急性期病棟から地ケア病棟への転棟患者、自宅等から患者に比べ状態が安定し、資源投入量も少ない―入院医療分科会(6)
2021.10.7.(木)
地域包括ケア病棟の入棟患者について、「自院の急性期病棟から入棟した患者」(post acute患者)と「自宅等から入棟した患者」(suc acute患者)とを比較すると、前者は後者に比べて状態が安定し、医療資源投入量も少ないことが分かった―。
また、当然ながら、、「自院の急性期病棟から入棟した患者」(post acute患者)を多く受けれる地域包括ケア病棟では、「自宅等から入棟した患者」(suc acute患者)を多く受ける地域包括ケア病棟に比べて、患者の状態が安定し、医療資源投入量も少ない―。
10月1日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(入院医療分科会)では、こういったデータが示されました。「機能・患者状態に応じた評価」の強い根拠になるデータですが、「コロナ禍での見直しは控えるべき」との指摘もあります。
目次
post acute患者は、sub acute患者に比べて状態が安定し、医療資源投入量も少ない
2022年度の次期診療報酬改定論議が進んでいます。Gem Medでお伝えしているとおり、10月1日の入院医療分科会では、膨大なデータをもとに入院医療改革論議を深めました。本稿ではその中から「地域包括ケア病棟」に焦点を合わせてみます。
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地域包括ケア病棟は、2014年度の診療報酬改定で「亜急性期入院料管理料」の問題点を解消するために、創設されました。(1)急性期後(post acute)患者を受け入れる(2)自宅等からの軽度急性期(sub acute)患者を受け入れる(3)(1)(2)の患者の在宅復帰を目指す—という3つの機能を併せ持つことが求められています。
しかし、従前より一部機能(とりわけ(1)の自院の急性期後(post acute)患者受け入れ機能)に偏った病棟があることが問題視されています。
急性期一般1(旧7対1)を届け出るためには、「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)を満たす患者割合が一定以上(2022年度改定後は、評価票を用いる看護必要度Iで31%以上、DPCのEF統合ファイルを用いる看護必要度IIで29%以上)などの施設基準を満たさなければいけません。この施設基準をクリアするために、「自院の急性期病棟の一部を地域包括ケア病棟に転換し、看護必要度を満たさなくなった患者をそこに転棟させる」ことが行われています。これ自体には何らの問題もありませんが、「度が過ぎる」ケースが少なからずあります。
そこで2020年度の前回診療報酬改定では、許可病床数400床以上の病院に設置した地域包括ケア病棟について、入棟患者に占める「自院の一般病棟から転棟した患者」割合が6割以上の場合には入院料を10%減額するという厳しい仕組みが設けられました。
しかし、7月8日の入院医療分科会には、2020年度改定で上記の仕組みを導入した後も「自院の一般病棟から転棟した患者割合が著しく高い」病院がなお存在する(中には100%と言う病院)ことが確認されました。「減額されてもなお、急性期一般1維持のために、自院のpost acute患者を自院の地域包括ケア病棟に移す必要がある」と考えている病院が少なからず存在することが伺えます。
さらに今般、次のような深掘りした分析結果が示されています。
▽「自院の一般病棟からの転棟割合が高い病棟」は自宅等から入棟した割合が低いが、「他院の一般病棟からの転棟割合が高い病棟」は自宅等から入棟した割合が高い(「自院のpost acute患者割合」が高い病棟は、やはり(1)の機能に偏っている)
▽「一般病棟から入棟した患者」は、「自宅等・その他から入棟した患者」に比べて状態が安定しており、医師による診察の頻度が低く、医療資源投入量も少ない(post acute患者への医療必要度 < sub acute患者への医療必要度)
自院のpost acute患者割合の高い病棟、入院患者の状態は安定し、医療資源投入量も少ない
さらに、「自院の一般病棟からの入棟割合が8割以上の病棟」と「自宅等からの入棟割合が8割以上の病棟」とを比較したところ、次のような状況も明らかとなりました。
▽「自院の一般病棟からの入棟割合が8割以上の病棟」では、「状態が安定している」患者割合が高く、「常時不安定」な患者割合が低い
▽「自院の一般病棟からの入棟割合が8割以上の病棟」では、医師の診察の頻度が「週1回程度以下」である患者割合が高い
▽「自院の一般病棟からの入棟割合が8割以上の病棟」では、医療資源投入量が少ない
こうしたデータを見ると、(1)の「自院のpost acute患者」受け入れ機能に偏った地域包括ケア病棟では、3機能をバランス良く果たしている地域包括ケア病棟に比べて、医療資源投入量が少ない、「同じ点数設定では不公平となる」可能性が伺えます。入院医療分科会でも「両者を同じ評価(点数)とすることには問題があるのではないか」との指摘が出ており、これを強く裏付けた格好と言えるでしょう。
「自院のpost acute患者割合」が高い病棟は300床台・200床台にも少なくない
さらに、「自院のpost acute患者割合」が高い病棟は、「300-399床」「200-299床」程度の病院に設置された地域包括ケア病棟であることも分かりました。上述のように2020年度改定では「許可された400床以上」の病院を対象に減算規定が盛り込まれており、399床以下の病院では「自院のpost acute患者割合」が100%であっても、なんらの減額措置を受けることはありません。
しかし、「400床の病院に設置された地域包括ケア病棟」と「399床の病院に設置された地域包括ケア病棟」とで、片や「自院のpost acute患者割合」が60%以上となれば入院料が10%減額されてしまうにもかかわらず、他方は「自院のpost acute患者割合」が100%であっても減額措置を受けないという点に、合理的な理由を見出すことは難しいかもしれません。
今後、中医協などで「減額ルールの拡大」(対象病棟を400床未満にも拡大する、減額幅を1割から引き上げるなど)が検討される可能性がありそうです。
中医協では、こうした点も踏まえた見直し論議が行われることになりそうです。たとえば「減額ルールは拡大するが、コロナ感染症が収束するまでは稼働させない」という見直しが行えないか、といった点なども検討の選択肢に入ってくる可能性があるでしょう。
地ケア病棟1・3の要件である「診療実績」、基準値のクリア度合いは項目によってバラつき
なお、許可病床数200床未満の病院で高い点数が設定されている【地域包括ケア病棟1・3】を取得するには、▼自宅等からの患者割合が15%以上▼自宅等からの緊急患者受け入れ数が3か月で6人以上▼地域包括ケアの診療実績を満たす―という基準をクリアしなければなりません。
このうち【地域包括ケアの診療実績】は選択要件となっていますが、従前に「選択される項目にバラつきが大きすぎる」「基準値が診療事態と乖離している」などの問題点があり、2020年度の前回改定で見直しが行われました。
今般、診療実績の充足状況を見ると、「バラつきがやや小さくなっている」「項目の中には、基準値が低すぎると思われるものがある」ことなどが分かりました。
例えば、選択項目の1つ「在宅患者訪問診療料(I)(II)の算定回数」については、平均値が「基準値の30回」を大きく上回り、基準値を満たせない病棟はごく一部となっています。
一方、選択項目の1つ「在宅患者訪問看護・指導料、同一建物居住者訪問看護・指導料または精神科訪問・指導料Iの算定回数」については、「基準値の60回」をクリアできていない(そもそもゼロである)病棟が少なくありません。
こうしたデータを踏まえながら、2022年度改定に向けて「地域包括ケアの診療実績」についても、基準値の見直しなどが検討されることになるでしょう。
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