がん医療関係者、医療の質評価事業に参加し、医療の質向上を目指してほしい―第14回CQI研究会(2)
2019.9.13.(金)
がんを含めた医療の質評価に関する取り組みが進められており、多くの病院が参加し、医療の質向上に向けた取り組みを進めてほしい。また、がんと診断されてから初回治療までの間に多くの患者が「離職」してしまう。離職は収入減につながり、十分な治療を受ける機会を阻害してしまう。医療関係者は、がんの診断(告知)時に「仕事を辞める必要はない」と患者に伝えてほしい―。
8月24日に開催された第14回CQI研究会(Cancer Quality Initiative研究会、代表世話人:望月泉・八幡平市病院事業管理者・岩手県立病院名誉院長)で、厚生労働省健康局がん・疾病対策課の丸山慧・がん対策推進官が「がん対策と医療の質の確保」に関する特別講演を行い、がん診療連携拠点病院をはじめとするがん医療関係者にこのように訴えました。
目次
新たな「がんゲノム医療拠点病院」に95施設が申請、厚労省は30施設程度を想定
CQI研究会は、全国から100を超えるがん拠点病院などが集い、自院のデータを持ち寄って比較分析することで、がん医療の質向上を目指している研究会です(2007年設立)。グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)では、DPCデータに基づく診療内容・実績の分析を担当しています。
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8月24日には、2年に一度の「全国の会員病院が集う研究会」が開かれ、特別講演として、厚労省の丸山慧・がん対策推進官が登壇されました。(CQI研究会の望月代表世話人による「がん医療・経営の質向上に向けた分析とポイント解説」は別稿でお伝え済みです)。
丸山がん対策推進官は、がん医療を取り巻く昨今の情勢について詳しく解説。具体的には、▼がん診療連携拠点病院の指定要件見直し▼小児がん拠点病院の指定要件見直し▼がんゲノム医療の推進▼がん治療と仕事の両立▼医療の質評価と公表―で、いずれもがん医療の質向上を目指す施策です。
このうち「がんゲノム医療」は、「Aという遺伝子変異の生じているがん患者にはαという抗がん剤投与が効果的である」などといったゲノム情報に基づき、最適な抗がん剤等を選択するものです。大枠を確認しておくと、▼患者の同意を得た上で、遺伝子情報・臨床情報を「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT、国立がん研究センターに設置)に送付する → ▼C-CATでがんゲノム情報のデータベース(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験などの情報整理する → ▼がんゲノム医療中核拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)で、C-CATからの情報を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、これに基づいた医療を提供する―という流れで、がんゲノム医療が提供されます(関連記事はこちら)。
複数の遺伝子情報を一度に解析できる「遺伝子パネル検査」の保険適用も始まり(今年(2019年)6月1日に▼FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル▼OncoGuide NCC オンコパネル システム―の2種類)、ピーク時には2つの遺伝子パネル検査を約2万6000人が受けると想定されています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。しかし現在、11のがんゲノム医療中核拠点病院における専門家会議(エキスパートパネル)では、こうしたニーズに対応しきれないと見られています(昨秋(2018年)時点で「年間4000-5000症例」が上限、関連記事はこちら)。
そこで厚労省は、新たに、専門家会議(エキスパートパネル)設置など、がんゲノム医療を自院で「完結」できる【がんゲノム医療拠点病院】の整備方針を決定。「診療体制等については中核病院並み」(エキスパートパネルを設置し、がんゲノム医療を完結する必要があるため)、「人材育成や治験・先進医療については連携病院並み」(人材育成機能等はもっぱら中核病院が担うため)との考えに沿って、全国の病院(がんゲノム医療連携病院を中心)から申請を募りました。厚労省では「がんゲノム医療中核病院は30施設程度」と想定していますが、丸山がん対策推進官によれば「95病院が申請」を行っており、今後、要件を満たしているかなどを詳しく審査し、9月(2019年9月)にも指定が行われる見込みです(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
