救急患者受け入れ・手術実施などが充実した急性期一般1の新評価、診療側が一部難色を示す―中医協総会(2)
2021.11.11.(木)
急性期一般入院料1(7対1看護配置)について、▼ICU等のユニット設置▼救急搬送患者の受け入れ数▼手術等の実施数—に着目した新たな評価を検討してはどうか―。
入院患者の急変に迅速に対応できる体制を敷いている病院、重症患者・家族の意思決定(例えば延命処置の中止など)に当たり特別の研修等を終えたメディエーターを配置している病院などについて、「医療の質が向上する」点に鑑みた診療報酬上の対応を考えてはどうか―。
11月10日に開催された中央社会保険医療協議会・総会では、こうした議論も行われています。後者については診療側・支払側ともに賛同していますが、前者の「急性期一般1の新評価」については診療側が一部難色をしており今後の議論に注目する必要があります―。
ICU設置、救急搬送や手術の件数に着目した急性期一般1の新評価、診療側に難色も
2022年度の次期診療報酬改定に向けた議論が本格化しています。
【これまでの2022年度改定関連記事】
◆入院医療の全体に関する記事はこちら(入院医療分科会の最終とりまとめ)とこちら(入院医療分科会の中間とりまとめを受けた中医協論議)とこちら(入院医療分科会の中間とりまとめ)とこちら(入院総論)
◆急性期入院医療に関する記事はこちら(看護必要度5)とこちら(看護必要度4)とこちら(看護必要度3)とこちら(新入院指標2)とこちら(看護必要度2)とこちら(看護必要度1)とこちら(新入院指標1)
◆DPCに関する記事はこちらとこちら
◆ICU等に関する記事はこちらとこちら
◆地域包括ケア病棟に関する記事はこちらとこちら
◆回復期リハビリテーション病棟に関する記事はこちらとこちらとこちら
◆慢性期入院医療に関する記事はこちらとこちら
◆入退院支援の促進に関する記事はこちら
◆救急医療管理加算に関する記事はこちらとこちら
◆短期滞在手術等基本料に関する記事はこちら
◆外来医療に関する記事はこちらとこちら
◆在宅医療・訪問看護に関する記事はこちらとこちらとこちら
◆新型コロナウイルス感染症を含めた感染症対策に関する記事はこちら
◆医療従事者の働き方改革サポートに関する記事はこちら
◆がん対策サポートに関する記事はこちらとこちら
◆難病・アレルギー疾患対策サポートに関する記事はこちら
◆認知症を含めた精神医療に関する記事はこちら
◆調剤に関する記事はこちらとこちら
◆後発医薬品使用促進・薬剤使用適正化、不妊治療技術に関する記事はこちら
◆基本方針策定論議に関する記事はこちら(医療部会3)とこちら(医療保険部会3)とこちら(医療部会2)とこちら(医療保険部会2)とこちら(医療部会1)とこちら(医療保険部会1)
11月10日の中医協では▼在宅医療(小児在宅など)▼急性期・高度急性期入院医療—改革を主な議題としました。本稿では急性期入院医療のうち「新たな急性期入院医療の指標」と「重症患者への対応の評価」に焦点を合わせます(高度急性期入院医療、在宅医療については別稿で報じます、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度に関する議論の記事はこちら)。
急性期一般1や7対1特定機能に代表される急性期病棟では、「真に急性期入院医療が必要な患者を受け入れているか」「真に急性期入院医療を提供しているか」が重視されています。この点を評価する指標として「一般病棟用の重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)がありますが、看護必要度で「急性期入院医療を過不足なく評価できる」ものではありません。そこで、看護必要度と異なる視点で、異なる側面から「急性期入院医療を評価する指標」が検討されてきています。
この点、中医協の下部組織である入院医療等の調査・評価分科会では、▼ICU等のユニット設置▼救急搬送患者の受け入れ数▼手術等の実施数—に着目した評価方法を考えてはどうかという議論が行われてきました(関連記事はこちらとこちら)。例えば、「これらを急性期一般1の施設基準に据え、急性期一般1全体として手術実施等を促進する」手法、また「これらを加算の要件に据え、急性期一般1の中でも、とりわけ手術実施等の多い病院をより高く評価する」手法などが考えられそうです。医療現場への影響を考慮すれば、後者の「加算とする手法」が現実的と言えるかもしれません(前者の「施設基準」とすれば、不要なICU設置等が進む可能性があるほか、急性期一般1の基準を満たせない病院の経営不安も招きかねない)。
