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一部のDPC病棟は「回復期病棟へ入棟する前の待機場所」等として活用、除外を検討すべきか―入院医療分科会(3)

2021.9.1.(水)

DPCの外れ値病院(医療資源投入量が著しく少ない、在院日数が極端に短いなど)では、例えば「回復期リハビリ病棟や緩和ケア病棟に入院する患者の待機場所」などとしてDPC病棟を活用していることなどがわかった。こうした病院を除外していくのか、やむを得ないとして容認するのか、DPC制度内で「区分け」をするのか、などを検討していく必要がある―。

DPCのコーディングテキストを活用していない病院も一部にあり、より活用しやすいように工夫を凝らしていく必要がある―。

8月27日に開催された診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(入院医療分科会)で、こういった議論も行われています。

なお、DPC病院では、医療の質向上に向けた取り組みが重要ですが、その一環として、がん診療内容を実名で比較検討し、改善につなげる「CQI研究会」への参加があげられています。

8月27日に開催された「令和3年度 第6回 診療報酬調査専門組織 入院医療等の調査・評価分科会」

DPC外れ値病院、「回復期病棟へ入棟する前の待機場所・検査場所」等としてDPC病棟を活用

2022年度の次期診療報酬改定に向けた議論が急ピッチで進んでいます。これまでに、次のような議論が行われています。

◆入院医療の総論に関する記事はこちら
◆急性期入院医療に関する記事はこちらこちら
◆ICU等に関する記事はこちら
◆地域包括ケア病棟に関する記事はこちら
◆回復期リハビリテーション病棟に関する記事はこちら
◆慢性期入院医療に関する記事はこちら
◆入退院支援の促進に関する記事はこちら
◆救急医療管理加算に関する記事はこちら
◆短期滞在手術等基本料に関する記事はこちら
◆外来医療に関する記事はこちら
◆在宅医療・訪問看護に関する記事はこちら
◆新型コロナウイルス感染症を含めた感染症対策に関する記事はこちら
◆医療従事者の働き方改革サポートに関する記事はこちら
◆調剤に関する記事はこちら
◆後発医薬品使用促進・薬剤使用適正化、不妊治療技術に関する記事はこちら



8月27日の入院医療分科会では、▼重症度、医療・看護必要度▼リハビリテーション実績指数やFIM▼医療区分・ADL区分▼DPCの外れ値病院▼特定集中治療室管理料など▼救急医療管理加算▼医療資源の乏しい地域における特例―など多岐にわたるテーマを議題としました。本稿では、DPCの外れ値病院に焦点を合わせます(【救急医療管理加算】に関する記事はこちら、【特定集中治療室管理料】に関する記事はこちら)。



DPCについては、2018年度診療報酬改定で「医療資源投入量が著しく低い・平均在院日数が著しく長い病院」などについて「DPCからの退出」も考えてはどうか、という宿題が出されています(関連記事はこちらこちら)。

DPC制度では、「全DPC病院の診療実績データ」をもとに点数や係数を設定します。例えば、DPC点数は、同じ診断群の症例について「どれだけの医療資源を投入したか(入院日数はどの程度か、検査をどの程度行ったか、医薬品等の投与量はどうであったか、など)」を見て設定します。このため、例えば「不適切に医療資源投入量を著しく少なく抑えている」 病院が混入していたとすれば、DPC点数が不当に低くなます。結果、DPC病院全体の中には「収益が下がり、投入したコストを回収できない」状況も起こりえるのです。その一方で、「医療資源投入量を少なく抑えた病院」では、点数と実際の資源投入量との差が「純益」になる(つまり「儲かる」)ため、他のDPC病院との間で不公平が生じてしまいかねないのです。

そこで2022年度の次期診療報酬改定に向けて、次のような調査分析を行い(入院医療分科会の下部組織「DPC/PDPS 等作業グループ」において非公開で実施)、今般、その結果の概略が入院医療分科会に報告されました。公表されたものです。

