骨太方針2021を閣議決定、コロナ禍でも医療制度改革など進めて財政健全化を目指す
2021.6.21.(月)
菅義偉内閣が6月18日に「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太方針2021)を閣議決定しました(内閣府のサイトはこちら)。
社会保障改革を中心に、ポイントを眺めてみましょう。
目次
2022-24年度予算でも、社会保障関係費の伸びは「高齢化相当分」に収める
まず、「感染拡大防止に全力を尽くし、機動的なマクロ経済運営により事業や雇用、 国民生活を支えながら、医療提供体制の強化、ワクチン接種を促進していく」考えを再確認。あわせて、2022年度からいわゆる団塊の世代が後期高齢者になり始め「社会保障費が急増していく」中でも、社会保障の持続可能性を確保するために、各種の改革が必要である旨を強調。
また、「財政健全化」方針の維持を強く訴え、2022-24年度の3年度間の予算編成について、「これまでと同様の歳出改革努力」を継続し、社会保障関係費については「基盤強化期間(2019-21年度)における高齢化相当分に収めるとの方針を継続する」考えを明確にしました(関連記事はこちら)。2022年度には診療報酬改定が控えており、改定財源をどう確保するのかなども含めて、年末の予算編成に向けた動きに注目が集まります。
現下の新型コロナウイルス感染症対策に関しては、「社会経済活動を継続しつつ感染拡大を防止し、重症者・死亡者の発生を可能な限り抑制する」との基本を徹底し、▼感染が短期間で急増するような事態が生じた場合には、「昨冬の2倍」程度等を想定した患者数に対応可能な体制に緊急的に切り替える▼感染症患者を受け入れる医療機関に対し、減収への対応を含めた経営上の支援や病床確保・設備整備等のための支援について、診療報酬や補助金・交付金による今後の対応の在り方を検討し、引き続き実施する▼都道府県の要請に基づき、公立・公的、民間病院の病床を活用できる仕組みや、都道府県を超えて患者に対応できる仕組みを構築する▼医療機能に応じた役割分担の徹底や補助も活用した医師等派遣、地域の実情に応じた転院支援等を進める▼G-MISにより、重症度別の空床状況や人工呼吸器等の保有・稼働状況、人材募集状況等を一元的に把握し、迅速な患者の受入調整等に活用するほか、地域別や機能別、開設種別の病床稼働率など医療提供体制の進捗管理・見える化を徹底する―などの具体的な考え方を提示しました。
また、コロナ感染症の収束に向けて期待されるワクチンについては、▼希望する高齢者への接種を本年(2021年)7月末を念頭に完了させる▼希望する全対象者への接種を本年(2021年)10-11月にかけて終えることを目指す―との方針を示しました。
さらに個々の医療機関の経営リスクに配慮しながら、「病床や医療人材の確保に関する協力」を国や地方自治体が迅速に要請・指示できるようにするための仕組みを確保できるよう「法的措置を速やかに検討し、行政の体制強化に取り組む」考えも明らかにしています。詳細はこれからの検討を待つ必要がありますが、例えば「民間の医療機関(医療法人)について、有事の際には公的な役割を担うために、公の指示下に入れ、その指示に従った医療提供を行うことを一定程度強制する」ような仕組みが考えられそうです。軍隊の存在しない我が国では、言葉の選択が不適切かもしれませんが、いわば「医療版の予備役」創設を検討する可能性もありそうです。
なお、病院団体が強く反対を示していた、新型コロナウイルス感染症と闘う医療機関への経営支援について、「診療報酬の概算払い」方式という表現はなされていません。ただし、「診療報酬や補助金・交付金による今後の対応の在り方を検討」というあいまいな表現ぶりとなっており、国費が厳しくなる中では「国庫負担が4分の1で済む、診療報酬の概算払い」案が再び浮上してくる可能性も否定できません。
「医療資源の散財」という我が国の医療提供体制の課題解消を
