コロナ禍では「post acute患者割合」に着目した地域包括ケア病棟の点数減額拡大など避けよ―地ケア病棟協・仲井会長
2021.10.6.(水)
新型コロナウイルス感染症が流行する中で、地域包括ケア病棟における「自院のpost acute患者割合」に大きな変化が生じている。個々の病院が、その機能に応じたコロナ感染症対応を行っているもので、コロナ禍で「自院のpost acute患者割合」に着目した点数減額の拡大などを行えば、地域のコロナ感染症医療体制は崩壊しかねない点に留意すべきである―。
2022年度の次期診療報酬改定では「特定行為研修を修了した看護師の配置や業務」「補完代替リハビリテーションによるADL改善」の評価を検討すべきである―。
地域包括ケア病棟協会の仲井培雄会長は10月5日にオンライン記者会見を開き、こうした考えを述べました。
目次
コロナ禍では「自院のpost acute患者割合」に着目した点数減額の拡大などは避けるべき
地域包括ケア病棟は、▼急性期後(post acute)患者を受け入れる▼自宅等からの軽度急性期(sub acute)患者を受け入れる▼これらの患者の在宅復帰を目指す—という3つの機能を併せ持つ病棟として、2014年度の診療報酬改定で新設されました。
しかし、従前より一部機能(自院の急性期後(post acute)患者受け入れ機能)に偏った病棟があると問題視されています。
急性期一般1(旧7対1)を届け出るためには、「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)を満たす患者割合が一定以上(2022年度改定後は、評価票を用いる看護必要度Iで31%以上、DPCのEF統合ファイルを用いる看護必要度IIで29%以上)などの施設基準を満たさなければいけません。この施設基準をクリアするために、「自院の急性期病棟の一部を地域包括ケア病棟に転換し、看護必要度を満たさなくなった患者をそこに転棟させる」ことが行われています。これ自体には何らの問題もありませんが、「度が過ぎる」ケースが少なからずあるのです。
このため2020年度の前回診療報酬改定では、許可病床数400床以上の病院に設置した地域包括ケア病棟について、入棟患者のうち「自院の一般病棟から転棟した患者」割合が6割以上の場合には入院料を10%減額するという仕組みが設けられました。
しかし、7月8日・10月1日の診療報酬調査専門組織「入院医療等の調査・評価分科会」(入院医療分科会、中央社会保険医療協議会の下部組織)では、2020年度改定後も「自院の一般病棟から転棟した患者割合が著しく高い」病院がなお存在する(中には100%と言う病院)ことが確認されました。これを受け、入院医療分科会では「3機能をバランスよく果たしている地域包括ケア病棟」と「一部機能しか果たしていない、一部機能に偏っている地域包括ケア病棟」とでは、評価を分けるべきではないか、という意見が出ています(関連記事はこちら)。例えば▼減額幅を大きくする(現在の1割から1割5分に拡大するなど)▼減額対象を広げる(現在の許可病床数400床以上から許可病床数300床に広げるなど)―ことなどが考えられそうです。
これに対し、地ケア病棟協の仲井会長は「新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中でのそうした見直しは好ましくない」と警鐘を鳴らしました。
地ケア病棟協が、「コロナ禍における地域包括ケア病棟への入棟元」状況を調査したところ、半数(49%)では変わっていませんが、3割弱(28%)で「自院のpost acute患者割合が減少」、14%で「自院のpost acute患者割合が増加」しています。「自院のpost acute患者割合が増加」した病院では、コロナ感染症患者受け入れ病床を確保しており、また入院料・許可病床数による大きな差は認められませんでした。ここからは「病院全体で、様々な工夫によりコロナ感染症対応を行っている」状況が読み取れると仲井会長は分析します。
例えば、医療資源が潤沢な地域では、平時には上記の3機能をバランス良く果たすことが理論上可能で、例えばA病院のpost acute患者を、別のB病院の地域包括ケア病棟で受け入れてもらうなどの流れを構築することができます。結果、「自院のpost acute患者割合」を低く抑えることが可能でしょう。
しかしコロナ禍では、「コロナ感染症の急性期を脱し、退院基準を満たした(=感染拡大の危険性が極めて低い)患者」についても、感染拡大を恐れて受け入れを拒否するケースが少なからず生じました(A病院のpost acute患者を、別のB病院の地域包括ケア病棟で受け入れてもらえない)。この場合、A病院の地域包括ケア病棟でpostコロナ患者を受け入れることとなり、「自院のpost acute患者割合が増加」することになります。