言わば「充実した急性期一般1については、さらに評価を充実させる」方向であり、11月10日の中医協総会では、方向そのものには診療側・支払側ともに一定の理解を示しています。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「同じ急性期一般1を取得する病院でも手術等実績に大きな差のあることが分かった。新たな評価の切り口として、2022年度の次期診療報酬改定で是非とも対応すべき」と評価方向を歓迎しています。
一方、診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)や池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は、評価方向そのものに理解は示したものの、「ICUを設置していない、あるいは人員配置等の関係で設置できない病院であっても、例えばナースステーション・スタッフステーションの横に処置室を設置し手厚い看護体制で重症患者、救急搬送患者に対応している病院もあり、これらの評価も同時に検討すべきである。こうした病院の評価を行わず、逆にこうした病院の評価を引き下げるのであれば地域の救急医療等の低下・弱体化を招くので、その考え方に反対である」とコメントしています。
「ICU等を設置している病院」では、そうでない病院に比べて▼救急搬送患者の受け入れ数が多い▼手術等の実施件数が多い―というデータを踏まえた新たな評価方向ですが、一部の診療側委員にはデータ内容や提案の趣旨が十分に届いていないようです。「優れた取り組みを行う病院は、経済的にも優れた評価を受けるべきである(つまり高い報酬で処遇されるべきである)」という原則に照らし、城守委員らの考えを「理解できない」と評する識者も少なくありません。
また別稿でも述べましたが、この新評価の考え方は「急性期入院医療の集約化」を目指すものに近いと言えます。我が国では、諸外国に比べて医療機関数が多く「医療資源が散在」(=患者、症例の散在)してしまっています。これが「医療従事者の過重負担」を招き、また「医療の質を低下」させてしまっているとの指摘・データもあります。Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンと米国メイヨークリニックとの共同研究では「症例数と医療の質には相関がある」(症例数が少ない医療機関では医療の質が低い)ことが分かっています。
人口減少が進む中では、1医療機関当たりの症例数は減少していくため、「医療へのアクセス」に十分に配慮したうえで、急性期入院医療の集約化(病院単位の再編・統合だけでなく、急性期機能を一部病院に集約するなど機能単位の再編・統合も考えられる)を進めることが、質の高い医療提供体制確保のためには必要でしょう。診療報酬でも急性期機能の集約化をサポートしていくことが求められていると言え、今後、中医協でどのように議論が進むのか注目する必要があります。
関連して診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)は「昨今では人工心肺を用いない、より高度な手術が広まってきている。【総合入院体制加算】における実績要件のうち『人工心肺を用いた手術が年間40件以上』を見直す必要がある」と付言しています(関連記事はこちらとこちら)。
入院患者の急変時に迅速対応するシステム、重症患者の意思決定支援を診療報酬で評価へ
また厚生労働省保険局医療課の井内努課長は、11月10日の中医協総会に「重症患者への対応を診療報酬で特別に評価することの是非を検討してほしい」との論点も提示しています。次のような医療現場の状況を踏まえたものです。
▽「患者の急変→死亡」という事態を防ぐために、院内心停止の前兆となる▼平均動脈圧▼脈拍数▼呼吸数▼意識状態—などの変化を把握する「院内迅速対応システム」(RRS:(Rapid Response System)の導入により、院内死亡減少の効果がある
▽救急・集中治療領域では、重症患者の家族が「代理意思決定」(例えば延命処置の中止など)という大きな負担を強いられるが、病院と患者・家族との間に「入院時重症患者対応メディエーター」が介入することで円滑な意思決定等に可能になる
