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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

医療の質向上目指し、「QI事業参加病院のサポート」や「臨床指標の標準化」を行う協議会を設置―医療情報提供内容検討会(1)

2018.12.20.(木)

 2010年度から実施されている「医療の質の評価・公表等推進事業」(QI事業)では、▼患者満足度▼インシデント・アクシデント発生率▼30日以内の予定外再入院率―などの共通QI指標が設定され、各病院団体等で質の評価が行われている。しかし、各団体で各指標項目に関する計算式(分子・分母の設定)が異なることもあり、組織の枠を超えたベンチマークができない。このため、来年度(2019年度)から「医療の質向上のための協議会」を立ち上げて、指標内容の標準化等を図るとともに、事業に参加する病院団体等や個別病院のサポートを行う―。

 12月20日に開催された「医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった方針が了承されました。

12月20日に開催された、「第12回 医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」

12月20日に開催された、「第12回 医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」

 

現在、同じ臨床指標でも、病院団体で内容・定義が異なり、ベンチマークが困難

 我が国においても、医療提供体制の整備にとどまらず、「医療の質」向上に向けた動きが積極的になってきています。厚生労働省も2010年度から「医療の質の評価・公表等推進事業」を実施しており、これまでに▼日本病院会(2018年度までに355病院が参加)▼全日本病院協会(同41病院)▼全国自治体病院協議会(同176病院)▼済生会(同157病院、ただし特別養護老人ホームなども含む)▼国立病院機構(同141病院)▼全日本民主医療機関連合会(同97病院)▼日本赤十字社(同74病院)▼日本慢性期医療協会(同39病院)▼労働者健康安全機構(同34病院)―の9団体が参加。毎年度、2-3の事業者(団体)を公募して実施しているとともに、それぞれの団体が独自に継続した取り組みも行っています(関連記事はこちら)。

 
 この事業では、個別医療機関の「医療の質」を評価するために、▼患者満足度▼職員満足度▼医療安全▼がん▼急性心筋梗塞▼脳卒中▼肺炎▼糖尿病▼抗菌薬▼チーム医療▼病院全体▼感染管理▼地域連携—の各項目について指標(23種類・36指標)を定め、各病院の状況を比較分析することを可能としています。

 
評価結果を病院内の全スタッフがしっかりと捉え、「他院と比べて自院では◆◆の状況が芳しくないようだ。どこに問題があるのだろうか。改善に向けて何から取り組めばよいだろうか」と検討、実行し、かつ、この「他院との比較、分析、改善に向けた取り組みの実行」という流れを継続していく(つまりPDCAサイクルを回す)ことで、医療の質が向上していきます。上記の指標はDPCデータから抽出でき、DPC制度が、単なる「包括支払い」制度にとどまらず、「ベンチマークを通じて医療の質を向上させる」仕組みであることを証明する事業と言えるでしょう。

 
ただし、個別指標項目そのものはどの病院団体でも同じですが、その計算方法(分子・分母の設定)・定義が必ずしも統一されていないため、全病院団体を通じたベンチマーク(約1000病院)は困難です。また、病院団体からは▼急性期病院と慢性期病院で、すべて同じ臨床指標を用いるべきか検討する必要がある▼個別病院からの疑義照会への迅速な対応が難しい▼個別病院において「臨床指標を院内の改善に結びつけられる人材」の育成が必要である▼個別病院へのインセンティブ付与を検討すべきである―といった問題意識・要望が出ています。

こうした状況を踏まえて厚生労働省は、「病院団体・個別病院をサポートする体制の整備が必要」と考え、12月20日の検討会に「医療の質向上のための協議会」という組織を2019年度から設けてはどうかと提案。原案どおり了承されました。

協議会には、上記の9団体等が参加し、▼臨床指標内容の標準化▼病院団体・個別病院のサポート(好事例の共有や手引きの作成、人材育成、分析等の支援)―を行います。厚労省では、協議会事務局の運営費用を毎年度の予算で確保し、事務局を担当する団体等を採択する考えを示しています。このため、例えば「2019年度の協議会事務局は●●病院会、2020年度の事務局は◆◆病院協会」などと変わることも考えられますし、また「20●●年度以降、◇◇学会や▼▼総合研究所(シンクタンク)が継続して事務局を務める」と言うことも考えられそうです。2019年度予算概算要求では、このための経費として6100万円弱が要求されています。

 

臨床指標データの公表は慎重に、「QI事業へ参加」の旨は積極的に公表を

ところで、この評価結果は、国民が医療機関を選択する際にも重要と考えられます。実際に、例えば日本病院会では、病院名を明らかにしたうえで(公表を承諾した病院)、「患者満足度」や「転倒率」「予定外の再入院率」などの数字を公表しています(関連記事はこちら)。

しかし、病院によって患者の構成(疾病や年齢)などが当然異なるため、数字を単純に比較して、「●●病院が優れている、○○病院が劣っている」と判断できるものではありません。当然、「病院ランキング」などはナンセンスです。この点には最大限の留意が必要です。

このため、大道道大構成員(日本病院会副会長)や桐野高明構成員(佐賀県医療センター好生館理事長)、小森直之構成員(日本医療法人協会副会長)らは、「評価結果そのものの公表は慎重に検討すべきではないか」との考えを述べています。また、患者代表とも言える山口育子構成員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)や福長恵子構成員(消費者機構日本常任理事)も理解を示しています。

 
もっとも山口構成員は、「医療の質向上に向けた取り組みを行っているというプロセスについては、積極的に公表すべき」との考えを強調しています。事業に参加している医療機関は、医療の質向上や医療安全確保などに向けた不断の努力をしているはずであり、「その姿勢こそ、国民が医療機関を選択する際の重要な要素の1つになる」との見解に基づくものです。

ただし、現時点では「医療の質の評価・公表等推進事業への参加」は、広告可能事項には含まれず(国民・患者の生命・健康を守るため、医療機関は、原則として広告可能事項歯科広告してはならない)、限定解除(情報の正しさなどを確認できるよう、問い合わせ先を明示するなど)すればwebサイトにその旨を表示できます。

2019年度からの「医療の質向上のための協議会」などを通じて、事業が充実し、山口構成員の指摘するように「病院選択の重要要素である」との共通認識が生まれ、「医療の質の評価・公表等推進事業への参加」を広告可能事項に含めるべきとの声が大きくなっていくことが期待されます。ちなみに、日本医療機能評価機構の病院機能評価を受けた旨・その結果については、すでに「広告可能事項」に含められています。

 現在、事業に参加している病院だけでも約1000施設あり、今後、さらなる拡大が予想されます。多くの病院が「自院は、例えば予定外再入院について、全国の病院の中でどの位置にいるのだろうか」などと考え、医療の質向上・医療安全の確保などに取り組めば、我が国全体の医療の質は確実に向上していくことでしょう。

 
 なお、メディ・ウォッチを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンも、医療の質向上に貢献すべく、DPCデータをもと「がん医療の質向上」に向けた研究を行う「CQI(Cancer Quality Initiative)研究会」(代表世話人:望月泉:八幡平市病院事業管理者・岩手県立病院名誉院長)において分析担当を行っています(関連記事はこちら)。
 
 
 
 
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