(1)標準化が進んだ内科系疾患(急性心筋梗塞、脳梗塞、狭心症、心不全)治療においても、▼医療資源投入量の著しく少ない▼在院日数の著しく短い—病院(▼急性心筋梗塞のうち、「手術なし」かつ「手術・処置等1なし」症例が50%以上▼脳梗塞のうち、「手術なし」かつ「手術・処置等1 なし」症例が100%▼狭心症のうち、「手術なし」かつ「手術・処置等1なし」症例が50%以上▼心不全のうち、「手術なし」かつ「手術・処置等1なし」症例が100%—となっている病院)に対しヒアリングを行う

(2)すべてのDPC病院それぞれに対し、「ベンチマーク分析可能な在院日数や資源投入量に関するデータ」を通知するとともに、「コーディングに関する調査」を行う

●(1)(2)の調査結果詳細はこちら



まず(1)のヒアリング対象の病院、つまり「外れ値病院」の状況を見ると、「総病床数に占めるDPC病床(急性期病床)の割合が小さい」ところが比較的多いことが分かりました。また個別病院のヒアリングからは、▼緊急患者受け入れはハイリスクなので避け、高度な治療を要する患者は他病院へ搬送している▼回復期を中心とした医療を提供しており、「直接回復期病棟で受け入れが困難な症例」については、まず DPC対象病棟で受け入れている▼急性期治療を行う医療資源(夜間の常勤専門医、心臓カテーテル実施設備など)がない―などの状況が明らかになってきています。

またコーディングに関しては、「自院で治療できない症例を転院させ、その後急性期の治療が終わった後戻ってきた場合でも『急性心筋梗塞』としてコーディングしている」「心臓リハビリ目的入院において、適切なコーディングが存在しない」という声が出ています。

ここからは「急性期入院医療を提供していない病院・病棟が、DPC制度を利活用している」可能性が見えてきそうです。井原裕宣委員(社会保険診療報酬支払基金医科専門役)は「別病棟(回復期リハビリ病棟や緩和ケア病棟)に入るまでの『待機場所』としてDPC病棟に入棟するケースや、入院時のスクリーニング検査のためのDPC病棟に一時的に入棟するケースなどはDPC制度になじまないのではないか。当然、急性期入院医療を目的としていないのでコーディングにも苦労している(急性期入院医療を目的としない症例のコードはそもそも存在しない)」と指摘。

また作業グループの座長も務める山本修一委員((地域医療機能推進機構理事)は「DPCに馴染まない病棟についてどう考えるべきか。『ごく一部ゆえ、やむを得ない』として容認するのか、『除外する』のかなどを検討・議論していく必要がある」とコメントしました。

上述のとおり、DPC制度に遡って厳密に考えると、「急性期入院医療を提供しない病棟」が混在すれば他のDPC病棟に悪影響を及ぼすため、「除外する」方向を検討することになるでしょう。例えば、何らかの基準(標準的治療内容、標準的な在院日数の幅)を設け、それを満たせない病院は次期改定で「DPCに参加できない」こととする、などの対応が思い浮かびます。

一方、確かに悪影響は否めないが、「ごく一部であり、全体に及ぼす影響は微々たるものである」と容認する考え方もありえます。

さらに、例えばコーディングなどの仕組みをより細分化し、「急性期入院医療を提供しない病棟」が選択するコードを設定するという考え方も存在します。

例えばマジョリティ病院はA1というコードを、アウトライヤー病院はA2というコードを選択することにすれば、A1・A2のそれぞれでDPCの包括点数を設定でき、DPCの中で「急性期入院医療を提供するマジョリティ病院」と「急性期入院医療を提供しないアウトライヤー病院」とを分けて点数を設定することも相当程度可能となります。これによれば、「アウトライヤーを除外せず、かつマジョリティ病院に悪影響を及ぼさない」ことが実現できそうです。ただし、この場合「DPC=急性期入院医療」という枠組みの根本を覆すことになり、またDPC制度が極めて複雑になってしまう点には留意が必要です。

