医療機関等で患者の薬剤・診療情報を確認できる仕組み、電子カルテ標準化に向けた方針を固める―健康・医療・介護情報利活用検討会
2020.12.18.(金)
全国の医療機関等において、患者個々人の同意を前提に「薬剤」や「診療行為」の情報を確認し、治療方針に活用する仕組みを稼働させる。救急時には患者の同意を事前に得ることができないが、情報へアクセスできる有資格者を限定し、事後に患者が「誰が自分の情報を閲覧したか」を確認可能とすることでセキュリティを確保する―。
また電子カルテの標準化に向けて、まず▼診療情報提供書▼キー画像等を含む退院時サマリ▼電子処方箋▼健診結果報告書▼傷病名▼アレルギー情報▼感染症情報▼薬剤禁忌情報▼救急時に有用な検査情報▼生活習慣病関連の検査情報―の各項目について標準化を進める—。
12月9日に開催された「健康・医療・介護情報利活用検討会」(以下、検討会)と「医療等情報利活用ワーキンググループ」「健診等情報利活用ワーキンググループ」(以下、ワーキング)との合同会合で、こういった方針が概ね了承されました。
目次
全国の医療機関等で、患者の同意を前提に「薬剤」や「診療行為」を確認可能に
我が国では、公的医療保険制度・公的介護保険制度が整備されていることから、質が高く、膨大な量の健康・医療・介護データが存在します(例えばレセプトデータ)。これらのデータを有機的に結合し、分析することで、健康・医療・介護サービスの質を高めるとともに、かつ効率的な提供も可能になると考えられ、厚生労働省を中心に「データヘルス改革」が進められています。
この点、加藤勝信前厚生労働大臣は(1)EHR(全国の医療機関で、患者個々人の▼薬剤▼手術・移植▼透析―などの情報を確認できる仕組み)を構築し、2022年夏から運用する(2)(2)電子処方箋を2020年夏から運用する(3)PHR(国民1人1人が、自分自身の薬剤・健診情報を確認できる仕組み)について2021年に法整備を行い、2022年度早期から運用を開始する―方針を明確化。検討会やワーキングで制度の詳細について議論を重ね、今般、具体的方針をとりまとめたものです。Gem Medでは(1)のEHRに注目してみます。
EHRは、全国の医療機関等や患者自身が「個々人の▼薬剤▼手術・移植▼透析―などの情報を確認可能とする仕組み」です。例えば、意識不明の状態で救急搬送された患者、認知症高齢者などの治療を行う際、医療機関がEHR情報から「当該患者の過去の薬剤投与歴や手術歴」などを正確に確認することができれば、適切かつ安全な医療を、効果的・効率的・迅速に提供することが可能となります。
来年(2021年)3月から稼働するオンライン資格確認等システムのインフラを活用することから、現時点では「レセプト」情報が確認・共有のベースとなります。薬剤情報については来年(2021年)10月から、その他の情報は再来年度(2022年度)から確認可能となる見込みです。
検討会等では、大きく(1)確認可能な情報をどの範囲とするか(2)患者がどうやって情報共有をコントロールするか(3)救急搬送時の情報確認をどう考えるか―という3つの論点について議論してきました。
まず(1)では「情報が少なすぎれば利活用する価値がないが、情報が多すぎても医療現場で使いにくくなる」という点を踏まえて、医療機関等では薬剤情報などのほか、▼医療機関名▼診療年月日▼手術(移植・輸血含む)▼放射線治療▼画像診断▼病理診断▼処置のうち透析▼特定の傷病に対する長期・継続的な療養管理が確認できる医学管理等・在宅療養指導管理料―とする方針が固められました。ある患者について「●年●月●日に、●●医療機関で●●手術を受けた」「〇年〇月〇日から〇〇医療機関を受診しており、〇〇疾病に関する医学管理が継続されている」という情報を医療機関が確認し、治療方針(例えばどの薬剤を投与するのか、など)に役立てることになります。情報確認に当たっては「患者の同意」が前提となります。
ただし、画像診断や病理診断などは「データ(画像や検査値など)が共有される」わけではなく、「画像診断・病理診断を行った」という事実が共有されるのみである点に留意が必要です。当該データは、患者の同意を得て、当該医療機関から入手しなければなりません。
また情報の中でも重要な「傷病名」については、▼患者への告知を前提とする▼レセプト上で告知状況を確認できる方法を十分に議論し、あらためて提供の仕組みを検討・実装する―ことが固められました。例えば「がん」等では、患者が医師から告知される前に、EHRで知ることとなった場合に「治療への悪影響が出かねない」ことを懸念したものです。ただし医療機関等では、上述の「特定の傷病に対する長期・継続的な療養管理が確認できる医学管理等・在宅療養指導管理料」情報などから傷病名を推測し、治療に役立てることが期待されます。
患者が「過去の治療情報等へのアクセスを許可するか」を、医療機関等受診の都度に判断