前者のRRS導入は、院内死亡減少という、まさに「医療の質向上」につながる取り組みと言えます。具体的には、▼患者の急変の前兆を捉えるための「起動基準」を院内で定める(血圧低下、頻尿、呼吸数増加、意識変容など)→▼入院患者が基準を満たした場合に医師・看護師等で構成されるチームが招集される→▼チームが速やかに患者の状態安定化と管理を行う―というもので、2005年の国際会議でRSSでは(1)起動要素(システムを動かす基準設定など)(2)対応要素(専門対応チームの設置など)(3)システム改善要素(データを収集し、取り組みの改善につなげる(4)指揮調整要素(システム全体の管理やスタッフへの教育などを行う)—の4要素が定められています。この4要素を確立している病院について、診療報酬で評価することなどが考えられそうです。
また後者の「入院時重症患者対応メディエーター」は、日本臨床救急医学会の講習を受けて認定される民間資格で、▼重症患者・家族へのサポートチームの構成メンバーとなる▼患者・家族が治療方針・内容を理解する手助けを行う▼患者・家族の移行を医療スタッフに伝達し、患者・家族が納得した治療方法の選択を手助けする▼臓器提供に関する意思決定支援なども行う―という役割を担っています。医療スタッフと異なる第三者(入院時重症患者対応メディエーターもその1人)が医療スタッフ・家族の間に入ることで、意思決定が円滑に進むという効果が出るという研究結果もあります。これも「医療の質向上」につながるものと言えるでしょう。
この点、診療報酬上はA234-3【患者サポート体制充実加算】(患者等からの疾病に関する医学的な質問、生活上・入院上の不安等に関する相談について懇切丁寧に対応する体制を評価する、入院時の70点)が準備されており、この中に「入院時重症患者メディエーターによる対応」を組み込む(例えば加算を入院時重症患者メディエーターによる対応と、それ以外のスタッフによる対応に分け、前者を高点数で評価するなど)ことが考えられそうです。
こうした医療の質向上を診療報酬でサポートする方向を診療側・支払側ともに歓迎。診療側の島委員は「RRSは極めて重要で、院内で急変した患者に迅速対応できるようなトレーニングを行っていることを診療報酬で評価すべき。入院時重症患者メディエーターの育成も極めて重要で、臓器移植において大きな役割を果たす(逆にメディエーターが不在では移植手続きが進まない)ので報酬での評価を行うべき」と強く求めています。今後、厚労省で具体的な評価内容を検討していくことになるでしょう。
【関連記事】
心電図モニター管理などを看護必要度項目から削除すべきか、支払側は削除に賛成、診療側は猛反対―中医協総会(1)
連携型の認知症疾患医療センターも認知症専門診断管理料2の対象に加えるなど精神科医療の充実を―中医協総会(2)
がん患者等の治療と仕事の両立を支援する指導料、対象疾患等を拡大し、公認心理師等の活躍にも期待―中医協総会(1)
2022診療報酬改定の基本方針論議続く、医師働き方改革に向け現場医師に効果的な情報発信を―社保審・医療部会(2)
リハビリ専門職による訪問看護の実態明確化、専門性の高い看護師による訪問看護評価の充実等進めよ―中医協総会
多種類薬剤を処方された患者への指導管理を調剤報酬で評価すべきか、減薬への取り組みをどう評価するか―中医協総会(3)
専門医→主治医への難病等情報提供、主治医→学校医等への児童アレルギー情報提供を診療報酬で評価へ―中医協総会(2)
外来がん化学療法・化学療法患者への栄養管理・遺伝子パネル検査・RI内用療法を診療報酬でどう推進すべきか―中医協総会(1)
かかりつけ医機能の推進、医療機関間の双方向の情報連携を診療報酬でどうサポートしていけば良いか―中医協総会
在宅医療の質向上のための在支診・在支病の施設基準、裾野拡大に向けた継続診療加算をどう見直していくか―中医協総会(1)
「回復期リハ要する状態」に心臓手術後など加え、希望する回リハ病棟での心リハ実施を正面から認めてはどうか―入院医療分科会(7)
急性期病棟から地ケア病棟への転棟患者、自宅等から患者に比べ状態が安定し、資源投入量も少ない―入院医療分科会(6)
顔面熱傷は救急医療管理加算の広範囲熱傷でないが手厚い全身管理が不可欠、加算算定要件の見直しを―入院医療分科会(5)
ICU用の看護必要度B項目廃止、救命救急入院料1・3の評価票見直し(HCU用へ)など検討へ―入院医療分科会(4)
DPC外れ値病院、当面は「退出ルール」設定でなく、「診断群分類を分ける」等の対応検討しては―入院医療分科会(3)
心電図モニター等を除外して試算し、中医協で「看護必要度から除外すべきか否か」決すべき―入院医療分科会(2)
2022年度改定で、どのように「ICU等設置、手術件数等に着目した急性期入院医療の新たな評価」をなすべきか―入院医療分科会(1)
2022年度の入院医療改革、例えば救急医療管理加算の基準定量化に踏み込むべきか、データ集積にとどめるべきか―中医協
