入退院支援加算等の最大のハードルは「専従の看護師等確保」、人材確保が進まない背景・理由も勘案を―入院医療分科会(1)
2021.8.6.(金)
院内感染や廃用などのリスクを低下させ、患者のQOLを高めるための「円滑な入院、早期の退院」を確保するために【入退院支援加算】や【入院時支援加算】が準備されているが、「専従の看護師・社会福祉士の確保」が加算取得に向けた大きなハードルとなっている―。
しかし安易に「専従の看護師・社会福祉士の確保」要件を緩和するのではなく、医療の質確保を踏まえて慎重に考えていく必要がある―。
その際、「費用面で人材確保が進まない」のか、それとも「早期退院等を重視しておらず、人材確保が後回しになっているのか」なども考えていく必要がある―。
8月6日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(入院医療分科会)で、こういった議論が行われました。
目次
入退院支援加算の最大のハードルは「専従の看護師・社会福祉士の確保」
2022年度の次期診療報酬改定に向けた議論が「中央社会保険医療協議会」や、その下部組織である「診療報酬調査専門組織」で進んでいます。
◆急性期入院医療に関する記事はこちらとこちら
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入院医療については、入院医療分科会において「専門的な調査・分析」と「技術的な課題に関する検討」を行っており、8月6日の会合では▼短期滞在手術等基本料▼慢性期入院医療▼横断的事項(入退院支援、認知症ケア、治療早期からの回復に向けた取り組み、栄養管理)―の3点を議題としました。本稿では、このうち「入退院支援」に焦点を合わせ、他の事項は別稿で報じることとします。
入院医療においては(1)円滑な入院の実施(2)適切な入院医療の提供(3)早期の退院―の3点が重要となることは述べるまでもありません。2018年度の診療報酬改定では、このうち(1)(3)の重要性に着目した【入退院支援加算】(あわせて、ここに上乗せする加算)が創設されました(従前の【退院調整加算】からの発展的組み換え)。
前者の(1)「円滑な入院」は、例えば「入院する直前に●●が判明し、入院が遅れた」「入院してから■■が明らかとなり、治療開始が遅れた」という事態を避けるために、外来で▼入院生活のオリエンテーション▼患者情報や持参薬の確認▼リスクアセスメント・退院支援スクリーニング(「退院が難しい」事情を抱えていないかの確認)―などを事前に行うというイメージです。これは(3)早期退院にも直結してきます(例えば、65歳以上高齢者であれば「要介護認定を受けているか否か」などが早期退院の実現に大きく関係する)。
後者(3)の早期退院が重要なことは、Gem Medで繰り返し述べています。適切な医療提供を確保したうえでの早期退院(在院日数の短縮)には、▼急性期一般病棟(旧7対1・10対1一般病棟)等における「重症患者割合」(重症度、医療・看護必要度の基準を満たす患者の割合)の向上▼DPC特定病院群(旧II群)要件の1つである「診療密度」の向上▼「院内感染」や「ADL低下」などのリスク低減▼患者のQOL向上(例えば職場への早期復帰を果たし、生活の安定を取り戻す)—といった「経営の質」「医療の質」双方の向上に直結するのです。
こうした点を重視した【入退院支援加算】は、「入院早期(原則入院から3日以内)に、退院困難な要因を有する患者を抽出し、入退院支援を実施する」ことを評価するもので、すべての病棟で取得し、すべての算定対象患者に算定することが望まれます。山本修一委員(地域医療機能推進機構理事)は「取得率・算定率を100%にもっていく必要がある」と指摘しており、さらに医療費を負担する支払側の代表として参画する中野惠委員(健康保険組合連合会参与)も「入退院支援を推進していくべき」との考えを明確にしています。
ただし、2020年度における届け出状況(加算1・加算2の合計)を見ると、急性期一般入院料1や特定機能病院では100%近い病棟が届け出をしていますが、急性期一般入院料2-7では5割程度、地域包括ケア病棟では8割弱、療養病棟では4割程度にとどまっています。
加算取得においてハードルとなる事項を見ると「入退院支援・地域連携業務の専従看護師・社会福祉士を各病棟に確保できない」が多くを占めています。
加算取得を推進するためには「看護師等の確保」が最も重要であることが伺えますが、看護師等の確保は、全国の、さまざまな種類の病院・病棟で「苦労している」という問題もあります。
そこで、「加算取得の推進」をゴールに据えれば「人員配置の基準・要件等を緩和してはどうか」という考え方もできます。事実、他の診療項目においても「基準・要件等があまりに厳しすぎ、ほとんど算定できない」というケースについては「基準・要件等の緩和」が検討されることが少なくありません。
しかし、ここで留意すべきは、診療報酬をはじめとする医療の諸制度は「医療の質向上」を目指すものであり、ゴールは「診療報酬の届け出・算定の推進」ではないはずだという点です。
各種の要件・基準等は「医療の質」を担保するために設けられており、安易な緩和は「医療の質低下」を招く可能性もあります。このため緩和を検討する場合には「緩和したとして、医療の質を担保できるのか」を慎重に見極めなければなりません。【入退院支援加算】においては、エース級の看護師・社会福祉士に、あえて「入退院支援・地域連携業務」に専従で携わってもらうことが、「適切な早期退院」にとって重要である点を踏まえたものです。2020年度の前回診療報酬改定でも「専従看護師・社会福祉士」要件の緩和が行われましたが、その際には「医療の質担保」を十分に見極めたうえで緩和されている点に留意する必要があります。中野委員も別のテーマについてですが、同旨の考えを明らかにしています。
