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【経過措置】の療養病棟、あたかも「ミニ回リハ」のような使われ方だが、それは好ましいのか―入院医療分科会(2)

2021.8.10.(火)

20対1看護・20対1看護補助などの基準を満たさない【経過措置】の療養病棟について分析すると、「短期間に運動器リハビリを提供する」という、あたかも「ミニ回復期リハビリテーション病棟」のような使われ方であることが分かった。これは療養病棟の趣旨に照らして好ましい姿と言えるのだろうか―。

療養病棟において「長期間の中心静脈栄養カテーテル留置」が問題視され、他の栄養方法があることなどを患者・家族に説明することが2020年度の前回診療報酬改定で求められた。その効果は一定程度出ているが、依然として「長期間のカテーテル留置」が存在している点などをどう考えるべきか―。

障害者施設等入院基本料を取得する病棟では、3割未満であれば「重度の意識障害以外の脳卒中患者」などを受け入れることができ、検査などを出来高算定できているが、その状態は療養病棟の入院患者と大きな差がない。検査などを包括評価している療養病棟入院基本料に準じた点数算定を検討しても良いのではないか―。

8月6日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(入院医療分科会)では、こういった議論も行われています。

8月6日に開催された「令和3年度 第5回 入院医療等の調査・評価分科」

【経過措置】の療養病棟、あたかも「ミニ回復期リハ」のような使われ方をしている

2022年度の次期診療報酬改定に向けた議論が「中央社会保険医療協議会」や、その下部組織である「診療報酬調査専門組織」で進んでいます。

◆急性期入院医療に関する記事はこちらこちら
◆地域包括ケア病棟に関する記事はこちら
◆回復期リハビリテーション病棟に関する記事はこちら
◆入退院支援の促進に関する記事はこちら
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◆後発医薬品使用促進・薬剤使用適正化、不妊治療技術に関する記事はこちら

8月6日の入院医療分科会では、▼短期滞在手術等基本料▼慢性期入院医療▼横断的事項(入退院支援、認知症ケア、治療早期からの回復に向けた取り組み、栄養管理)―の3点を議題としました。本稿では、このうち「慢性期入院医療」に焦点を合わせます。



慢性期入院医療を評価する診療報酬の代表格として【療養病棟入院基本料】があります。20対1以上の看護配置・20対1以上の看護補助配置(入院患者20名に対し、看護職・看護補助者をそれぞれ1名以上配置する)をし、重症患者(医療区分2・3に該当する患者、以下同)を8割以上受け入れるなどの基準を満たす【療養病棟入院基本料1】、同じく20対1以上看護・20対1以上看護補助を敷き、重症患者を5割以上受け入れるなどの基準を満たす【療養病棟入院基本料2】、さらに看護・看護補助配置がそれぞれ25対1以上にとどまる【経過措置】病棟の3種類が設けられています。

このうち【経過措置】病棟は、人員配置が薄く、重症患者受け入れ基準も設定されていないことから、点数は「【療養病棟入院基本料2】の85%」と低く設定されています。

療養病棟入院基本料の概要(入院医療分科会(2)1 210806)



しかし、患者単価(患者1人・入院1日当たりの請求点数)を見ると、▼療養病棟入院基本料1:2036点▼療養病棟入院基本料2:1426点▼経過措置:1902点―となっていることが分かりました。入院基本料が低く設定されている【経過措置】病棟では、最も高い【療養病棟入院基本料1】に迫っています。

入院基本料の低い「経過措置」病棟だが、単価は高い(入院医療分科会(2)2 210806)



さらに診療行為等を見てみると、【経過措置】病棟では▼運動器リハビリを多く行っている▼入棟期間が短い―ことが分かりました。

経過措置病棟では、運動器リハビリの提供が多い(入院医療分科会(2)3 210806)

経過措置病棟では、入棟期間が3香月程度と短い(入院医療分科会(2)4 210806)



まるで準「回復期リハビリ病棟」・ミニ「回復期リハビリ病棟」とでも言うような使われ方がなされているものです。この点、「経営努力と見ることでもできる」(津留英智委員:全日本病院協会常任理事)という声がある一方で、「適切な使われ方と言えるのだろうか」(猪口雄二委員:日本医師会副会長)、「診療内容にマッチした入院料への転換を促すべきはないか」(中野惠委員;健康保険組合連合会参与)という意見もあります。

もちろん、単価が高い・リハビリを提供する・在棟期間が短いことが悪いわけではありません(むしろ在棟期間の短縮は推奨されるべき)。ただし「医療依存度の高い長期入院患者を受け入れ、適切な医療提供を行う」という療養病棟の趣旨に照らし、こうした「ミニ回復期リハ病棟」の様相を呈してきている【経過措置】病棟が、「療養病棟として適切な在り方なのか」という視点で、今後の対応を検討することになるでしょう。

なお、【経過措置】病棟については、「看護配置等の充実、重症患者の受け入れを促進し、【療養病棟入院基本料1・2】や【地域包括ケア病棟】などへ移行する」選択肢と、「生活環境を充実させ、介護保険施設である【介護医療院】などへ移行する」選択肢とがあります(選択、実施には時間がかかるために経過措置が置かれている)。この点、介護報酬での「介護医療院に移行した場合の優遇措置」(移行定着支援加算、介護医療院に「最初に転換した日から1年間、1日93単位を算定できる」もの)は終了しているため、「診療報酬による移行促進に向けた対応」(加算・減算の双方が考えられる)に注目が集まります。