看護必要度等の経過措置、今後のコロナ拡大状況を踏まえて、必要があれば拡大等の検討も―中医協総会(2)
看護必要度やリハビリ実績指数などの経過措置、コロナ対応病院で来年(2022年)3末まで延長―中医協・総会(1)
看護必要度見直し、急性期入院の新評価指標、救急医療管理加算の基準定量化など2022改定で検討せよ―入院医療分科会
回リハ病棟ごとにADL改善度合いに差、「リハの質に差」か?「不適切な操作」か?―入院医療分科会(5)
心電図モニター管理や点滴ライン3本以上管理など「急性期入院医療の評価指標」として相応しいか―入院医療分科会(4)
一部のDPC病棟は「回復期病棟へ入棟する前の待機場所」等として活用、除外を検討すべきか―入院医療分科会(3)
ICUの看護必要度においてB項目は妥当か、ICU算定日数を診療実態を踏まえて延長してはどうか―入院医療分科会(2)
救急医療管理加算、加算1・加算2それぞれの役割を踏まえながら「対象患者要件」の明確化・厳格化など検討していくべき―入院医療分科会(1)
高齢化・コロナ感染症で在宅医療ニーズは増大、量と質のバランスをとり在宅医療提供を推進―中医協総会(2)
コロナ禍の医療現場負担考え小幅改定とすべきか、2025年度の地域医療構想実現に向け大胆な改定とすべきか―中医協総会(1)
1泊2日手術等の「短手2」、4泊5日手術等の「短手3」、診療実態にマッチした報酬へ―入院医療分科会(3)
【経過措置】の療養病棟、あたかも「ミニ回リハ」のような使われ方だが、それは好ましいのか―入院医療分科会(2)
入退院支援加算等の最大のハードルは「専従の看護師等確保」、人材確保が進まない背景・理由も勘案を―入院医療分科会(1)
後発品の信頼性が低下する中でどう使用促進を図るべきか、不妊治療技術ごとに保険適用を検討―中医協総会(2)
医療従事者の働き方改革、地域医療体制確保加算の効果など検証しながら、診療報酬でのサポートを推進―中医協総会(1)
かかりつけ薬剤師機能、ポリファーマシー対策などを調剤報酬でどうサポートすべきか―中医協総会
回リハ病棟でのADL評価が不適切に行われていないか、心臓リハの実施推進策を検討してはどうか―入院医療分科会(2)
入院料減額されても、なお「自院の急性期後患者」受け入れ機能に偏る地域包括ケア病棟が少なくない―入院医療分科会(1)
かかりつけ医機能・外来機能分化を進めるための診療報酬、初診からのオンライン診療の評価などを検討―中医協総会(2)
感染症対応とる医療機関を広範に支援する【感染対策実施加算】を恒久化すべきか―中医協総会(1)
2020年度改定で設けた看護必要度IとIIの基準値の差は妥当、「心電図モニター管理」を含め患者像を明確に―入院医療分科会(2)
急性期入院の評価指標、看護必要度に加え「救急搬送や手術の件数」「ICU設置」等を組み合わせてはどうか―入院医療分科会(1)
2022年度診療報酬改定に向け「入院医療改革」で早くも舌戦、「看護必要度」などどう考えるか―中医協総会
大病院の地ケアでpost acute受入特化は是正されているか、回リハ病棟で効果的リハ提供進む―入院医療分科会(3)
適切なDPC制度に向け、著しく「医療資源投入量が少ない」「自院の他病棟への転棟が多い」病院からヒアリング―入院医療分科会(2)
看護必要度II病院で重症患者割合が増、コロナ対応病院よりも「未対応」病院で重症患者割合増が顕著―入院医療分科会(1)
不妊治療の方法・費用に大きなバラつき、学会ガイドライン踏まえ「保険適用すべき不妊治療技術」議論へ―中医協総会(3)
2022年度診療報酬改定論議、コロナ感染症の影響など見据え7・8月に論点整理―中医協総会(1)
かかりつけ医制度化を検討すべきか、感染症対策と医療提供体制改革はセットで検討を―社保審・医療保険部会(1)
平時に余裕のない医療提供体制では有事に対応しきれない、2022年度診療報酬改定での対応検討を―社保審・医療部会(1)
コロナ感染症等に対応可能な医療体制構築に向け、2022年度診療報酬改定でもアプローチ―社保審・医療保険部会(2)
「平時の診療報酬」と「感染症蔓延時などの有事の診療報酬」を切り分けるべきではないか―社保審・医療部会
診療報酬で医療提供体制改革にどうアプローチし、医師働き方改革をどうサポートするか―社保審・医療保険部会(1)
かかりつけ医機能評価する診療報酬を患者視点で整理、慢性疾患にはオンライン診療やリフィル処方箋活用を―健保連
コロナ禍では「post acute患者割合」に着目した地域包括ケア病棟の点数減額拡大など避けよ―地ケア病棟協・仲井会長