「30日以内の予定外再入院率」など医療の質に一定のバラつき―日病
2018.12.13.(木)
「退院から30日以内に予定外で再入院した」患者の割合を見ると、一定のバラつきがあり、「予定外再入院」割合の高い病院では、入院時の治療が適切であったか(回復が不十分なまま退院させていないか)を十分に検証し、改善に向けた取り組みを進めていくことが重要である―。
日本病院会が12月10日に公表した2017年度の「医療の質の評価・公表等推進事業」結果から、こういった状況が明らかになりました(日病のサイトはこちら)。
脳梗塞患者への早期リハや手術患者への肺血栓予防など、高水準で実施
我が国においても、医療提供体制の整備にとどまらず、「医療の質」向上に向けた動きが積極的になってきています。厚生労働省も2010年度から「医療の質の評価・公表等推進事業」を実施しており、日本病院会は2017年度における同事業の実施主体となり、今般、その結果を公表したものです(94病院が参加)。
「医療の質の評価・公表等推進事業」では、▼患者満足度▼職員満足度▼医療安全▼がん▼急性心筋梗塞▼脳卒中▼肺炎▼糖尿病▼抗菌薬▼チーム医療▼病院全体▼感染管理▼地域連携—の各項目について指標を定め、各病院の状況を比較分析するものです。例えば、医療安全では、「入院患者における転倒・転落事故の発生率」「褥瘡の発生率」「中心静脈カテーテル挿入時の気胸発生率」などを指標としています。
注目されるのは、病院名と評価結果が公表されることです。ただし、病院によって患者の構成などが当然異なるため、数字を単純に比較して、「●●病院が優れている、○○病院が劣っている」と判断できるものではありません。結果を院内全体で共有し、「他院と比べて◆◆の状況が芳しくないようだ。自院に問題はないのか。改善に向けて何に取り組めばよいか」と検討し、実行に移していき、かつ「他院との比較、分析、改善に向けた取り組みの実行」という流れを継続していく(つまりPDCAサイクルを回す)ことで、医療の質が向上していくのです。
調査結果は膨大なため、いくつかポイントを絞って眺めてみましょう。前記のように「どの病院が優れているか」などを探る調査ではない点に留意することが必要です。したがって病院名は公表されていますが、メディ・ウォッチでは病院名には言及しません。
まず医療安全に関し「入院患者での転倒転落発生率」を見ると、参加病院の平均は2.51%でした。最も低い病院では0.5%を切っていますが、最も高い病院で5%を超えています。高齢化の進展により、急性期病院でも高齢の入院患者がますます増加していきます。転倒転落の防止に向けて、自院に最も適した方策を検討することが重要です。
次に脳卒中に関し「脳梗塞患者への早期リハビリ開始率」(脳梗塞で入院した患者に対し、入院から3日以内に脳血管リハビリを開始した割合)を見ると、参加病院の平均は77.1%でした。100%の病院が6施設あり、比較的高い水準の病院が多いことが分かります。最も低い病院では20%に達していませんが、脳梗塞患者の受け入れが少ない病院では、リハビリ提供体制が整っていないこともあり、「指標を再検討する」余地もありそうです。もっとも、脳卒中治療ガイドライン2015では、「十分なリスク管理のもとに、発症後早期から積極的なリハビリを行う」ことを強く勧めており、脳梗塞患者の多い病院では、リハビリ体制の充実が期待されます。
またチーム医療に関し「安全管理が必要な医薬品に対する服薬指導実施率」を見ると、参加病院の平均は43.7%でした。最も高い病院では85%程度、最も低い病院では5%程度となっており、病院間で大きなバラつきがあることが分かります。安全管理が必要な医薬品としては、例えば「抗悪性腫瘍剤」「免疫抑制剤」「血液凝固阻止剤(内服薬)」などがあり(B008【薬剤管理指導料】の「1 特に安全管理が必要な医薬品が投薬又は注射されている患者の場合」の対象薬剤)ます。今回の調査では「これらの薬剤を使用している患者」に対し、どれだけ服薬指導が行われているかを見たもので、大きなバラつきは好ましくありません。例えば「医師と薬剤師との連携」を強化するなどし、十分な服薬指導がなされることが期待されます。
一方、病院全体に関し「手術ありの患者の肺血栓塞栓症の予防対策の実施率」(▼弾性ストッキング着用▼間歇的空気圧迫装置の利用▼抗凝固療法—のいずれか、または2つ以上)を見ると、参加病院の平均は92.1%で、相当の高水準にあります。最も高い病院では100%ですが、最も低い病院では25%程度にとどまりました。
さらに「手術ありの患者の肺血栓塞栓症の発生率」に目を移すと、参加病院の平均は0.15%(中央値は0.0%、つまり全体の半数超がゼロ%)で、非常に良好な結果と言えます。ただし、日病では指標自体の課題(病名の精度と実際の発生率との乖離など)も指摘しており、今後の検討状況に注目する必要がありそうです。
また「30日以内の予定外再入院率」を見ると、参加病院の平均は2.9%ですが、8%と高くなっている病院もあるなど、一定のバラつきがあります。平均在院日数の短縮が進められ、そこには「院内感染やADL低下の防止」「早期の社会復帰によるQOL改善」と言う大きなメリットがありますが、一方で「入院時の治療が不十分になりかねない」「回復が不完全な状態で早期退院を強いる」といったリスクもあります。このため、平均在院日数の短縮を進めると同時に「予定外再入院率」をチェックして、「不適切な在院日数短縮が行われていないか」を確認する必要があるのです(DPC制度でも同様のチェックを毎年度実施)。「予定外再入院率」が比較的高い病院では、その理由等を十分に分析する必要があります。
なお、メディ・ウォッチを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンも、医療の質向上に貢献すべく、DPCデータをもと「がん医療の質向上」に向けた研究を行う「CQI(Cancer Quality Initiative)研究会」(代表世話人:望月泉:八幡平市病院事業管理者・岩手県立病院名誉院長)において分析担当を行っています(関連記事はこちら)。
【関連記事】
がん医療の内容、実績、クリニカルパスを他院と比較し、がん医療の質向上を目指す―CQI研究会
胸部食道がん、平均値では胸腔鏡手術のほうが開胸手術よりも術後日数が長い―CQI研究会
ベンチマークと臨床指標でがん医療の均てん化を推進―CQI研究会、8月開催
大腸がんの在院日数、短縮傾向もなお病院格差-CQI研究会が経年分析
乳がんの治療法、放射線実施率など格差鮮明―CQI研究会、臨床指標20項目を調査
前立腺がん手術、在院日数最短はダヴィンチ、合併症発生率は?―第10回CQI研究会
拠点病院は現場の使命感で支えられている、今こそ「医療の質評価」の普及を――九がん・藤院長