2022年度改定で、どのように「ICU等設置、手術件数等に着目した急性期入院医療の新たな評価」をなすべきか―入院医療分科会(1)
2021.10.1.(金)
「ICU等の設置や手術件数などに着目した急性期入院医療の新たな評価」をどう考えていくべきか―。
10月1日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(入院医療分科会)で、こういった議論が再び行われました
目次
ICU等を設置する急性期一般1では、手術等や救急搬送患者受け入れの実績が高い
2022年度の次期診療報酬改定に向けた議論が精力的に進められています。これまでに中央社会保険医療協議会などで、次のような議論が行われました。
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10月1日の入院医療分科会では、▼委員意見を踏まえた、これまでの議論(2020年度調査のデータに基づく)の深掘り▼2021年度調査結果速報▼作業グループ(入院医療分科会の下部組織、看護必要度などの入院医療評価指標の見直しや、DPC制度改善などを非公開で検討)の最終報告―を主な議題としました。審議内容が膨大なため、本稿では「急性期入院医療の評価指標」に焦点を合わせ、他の事項は別稿で報じます。
6月30日の入院医療分科会では、例えば▼救急搬送件数▼手術実施件数▼ICUなどの設置―などを、新たな急性期入院医療の指標とできないか、といったテーマの議論が行われました。10月1日の入院医療分科会では、このテーマを再び議題に据え、「急性期一般1届け出病院に限定」した、新たな次のようなデータが提示されました。
▽ICU等設置状況と病床(医療保険届け出病床)との関係を見ると、ICU等を設置する病院のほうが規模が大きい。また病床規模の大きな病院では、病床全体に占める急性期病床割合が高い(つまり、大規模病院ほど急性期入院医療を提供している)
▽ICU等設置病院と非設置病院とを比べると、非設置病院では回復期病棟(地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟)や慢性期病棟(療養病棟)を併設しているケースが多い
▽▼全身麻酔手術▼人工心肺を用いた手術▼悪性腫瘍手術▼腹腔鏡下手術―のいずれも、ICU等設置病院のほうが実績が高い
▽▼心臓カテーテル法による手術▼消化管内視鏡による手術▼時間外に実施された手術―のいずれも、ICU等設置病院のほうが実績が高い
▽小児手術について、ICU等設置病院のほうが実績が高い
いずれも「ICU等を設置する大規模病院で、急性期入院医療の提供度合いが高い」ことを物語るデータと言え、ICU等設置や手術件数などが「急性期入院医療を評価する指標」としての妥当性をうかがわせます。
また、病床規模別に「救急搬送患者受け入れ件数」と「手術等の時間外加算算定」との関係を見ると、小規模病院では「いずれも少ない」(救急搬送患者の受け入れも、時間外手術等も少ない)状況ですが、400床以上の大規模病院では「救急搬送受け入れの多い病院では、時間外手術等も積極的に行っている」ことが分かりました。大規模病院ほど救急搬送患者を多く受け入れ、時間外手術等も厭わない状況が伺えます。
病床規模が多ければスタッフ数も多く、救急や時間外への対応力が強くなることを意味しますが、これは患者・国民にとっても「心強い」ことであり、また医療従事者にとっても「労務環境が整えられている」(=働きやすい)ことにつながります。
入院基本料の要件・基準への組み込みを懸念する意見
こうした視点に立った急性期入院医療への評価は、地域の医療提供体制を強化していくことにもつながると考えられます。評価の手法(加算として評価するのか、入院基本料の基準に組み込むのかなど)については、今後、中医協で検討されることになりますが、例えば「入院基本料の要件・基準に組み込む」ことや、「加算として評価する」ことなどが考えられます。ただし、入院基本料(例えば急性期一般1)の基準に盛り込んだ場合には、「ICU等を設置していない、手術件数等が少ない病院では、急性期一般1を取得できない」ことになり、医療現場に大きな影響を及ぼすことになります。厚労省の調査では、▼急性期一般1の23%が救命救急入院料・特定集中治療室管理料・ハイケアユニット入院医療管理料のいずれも取得していない▼同じく49%が救命救急入院料・特定集中治療室管理料のいずれも取得していない―ことが分かっています(入院基本料の要件・基準に組み込んだ場合、これらでは急性期一般1を取得できなくなる)。
