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がん遺伝子パネル検査、「主治医が標準治療終了見込み」と判断した患者にも保険で実施可能―疑義解釈16【2018年度診療報酬改定】

2019.8.27.(火)

厚生労働省は8月26日に「疑義解釈資料の送付について(その16)」を公表しました。

 今回は、今年(2019年)6月に保険適用された「遺伝子パネル検査」について現場の疑問に答えています。

【2018年度診療報酬改定・疑義解釈に関する関連記事】
疑義解釈1の1
疑義解釈1の2
疑義解釈1の3
疑義解釈2
疑義解釈3
疑義解釈4
疑義解釈5
疑義解釈6
疑義解釈7
疑義解釈8
疑義解釈9
疑義解釈11
疑義解釈12
疑義解釈13
疑義解釈14
疑義解釈15

遺伝子パネル検査とエキスパートパネルが別医療機関の場合、費用は合議で決定

 「Aという遺伝子変異の生じているがん患者にはαという抗がん剤投与が効果的」といった知見をもとに最適な抗がん剤等を選択する「がんゲノム医療」の推進が目指されています。効果の薄い治療法を避け、効果の高い、最適な治療法を優先的に実施することで、▼治療成績の向上▼患者の経済的・身体的負担の軽減▼医療費の軽減―などにつながると期待されます。

 我が国では、大きく次のような流れで、がんゲノム医療を提供します(関連記事はこちらこちらこちら)。

(1)がんゲノム医療を希望する患者に対し、がんゲノム医療中核拠点病院等が十分な説明を行い、同意を得た上で、検体を採取する

(2)検体をもとに、当該病院や衛生研究所などで「遺伝子情報」(塩基配列など)を分析し、その結果を「がんゲノム情報管理センター」(C-CAT)に送付する

(3)中核拠点病院等は、患者の臨床情報(患者の年齢や性別、がんの種類、化学療法の内容と効果、有害事象の有無、病理検査情報など)もあわせてC-CATに送付する

(4)C-CATでは、保有するがんゲノム情報のデータベース(がんゲノム情報レポジトリー・がん知識データベース)に照らし、当該患者のがん治療に有効と考えられる抗がん剤候補や臨床試験・治験情報などの情報を中核拠点病院の専門家会議(エキスパートパネル)に返送する

(5)中核拠点病院等の専門家会議(エキスパートパネル)において、C-CAの解析結果を踏まえて当該患者に最適な治療法を選択し、十分な説明を行った上で、これに基づいた医療を提供する
がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議2 190308

がんゲノム医療拠点病院等指定要件ワーキンググループ1 190527
 
 今年(2019年)6月には、一度に複数の遺伝子情報(遺伝子変異)を検出できる検査手法「がん遺伝子パネル検査」が2種類、保険収載されました(関連記事はこちら(疑義解釈15の記事)こちら(保険診療上の留意事項に関する記事)こちら(保険収載決定に関する中医協の記事)こちら(中医協での議論経過の記事))。

(A)FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル

(B)OncoGuide NCC オンコパネル システム

 これら2技術を用いて遺伝子パネル検査を行う場合、次の診療報酬項目を準用して費用請求を行います。

(i)ゲノム情報取得のためのパネル検査の実施(患者説明(検査)と検体の提出)については、D006-4【遺伝学的検査】の「3 処理が極めて複雑なもの」(8000点)を算定する

(ii)パネル検査の果の判断および患者への説明等の実施、治療(エキスパートパネル実施に係る費用が含まれる)については、▼D006-4【遺伝学的検査】の「3 処理が極めて複雑なもの」を4回分(8000点×4回=3万2000点)▼D004-2【悪性腫瘍組織検査】の「1 悪性腫瘍遺伝子検査」の「注ロ 3項目以上」(6000点)▼M001-4【粒子線治療(一連につき)】の【粒子線治療医学管理加算】(1万点)―の合計4万8000点を算定する

 
 今般の疑義解釈では、この遺伝子パネル検査を保険診療の中で実施するにあたっての、医療現場の疑問に答えています。

 まず、遺伝子パネル検査を実施する場合の診療報酬には、(ii)のように「エキスパートパネル開催」費用なども含まれます。しかし、X医療機関で遺伝子パネル検査を受け、エキスパートパネルは別のY医療機関で開催されるというケースもあることでしょう。

