のヒアリングを行う、などの特別調査が行われます(関連記事はこちら。
この点、診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)から「QI(Quality Indicater)指標の活用状況なども調べてはどうか」との提案がなされています。医療の質向上や診療内容の標準化などを目指し、2010年度から▼患者満足度▼インシデント・アクシデント発生率▼30日以内の予定外再入院率―などの共通QI指標が設定され、各病院団体等で医療の質に関する評価が行われています(「医療の質の評価・公表等推進事業」(QI事業))。つまり、自院のQI指標に係る数値と、他院の状況とを比較すれば、「自院が他院とかけ離れた診療を行っていないか」などを把握し、診療内容の見直しなどにつなげることができるのです(関連記事はこちら)。
このように、DPCデータと同じく、QI指標にも「ベンチマーク機能」があることから、島委員の指摘するように「外れ値病院において、どのようにベンチマーク分析を行っているのか」を調べ、そこから改善策を練ることが可能になってくると思われます。
なお、井内医療課長はDPC特別調査について「まずは実態を把握する。そのうえで『何らかの対応』(例えば退出ルールの設定など)が必要かどうかを改めて検討してもらう」とコメントしています。
地域包括ケア病棟、「sub acute」患者受け入れ機能の推進を求める声
また【地域包括ケア病棟】に関しては、やはり幸野委員が「依然として『自院の急性期病棟からの転棟患者』割合が圧倒的に高い地域包括ケア病棟が存在する。それ自体が問題なわけではない(post acute患者の受け入れは地域包括ケア病棟に求められる3機能の1つである)が、『在宅医療の後方支援』機能をより高めていく必要がある。2022年度改定では『sub acute』(軽症急性期、この受け入れも地域包括ケア病棟に求められる1機能である)の受け入れ実績の要件化を検討していく必要があると考える」と、具体的なコメントを行っています。
回復期リハ病棟の「リハビリ実績指数」、入院料2・4・6にも要件化すべきか
さらに【回復期リハビリテーション病棟】に関しては、リハビリテーション実績指数の凸凹(リハビリテーション実績指数が要件化されている入院料1・3・5で実績指数が高く、要件化されていない入院料2・4・6で低い)に幸野委員が着目し、「是正策を検討していく必要がある」と改めてコメントしました。
2020年度の前回改定では、より効率的かつ効果的なリハビリの実施を推進するために、回復期リハビリ病棟において「入院料1・3・5に設定されているリハビリ実績指数の基準値引き上げ」が行われました(ただし今年(2021年)9月までは従前の基準値を使用する経過措置を延長中)。一方、入院料2・4・6については「リハビリが必要だが、実績指数向上につながりにくい患者(例えば高齢者等)の行き場所がなくなってしまうことのないように、リハビリ実績指数は設定しない」こととなりました(関連記事はこちら)。
リハビリ実績指数の計算方法には、クリームスキミング(効果の出やすい患者のみを選別し、効果の出にくい患者を受け入れない)を回避する仕組み(そもそもリハビリ効果が出にくい患者は計算から除外し、リハビリ効果の出やすさを勘案した傾斜を設けるなど)が導入されていますが、病院サイドが「効果の出やすい患者を優先する」という方向に動きがちなことは完全には否定できないためです。2022年度の次期改定でも改めて議論になるかもしれません。
なお、上述のとおり各入院料ともに「リハビリ実績指数が向上している」ことを踏まえて幸野委員は「リハビリ実績指数の経過措置延長は必要なかったのではないか」とコメントしましたが、診療側の松本委員は「分布を見れば、コロナ禍でリハビリ実績指数の基準値を満たせない病院も出ている。経過措置は必要かつ重要であった」と強く反論しています。
療養病棟における「死亡退院」の高さに支払側委員が疑問を呈す
一方、療養病棟について幸野委員は「死亡退院が多い点が従前より気になっており、今後も議論していく必要がある」とコメント。このコメントのみから幸野委員の真意を探ることは困難ですが、診療側の池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は「療養病棟では、在宅や介護保険施設などでの療養が困難な、医療的処置が必要な患者(例えば、末期のがん患者、透析が必要な患者、自力で食事摂取できず、また胃瘻設置も不可能で中心静脈栄養に頼らざるを得ない患者、酸素投与が必要な患者など)を数多く受け入れ、在宅復帰等を目指した懸命な治療を行っている。しかし治療を継続しても残念ながら死亡される患者も少なくない。決して『自宅や施設の代わりに看取っている』わけではない」と強く指摘しています。
療養病棟について、2018年度診療報酬改定以降、「より重症の患者を多く受け入れる」ことが強く求められており、いわゆる「寝かせきりの病院、介護施設代わりの病院」については厳しい改定内容が実施されており、実態をより明らかにしていくことが必要でしょう。
2021年度の薬価調査・材料価格調査の大枠を決定
6月23日の中医協総会および、それに先立って開催された薬価専門部会・保険医療材料専門部会では、2022年度の薬価・材料価格改定のベースとなる「薬価調査」「材料価格調査」を次のように行うことを了承しました。2019年度の調査内容をほぼ踏襲するものです(この調査で「公定価格」(薬価、材料価格)と「実勢価格」(卸から医療機関・薬局が購入する価格)との乖離状況が明らかとなり、その乖離を、流通を加味した一定幅(遠隔地への輸送コストの勘案など)を残して、2022年度改定で埋めていくことになる)。
なお、材料価格調査について「歯科技工所」の回答率・回答率が低いことを踏まえ、2021年度の調査では「抽出率の引き上げ」(従前は「40分の1」であったところ「15分の1」に引き上げる)や、工夫(他の調査対象となっている技工所は、材料価格調査から除外し、調査負担が過重にならないようにするなど)がなされます。
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