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専門医→主治医への難病等情報提供、主治医→学校医等への児童アレルギー情報提供を診療報酬で評価へ―中医協総会(2)

2021.10.26.(火)

指定難病・てんかんの診断・治療においては「専門医療機関」と「かかりつけ医療機関」との情報連携が重要となる。しかし、現在、例えば指定難病の専門医療機関から、患者が通いやすいかかりつけ医療機関に対して「専門的な医学的知見に基づいた、日常診療における留意点」などの情報提供が行われた場合でも、【診療情報提供料(III)】を算定できないケースが存在する。この事態を改善してはどうか―。

児童・生徒がアレルギー疾患を持つ場合、学校生活(例えば給食や体育の授業など)での留意点を主治医から学校医等へ情報提供することが極めて重要となる。この情報提供を【診療情報提供料(I)】として評価することができないか―。

10月22日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こういった議論も行われています。

指定難病・てんかんの専門病院→かかりつけ医療機関への情報提供を【診療情報提供料(III)】で評価へ

2022年度の次期診療報酬改定に向け、中医協では、この10月からは個別・具体的な第2ラウンド論議を進めています。

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10月22日の中医協総会では、▼がん対策▼難病・てんかん対策▼アレルギー疾患対策▼調剤―を議題としました。本稿では、このうち「難病・てんかん対策」と「アレルギー疾患対策」に焦点を合わせます。

まず難病・てんかん対策では「診療情報提供料の拡充」が重要論点となりました。

難病やてんかんでは、専門医療機関とかかりつけ医とが連携した治療が重視されています。例えば指定難病については、難病の診断・治療の中核となる「難病診療連携拠点病院」や、病院の診療可能な分野に着目した「難病診療分野別拠点病院」の整備が進められています。そもそも日本全国に症例が少ない難病について、多くの病院がばらばらに治療・研究を進めたのでは、原因や治療法開発が遅々として進みません。そこで「症例を一定の医療機関に集約し、そこに知見も集約させる」ことで研究促進を図り、原因究明や治療法の開発などにつなげることが重視されているのです。前者の「難病診療連携拠点病院」は44自治体に79医療機関が、後者の「難病診療分野別拠点病院」は23自治体に61医療機関が指定されています。

しかし、これは患者サイドから見れば「専門医療機関へのアクセスが難しくなる」ことを意味します。このため、専門医療機関(拠点病院)と地域のかかりつけ医療機関とが連携して、難病治療に当たることが重要となるのです。かかりつけ医療機関からは専門医療機関に「現在の患者の状態や治療の経過」などを報告し、専門医療機関からかかりつけ医療機関には、その情報を踏まえた「治療に当たっての留意点」などが示されることで、難病患者が「身近な医療機関で、相当程度の専門的治療を受けられる」体制が確保できることになります。

指定難病に関する専門的な拠点病院と、かかりつけ医療機関との連携が重要である(中医協総会(2)1 211022)



てんかんでも同様で、専門医療機関(てんかん全国支援センター:国立精神・神経医療研究センター、てんかん支援拠点病院:2021年9月時点で23道府県に指定)とかかりつけ医医療機関とが十分な情報連携をし、患者が「身近な医療機関で、相当程度の専門的治療を受けられる」体制の確保が重要となるのです。

てんかんに関する専門的な拠点病院と、かかりつけ医療機関との連携が重要である(中医協総会(2)2 211022)

てんかんに関する専門的な拠点病院の整備が進んでいる(中医協総会(2)3 211022)



ところで、かかりつけ医(Aクリニックとする)から専門医療機関(難病の拠点病院やてんかん支援病院、B病院とする)に「患者の病態の変化や、日常治療の経過」などの情報提供を行う場合には、Aクリニックで【診療情報提供料(I)】(250点)の算定が可能です(もちろん、「患者の同意を得る」「診療状況を示す文書で情報提供する」などの算定要件を満たすことが大前提)。

一方、専門のB病院から、かかりつけのAクリニックへ情報提供(日常診療における留意点の指示など)を行う場合には、【診療情報提供(III)】(150点)の算定が認められるケースと認められないケースとがあります。

【診療情報提供料(III)】は、2020年度の前回診療報酬改定で新設された医療機関間の双方向の情報連携を評価する診療報酬項目ですが、算定するためには、例えば次の要件を満たす必要があります。
▼自院がかかりつけ医機能を評価する診療報酬項目(地域包括診療料・加算、小児かかりつけ診療料、在宅時医学総合管理料・施設入居時医学総合管理料(在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院のみ)を届け出ていること
▼相手先(ここではA医療機関)がかかりつけ医機能を評価する診療報酬項目(地域包括診療料・加算、小児かかりつけ診療料、在宅時医学総合管理料・施設入居時医学総合管理料(在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院のみ)を届け出ており、その旨を自院(ここではB専門医療機関)で確認していること

したがって、例えば難病やてんかんの専門病院であるB病院が、かかりつけ機能を有しておらず(上記点数を届け出ておらず)、また、紹介元であるAクリニックのかかりつけ医機能について把握していない(あるいはできない)場合には、B病院からAクリニックで「日常診療における留意点」などを懇切丁寧に情報提供したとしても、【診療情報提供(III)】(150点)を算定できないのです。