このため猪口雄二委員(全日本病院協会会長)は「100床規模の病院でICUを設置し、維持することは困難である。しかし、中小病院の急性期機能と、大規模病院の急性期機能とは異なるのではないか」と指摘し、例えば「急性期一般1の施設基準にICU設置等を盛り込む」ような方向に議論が動くことを牽制しています。
また山本修一委員(地域医療機能推進機構理事)は、「急性期医療、例えば救急医療について『重篤な患者を診る救命救急センターと、重篤性は低いが救急搬送が必要な患者を診る中小の2次救急』といった具合に機能分化が進んでいる。後者の中小規模病院には『ICUでの治療管理が必要な患者』は来ないので、設置もしていない。後者の中小病院への評価を抑えれば、そこで診ている患者が、前者の救命救急センターに殺到しパンクしてしまう。そういった点も考慮して評価の在り方を考えていくべきである」とコメントしました。猪口委員と類似の考え方と言えるでしょう。
同じ入院料を取得していても、実績・機能が優れていれば評価すべきとの意見も
一方、中野惠委員(健康保険組合連合会参与)は「同じ急性期一般1病棟なのであるから、実績を踏まえた評価を行うことは当然である」旨の考えを示しています。述べるまでもありませんが、100床規模の中小病院に設置される急性期一般1病棟であっても、1000床規模の超大規模病院に設置される急性期一般1病棟であっても、同じ入院基本料を届け出ていれば点数は同じです。しかし、果たしている機能・役割が異なるのであれば「何らかの異なる評価」を行う必要があるというのが中野委員の考えで、この考えに沿えば、例えば「同じ急性期一般1の中でも、とりわけ優れた取り組みを行い、実績を上げている病棟を加算などで高く評価する」という手法が考えられるかもしれません。
仮に加算として評価する場合、▼新たな加算を設ける▼既存の加算の要件・基準にICU設置等を組み入れる―という大きく2つの手法があります。
この点、手術件数などを要件・基準に組み込んだ加算として【総合入院体制加算】があります。いわば「特定機能病院並みの医療提供を行う一般急性期病院(すなわち一般の急性期病院の最高峰)を評価する」加算と言え、現在は下表のように3種類の加算が設けられており、急性期一般1の4割強が3種類いずれかを取得しています。
手術件数などを要件・基準とする加算が、いくつも存在すれば分かりにくくなり、また重複も出かねないことから、上記のデータを踏まえて【総合入院体制加算】の組み換えを行うことも選択肢の1つとしてあり得るでしょう。
この点、【総合入院体制加算】取得で求められる年間診療実績の状況を見ると、加算3において▼人工心肺を用いた手術の年間40件以上実施▼放射線治療の年間4000件以上実施―が平均値でクリアできていないことが分かりました(加算2・加算3では診療実績は選択要件となっており、他の項目をクリアすることで加算算定が可能となる)。
この状況について牧野憲一委員(旭川赤十字病院院長、日本病院会常任理事)は「医学・医療の進歩は著しく、人工心肺を用いない手術が時代とともに増加してきている。不測の事態が生じた際のために『人工心肺を用いた手術を実施できる体制を敷いておく』ことは必要だが、実施件数が基準として妥当か否かを検討する必要がある」と求めています。
今後、入院医療分科会や中医協において、ICU等設置や手術件数などに着目した急性期入院医療の評価を、例えば▼基本料の要件に組み込む▼新加算を創設する▼既存加算【総合入院体制加算】見直しの中に織り込む―など、様々な角度から分析していくことになるでしょう。
なお、こうした評価は「症例の集約化」「医療資源の集約化」につながります。医療従事者にとっては「働き方改革の実現」に近づくとともに、医療の質も向上し、患者にとっても「好ましい医療提供体制」構築が期待されます。Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンと、米国有数の病院であるメイヨークリニックとの共同研究では、「症例数」と「医療の質」との間には負の相関がある、つまり「症例数が一定以上あれば、医療の質が担保され、向上する。一方、症例数が少ない病院では医療の質が十分でない」ことが明らかとなっています。
患者アクセスに十分配慮しながら、「症例の集約化」「医療資源の集約化」を進めていくことが、質の高い医療提供体制確保では不可欠である点も踏まえた検討が期待されます。
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