2020年度改定で設けた看護必要度IとIIの基準値の差は妥当、「心電図モニター管理」を含め患者像を明確に―入院医療分科会(2)
2021.7.5.(月)
急性期入院医療の評価指標である「重症度、医療・看護必要度」(看護必要度)について、「DPCのEF統合ファイルを用いた看護必要度II」を用いた場合よりも、「従前からの評価票を用いた看護必要度I」を用いた場合のほうが、看護必要度の基準値を満たす患者の割合(看護必要度割合)が高くなる。その差は急性期一般1病院では1.8ポイントであり、2020年度の前回診療報酬改定で設けた看護必要度Iと看護必要度IIの基準値の差(必要度Iでは31%、必要度IIでは29%で、「2ポイントの差」)が「妥当であった」と言える―。
また急性期一般病棟では、看護必要度A項目のうち「心電図モニターの管理」に該当する患者割合が高く、患者像を明らかにしながら、より適正な内容に向けた検討を進めていくべきである―。
6月30日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(入院医療分科会)では、こういった議論も行われています。
目次
看護必要度IIを導入する病院、より「急性期入院医療が必要な患者」を積極的に受け入れ
入院医療分科会は、診療報酬改定に向けた中央社会保険医療協議会の議論に資するため「入院医療における現状や課題」について技術的検討を行う検討組織(中医協の下部組織)です。6月30日には、急性期入院医療に関する調査(2020年度の前回診療報酬改定「前・後」の状況調査)結果に基づいて議論を行いました。
急性期入院医療を評価する指標として「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度」があります。A項目(「モニタリング及び処置等」、いわば患者の医学的状態)・B項目(「患者の状況等」、いわば患者のADL)・C項目(「手術等の医学的状況」、患者に実施された手術など)を組み合わせて患者の状態を評価したうえで「当該病棟に『急性期入院医療が本当に必要な患者』がどれだけ入院しているのか」を判断し、診療報酬に結び付けるものです。
さらに今般、病床規模別に「2020年度改定前後の看護必要度割合」の分布をみると、必要度II導入病院のほうが、必要度I病院に比べて「改定後に看護必要度割合が上がっている」病院が多い傾向にあることが再確認されました。
あわせて、次のような状況も明らかになっています。
▽看護必要度割合について、2020年度改定前後の「差の平均」を見ると、全体的に看護必要度II導入病院のほうが、必要度I病院に比べて大きい(いわば「上がり幅」が必要度IIで大きい)
▽看護必要度割合について、2020年度改定前後の「差の分布」を見ると、例えば急性期一般1について、必要度I病院では「0.0ポイント」付近が多いが、必要度II病院では「5.0ポイント」付近が多い(いわば「上がり幅の大きな病院」が必要度IIで多い)
▽急性期一般1病院において、病床規模別に「看護必要度割合に関する、2020年度改定前後の『差の分布』」を見ると、必要度I病院では「0.0ポイント」付近が多いが、必要度II病院ではより高いところに分布している(病床規模別に見ても「上がり幅の大きな病院」が必要度IIで多い)
新型コロナウイルス感染症の影響で「看護必要度割合の基準値」については、経過措置が延長され、旧基準(必要度Iで30%以上、必要度IIで25%以上)が用いられていますが、項目については新たな内容が適用されています。必要度IIを導入した病院において、病床規模にかかわらず、新項目に適切に対応するとともに、「重症度の高い急性期状態の患者」をより多く受け入れていると見ることができそうです。
「必要度IIが有利」なわけではい、必要度Iと必要度IIの基準値の差は妥当
ところで6月23日の中医協総会では「看護必要度Iに比べて、看護必要度IIのほうが有利なのではないか」との指摘が委員から出されました。上述のように、必要度IIを導入する病院では、必要度I病院に比べて「2020年度改定後に看護必要度割合が高くなった病院」が多いことを踏まえたものです。
しかし、「看護必要度Iと看護必要度IIの両方で評価を行っている病院」について、それぞれの評価結果を比較したところ、▼2022年度の看護必要度割合を見ると、必要度I病院のほうが、全体で見ても、規模別に見ても高い傾向にある▼急性期一般1では、必要度Iと必要度IIとで看護必要度割合の差は1.8ポイント、急性期一般2では1.4ポイントなどである―ことなどが分かりました。
ここからは、「必要度IIが有利である」とは決して言えず、また2020年度改定で設けた看護必要度割合の基準値の差(急性期一般1では、必要度Iで31%以上、必要度IIで29%以上と2ポイントの差がある)が「妥当である」(調査結果では必要度IIで、必要度Iに比べて1.8ポイント低い)ことが伺えます。
「心電図モニターの管理」に再度注目し、急性期病棟の「患者像」をあぶりだす
さらに、A・B・C項目について詳しく見てみると、次のような状況も明らかになっています。
【A項目】
▽(必要度I病院)急性期一般1では「心電図モニターの管理」に該当する患者が、急性期一般2-5に比べて多く、急性期一般1・2では「専門的な治療・処置」に該当する患者も多い
▽(必要度II病院)急性期一般1・2では「心電図モニターの管理」と「専門的な治療・処置」に該当する患者が多く、急性期一般4・5では「呼吸ケア」に該当する患者も多い
【B項目】
▽(必要度I病院)急性期一般1-5では「口腔清潔」「衣服の着脱」に該当する患者が多い
▽(必要度II病院)急性期一般1・2では「口腔清潔」「寝返り」に該当する患者が多い
【C項目】
▽(必要度I)ほぼすべての入院料で、「骨の手術」「全身麻酔・脊椎麻酔の手術」に該当する患者が多い
▽(必要度II)ほぼすべての入院料で、「全身麻酔・脊椎麻酔の手術」に該当する患者が多い
必要度I・IIで「類似している」部分(例えば「心電図モニターの管理」該当が多いなど)もあれば、「傾向が異なる」部分(例えば必要度IIでは、より「全身麻酔・脊椎麻酔の手術」該当が多いなど)もあります。
この点、中野惠委員(健康保険組合連合会参与)は「全体としてA項目の『心電図モニターの管理』該当患者が多い。どういった患者に心電図モニターの管理を行っているのかなどを深堀りしていく必要がある」との考えを示しました。
例えば全身麻酔等の手術を受けた患者は、術後に心電図モニターを装着して状態を把握する必要性が極めて高いと考えられ、その際には「心電図モニターの管理」は重要な指標の1つと言えるでしょう。一方、心電図モニターによる管理の必要性が低い患者に対し、モニターを装着することで「A項目1点を獲得する」という、いわば「看護必要度の水増し」を行っている事例があれば、大きな問題です。「心電図モニターの管理」に限らず、項目の組み合わせによって「どういった患者が入院しているのか」をあぶりだし、項目の適正性を確認していくことになるでしょう。
新型コロナウイルス感染症の影響下でも「急性期入院医療の在り方」に関する検討は継続されます。
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