この点について、より深く「『費用面で人材確保が困難なのか』、それとも『あまり重視しておらず、人材確保を後回しにしている』のか、などを考えていく必要がある」との指摘も山本委員から出ています。両者は混在していますが、前者の「費用面で人材確保が困難」という課題に対しては診療報酬上の対応(例えば点数の引き下げや、上述した基準・要件等の緩和)で相当程度、対応することが可能です。
しかし「加算の趣旨(ここでは早期退院等)を重視していない」という課題には、診療報酬での対応・手当は極めて困難です。こうした点にどうアプローチしていくべきなのか、診療報酬で何らかの対応ができないのか、非常に重要な課題が浮上してきたと見ることができます。
回復期・慢性期病棟では「連携先施設を多く確保」することで、より早期の退院が可能に
ところで、【入退院支援加算】のうち、上位の【入退院支援加算1】(一般病棟等では600点、療養病棟等では1200点)を取得する基準・要件等の1つとして「20以上の医療機関や介護サービス事業所・施設などと連携し、それぞれ年3回以上の面会を行う」という項目があります。多くの連携先(つまり退院先)を確保し、そこと顔の見える関係を構築することで、退院支援がより円滑になることを踏まえた基準・要件です。
この点、入院料別に「連携先の数」と「平均在院日数」とを比較すると、次のように「回復期病棟や慢性期病棟では、連携先が多ければ、より早期の退院が可能になる」ものの、「急性期病棟では、連携先の数は、早期退院の実現には大きく影響しない」とも考えられる結果が明らかとなりました。
【急性期一般入院料】
▽連携先数が中央値以上である病院の平均在院日数:12.9日
▽連携先数が中央値未満である病院の平均在院日数:12.9日
【地域包括ケア病棟等】
▽連携先数が中央値以上である病院の平均在院日数:19.9日
▽連携先数が中央値未満である病院の平均在院日数:27.1日
【回復期リハビリテーション病棟】
▽連携先数が中央値以上である病院の平均在院日数:65.4日
▽連携先数が中央値未満である病院の平均在院日数:68.0日
【療養病棟】
▽連携先数が中央値以上である病院の平均在院日数:212.7日
▽連携先数が中央値未満である病院の平均在院日数:279.2日
この背景について詳しい分析はまだなされていませんが、厚労省保険局医療課の担当者は、「連携先の施設数が多くなれば退院支援がしやすくなり、それだけ平均在院日数が短縮していくことが一般的である(回復期、慢性期病棟はその通りの結果となっている)。しかし急性期病棟では、すでに平均在院日数の短縮が相当程度進んでおり、連携先数を増やしても在院日数短縮に結びつかない可能性がある」と推測しています。
もちろん、ここから「急性期病棟において、【入退院支援加算】の連携先要件を緩和・廃止しても問題ない」と考えるのは早計に過ぎます。本要件をクリアするために「数多くの連携先と、顔の見える関係を構築している」ことが、ここまでの在院日数短縮に結びついている可能性は否定できず、また新型コロナウイルス感染症対応の中で「連携の重要性」が確認されているためです。
各種の基準・要件等の中には「必要なもの」「あった方が良いもの」「削除しても大きな問題がないもの」があると考えられ、上述のように「医療の質を担保できるか」という視点で、1つ1つの要件の重要性・必要性を吟味していくことが求められます。今後も各種のデータを踏まえた「要件の重要性・必要性の確認」が続けられることになりでしょう。
なお、「退院後に必要な支援」の内容としては、「食事・排泄・移動等の介護」がとりわけ多く、連携先について「介護施設・介護サービス事業所との連携をより重視する」ことの検討が行われる可能性もあります。急性期病院でトップを務める牧野憲一委員(旭川赤十字病院院長、日本病院会常任理事)も、この点を強く指摘しています。
入院時支援加算のハードルも「専従の看護師等配置」
上記(1)の「円滑な入院の実施」が極めて重要であることから、【入退院支援加算】に上乗せする【入院時支援加算】が用意されています。予定入院患者に対し、▼身体的・社会的・精神的背景を含めた患者情報の把握▼入院前に利用していた介護サービス・福祉サービスの把握▼褥瘡に関する危険因子の評価▼栄養状態の評価▼服薬中の薬剤の確認▼退院困難な要因の有無の評価▼入院中に行われる治療・検査の説明▼入院生活の説明―を行うことを評価するもので、すべての項目を行う場合には加算1(230点)、一部項目を行うにとどまる場合には加算2(200点)が【入退院支援加算】に上乗せされます。
従前は「すべての項目を行った場合のみ算定できる」こととされていましたが、「項目の実施状況について、病院間でバラつきがある」ことを踏まえて、現在のすべての項目を行う場合の加算1(230点)と一部項目を行うにとどまる場合の加算2(200点)に細分化されたものです(2020年度の前回改定)。
本加算も急性期一般入院料1を取得する病院・特定機能病院で取得率が高いものの、それ以外は芳しくありません。取得に向けたハードルとしては、やはり「専従の看護師・社会福祉士の確保、配置」が上がっており、上記と同様に考えていくことになります。
高齢の入院患者では、退院後に介護サービスが必要となるケースも少なくありません。そうした患者について「退院間際になって要介護認定を受けていない」ことが判明したのでは、退院を先延ばしにしなければならなくなるでしょう。入院サポートセンター等を院内に設置し、入院前から「早期の退院」を意識した支援を行うことが、病院にとっても、患者にとっても重要です。
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