この場合の診療報酬請求等については、「遺伝子パネル検査に係る一連の診療報酬は、パネル検査を実施した医療機関(X医療機関)で算定し、別の医療機関(Y医療機関)でのエキスパートパネル費用については、パネル検査実施医療機関(X医療機関)とエキスパートパネル実施医療機関(Y医療機関)との合議に委ねる」考えが示されました。

C-CATへのデータ提出を患者が拒む場合、C-CAT解析なくともエキスパートパネル費用の請求可

 
 また、遺伝子パネル検査を保険診療として実施する場合には、「患者の同意を得たうえで、C-CATへのデータ提出する」ことが要件となります。しかし、「患者が自分の遺伝子情報を蓄積されたくない」としてC-CATへの同意を拒否した場合に、診療報酬算定を認めなければ、医療機関に酷です。

このため患者の同意が得られない場合には、C-CATへのデータ提出をせずとも一連の診療報酬を算定できますが、この点、「C-CATへのデータの提出に同意しなかった患者に対してエキスパートパネルを行った際にはC-CTA作成の調査結果(上記の(4))を用いた解析ができません」が、厚労省この場合でも「遺伝子パネル検査の検査結果の医学的な検討・治療方針等の患者への説明の際の診療報酬の点数を算定できる」ことを明確にしています。

 
 
さらに、エキスパートパネルを開催し、その解釈結果を文書を用いて患者に説明する場合には、上記(ii)のように、▼D006-4【遺伝学的検査】の「3 処理が極めて複雑なもの」を4回分(8000点×4回=3万2000点)▼D004-2【悪性腫瘍組織検査】の「1 悪性腫瘍遺伝子検査」の「注ロ 3項目以上」(6000点)▼M001-4【粒子線治療(一連につき)】の【粒子線治療医学管理加算】(1万点)―の合計4万8000点を算定します(患者1人につき1回限り算定)。

この点、疑義解釈では、▼「やむを得ない事情で患者に説明できなかった」場合には、これらの点数を算定できない▼患者本人が受診困難などやむを得ない事情があり、患者本人の同意を得たうえで、「患者の代理人に説明した」場合には、これらの点数を算定できる▼「患者が説明時点で死亡している」場合は、検査結果を治療方針決定の補助に用いられな いため、これらの点数を算定できない―ことが示されました。

医療機関のキャパシティ考慮し、遺伝子パネル検査の対象患者は現時点では「限定」

 
 
ところで、遺伝子パネル検査は、保険診療上、あらゆるがん患者に実施が認められるものではありません。現時点では▼標準治療がない固形がん患者▼局所進行もしくは転移が認められ、標準治療が終了となった固形がん患者(終了が見込まれる者を含む)―のうち、主治医が「遺伝子パネル検査後に、化学療法の適応となる可能性が高い」と判断した患者に限定されています。がんゲノム医療を提供できるがんゲノム医療中核拠点病院等のキャパシティも限られている(昨秋(2018年秋)時点では11中核拠点病院で、エキスパートパネル開催は年間4000-5000件程度に限られる)ため、現時点では「他に治療法のない、藁にも縋る思いの患者」に限定されているのです。

この点、今般の疑義解釈では、▼「標準治療の終了が見込まれる者」とは、主治医が「医学的判断に基づき、標準治療の終了が見込まれる」と判断した者である▼主治医の「化学療法の適応になる可能性が高い」と判断する「遺伝子パネル検査後」とは、「検査結果を患者に提供し、結果について説明した後」のことである―点が示されました。

医療現場には「標準治療の終了を待っていたのでは、患者の状態が悪化し、せっかく最適な治療法が見つかっても、治療を開始できなくなることがあるのではないか」との指摘が出ており、こうした現場の声も考慮した解釈と言えます。

 
  
このほか、今般の疑義解釈では、次のような点も示されています。

▽遺伝子パネル検査による解析が不能のためプロファイル(遺伝子情報)取得ができなかった場合でも、再検査に係る費用は算定できない

▽患者の意思で検査が途中で中止となった場合、検査にかかる費用(上記(i))が、厚労省通知「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」に該当する場合には請求できる

 

 

MW_GHC_logo

 

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