自院の急性期後患者割合に基づく地ケア病棟減算、拡大はコロナ対策阻害しかねない―地ケア病棟協・仲井会長
2021.11.22.(月)
新型コロナウイルス感染症が流行する中では、「自院の急性期病棟からの転棟患者割合に基づく減算」の拡大は避けるべきである―。
仮に400床未満病院に設置する地域包括ケア病棟へ拡大を行う場合には、「自院の急性期病棟からの転棟患者割合に基づく減算」ではなく、「自宅等からの入棟患者割合」に着目した加算・減算を新設するべきである―。
また、「特定行為研修を修了した看護師の配置」や「短期集中リハビリテーションの実績」に着目した新加算創設を検討してほしい―。
地域包括ケア病棟協会の仲井培雄会長は、こうした提言・要望を厚生労働省保険局医療課の井内努課長に提出したことを、11月18日のオンライン記者会見で明らかにしました(関連記事はこちら)。
「自院の急性期病棟からの転棟患者割合に基づく減算」、コロナ禍での拡大は避けよ
2022年度の次期診療報酬改定に向けた議論が中央社会保険医療協議会を中心に精力的に進められています。その中で地域包括ケア病棟・地域包括ケア入院医療管理料(以下、地域包括ケア病棟等と呼ぶ)に関しては、例えば次のような論点に沿った議論が行われています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
(1)「自院の急性期病棟からの入棟患者割合」が極めて高い地域包括ケア病棟等の評価をどう考えるか
(2)地域包括ケア病棟1・3などの「実績要件」を見直す必要があるか
(3)地域包括ケア病棟等における入退院支援をどう推進していくか
このうち(1)に関するデータ分析・議論が、2022年度の地域包括ケア病棟等改革の中心になっていると言ってもよいでしょう。
地域包括ケア病棟は、▼急性期後(post acute)患者を受け入れる▼自宅等からの軽度急性期(sub acute)患者を受け入れる▼これらの患者の在宅復帰を目指す—という3つの機能を併せ持つ病棟として、2014年度の診療報酬改定で新設されました。
しかし、従前より一部機能(自院の急性期後(post acute)患者受け入れ機能)に偏った病棟があると問題視されています。
急性期一般1(旧7対1)を届け出るためには、「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)を満たす患者割合が一定以上(2022年度改定後は、評価票を用いる看護必要度Iで31%以上、DPCのEF統合ファイルを用いる看護必要度IIで29%以上)などの施設基準を満たさなければいけません。この施設基準をクリアするために、「自院の急性期病棟の一部を地域包括ケア病棟に転換し、看護必要度を満たさなくなった患者をそこに転棟させる」ことが行われています。これ自体には何らの問題もありませんが、「度が過ぎる」ケースが少なからずあるのです。
このため2020年度の前回診療報酬改定では、許可病床数400床以上の病院に設置した地域包括ケア病棟について、入棟患者のうち「自院の一般病棟から転棟した患者」割合が6割以上の場合には入院料を10%減額するという仕組みが設けられましたが、依然として「(自院の急性期後(post acute)患者受け入れ機能)に偏った病棟がある」ことが分かりました。
厚生労働省で「自院の急性期病棟からの転棟患者割合が極めて高い」病棟と「自宅等からの入院患者割合が高い」病棟とを比較すると次のような状況が明らかになりました(関連記事はこちらとこちら)。
▼「自院の急性期病棟からの転棟患者割合が極めて高い」病棟は、「自宅等からの入院患者割合が高い」病棟に比べて、状態が安定しており、医療・看護提供頻度が少なく、医療資源投入量も小さい患者を多く入院させている
このため支払側委員を中心に「3機能をバランスよく果たしていない地域包括ケア病棟等についてはメリハリのついた評価とすべき」旨の考えを示されています。端的に「自院の急性期病棟からの転棟患者割合が極めて高い地域包括ケア病棟等」については、評価を引き下げよ(例えば、現在の減算規定を厳格化するなど)という提案です。