がんゲノム医療、未承認薬や適応外使用における「患者負担」に配慮すべきとの声
ところで、こうしたがんゲノム医療によっても最適な治療法が見つかる確率は、現時点では10-20%にとどまり、しかも「未承認薬」や「適応外使用」がほとんどとなります。この点について、丸山がん対策推進官は「患者の負担を考慮し、安易に自由診療に進むのではなく、先進医療や治験、患者申出療養などの道を検討してほしい」と要望しました。先進医療などでは、保険外診療と保険診療との「併用」が可能となるためです。
またがんゲノム医療は、現時点では保険財政に鑑み、対象者は、固形がん患者のうち「標準治療がない」「局所進行・転移が認められ標準治療が終了した(終了見込みも含む)」患者に限定することとされています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
この点、CQI研究会の会員からも、「標準治療終了を待っていては、患者状態が悪化してしまう。保険診療上、より早期に遺伝子パネル検査を認めるべきではないか」「がんゲノム医療で『最適』と判断された医薬品について、未承認・適応外使用であっても、公的医療保険の適用を認めるべきではないか」「『保険適用された検査』(遺伝子パネル検査)で、『保険外の薬』(未承認薬、適応外使用)を探す仕組みとなっているのではないか」という声が出ています。
今後のがんゲノム医療の実施状況なども踏まえ、診療報酬について議論する中央社会保険医療協議会で「がんゲノム医療の在り方」を改めて議論することが期待されます。
がんのために離職する患者の4割、告知から初回治療の間に離職
また、がん医療が進展するとともに患者の予後が良くなり、「がん治療と仕事の両立」が非常に重要なテーマとなっています。仕事を辞めれば、一般に収入が途絶え、治療継続が困難になるケースも少なくありません。この点、丸山がん対策推進官は、「がんで離職した患者の4割強は、がんと診断されてから治療を開始するまでの間に離職してしまっている。がんの診断(告知)時に、患者に『仕事を辞めなくて良いですよ、辞めないほうが良いですよ』と是非伝えてあげてほしい」と強く要請しました。
がん治療のために仕事を辞める人の割合は、2003年から2013年にかけて減少していません。このため、2018年度の前回診療報酬改定では、主治医と産業医が連携して、患者の「がん治療と仕事の両立」に向けた取り組みを評価する【療養・就労両立支援指導料】および【相談体制充実加算】が新設されましたが(関連記事はこちら)、算定状況は芳しくないようです(関連記事はこちら)。医療現場からは「要件等が厳しすぎる」との声が出ており、こちらも2020年度の次期診療報酬改定を睨み、中医協で議論が行われることが期待されます。
医療の「質評価」事業、より多くの病院の参加に期待
さらに、がんを含めた医療の「質評価」については、国の予算事業として、2010年度から「医療の質の評価・公表等推進事業」(QI事業)が実施されています。各病院団体等で質の評価が行われますが、各団体で各指標項目に関する計算式(分子・分母の設定)が異なることもあり、組織の枠を超えたベンチマークができていません。2016年度(平成28年度)からの厚生労働科学研究では、▼患者満足度▼インシデント・アクシデント発生率▼30日以内の予定外再入院率―などの共通QI指標が設定され、QIの測定・公表の最終目的が個々の病院の医療の質改善であり、単なる病院間の比較・ランク付けではないことが強調されています。これらを踏まえ、今年度(2019年度)から「医療の質向上のための協議会」を立ち上げて、指標内容の標準化等を図るとともに、事業に参加する病院団体等や個別病院の医療の質向上サポートを行うことが決まっています(関連記事はこちら)。
丸山がん対策推進官は、「この事業へより多くの病院が参加する」ことや「がん医療の質を評価する指標の検討が進む」ことに期待を寄せる一方で、あくまで「私見」との断りを入れたうえで、会場からの質問に対して「質評価の結果を、診療報酬やペナルティなどに結びつけることには極めて慎重であるべき」との考えも述べています。
この点、日本病院会や全国自治体病院協議会のQI事業にも関わっている望月代表世話人は、「質の評価において、データを提出する病院側の負担も大きい。病院側の負担にも配慮した評価項目(既存データを活用するなど)を検討すべきではないか」との考えを提示。
また米国で長年にわたり医療経済研究を進めてきた、米国グローバルヘルス財団のアキよしかわは、「米国では、医療の質評価が進んでおり、標準治療の実施率・遵守率などをがん拠点病院の指定要件に盛り込んでいる。しかし米国でも当初はデータ収集に相当苦労し、正確なデータを集めるためにいろいろな工夫や努力を行ってきた。日本も、そのような工夫からも学び、質評価項目をミニマムなものに絞り、学会や国主導で質評価を進めるべきではないか」との見解を示しています。
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