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診療報酬改定セミナー2024 2024年度版ぽんすけリリース

かかりつけ医要件を法令等で明確化せよ、医療資源散在是正のため地域医療構想の実現を急げ―健保連

2021.10.22.(金)

新型コロナウイルス感染症が大流行する中で、我が国の医療には「医療提供体制の硬直性・脆弱性」「医療資源の散在」などの課題があることが顕在化した、地域医療構想の実現やかかりつけ医の推進などにより、こうした課題の是正に努める必要がある―。

かかりつけ医については、その要件を明確化し、法令等にそれを規定するべきである―。

医療技術の高度化、少子高齢化が進む中で、医療保険制度の財政基盤が脆くなり、今後も脆弱化が進む。医療保険制度を維持するために、例えば「保険給付範囲の見直し」「後期高齢者医療制度の見直し」などを行う必要がある―。

健康保険組合連合会は10月19日に、こうした提言「安全・安心な医療と国民皆保険制度の維持に向けて」を公表しました(健保連のサイトはこちら)。

かかりつけ医の要件・機能を法令等で明確化せよ

たとえば医療技術の高度化(例えば脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)などの超高額薬剤の保険適用が相次ぎ、さらにキムリアに類似した、やはり超高額な血液がん治療薬も次々に登場)、少子高齢化の進展(来年度(2022年度)から、いわゆる団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、2025年度には全員が後期高齢者となる。2025年度から2040年度にかけては、高齢者の増加ペース自体は鈍化するものの、現役世代人口が急速に減少する)により、我が国の医療保険財政は厳しさを増していきます。このため「医療費の伸びを、我々国民が負担できる水準に抑える」(医療費適正化)方策が欠かせません。

主に大企業の会社員とその家族が加入する健康保険組合(健保組合)、および、その連合組織である健康保険組合連合会(健保連)でも、こうした状況を踏まえ「医療保険制度の維持」に向けた検討を続けており、今般、提言を行ったものです。

健保連提言は、(1)コロナ禍を通じて明らかになった課題と対応(2)社会情勢の変化に応じた課題と対応—の2つの柱で構成されています。

健保連の提言「安全・安心な医療と国民皆保険制度の維持に向けて」(1)(2021.10.19)

健保連の提言「安全・安心な医療と国民皆保険制度の維持に向けて」(2)(2021.10.19)



まず(1)では、今般の新型コロナウイルス感染症の大流行を通じて、入院・外来ともに▼医療提供体制の硬直性・脆弱性▼医療資源の散在―などといった諸問題が顕在化した点ヲ捉え、「医療に対する国民の不安が高まるなか、安全・安心で、必要な時に必要な医療にアクセスできる体制を堅持することが最も重要である」と強調。今後の方向性として、(i)「かかりつけ医」の推進と「かかりつけ医制度」の構築(ii)地域医療構想の着実な推進―の2点に掲げています。

後者の(ii)の地域医療構想は、「医療資源の散在」という課題に対応する狙いがあります。自由開業医制が敷かれている我が国では、小規模医療機関が乱立し、これにより医療資源(医療人材や医療設備)が広く薄く配置され、また症例(患者)も分散してしまっています。医療資源の散在は、例えばコロナ禍では「医療提供体制の逼迫」(人材不足により重症患者が受けられない)という形で現れ、また平時にも「個々のスタッフ(医師や看護師など)の負担が過重になる」という形でも現れます。

また、資源・症例の散在は「医療の質向上」を阻害することが、Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパンと米国メイヨークリニックとの共同研究で明らかになっています(症例集約により医療の質向上が期待できる)。

人工膝関節置換術における症例数と術後合併症の関係



地域医療構想は、地域の医療ニーズを高度急性期・急性期・回復期・慢性期等別に推計し、地域の医療資源(ベッド)をニーズに合わせていくものです。このため「医療資源の集約化」にダイレクトにつながるものとは言い切れませんが、構想実現に向けた協議を地域で進める中で「救急医療は〇〇病院と〇〇病院に集約してはどうか」、「その分、●●病院と●●病院で回復期や慢性期患者を引き受けることとしてはどうか」、「急性期機能・回復期機能の整理・再編を進めるにあたり、◇◇病院と◇◇病院との合併・統合が必要なのではないか」という議論が行われ、間接的に「医療資源の集約化」を促す効果が期待できます。

健保連では、「急性期病床の集約化・強化」「2024-29年度を対象とする第8次医療計画」も見据えて、地域医療構想の実現に注力することを強く求めています。



また前者(i)の「かかりつけ医」に関しては、例えば「まず『かかりつけ医』を受診し、そこから『高機能の病院外来』を紹介してもらう」という患者の流れを強化することにより、▼地域医療連携の推進▼高機能病院の負担軽減▼高機能病院での重症患者への資源集中▼地域住民の総合的な健康・疾病管理―というメリットが期待できます。このため「多くの国民に『かかりつけ医』を持ってもらう」という方向に反対する声は聞こえてきません。

