「平時の診療報酬」と「感染症蔓延時などの有事の診療報酬」を切り分けるべきではないか―社保審・医療部会
2021.8.11.(水)
8月5日に開催された社会保障審議会・医療部会でも、2022年度の次期診療報酬改定に向けた基本指針策定論議がスタートしました。
委員からは、▼新型コロナウイルス感染症を始めとする感染症対応▼医療機能の分化・連携の強化のサポート▼高齢化の進展を踏まえた診療報酬▼医療従事者の働き方改革サポート▼医療・介護連携—などに関する意見が出されており、12月上旬の「基本指針とりまとめ」に向けて議論が深められます。
「平時の診療報酬」と、感染症蔓延時など「有事の診療報酬」との切り分けを求める声
診療報酬改定論議は、主に中央社会保険医療協議会で進められます。すでに2022年度の次期改定に向けた次のような議論が行われています。
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ただし、中医協の所掌範囲・権限があまりに大きくなり過ぎたことを背景とした汚職事件(診療側委員が支払側委員に金品等を授受し、自身に有利な改定内容を導く)が発生。この反省を踏まえて、2006年度改定から、▼改定の基本方針を社会保障審議会の医療保険部会と医療部会で決定する▼改定率(つまり財源配分の大枠)を内閣が予算編成過程で決める▼基本方針と改定率を受け、中医協で改定内容を詰める―という役割分担が行われています。
この役割分担を踏まえて、今般、医療部会で基本方針策定論議が始まりました。医療保険部会でも一足先に議論が始まっています。
8月5日の医療部会では、▼新型コロナウイルス感染症を始めとする感染症対応▼医療機能の分化・連携の強化のサポート▼高齢化の進展を踏まえた診療報酬▼医療従事者の働き方改革サポート▼医療・介護連携—などに関する意見が出されています。
まず、コロナ感染症対応に関しては、「平時と有事とで診療報酬の切り分けがいる」との意見が多数の委員から出ています。具体的には「非常時には診療報酬のみの対応でよいのか、補助金と診療報酬を絡める必要がないのかなどを議論する必要がある」(神野正博委員:全日本病院協会副会長)、「コロナ感染症ではさまざまな診療報酬の臨時特例が設けられたが、恒久化して『迅速に発動できる』体制を整えておく必要がある」(楠岡英雄部会長代理:国立病院機構理事長)などの意見が出されました。
また島崎謙治委員(国際医療福祉大学大学院教授)は「コロナ感染症が医療保険財政、医療機関経営、患者の受療行動、医療機関の診療行動などに及ぼした影響を可能な限り分析し、それに診療報酬でどう対応するのか、補助金との役割分担をどう考えるのか、などを基本指針の中にきちんと書き込む必要がある」と提案しました。
「感染症が蔓延した場合の診療報酬」を恒久化し、これを点数表に組み込んでおくことには、「迅速な対応を可能とする」というメリットが確かにあります。しかし、「どういった感染症が今後発生し、それに医療現場がどう対応し、これを診療報酬でどうサポートすべきか」を事前に予測することは極めて困難でしょう。
例えば、コロナ感染症の重症患者を受け入れた病院では、診療報酬を通常の「数倍」に引き上げるなどの対応が行われています。これは、コロナ感染症の治療内容に鑑みて「この程度の点数が必要ではないか。そのためにはこの診療報酬項目の臨時算定、臨時の数倍算定を認めてはどうか」との考え方に基づくものです。この臨時点数設定が「他の感染症にも当てはまる」かどうかは未知数と言わざるを得ないのです。
一方、過去の災害や今般のコロナ感染症対応により「臨時的に施設基準を柔軟に取り扱う」との考え方はすでに確立していると言えます。例えば、感染症が猛威を振るい一時的に入院患者が急増した場合には、「一時的な超過入院があっても診療報酬の減額は行わない」「一時的な重症度、医療・看護必要度の低下があっても、施設基準の変更届出は求めない」などのルールが確立され、今般のコロナ感染症対応でも極めて迅速に適用されています。
「有事の診療報酬」をどう考えていくべきか、こうした点(コロナ感染症対応など)を検証しながら考えていく必要があるでしょう。
ところで、コロナ感染症対応を行う中では、我が国の医療提供体制に大きな課題があることが分かりました。これを診療報酬で是正・改善していくことも重要なテーマと言えますが、医療部会委員からは「医療のグランドデザインを考えるべき」との指摘が相澤孝夫委員(日本病院会会長)や楠岡委員、島崎委員らから出されています。「まず将来の医療提供体制の在り方を考え、そこに向けて診療報酬をはじめ諸制度で医療現場を導いていくべき」との考え方で、医療部会では常々示される意見で、今後もこうした視点に基づく議論が行われると考えられます。関連して小熊豊委員(全国自治体病院協議会会長)は「改正医療法の施行に向けた準備が着々と進められており、これらを1つ1つ確実に進めていくことが今後の医療提供体制確保につながる。診療報酬もこれを後押しするものとしてほしい」と要望しました。