この考え方に対し、仲井会長は「新型コロナウイルス感染症対策を阻害する可能性があり、2022年度診療報酬改定での実施は控えるべき」と提言しています。
コロナ感染症の重症患者では、手厚い呼吸管理が必要となり1対1や1対2などに看護配置を強化したICUなどでの受け入れが必要となりますが、回復後には地域包括ケア病棟等を持つ後方病院への速やかな転院などが求められます。ICU等の回転率を高め、他の重症患者を受け入れる必要があるためです。しかし、「コロナ感染症から回復した、他の患者への感染拡大の危険性は極めて低い」患者であっても、その受け入れを躊躇する後方病院は少なくありません。このため「コロナ感染症から回復した患者を、他院でなく、自院の地域包括ケア病棟等に転棟させなければならない大規模急性期病院」が相当数あります。ここで、上述の厳格化を行えば「コロナ感染症対策が阻害されてしまいかねない」と仲井会長は指摘します。
400床未満病院の地域包括ケア病棟、「自宅等からの入棟患者割合」で評価せよ
仲井会長はさらに、「仮に見直しを行う場合には、『自院の急性期病棟からの転棟患者割合』でなく『自宅等からの入棟患者割合』に着目したメリハリ付けを検討すべき」とも提言します。
上述した(1)の見直しは、「自院の急性期病棟からの転棟患者割合に基づく減算」について▼減算幅を拡大する(現在10%減算されているところ、15%減算・20%減算としていく)▼対象病棟を拡大する(現在、許可病床数「400床」以上病院の地域包括ケア病棟等を対象としているところ、「300床以上」「200床以上」としていく)—という内容につながっていきます。とりわけ、「自院の急性期病棟からの転棟患者割合」の高い地域包括ケア病棟等は、200床台・300床台の病院に多いため、後者の拡大に注目が集まっています。
しかし、仲井会長は「400床未満の病院」に対するメリハリ付けを行う場合には、現在の「「自院の急性期病棟からの転棟患者割合に基づく減算」を拡大適応するのではなく、「自宅等からの入棟患者割合」に着目し、▼15%以上であれば加算する▼15%未満であれば減算する―という手法が好ましいと指摘。目指す方向は同じですが「自宅等からの入棟患者』受け入れを促進させる手法のほうが、「地域包括ケア病棟等を持つ病院の役割に鑑みて理にかなっているのではないか」と仲井会長は説明しています。
200床未満病院に設置される地域包括ケア病棟等では、この「自宅等からの入棟患者割合15%以上」のほか、「自宅等からの緊急入院患者人数」や「在宅医療提供実績」などの基準を満たす場合に、「地域包括ケア病棟1・3」などとして高い基本料を設定することが認められます。2018年度の診療報酬改定で「地域包括ケア病棟等を持つ病院の役割・実績」を評価したものです。仲井会長の提言は、この評価手法に照らせば「地域包括ケア病棟1・3に次ぐ、新たな評価区分を設ける」ことを狙うものと言えるかもしれません。
なお、400床以上病院にこの考え方を導入した場合、▼自院の急性期病棟からの転棟患者割合(60%以上)に基づく減算▼自宅等からの入棟患者割合(15%以上)に基づく減算—のダブルパンチになってしまうため、対象は「400床未満病院の地域包括ケア病棟等に限定する」考えを仲井会長は明らかにしています。
このほか、2022年度の次期改定に向けて、▼医師働き方改革を進めるため、タスクシェア・タスクシフトに資する「特定行為研修を修了した看護師」の地域包括ケア病棟等への配置について、新たな出来高の体制加算として評価する▼廃用症候群患者に対して短期集中リハビリテーション(1回20分以内のリハビリ・機能訓練を1日数回、1-3週間前後の短期間実施する)を行い、機能改善が見られた場合に加算を行う(アウトカム評価)—といった新設要望も行っています。
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