(2)の患者による情報コントロールとは、患者が「この医療機関では自身の過去の治療歴情報等を確認してもらってよい」「この医療機関にはそういう情報を知られたくないので、確認を許可しない」と決定できる仕組みです。医療機関を受診する都度に「情報確認を認めるかどうか」を患者自身が決定します。
例えば、来年(2021年)3月からはマイナンバーカードの保険証利用が可能になる予定ですが、医療機関等の窓口に設置されたカードリーダーにマイナンバーカードをかざす際に「当院で、過去の治療歴などの確認を許しますか?」とのメッセージが現れ、「はい」「いいえ」を選択するイメージです。
検討会では「医療機関等が情報を確認できることによるメリット」などを周知する必要性を強調しています。多くの患者が「よくわからないので『いいえ』を選択する」こととなれば、適切・効率的な治療を目指すEHRシステムの価値が減殺されてしまうためです。
意識不明患者の救急搬送時、患者情報へのアクセスをどう実施するか
このように「患者の同意」が情報確認の前提となりますが、意識不明の状態で救急搬送された場合などには、同意取得が極めて困難です。上述のようにEHRはこうした状況でこそ真価を発揮しますが、そうした場面で「同意が得られないので、情報確認ができない」という事態となったのでは、やはりEHRシステムの価値が減殺されてしまいます。
そこで検討会では、▼救急医療に携わる有資格者等に専用IDを発行し、「救急専用端末」でのみ情報照会可能とする(患者情報にアクセスできる人物を限定する)▼閲覧者を画面表示する等の利用状況のモニタリングを行う(患者が事後に「誰が自分の情報にアクセスしたか」を確認できるようにする)―方針を固めました。「安易な患者情報へのアクセス」を認めないものです。
この点、大道道大構成員(日本病院会副会長)は「救急現場では多くのスタッフが行きかう。一定程度の柔軟な運用が必要である」と要望しています。「安全性の確保」(緩すぎれば患者情報が守られない)と「情報利活用の重要性」(厳しすぎれば適切な医療提供が阻害される)とのバランスを取った運用フローを今後、検討していくことが重要でしょう。
電子カルテの標準化規格・項目を決定、民間団体とも協議へ
検討会やワーキングでは「電子カルテの標準化」に向けた議論も行われています。
電子カルテをはじめとする保健医療情報システムは、相当数の医療機関に導入され、例えば「医師が診療する過程で、検査などのオーダーを出す」「過去の診療・検査データを閲覧・分析して最適な治療方針を決定する」「医事会計システムと連動し、迅速な会計処理を可能とする」など、非常に重要な役割を果たしています。
ただし保健医療情報システムは、ベンダー(いわば電子カルテの開発メーカー)がそれぞれ独自に開発し、独自の進化を遂げてしまっており、異なるベンダーのシステム間ではデータのやり取りが非常に困難な状況です。このため、「個々の施設内で利活用する際には、極めて有用である」ものの、「施設間連携、地域連携をする際、異なるベンダーのシステムが混在すると、データ連携が極めて難しい」という問題が生じています。
また、A社の電子カルテを導入した病院が、数年経過後に「使い勝手が良くない。良い評判を聞くB社の電子カルテに買い替えよう」と考えたとしても、これまでの患者情報(A社の電子カルテデータ)をB社の電子カルテと連結することができず、これが「買い替えを阻害している」「ベンダーによる顧客(医療機関)の囲い込みにつながっている」との指摘もあります。
このため、医療現場からは「電子カルテの標準化」を求める声が多数出されているのです(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
検討会では、▼医療機関同士などでデータ交換を行うための規格(アプリケーション連携が非常に容易な「HL7 FHIR」という規格を用いる)を定める → ▼交換する標準的なデータの項目、具体的な電子的仕様を定める → ▼厚労省標準規格として採用可能なものか民間団体による審議の上、標準規格化を行う → ▼ベンダーで「標準化された電子カルテ情報・交換方式を備えた製品」を開発する → ▼医療情報化支援基金等により「標準化された電子カルテ情報・交換方式」等の普及を目指す―という流れを固めました。
標準的データ項目としては、文書については▼診療情報提供書▼キー画像等を含む退院時サマリ▼電子処方箋▼健診結果報告書―、文書以外では▼傷病名(ICD-10コードと病名管理番号を用いる)▼アレルギー情報(テキストデータで取り扱う)▼感染症情報(JLACコードを用いる)▼薬剤禁忌情報(テキストデータで取り扱う)▼救急時に有用な検査情報(JLACコードを用いる)▼生活習慣病関連の検査情報(JLACコードを用いる)―となりました。厚労省と学会とで協議し、下図表のような整理が行われています。また、その他情報についても、今後、標準化に向けた検討を進めていきます。
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