また、社会保障改革、とりわけ医療・介護制度改革に関しては、「財政健全化」に向けた効率化を進めるとともに、国民生活の向上の向けたサービスの質確保を両立させる改革を強く求めています。原案時と概ね同内容ですが、一部、表記が修正されたり、追記されたりしている部分もあるため、再度、ポイントを見てみましょう。
まず、【医療提供体制改革】に関しては、上述したように、感染症の急拡大に対応できるよう「平時と緊急時(新興感染症の拡大時など)で医療提供体制を迅速かつ柔軟に切り替える」仕組みの構築を目指します。この点、「第8次医療計画」(2024-29年度)では、新たに「新興感染症対策」を盛り込むこととし、その検討が6月18日から始まりました(別稿で詳しく報じます)。「感染症指定医療機関を中心とする感染症予防計画の想定を超えて新興感染症が急拡大し、一般の医療提供体制にも影響が及ぶ場合にどう対処するか」(一般病床の一部を感染症病床に転換して中等症者・重症者を受け入れる、軽症者などは宿泊施設を活用した療養とする、ことなどが想定される)を定めるもので、今後の議論に要注目です。
また、コロナ禍で明らかとなった、「我が国では医療資源が散在し、広い、極めて薄い配置になってしまっている」という課題の解消に向けた、医療提供体制改革については、▼地域医療連携推進法人制度の活用等による「病院の連携強化」や「機能強化・集約化の促進」などを通じて、地域医療構想を推進する▼地域医療構想については、地域医療構想調整会議における協議促進のため、関係行政機関に資料・デー タ提供等の協力を求めるなどの環境整備を行うとともに、都道府県における医療提供体制整備の達成状況公表や未達成の場合の都道府県の責務の明確化を行う―ことを改めて確認。
さらに、質の高い、効率的な医療提供体制整備を進めるために、▼かかりつけ医機能の強化・普及等による医療機関の機能分化・連携の推進▼「更なる包括払い」の在り方検討も含めた医療提供体制の改革につながる診療報酬の見直し▼診療所も含む外来機能の明確化・分化の推進▼実効的なタスク・シフティングや看護師登録制の実効性確保、潜在看護師の復職に係る課題分析・解消▼大学における医療人材養成課程の見直しなど―を行うよう求めています。
一方、オンライン診療を幅広く適正に活用するため、初診からの実施は「原則、かかりつけ医による」としつつ、「事前に患者の状態が把握できる場合」にも認める方向で具体案を検討する考えを改めて示しました。
このほか、▼難病対策▼がん粒子線治療のエビデンスを踏まえた推進検討▼上手な医療のかかり方の普及啓発—などにも言及しています。
「電子カルテの標準化」推進方向を明示
また、【データヘルス改革】に関しては、原案通り、次のような取り組みを進める点を確認したほか、「電子カルテの標準化」を進めるよう提言しています。
電子カルテをはじめとする保健医療情報システムは、相当数の医療機関に導入され、例えば「医師が診療する過程で、検査などのオーダーを出す」「過去の診療・検査データを閲覧・分析して最適な治療方針を決定する」「医事会計システムと連動し、迅速な会計処理を可能とする」など、非常に重要な役割を果たしています。
ただし保健医療情報システムは、各ベンダー(いわば電子カルテの開発メーカー)がそれぞれ独自に開発し、独自の進化を遂げてしまった結果、「異なるベンダーのシステム間ではデータのやり取りが非常に困難である」という弊害も生じています。このため「個々の施設内で利活用する際には、極めて有用である」ものの、「施設間連携、地域連携をする際、異なるベンダーのシステムが混在すると、データ連携が極めて難しい」という問題が生じています。
また、A社の電子カルテを導入した病院が、数年経過後に「使い勝手が良くない。良い評判を聞くB社の電子カルテに買い替えよう」と考えたとしても、これまでの患者情報(A社の電子カルテデータ)をB社の電子カルテと連結することができず、これが「買い替えを阻害している」「ベンダーによる顧客(医療機関)の囲い込みにつながっている」との指摘もあります。