併せて、すでに進められている入院医療・外来医療の機能分化を診療報酬でサポートしていくべきとの指摘も出ています。関連して神野委員は「コロナ感染症に対応する中で『在宅医療』に注目が集まっているが、在宅医療は、いわば『ルームサービス医療』と言え、高コスト(=高点数)となる。これは医療費を膨張させることになり、そうした点も考えて、在宅医療をどう進めていくのかを考える必要がある」とコメントしています。
医療提供体制改革は、当然「医療従事者の働き方改革」にもダイレクトにつながってきます。現在の我が国のように「小規模医療機関が乱立し、医療資源が散在している」中では、個々の医療従事者の負担を軽減することには限界があります。そこで「個々の医療従事者の負担を軽減するためには、医療資源を一定程度集約化しなければならない」(例えば、救急科に多くの医師が在籍すればシフトを組みやすくなり、突発的な事態にも柔軟に対応可能となる)→「医療資源集約化のためには、患者アクセスを考慮しながら、病院の再編・統合などを進めなければならない」との考え方が導かれるのです。
医師については2024年4月から新たな労働時間制限がスタートします(時間外労働は、原則として年間960時間以内とする(A水準)。救急病院や研修医など特別の事情がある場合には、例外的に1860時間までの時間外労働を可能とする(B・連携B・C水準))。このため今後の診療報酬改定で、▼医師の働き方改革のサポート▼医療提供体制改革のサポート―を考えていく必要があり、勤務医代表として参画する木戸道子委員(日本赤十字社医療センター第一産婦人科部長例)は「労働時間規制でマンパワー低下が懸念され、地方や診療科によっては医療提供体制が逼迫する可能性がある。少なくとも2024年度改定までは、医療従事者の働き方改革を重点項目に据える必要がある」と強調しています。
さらにコロナ感染症対応の中では「医療・介護連携」がこれまで以上に重視されています。具体的には、コロナウイルスに感染した高齢患者が急性期病棟に入院した場合、「介護」という課題に直面している点です。
急性期病棟の多くでは、看護職員が「介護」提供も担っており、負担が極めて過重になっていると指摘されます。神野委員は「要介護度の高い患者が急性期病棟に入院した場合の診療報酬」を考えておく必要があると強調。
また、松田晋哉委員(産業医科大学教授)は「高齢化の進展により、医療と介護の複合する領域が広がってきており、そこがコロナ感染症対応の中で顕在化した。そこに配慮した診療報酬なども早急に考える必要がある」と指摘。
さらに相澤委員は「コロナ感染症で、高齢患者が救急搬送されるケース、高齢患者はもちろん、若年の患者が自宅療養するケースが激増しているが、その対応方針が地域で明確になっておらず、また診療報酬上の位置づけも十分ではない」と訴えています。
医療部会と医療保険部会では、こうした議論を深め、12月上旬には基本方針を策定することになります。
医療機関の標榜診療科と専門医資格との整合性を図れないか
8月5日の医療部会では、ほかに▼改正医療法の施行準備▼データヘルス改革の推進▼専門資格の広告―なども議題とし、委員から意見を募りました。
このうちデータヘルス改革に関しては、厚労省から▼患者が自身の保健医療情報(健診・検診情報やレセプト情報、診療情報など)を閲覧できる仕組み(PHR)の整備▼医療・介護分野での情報利活用の推進(患者同意の下で、全国の医療機関で患者の過去の診療情報などを閲覧できる仕組み(EHR)など)▼ゲノム医療の推進▼基盤整備(審査支払機関改革)―に関する工程表が示されました(詳細は別稿で報じます)。
この点、神野委員や相澤委員、楠岡委員、松田委員ら多くの委員から「閲覧可能な情報などについては項目を絞り(例えばアレルギー情報など、クリティカルなものに限定するなど)、きちんと確認したうえで進める必要がある」との指摘が出ています。
この点について島崎委員は「専門医資格と標榜診療科とのズレがあり、患者・住民には分かりにくくなっている。整合性をとるべきではないか」と指摘。これを受け厚労省医政局総務課の熊木正人課長は「一定の整理ができないか、検討する」考えを明らかにしました。今後の動きに注目する必要があります。
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