療養病棟における中心静脈栄養実施、2020年度改定の効果が一定程度現れているが・・・

また療養病棟に関しては、「長期間の中心静脈栄養カテーテル留置」が問題視されています。

上述のとおり、【療養病棟入院基本料1・2】では重症患者(医療区分2・3)を多く受け入れることが求められます。この点、「中心静脈栄養を実施している状態」は医療区分3に該当するため、「あえて中心静脈栄養カテーテルを抜去せず、長期間留置しているケースがあるのではないか。その場合、感染リスクが極めて高くなってしまう」などの指摘があり、2020年度の前回診療報酬改定で▼中心静脈注射用カテーテル挿入等を「長期の栄養管理」目的に留置する場合、患者・家族等へ「当該療養の必要性」「管理の方法・当該療養の終了の際に要される身体の状態」など、療養上必要な事項を説明する▼中心静脈カテーテルに係る院内感染対策の指針作成、中心静脈カテーテルに係る感染症の発生状況把握を要件化する―などの見直しが行われました。

2020年度改定では、中心静脈栄養実施に当たり患者・家族への説明などが求められることとなった(入院医療分科会(2)5 210806)



改定後の状況を見ると、療養病棟入院患者のおよそ10%で「中心静脈栄養以外が選択されるようになった」「家族の中心静脈栄養に関する希望が減った」などの変化が生じていることが分かりました。

2020年度改定後、中心静脈栄養実施の在り方に変化が見られる(入院医療分科会(2)6 210806)



委員からは「効果が出ていることが伺える。さらに長期間の中心静脈栄養カテーテル留置がどれほど減少しているのかなども調べてほしい」との声が出ています。



ただし田宮奈々子委員(筑波大学医学医療系教授)は、上記のような2020年度改定に基づく改善を認めたうえで、「依然として医療区分3において中心静脈栄養の実施が非常に多い」「中心静脈栄養を3か月以上実施していると考えられる患者が依然として多いと推測される」と指摘し、「更なる改善」に向けた検討が必要と訴えています。

この点、井川委員は「中心静脈栄養に関する調査は細部にわたって行われており、その結果を踏まえて議論すべきである」と反論。「中心静脈栄養が多い」→「悪」→「改善」という単純な流れではないことを強調しています。

医療区分3では、中心静脈栄養実施患者が圧倒的に多い(入院医療分科会(2)7 210806)

3か月以上の中心静脈カテーテル留置患者が相当程度いると推測される(入院医療分科会(2)8 210806)

障害者施設の脳卒中患者、療養病棟の入院患者と状態像変わらず、評価体系をどう考えるか

慢性期入院医療については、【障害者施設等入院基本料】【特殊疾患療養病棟入院料】も議題に上がりました。

このうち、前者の【障害者施設等入院基本料】では、▼重度の肢体不自由児(者)▼脊髄損傷等の重度障害者▼重度の意識障害者▼筋ジストロフィー患者▼難病患者―などを受け入れることが想定され(これらの患者が7割以上)、患者の病態変動が大きく、高額な薬剤や処置が必要となるケースが多いことから、投薬・注射・処置などが「出来高」で請求できます。しかし、この仕組みを逆手に取った「好ましくない事例が一部にある」ことが従前より問題視され、順次、対応が図られてきています(例えば、「脳卒中の後遺症の患者及び認知症の患者を対象疾患から除外する」(2008年度改定)、「重度の意識障害(脳卒中後遺症患者に限る)で、疾患・状態等が医療区分1・2に相当する場合は、療養病棟入院基本料の評価体系を踏まえた評価とする」(2016年度改定)など)。

障害者施設等では、7割を重度の肢体不自由児、難病患者などとする必要がある(入院医療分科会(2)9 210806)



さらに今般、「脳卒中患者」(入院患者の3割未満であれば受け入れが可能)の状態を調査・分析したところ、▼医療区分1の状態にある患者が30%で、【療養病棟入院基本料2】と同程度▼医療的な状態は4分の3が「安定」しており、【療養病棟入院基本料1・2】と同程度▼医師による診察の頻度は、【療養病棟入院基本料】よりもやや多い▼看護提供の頻度は、【療養病棟入院基本料】と同程度―であることなどが分かりました。

重度の意識障害以外の脳卒中患者などでは、医療区分1が3割で、療養病棟の入院患者と大きな差はない(入院医療分科会(2)10 210806)

重度の意識障害以外の脳卒中患者などでは、医療的な状態が安定している者が多く、療養病棟の入院患者と大きな差はない(入院医療分科会(2)11 210806)



今後、こうしたデータを踏まえて【障害者施設等入院基本料】の報酬体系を見直す必要があるか、見直すとすればどこがポイントか、などを検討していくことになりますが、中野委員は早くも「脳卒中患者の状態は、療養病棟も障害者施設もそれほど変わらない。そこを踏まえた報酬設定を検討しても良い」との見解を示しています。

この「脳卒中患者」(重度の意識障害以外)については、現在、▼90日までは【障害者施設等入院基本料】や出来高点数を組み合わせて請求する▼以降は【特定入院基本料】という包括点数を請求する―ことになっていますが、入院当初から「【療養病棟入院基本料】に準じた包括点数を請求する」という方向で検討が進められる可能性もあります。

障害者施設等では、3割未満は「重度の意識障害以外の脳卒中患者」などを受け入れられる(入院医療分科会(2)12 210806)

重度の意識障害以外の脳卒中患者などでは、90日までは検査等が出来高算定可能となっている(入院医療分科会(2)13 210806)



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