回リハ病棟ごとにADL改善度合いに差、「リハの質に差」か?「不適切な操作」か?―入院医療分科会(5)
2021.9.3.(金)
回復期リハビリテーション病棟について、「1日当たりのリハビリ提供量」を同じくして、入院料ごとにADL改善効果を見ると、点数の高い入院料1ではADL改善効果が大きく、点数の低い入院料では小さい。入院料ごとに「リハビリの質」が異なるのか、それともADL評価で不適切な操作がなされているのか、詳しく見ていく必要がある―。
療養病棟では「中心静脈栄養からの早期離脱」が昨今の重要テーマの1つとなっているが、離脱できない理由(逆に言えば中心静脈栄養を継続する理由)について、医学的なものなのか、家族等からの要望によるものなのか、詳しく分析していく必要がある―。
8月27日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(入院医療分科会)で、こういった議論も行われました。
回復期リハ病棟、入院料によって「リハビリの質」に差があるのか・・・
Gem Medでお伝えしているとおり、2022年度の次期診療報酬改定に向けた議論が急ピッチで進んでいます。これまでに、次のような議論が行われています。
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8月27日の入院医療分科会では、▼重症度、医療・看護必要度▼リハビリテーション実績指数やFIM▼医療区分・ADL区分▼DPCの外れ値病院▼特定集中治療室管理料など▼救急医療管理加算▼医療資源の乏しい地域における特例―など多岐にわたるテーマを議題としました。本稿では、▼リハビリテーション実績指数やFIM▼医療区分・ADL区分に焦点を合わせます(【救急医療管理加算】に関する記事はこちら、【特定集中治療室管理料】に関する記事はこちら、DPCに関する記事はこちら、看護必要度に関する記事はこちら)。
回復期リハビリ病棟では、「質の高いリハビリを効果的に提供し、患者のADL等を改善させ、在宅復帰を促す」ことが求められています。
「質の高いリハビリ」を評価する指標として、2016年度の診療報酬改定で「リハビリテーション実績指数」の考え方が導入されました。非常に複雑な仕組みですが、「入棟時の患者のADL状態」(FIMという指標で評価)と「退棟時の患者のADL状態」(同)を比較し、その差(つまりADL改善の度合い、FIM利得という)を指標に、回復期リハビリ病棟の「リハビリの効果」を把握するものです(改善度合いが一定以上でなければ、点数の高い入院料を算定できない)。
もちろん、「発症等から回復期リハビリ病棟に入棟するまでの期間が短縮し、それが入棟時のADL低下につながっている」面もありますが、2020年度のデータを見ると「入棟までの期間が延伸している(対象患者の要件が2020年度改定で見直されたため)」にも関わらず、「入棟時のFIMが低下」しており、上記の不適切事例の疑いがぬぐい切れないのです。
8月27日の入院医療分科会には、次のような分析結果が報告されています(下部組織である「診療情報・指標等作業グループ」で分析を行ってきた)。
(1)入棟時のFIM得点を見ると、入院料1-4に比べて、入院料5・6で高い(重症度が低い)
(2)入棟時のADL状態を3つ(いわば「低い」「中程度」「高い」)に分けると、ADLの状態が「低い」(FIM26点以下)では、整形外科疾患の患者(主に運動器リハビリの対象と思われる)で、脳血管疾患・廃用症候群の患者に比べて、ADL改善の度合い(FIM利得)が大きい(利得を得やすく、リハビリ実績指数を高くしやすい)
(3)FIM利得を入院料別に見ると、点数の高い入院料1で最も大きく、点数の低い入院料6で最も小さい
(4)1日当たりのリハビリ提供量(単位数)を入院料別に見ると、点数の高い入院料1で最も多く、点数の低い入院料6で最も少ない
(5)1日当たりのリハビリ提供量が同じ患者について、FIM利得を入院料別に見ると、点数の高い入院料1で最も大きく、点数の低い入院料6で最も小さい
例えば(5)からは、「同じリハビリを提供しても、入院料によってADL改善度合いに差が出ていることが分かります。入院料1病棟では、入院料6病棟よりも「リハビリの質が良い」とも考えられますが、高い入院料を届け出るために「FIM測定で何らかの操作をしているのではないか?」という疑問が生じるかもしれません。委員からは「さらなる分析」を求める声が多数出ています。
長期間の中心静脈栄養は感染リスクが高い、早期離脱に向けた説明や取り組みが重要
医療区分・ADL区分は、療養病棟の入院患者について重症度を評価する指標と言えます。療養病棟入院基本料1では「医療区分2・3の患者が8割以上」、療養病棟入院基本料2では「医療区分2・3の患者が5割以上」であることなどが求められます(ほかに看護配置、看護補助配置などの基準あり)。
医療区分3としては、例えば▼スモン病の患者▼24時間持続点滴をしている患者▼中心静脈栄養を実施している患者―などが該当しますが、入院医療分科会などでは「医療区分3の患者割合を高めるために(上述のように高めなければ入院基本料が算定できなくなり、特別入院基本料などを算定せざるを得なくなってしまう)、中心静脈栄養を行う、あるいは抜去しないケースがあるのではないか」との指摘が出ています。
このため2020年度の前回診療報酬改定では、▼中心静脈注射用カテーテル挿入等を「長期の栄養管理」目的に留置する場合、患者・家族等へ「当該療養の必要性」「管理の方法・当該療養の終了の際に要される身体の状態」など、療養上必要な事項を説明する▼中心静脈カテーテルに係る院内感染対策の指針作成、中心静脈カテーテルに係る感染症の発生状況把握を要件化する―などの改善に向けた工夫が組み込まれています(一定の効果が出ていることが入院医療分科会に報告されている)。
8月27日の入院医療分科会には、次のような分析結果が示されました(下部組織である「診療情報・指標等作業グループ」で分析を行ってきた)。中心静脈栄養からの早期離脱に向けた「嚥下機能評価」「嚥下リハビリ」が必ずしも十分は行われていないようです。もっとも井川誠一郎委員(日本慢性期医療協会常任理事)は「確かに少ない」と認めたうえで、「例えば脳血管疾患等リハビリの中でも嚥下訓練をしている。それら細部にも目を向けてほしい」とコメントしています。
▽医療区分3の「1項目」にのみ該当する患者を見ると、「中心静脈栄養」が最も多い
▽中心静脈栄養を実施する患者への「嚥下機能評価」実施状況をみると、「していない」ケースが大半である
▽中心静脈栄養を実施する患者への「嚥下リハビリ」実施状況をみると、「していない」ケースがほとんどである
▽中心静脈栄養を実施する患者へ「嚥下機能評価」を実施した場合、そうでない患者に比べて「中心静脈栄養からの早期離脱」が可能と思われる
また、中心静脈栄養からの早期離脱(漫然としたカテーテル留置は「感染」リスクが極めて高くなる)に多くの委員は注目しており、「継続の理由」をより詳しく見るべきと指摘します。
今回の分析では「中心静脈栄養を継続する理由」として「他に代替できる栄養経路がない」が8割と圧倒的多数を占め、「抜去の見込みなし」が9割近くを占めていることが分かりました。
しかし田宮菜奈子委員(筑波大学医学医療系教授)は「医学的に見て『他の栄養方法』がないのか、家族からの要望等にマッチする『他の栄養方法』がないのか、などを詳しく見ていく必要がある」と提案。また山本修一委員(地域医療機能推進機構理事)は「抜去できない理由として、医学的な判断が困難なのか、家族等の要望なのか、などを詳しく見る必要がある」と要請しています。
更なる分析に期待が集まります。
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