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看護師の特定行為研修、新たに「救急領域」をパッケージ研修に追加―看護師特定行為・研修部会

2019.10.15.(火)

「救急領域」を、特定行為研修の新たな「パッケージ」研修に加え、研修時間を短縮することで特定行為研修を受けやすくする―。

10月9日に開催された医道審議会・保健師助産師看護師分科会の「看護師特定行為・研修部会」(以下、部会)で、こういった方針が了承されました(関連記事はこちらとこちら)。

部会の了承を受け、厚生労働省は今月(2019年10月)中にも関係通知を改正する構えです。これまでに認められている▼在宅・慢性期領域▼外科術後病棟管理領域▼術中麻酔管理領域—と合わせ、「4領域」のパッケージ研修が整備されることになります。

10月9日に開催された、「第23回 医道審議会 保健師助産師看護師分科会 看護師特定行為・研修部会」

救急医療現場で、呼吸管理・循環管理・鎮静などの行為実践に期待

一定の研修(特定行為に係る研修、以下、特定行為研修)を受けた看護師は、医師・歯科医師の包括的指示の下で、手順書(プロトコル)に基づいて38行為(21分野)の診療の補助(特定行為)を実施することが可能になります。

ただし「研修期間が長い」「近隣に研修できる施設がない」などの課題が指摘され、前者を改善するために次のような見直しが行われました。

(1)▼在宅・慢性期領域▼外科術後病棟管理領域▼術中麻酔管理領域—の3領域において特定行為研修をパッケージ化する

(2)共通科目を精錬化する(▼臨床病態生理学▼疾病・臨床病態概論▼医療安全学▼特定行為実践—について重複等を精査し、合計65時間の研修時間短縮を行う。例えば「疾病・臨床病態概論」では、「小児や高齢者の臨床診断・治療の特性と演習」について、「主要疾患(5疾病)の臨床診断・治療を学ぶ」カリキュラムに包含されており、この時間を短縮するなど)

(3)区分別科目における「実習」の質を担保する

(4)科目間の内容の重複等を精錬化する

さらに今般、新たな領域別のパッケージ研修として「救急領域」を加えてはどうかとの申請が、日本救急医学会・日本臨床救急医学会・日本救急看護学会の3学会から行われました。

迅速な対応が求められる2次・3次救急医療機関に複数の救急患者が搬送され、トリアージの後に医師が初診を行い、集中治療が必要な患者が複数いるような場合に、「救急領域」のパッケージ研修を修了した看護師が、予め定められたプロトコル(手順書)に基づいて、呼吸管理・循環管理・鎮静などの行為を実践することが想定されています。こうした特定行為を実施できる看護師が増えれば、多忙を極める救急科の医師の負担が相当程度軽減できると期待されます。

パッケージ化される特定行為区分及び特定行為は、次の5区分・9行為で、通常の研修に比べて研修時間が17時間短縮されます。

▼呼吸器(気道確保に係るもの)関連の「経口用気管チューブまたは経鼻用気管チューブの位置調整」
▼呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連の「侵襲的陽圧換気の設定変更」「非侵襲的陽圧換気の設定変更」「人工呼吸管理がなされている者への鎮静薬の投与量調整」「人工呼吸器からの離脱」
▼動脈血液ガス分析関連の「直接動脈穿刺法による採血」「橈骨動脈ラインの確保」
▼栄養および水分管理に係る薬剤投与関連の「脱水症状に対する輸液による補正」
▼精神および神経症状に係る薬剤投与関連の「抗けいれん剤の臨時の投与」

新たな救急領域のパッケージ研修(看護師特定行為・研修部会1 191009)



この提案に対し異論は出ていませんが、総論的に「救急医療に関連する行為を学ぶ」べきではないか、との指摘が神野正博委員(全日本病院協会副会長)からなされました。上記の9行為は、救急医療以外でも実施されるものゆえ、救急医療のパッケージ研修で学ぶ際には「自分が今から学ぶのは、救急医療現場で実施する行為である」ことを研修の冒頭で明確にする必要があると神野委員は強調します。