こうした中で、入院医療分科会の指摘どおり、例えば「自院のpost acute患者割合が高い地域包括ケア病棟の評価引き下げ」などを行えば、地域のコロナ感染症対応体制が崩壊してしまう可能性も出てきます。平時には「自院のpost acute患者割合」を低く抑えることができる病院でも、コロナ禍では、それが難しくなるケースが少なくないと考えられるのです。
仲井会長は「3機能のバランスは重要であるが、コロナ禍で入院医療分科会の議論どおりに評価見直しが進めば、『病院の機能』が損なわれてしまう。地域包括ケア病棟を単体で考えるのではなく、病院として、どういったケアミックスが行われ、どういった機能を果たしているのか、全体を見て診療報酬なども考えていく必要がある」と強調しています。
特定行為研修を修了した看護師の配置・業務を診療報酬で評価すべき
また仲井会長は、2022年度の次期診療報酬改定に向けて次のような評価を行ってはどうかと提言しています。
(1)医師の負担軽減・処遇改善のために「特定行為研修を修了した看護師」の配置に係る体制加算を新設するとともに、特定行為研修修了者が特定行為を実施した場合のさらなる加算を設けてはどうか
(2)「1回20分以内、1日数回、1週間以内の短期集中リハビリテーション」を行い、効率よく効果を上げた場合に、アウトカム評価としての加算を設けてはどうか
まず(1)は、医師から特定行為研修修了者へのタスク・シフティングを促すものです。2024年4月から、すべての勤務医に対して新たな時間外労働の上限規制(原則:年間960時間以下(A水準)、救急医療など地域医療に欠かせない医療機関(B水準)や、研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師(C水準)など:年間1860時間以下)を適用されます。
このためすべての病院で「医師の労働時間短縮」に取り組むことが求められ、その一環として「医師は医師免許取得者でなければ実施できない業務に集中するため、他職種に業務を移管する(タスク・シフティング)」ことが重要となり、移管先の1つとして「特定行為研修修了者」が注目されているのです。
特定行為に係る研修(以下「特定行為研修」と呼ぶ)を受けた看護師は、医師・歯科医師の包括的指示の下で、手順書(プロトコル)に基づいて38項目の診療上の補助(特定行為)を実施することが可能です(関連記事はこちらとこちら)。診療報酬での評価も進められてきており、例えば2020年度の前回改定では「総合入院体制加算の選択要件の1つに、『特定行為研修修了者の配置』が盛り込まれ」ました(関連記事はこちらとこちら)。仲井会長は、こうした評価のさらなる推進を提言しています。
1回20分未満の補完代替リハビリ、成果を踏まえた診療報酬で評価すべき
また(2)は、従前より仲井会長が提唱している「補完代替リハビリ」の評価を求めるものです。診療報酬上、リハビリテーションの評価は「1単位20分以上」「個々の患者への実施」「機能訓練室での実施」などの要件に沿って行うことが求められていますが、▼1回20分未満▼集団実施―といった形態のリハビリ・自立支援(補完代替リハビリ)も少なからず実施されています。
このうちPOC(point of care)リハビリは、患者の傍らで、20分未満の短時間、ADL改善訓練を行うものと言えますが、「POCリハビリを行わない場合に比べて、ADL改善効果が高い」というエビデンスも構築されてきています。
また、腰HALと呼ばれる腰部に装着する医療用ロボットを活用し、1回20分弱の補完代替リハビリを実施することにより、廃用症候群患者のADL改善に効果が出ているという研究結果も上がってきています。地ケア病棟協の石川賀代副会長は「多疾患を抱える高齢のマルチモビリティ患者は廃用症候群に陥っているケースも少なくない。多職種が関わり、場合によってはロボットも活用した補完代替リハビリと、疾患別リハビリ(例えば廃用症候群リハビリ)とを組み合わせなければ、十分な対応はできない」とコメントしています。
このように「補完代替リハビリの効果」に関するエビデンスが構築されてきている点を背景に、仲井会長は、改めて「補完代替リハビリの評価」、しかも「ADL改善等のアウトカムを指標とする評価」の新設を求めています。
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