このため、医療現場からは「電子カルテの標準化」を求める声が多数出され、厚労省で標準化に向けた検討が鋭意進められています(関連記事はこちら)。今般、骨太方針に明示されたことにより、この動きが一層加速化するものと期待されます。
▽予防・健康づくりサービスの産業化に向け、保険者が策定するデータヘルス計画 の手引の改定等を検討する(包括的な民間委託の活用、新たな血液検査等の新技術の積極的な効果検証等推進など)。また、計画の標準化進展にあたり、アウトカムベースでの適切なKPI設定を推進する
▽医療・特定健診等の情報を全国の医療機関等で確認できる仕組みや民間PHRサービスの利活用も含めた自身で閲覧・活用できる仕組みについて、2022 年度までに集中的な取り組みを進める
▽医療・介護分野におけるデータ利活用やオンライン化の加速、科学的介護・栄養の取り組みの推進、自宅療養・宿泊療養患者の医療情報を確実に医療機関等と共有する仕組みの構築(必要な法改正を含め検討)、審査支払機関改革の着実な推進など、データヘルス改革に関する工程表を踏まえ、改革を着実に推進する。
関連して、【医療のICT化促進】などに向けて、次のような取り組みの推進も求められます。
▽全ゲノム解析等実行計画を着実に推進し、治療法のない患者に新たな個別化医療を提供 するべく、産官学の関係者が幅広く分析・活用できる体制整備を進める
▽患者の治験情報アクセス向上のためデータベースの充実を推進する
▽ 医療法人の事業報告書等をオンラインで届け出・公表する全国的な電子開示システムを 早急に整え、感染症による医療機関への影響等を早期に分析できる体制を構築する(介護サービス事業者でも同様)
▽NDBを含めたレセプトシステムの充実、G-MISの感染症対策以外の長期的な活用などについてデジタル庁の統括・監理の下、デジタル化による効率化、利便性の向上を図る。同時に「医療・介護データとの連携や迅速な分析の環境の整備」を図る
医療費適正化計画を「医療提供体制改革と連動」させる
さらに【医療保険財政の健全化】に関しては、医療医適正化計画について▼医療費見込みの精緻化などを行うとともに、「医療費の実際が、見込みを著しく上回る場合の対応の在り方」など都道府県の役割や責務の明確化を行う▼地域医療構想との連動を図る(医療費適正化計画において、「医療の効率的な提供の推進」に係る目標、「病床の機能分化および連携の推進」を必須事項とする)▼保険者協議会を必置とし、都道府県計画への関与を強化し、国による運営支援を行う▼2024年度からの「第4期医療費適正化計画期間」に対応する都道府県計画策定に間に合うよう、必要な法制上の措置を講ずる―ことなどが原案通り提言されています。
あわせて【診療報酬、薬価、材料価格】改定に関しては、▼「革新的医薬品におけるイノベーションの評価」「長期収載品等の評価の適正化」を行う観点から薬価算定基準の見直しを図る▼OTC類似医薬品等の「既収載の医薬品の保険給付範囲」について引き続き見直しを図る▼感染症を踏まえた診療報酬上の特例措置の効果を検証する▼後発医薬品に係る新目標(都道府県単位で、2023年度末までに80%以上とする)の検証、バイオシミラーの目標設定の検討、後発医薬品調剤体制加算等の見直し、フォーミラリの活用―などが原案と同様に提言されています。
なお、高齢化が2022年度から急速に進展する中で、【介護保険】制度については、▼1人当たり介護費の地域差縮減に寄与する観点から、「都道府県単位の介護給付費適正化 計画の在り方の見直し」を含めたパッケージを国として示し、市町村別にその評価指標に基 づいて取り組み状況を見える化する▼調整交付金の活用方策について、第8期介護保険事業計画期間(2021―23年度)における取り組み状況も踏まえつつ、引き続き地方団体等と議論を継続する―ことなどが提言されました。
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