この点、健保連では「制度化」「要件(患者をよく知っている・患者の多様なニーズに応えられる・国民・患者に選ばれる)の法令等での明確化」を打ち出していますが、こうした考えには異論を唱える識者が少なくありません。

Gem Medでも指摘していますが、「かかりつけ医」に対する患者の考え、受け止めは千差万別です。ある患者は「赤髭先生」や「総合診療医」をイメージするかもしれません。別の患者は「内科のかかりつけ医は〇〇先生、整形外科のかかりつけ医は●●先生、眼科のかかりつけ医は◇◇先生」と複数のかかりつけ医を持っているかもしれません。またがんや難治性疾患と闘っている患者は「●●大学病院の●●疾患を専門とする▲▲先生がかかりつけ医である」と考えているかもしれません。

つまり、「●●の要素はかかりつけ医機能の1つと考えられる」「◇◇の要素もかかりつけ医の1つと言えそうだ」など、個々の要素を取り上げることしかできず、「●●や◇◇の全要素を全て備えた医師がかかりつけ医である」と「かかりつけ医像」の共通認識を作り上げることは極めて困難なのです(ある識者は、かかりつけ医の要件は「医師である」こと以上に限定できない、と冗談交じりに語っている)。

仮に一部関係者で「かかりつけ医の要件」を固めたとして、それが国民・患者の意識とマッチするかどうかは微妙であると言わざるを得ないでしょう。

また、上記のような点に鑑みれば、診療報酬において「かかりつけ医のこの要素は●●点数として評価する」「かかりつけ医の別のある要素は◇◇点数として評価する」という手法が合理的であることも理解できます。

健保連が「かかりつけ医の要件を法令等で明確化する」と考える背景には、例えば米国のマネジドケアや、英国のGP(General Practitioner)制のように「患者の医療機関受診をコントロールする」ことを目指しているのかもしれません(マネジドケアでは保険者が医療機関受診の可否をまず判断し、GP制ではする患者は決められたGPを受診しなければ公的医療サービスを受けられない)。我が国においてこうした仕組みがマッチするのか、医療保険財政的に「可」かもしれないが、患者にとって「可」と言えるのか(少なくとも健保組合加入者の意向に沿っているのか)などを、慎重に検討していく必要がありそうです。

医療保険制度を維持するため、保険給付範囲の見直し・高齢者医療制度の見直しなど進めよ

一方、(2)では、「現在の医療保険制度では、現役世代の負担が過重になっている」状況を訴え、(i)保険給付範囲の見直しや薬剤費の伸びを抑制するなど「医療の重点化・効率化」を行う(ii)世代間の負担バランスの是正、現役世代の負担軽減を行う(全世代で支えあう仕組み)(iii)社会保険の保険原理が適正に機能する仕組みとする―ことを提言しました。

まず(i)の「保険給付範囲の見直し」が必ず検討しなければならない重要テーマ(逃げられないテーマ)であることはGem Medでもお伝えしているとおりです。今回の提言では、▼医療費適正化計画の取り組み強化(地域差是正、医療費が見込みを上回る場合の対応、保険者協議会の関与強化等)▼市販品類似薬の保険給付範囲からの除外・給付率の見直し、フォーミュラリ(例えば「●●疾患には第1選択として後発品の●●薬を選択する」などの医薬品使用方針といったイメージ)普及・リフィル処方(医師が認めた場合、一定期間、反復使用できる処方箋)の早期導入―などが打ち出されました。

すでに中央社会保険医療協議会や社会保障審議会・医療保険部会で議論されている項目です「新味に欠ける」とも思われますが、「すでに議論の俎上に上がっている項目であり、議論を忌避される可能性は小さい。まずこれを突破口に保険給付範囲の見直し進め、そこから本格的な給付範囲見直し論議につなげていく」考えとも受け取れます。



また(ii)では、過重になっている現役世代負担を抑えるために▼後期高齢者の保険料負担割合を見直し、後期高齢者と現役世代の負担の伸びの均衡を図る▼後期高齢者の窓口負担の原則2割化(一定以上所得者の2割負担の早期実施、低所得者を除いた原則2割負担の検討を継続)▼現役並み所得者(3割負担となる)の対象範囲拡大と、現役並み所得者の給付費への公費投入―といった、医療保険制度にかかるテクニカルな提言を行っています。



さらに(iii)では、例えば▼高齢者医療への拠出金負担の上限設定、前期高齢者財政調整の見直し(高齢者が増加する中で、高齢者医療費を支えるための現役世代の支出(拠出金)が大きくなりすぎている)▼拠出金負担の見える化(後期高齢者支援金、介護納付金の保険料率を「国が審議会の意見を聞いて定める」よう見直す)▼社会保障のための財源確保などの検討(税財源の確保、年金控除や非課税年金の見直し)―などを示しました。



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