一方、B病院が、Aクリニックのかかりつけ医機能を把握している場合(例えば、Aクリニックからの診療情報提供書に、Aクリニックが「自院は地域包括診療料を把握している」旨などが記載されている)には、B→Aの情報提供によって【診療情報提供(III)】(150点)が算定可能となります。

難病等の専門医療機関から、かかりつけ医療機関へ情報連携したとしても、診療情報提供料(III)の算定ができないケースがある(中医協総会(2)4 211022)



この事態はB病院にとって「不合理である。Aクリニックの施設基準届け出などを、こちらに確認せよと求められても、できないケースもある」という思いが生じかねません。また、医療現場の多忙さを考慮すれば、こうした事態を放置することにより「B→Aの情報提供に支障が出る」可能性もあります。

このため中医協では、「診療情報提供料(III)の施設基準・算定要件を見直し、B→Aの情報提供を経済的にサポートする必要がある」との意見が診療側・支払側双方から示されました。この「診療情報提供料(III)の見直し」という論点は、「外来医療その2」でも同様の議論が行われており、2022年度改定における重要ポイントの1つとなりそうです。医療機関間の「双方向の情報連携」がさらに推進されることに期待があつまります。

なお、難病対策・てんかん対策に関しては、2020年度の前回改定で【遠隔連携診療料】が創設されています。指定難病・てんかんの患者がかかりつけ医療機関(上記例ではAクリニック)を受診した際、専門医療機関(上記例ではB病院)の医師が、オンラインで診療に参画することを評価するもので、いわゆる「D to P with D」のモデル的なケースと言えるでしょう。現時点では、この【遠隔連携診療料】見直しに向けた論点は出ていませんが、今後、オンライン診療を議論する際に、論点の1として浮上する可能性もあります。

2020年度診療報酬改定では「D to P with D」を評価する遠隔連携診療料が創設された

主治医→学校医等の「児童・生徒のアレルギー情報連携を【診療情報提供料(I)】で評価へ

アレルギー疾患対策では、小児のアレルギー疾患罹患者について、その情報を主治医から学校医等へ連携した場合の評価が論点となりました。

食物アレルギー等を持つ小児が増加しているとの報告があります。その際、学校側が生徒の食物アレルギー情報を知らずに給食を提供した場合、重篤な事態を引き起こす可能性もあります(現にそうした痛ましい事故が発生している)。

このため、アレルギー疾患を持つ児童・生徒の主治医から、学校医等に対して「アレルギーの原因は何か。緊急時にはどういった対応(例えばエピペン投与など)をとればよいか。日常の学校生活ではどういった点に留意すればよいか」などの情報が十分に提供されることが重要で、実際に情報提供が行われてきています。

児童のアレルギー情報について、主治医から学校医等への連携が行われている(その1)(中医協総会(2)7 211022)

児童のアレルギー情報について、主治医から学校医等への連携が行われている(その2)(中医協総会(2)8 211022)



しかし、この情報提供は【診療情報提供料(I)】(250点)の対象とはならず、現在は、例えば「患者・家族が『自費』で情報提供を主治医に依頼し、その情報を学校医に提出する」という形態などがとられています。

診療情報提供料の算定が可能な場面(中医協総会(2)5 211022)



この点、2020年度の前回診療報酬改定で「医療的ケア児に関する情報を、主治医から学校医等へ提供した場合に【診療情報提供料(I)】(250点)を算定することを認める」との見直しが行われたことを踏まえ、厚生労働省保険局医療課の井内努課長は「アレルギー疾患を持つ児童・生徒の情報提供についても、同様に考えることはできないだろうか」という問題提起を行い、中医協に議論を要請しています。

医療的ケア児についての主治医から学校医等への連携は、2020年度改定で診療情報提供料(I)の対象に加えられた(中医協総会(2)6 211022)



診療側・支払側委員ともに「アレルギー疾患を持つ児童・生徒の情報提供を主治医から学校医等へ行う場合も、【診療情報提供料(I)】(250点)の算定対象とすべき」という方向で意見は一致しており、今後、厚労省で詳細な要件設定等を詰めることになるでしょう。

診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は「児童・生徒の命にかかわる問題でもあり、【診療情報提供料(I)】での評価を行うべきである。埼玉県では、アレルギー情報等を共有する学校生活管理指導表(アレルギー疾患料)を活用して、主治医と学校医等との間で『この自動は、どういった食物は口にしてよい』『追加のアレルゲン検査が必要なのではないか』という一歩進んだ取り組みが行われている」と強調。また同じ診療側の池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は「保育所でもアレルギー対策が重要であり、算定対象に加えるべき」と進言しています。

また支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、診療情報提供料の算定対象拡大方向に異論は述べていませんが、「どこまでの情報提供を医療保険制度の中で給付対象とすべきかを一度整理する必要がある」とコメントしました。情報連携を進めるために経済的な評価を行うことには合理性がありますが、「それは医療者として当然の情報連携・共有ではないのか」と思われる部分にまで経済的な評価が行われる(拡大されすぎる)ことに疑問が生じることも確かです。「ここまでは医療者として当然の情報提供である。基本診療料などに含まれていると考えられる」「ここからは特別な情報提供と言え、経済的な評価(点数上の評価)を行い、促進していくべき」という整理は、どこかの時点でする必要がありそうです。



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