「医療資源の散財」が課題、地域医療構想の推進、診療報酬の包括化等で「病院の集約化」進めよ―骨太方針2021・原案
2021.6.10.(木)
新型コロナウイルス感染症によって、我が国の医療提供体制には「医療資源が散在してしまっており、効果的な医療提供がなしえない」という課題のあることが明確となった。地域医療構想の推進や、診療報酬の包括化推進などによって、医療機能の集約化、役割分担・連携の強化などを進める必要がある―。
6月9日に開催された経済財政諮問会議において、骨太方針2021(経済財政運営と改革の基本方針 2021(仮称))の原案が示されました(内閣府のサイトはこちら)。議論をさらに深めて、6月中旬にも取りまとめ・閣議決定となる見込みです。
2022-24年度の社会保障費、「高齢化による増加分」のみを勘案する方針を維持せよ
現下の「新型コロナウイルス感染症対策」に全力を尽くすことを求める一方で、「財政健全化」方針の維持を強調。このため2022-24年度の3年度の予算編成については「これまでと同様の歳出改革努力」を継続し、社会保障関係費については「基盤強化期間(2019-21年度)における高齢化相当分に収めるとの方針を継続する」考えを示しています(関連記事はこちら)。
医療・介護制度について見てみると、次のような多くの項目が盛り込まれています。総花的にも思われますが、ところどころに重要な指摘がなされている点に留意が必要です。
【医療提供体制改革】
▽平時と緊急時(新興感染症の拡大時など)で医療提供体制を迅速かつ柔軟に「切り替える」仕組みの構築に向け、▼症状に応じた感染症患者受け入れ医療機関の選定▼感染症対応とそれ以外の医療の地域における役割分担の明確化▼医療専門職人材の確保・集約など―などに早期に対応する
▽地域医療連携推進法人制度の活用等による「病院の連携強化」や「機能強化・集約化の促進」などを通じて、地域医療構想を推進する
▽地域医療構想については、地域医療構想調整会議における協議促進のため、関係行政機関に資料・デー タ提供等の協力を求めるなどの環境整備を行うとともに、都道府県における医療提供体制整備の達成状況公表や未達成の場合の都道府県の責務の明確化を行う(後述するように地域における「医療提供体制」と「医療保険財政」との連動も意識する)
▽質の高い、効率的な医療提供体制整備を進めるために、▼かかりつけ医機能の強化・普及等による医療機関の機能分化・連携の推進▼「更なる包括払い」の在り方検討も含めた医療提供体制の改革につながる診療報酬の見直し▼診療所も含む外来機能の明確化・分化の推進▼実効的なタスク・シフティングや看護師登録制の実効性確保、潜在看護師の復職に係る課題分析・解消▼大学における医療人材養成課程の見直しなど―を行う
▽オンライン診療を幅広く適正に活用するため、初診からの実施は「原則、かかりつけ医による」としつつ、「事前に患者の状態が把握できる場合」にも認める方向で具体案を検討する
▽安心・安全な産科医療の確保、移植医療を推進する
【医療保険財政の健全化】
▽医療医適正化計画については、医療費見込みの精緻化などを行うとともに、「医療費の実際が、見込みを著しく上回る場合の対応の在り方」など都道府県の役割や責務の明確化を行う
▽医療費適正化計画において、「医療の効率的な提供の推進」に係る目標、「病床の機能分化および連携の推進」を必須事項とする(医療提供体制と医療費適正化との連動)
▽医療費適正化に向けて、保険者協議会を必置とする、都道府県計画への関与を強化し、国による運営支援を行う、審査支払機関の業務運営の基本理念や目的等へ医療費適正化を明記することとし、2024年度からの「第4期医療費適正化計画期間」に対応する都道府県計画策定に間に合うよう、必要な法制上の措置を講ずる
▽国民健康保険財政健全化の観点から、法定外繰入等の早期解消などを目指す
▽現在、広域連合による事務処理が行われている後期高齢者医療制度の在り方(都道府県による財政運営へ)、生活保護受給者の国保・後期高齢者医療制度への加入を含めた医療扶助の在り方の検討を深める
【データヘルス改革】
▽予防・健康づくりサービスの産業化に向け、保険者が策定するデータヘルス計画 の手引の改定等を検討する(包括的な民間委託の活用、新たな血液検査等の新技術の積極的な効果検証等推進など)。また、計画の標準化進展にあたり、アウトカムベースでの適切なKPI設定を推進する
▽医療・特定健診等の情報を全国の医療機関等で確認できる仕組みや民間PHRサービスの利活用も含めた自身で閲覧・活用できる仕組みについて、2022 年度までに集中的な取り組みを進める
▽医療・介護分野におけるデータ利活用やオンライン化の加速、科学的介護・栄養の取り組みの推進、自宅療養・宿泊療養患者の医療情報を確実に医療機関等と共有する仕組みの構築(必要な法改正を含め検討)、審査支払機関改革の着実な推進など、データヘルス改革に関する工程表を踏まえ、改革を着実に推進する。
【診療報酬、薬価、材料価格】
▽「革新的医薬品におけるイノベーションの評価」「長期収載品等の評価の適正化」を行う観点から薬価算定基準の見直しを図り、OTC類似医薬品等の「既収載の医薬品の保険給付範囲」について引き続き見直しを図る