今後、作業グループ、入院医療分科会、さらに中央社会保険医療協議会において、こうした点に関する議論が進められるでしょう。まだ「除外する」「容認する」などの方向は定まっていません。

コーディングテキストのさらなる活用に向けて、「使いやすさ」向上への工夫を

また(2)の全DPC病院調査からは、例えば次のような状況が見えてきました。

▽コーディングテキストの認知度は98.5%、活用度は94.2%

▽コーディングに際して参照できる「事例」を多く記載してほしい、コーディングに悩むケース(どちらの分岐を優先するのか、どの分岐を選択するのか、原疾患と合併症が複数ある場合の考え方など)も少なくなく、解釈などを記載してほしい、といった声が目立つ



コーディングテキストは、厚生労働科学研究班で「より正確なコーディングの普及を目指す」との理念の下に作成され、常にバージョンアップが図られてきています(現在の第4版はこちら)。

DPC制度においては「正確なコーディング」が最重要事項の1つ(コーディングが不正確であれば、医療費の支払いはもちろん、「どの疾患にどういった治療を行うのか」という標準化に向けた検討ができなくなる)であることに鑑みれば、認知度・活用度はともに「100%」であるはずです。

このため「活用していない事例が5%超あることは問題である」と考えることができますが、多忙な現場の状況を振り返れば「95%近く活用されている、驚異的である」と評価することもできそうです。

この点、井原委員、山本委員は「活用度をさらに高めることが重要であり、臨床現場がより理解しやすく、活用しやすくなるような工夫を考えるべき」とコメントしています。「正確なコーディング」が最終ゴールであり、「5%がが使っていない、怪しからん」と批判するだけでなく、「どうすれば活用度が上がり、正確なコーディングに結びつくのか」を考えることが重要とのコメントと言えます。

このテーマについては、作業グループや専門研究班での検討に委ねられることになるでしょう。

DPC病院の「医療の質」改善に、実名でがん診療内容を比較分析するCQI研究会

ところで、DPCを始めとする「包括支払い方式」では、医療資源投入量を少なくすればするほど「利益」が上がるため、「粗診粗療を避け、いかに医療の質を担保し、向上するか」が重要課題となります。

この点、DPC制度下では▼「退院患者調査」の実施(不十分な治療のまま退院させ、予定しない再入院・再手術が増えていないかなどを調べる)▼保険診療指数・係数(DPC病院の「頑張り」度合いを評価する機能評価係数IIの1項目)における「病床情報の公表」(自院のホームページでがん患者の受け入れ状況、手術の状況などを公表する)―などの仕組みが設けられています。退院患者調査で「予定しない再入院が増えている」ことなどが明らかになれば、「無理に在院日数を短縮し、回復が不十分なまま退院させている」病院が増えている可能性がり、診療内容の点検などをすることで、「医療の質」確保が期待できるのです。

これらのほかにも「病院が独自に行っている医療の質改善方策」が調査され、▼病院団体の実施する「QIプロジェクト」への参加(診療指標を設定し、各病院でベンチマークを行う)▼病院機能評価(日本医療機能評価機構などによる)への参加▼クリニカルパスの活用▼CQI研究会への参加―などの回答が寄せられました。



このうち「CQI研究会」は、全国から100を超えるがん診療連携拠点病院などが集い、自院のデータを持ち寄って比較分析することで、がん医療の質向上を目指す研究会です(2007年設立)。

八幡平市病院事業管理者で岩手県立病院名誉院長も務める望月泉氏が代表世話人を務め、Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)が、DPCデータに基づく診療内容・実績の分析を担当しています(関連記事はこちら、2019年の第14回研究会の記事はこちらこちら)。

8月28日には第15回研究会がオンラインで開催され、116のがん診療連携拠点病院等が「実名」で「がん診療内容」の比較分析を行いました。2007年の発足以来、こうした病院間の比較分析結果を踏まえて、「自院は他院と比べて〇〇が異なっている。診療内容を見直せないか」と改善を重ね、我が国のがん医療の質を全体として向上させてきています。

CQI研究会



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