ただし、「座学で救急医療について学ぶよりも、救急医療現場で学ぶ機会を設けたほうが実践的ではないか」(有賀徹委員:労働者健康安全機構理事長)、「特定行為研修を受けるのは、相当程度の現場経験を有している看護師に限定される。9行為について『救急医療現場のみで実施する行為』に限定すべきではない」(秋山智弥委員:日本看護協会副会長)などの意見も出ています。

この点、厚労省医政局看護課看護サービス推進室の習田由美子室長は「総論については各研修施設が独自に上乗せすることは可能だが、ルール化するには別の検討が必要となる」旨の考え方を示しています。総論については、パッケージ研修の「必須」項目としての導入は見送られた格好です。

ところでなお、こうしたパッケージ研修については、今後も関係学会等から追加要請がなされると考えられます。その際、どういったケースをパッケージ研修として認め、どういったケースは認められないかという一定の基準を定めておく必要があります。

部会では、「次の3要件を満たす場合に、パッケージ研修としての追加を認める」との考えをまとめました。

(1)特定の医療機関等ではなく全国的に活用されるよう、領域を細分化しすぎず、協働する関係者の間で認識されやすく、また看護師の働く場に応じたものとなっていること
(2)当該領域における一般的な患者の状態を想定し、必要十分かつコンパクトな特定行為の組み合わせとなっていること
(3)領域に関連する学会・関係団体等、関係者間の連携や合意形成が十分図られていること

これら3要件を満たす場合に、関係学会等が厚生労働省に申請を行い、部会での具体的な審議を経て、パッケージ研修の追加が認められます。

厚労省は部会の決定を受け、今月(2019年10月)中に▼救急領域のパッケージ研修▼パッケージ研修追加の手続き―について関係通知を改正します。

なお、特定行為研修については医療現場で一部誤解もあるようです。例えば、救急領域では、上述したように「2次・3次医療機関において、予め定められたプロトコル(手順書)に基づいて、呼吸管理・循環管理・鎮静などの行為を実践する」ことが可能ですが、これらは特定行為研修を修了した看護師でなければ実施できないものではありません。

多くの医療現場では、医師と看護師が日頃から信頼関係を構築し、「こういった状況では、このように動く」という大きなルール・手順が構築されていることでしょう。その場合には、医師から「ラインを確保してほしい」「呼吸管理を行ってほしい」との具体的な指示に基づき、看護師がこうした行為を実施することは当然に可能です(有賀委員は「これが認められなければ医療現場は動かない」旨を強調)。釜萢敏委員(日本医師会常任理事)や秋山智弥委員は、「特定行為研修は、すでに構築されている医師・看護師の関係を制約するものではない」旨を再確認しています。

40県で指定研修施設が指定済みだが、協力施設も含めれば全国で特定行為研修を実施

また10月9日の部会では、厚労省から「特定行為研修の現状」が報告されました。今年(2019年)8月現在、40都道府県・134機関が指定研修施設としての指定を受けており、▼青森県▼山梨県▼三重県▼徳島県▼愛媛県▼長崎県▼宮崎県―の7県には指定研修施設が存在しません。

指定研修施設の状況(2の1)(看護師特定行為・研修部会2 191009)

指定研修施設の状況(2の2)(看護師特定行為・研修部会3 191009)





もっとも協力施設(指定研修施設と連携して特定行為研修を実施)が全国に約500施設あり、これらを含めれば「全都道府県で特定行為研修を受けられる」環境が整ったとも言えます。

例えば、日本赤十字社本社は指定研修施設としての指定を受けており、全国の日赤病院と協力として特定行為研修を実施できます。一方、武蔵野赤十字病院のように独自で指定研修施設の指定を受けている施設もあり、これらは「単独で特定行為研修を実施」できます。部会委員からは、こうした状況が「分かりにくい」との指摘が出ており、厚労省は関係資料を整理することを約束しています。

指定研修施設一覧(3の1)(看護師特定行為・研修部会4 191009)

指定研修施設一覧(3の2)(看護師特定行為・研修部会5 191009)

指定研修施設一覧(3の3)(看護師特定行為・研修部会6 191009)

 
 
 
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