▽感染症を踏まえた診療報酬上の特例措置の効果を検証するとともに、感染症患者受け入れ医療機関に対する支援(減収への対応、経営上の支援、病床確保・設備整備等のための支援など)について、「診療報酬」や「補助金・交付金」による今後の対応の在り方を検討し、引き続き実施する
▽後発医薬品に係る新目標の検証、バイオシミラーの目標設定の検討、後発医薬品調剤体制加算等の見直し、フォーミュラリの活用などを図る
▽多剤・重複投薬への取組を強化する
▽症状が安定している患者について、医師・薬剤師の連携により「医療機関に行かずとも、一定期間内に処方箋を反復利用できる方策」を検討し、患者の通院負担を軽減する
【医薬品、医療材料等の安定供給】
▽「サプライチェーンの実態把握」「非常時における買い上げの導入」など緊急時の医薬品等供給体制の確立を図る
▽緊急時の薬事承認の在り方について検討する
【医療のICT化促進など】
▽全ゲノム解析等実行計画を着実に推進し、治療法のない患者に新たな個別化医療を提供 するべく、産官学の関係者が幅広く分析・活用できる体制整備を進める
▽患者の治験情報アクセス向上のためデータベースの充実を推進する
▽ 医療法人の事業報告書等をオンラインで届け出・公表する全国的な電子開示システムを 早急に整え、感染症による医療機関への影響等を早期に分析できる体制を構築する(介護サービス事業者でも同様)
▽NDBを含めたレセプトシステムの充実、G-MISの感染症対策以外の長期的な活用などについてデジタル庁の統括・監理の下、デジタル化による効率化、利便性の向上を図る。同時に「医療・介護データとの連携や迅速な分析の環境の整備」を図る
【歯科医療】
▽全身との関連性を含む口腔の健康の重要性に係る国民への適切な情報提供、生涯を通じ た歯科健診、オーラルフレイル対策・重症化予防にもつながる歯科医師、歯科衛生士による 歯科口腔保健の充実、歯科医療専門職間、医科歯科、介護、障害福祉機関等との連携を推進 し、飛沫感染等の防止を含め歯科保健医療提供体制の構築と強化に取り組む
▽要介護高齢者等の受診困難者の増加を視野に入れた「歯科におけるICTの活用」を推進する
【介護保険】
▽1人当たり介護費の地域差縮減に寄与する観点から、「都道府県単位の介護給付費適正化 計画の在り方の見直し」を含めたパッケージを国として示し、市町村別にその評価指標に基 づいて取り組み状況を見える化する
▽調整交付金の活用方策について、第8期介護保険事業計画期間(2021―23年度)における取り組み状況も踏まえつつ、引き続き地方団体等と議論を継続する
病院団体が強く反対していた「新型コロナウイルス感染症に係る病院経営について、緊急包括支援金制度を廃止し、『診療報酬の概算払い』で対応する」との考え方は、明示されず、「診療報酬や補助金・交付金による今後の対応の在り方を検討し、引き続き実施する」という表現になっています(関連する財政審建議の記事はこちら)。
また、病院の再編・統合を強く推し進める効果を持つ「1入院当たり包括支払い制度」についても、直接的な表現は避け、「更なる包括払いも診療報酬の見直し」としています。
急性期入院医療の「集約化」が重要課題と健保連も指摘
なお、健康保険組合連合会は6月9日に、「骨太方針2021」の取りまとめに向けて、▼急性期病床の集約による入院医療体制の強化(コロナ禍で急性期病床機能と人的資源の「散財」が露呈しており、まず入院医療の機能分化・連携強化に向け「診療報酬での対応」を推進すべき)▼かかりつけ医の推進▼市販品類似医薬品の保険給付範囲見直し▼リフィル処方(一定期間内の処方箋の反復使用)の解禁▼高齢者医療制度改革(医療保険者を圧迫する拠出金制度の見直しなど)▼介護保険制度改革(利用者負担の原則2割化、保険給付範囲の見直しなど)—を盛り込むよう要望しています(健保連のサイトはこちら)。
医療提供体制については、「アクセス」と「医療の質」の2軸で考えることが重要です。医療機関があまりに遠方にしかない状況では、緊急時などに必要な医療を受けることができなくなってしまいます。しかし、アクセスのみを考慮すれば、医療資源が「分散」し、医療の質が低下してしまいます。
医療資源の散財は、「症例(患者)の分散」をも意味し、これが医療の質を低下させることが、米国メイヨークリニックと、Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンとの共同研究で明らかになっています。
現下の我が国の医療提供体制については、「ややアクセスに重きを置きすぎている」との指摘もあり、それが新型コロナウイルス感染症の蔓延で再確認されています。
「医療資源が散在し、手薄な人的配置となっている」状況は、▼在院日数の延伸による医療費の高騰▼個々の医療スタッフの負担増—につながることはもちろん、「医療の質の低下」を引き起こします。
健保連の主張する「急性期入院医療の集約化」は、経済財政諮問会議の議員と考え方を同じくするもので、今後、地域医療構想の実現に向けた動きが加速化すると思われます。
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