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診療報酬改定セミナー2024 新制度シミュレーションリリース

2018年度の生活習慣病医療費、入院では脳血管障害、入院外では糖尿病が最多—健保連

2020.8.17.(月)

2018年度における生活習慣病の医療費を分析すると、▼入院では家族において、脳血管障害・人工透析の医療費シェアが大きく増加し、人工透析が医療費第2位に浮上した▼入院外では、糖尿病が前年度に続いて生活習慣病における医療費シェア第1位となっている―。

健康保険組合連合会が8月13日に公表した2018年度の「生活習慣関連疾患医療費に関する調査」から、こういった状況が明らかになりました(健保連のサイトはこちら)(2017年度の状況に関する記事はこちら、2016年度に関する記事はこちら)。

健保組合加入者の家族、脳血管障害・人工透析の医療費増加が顕著

主に大企業で働くサラリーマンとその家族が加入する健康保険組合(健保組合)の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)は、さまざまな角度から加入者のレセプトを分析し、各種提言を行うなど、かねてからデータヘルスに積極的に取り組んでいます(下段の関連記事をご参照ください)。

「医療費が増加し我が国の財政を圧迫している」と指摘される中では、加入者が自分自身で生活習慣や医療機関受診行動を変容させることが重要であり、保険者(健保組合等)が加入者の行動変容に向けてデータに基づいた支援を行っているのです。

今般、1280組合におけるレセプト2億7080万3075件を対象に、生活習慣病(▼糖尿病▼脳血管障害▼虚血性心疾患▼動脈閉塞▼高血圧症▼高尿酸血症▼高脂血症▼肝機能障害▼高血圧性腎臓障害▼人工透析―の10疾患)医療費について分析を行っています。以下、分析結果を眺めてみましょう。

2018年度における健保組合加入者の医科・調剤医療費は約3兆5273億円で、このうち生活習慣病10疾患の医療費は4318億円で、医科・調剤医療費に占める割合は全体の12.2%(前年度に比べて0.9ポイント減)となりました。

入院と入院外に分けると、入院565億円(生活習慣病10疾患医療費の13.1%)、入院外3753億円(同86.9%)で、入院外が約9割を占めている状況に大きな変化はありません。

ここから、入院と入院外とのそれぞれについて、疾患別に医療費の状況を見ていきましょう。まず入院についてです。

「入院における生活習慣病10疾患医療費」を100として、疾患別の構成を見ると、▼脳血管障害:36.6%(前年度から2.6ポイント増)▼虚血性心疾患:29.0%(同2.7ポイント減)▼糖尿病:12.4%(同0.2ポイント減)▼高血圧症:9.5%(同0.1ポイント増)▼人工透析:9.0%(同0.1ポイント増)—などが多くなっています。前年度から順位の変動はありません。

入院における生活習慣病医療費の疾患別構成(2018年度生活習慣病医療費調査1 200813)



被保険者本人(以下、本人)と家族で分けて見ると、本人では▼虚血性心疾患:34.5%(前年度から2.1ポイント減)▼脳血管障害:34.1%(同2.6ポイント増)▼糖尿病:11.7%(同0.1ポイント減)▼高血圧症:9.2%(同0.4ポイント増)▼人工透析:7.0%(同増減なし)―、家族では▼脳血管障害:43.8%(同2.5ポイント増)▼人工透析:14.8%(同0.2ポイント増)▼糖尿病:14.4%(同0.5ポイント減)▼虚血性心疾患:12.3%(同1.6ポイント減)▼高血圧症:10.7%(同0.6ポイント減)―の順となっています。「家族で脳血管障害のシェアがさらに増加した」「家族で人工透析のシェアが増え、第2位に増加した」点などが気になります。今後の状況を注視する必要があるでしょう。

入院における本人・生活習慣病医療費の疾患別構成(2018年度生活習慣病医療費調査2 200813)

入院における家族・生活習慣病医療費の疾患別構成(2018年度生活習慣病医療費調査3 200813)

生活習慣病医療費を3要素に分解し、「疾患の特性」に応じた適正化対策が重要

医療費の適正化を考える際には、「患者を減らす」(例えば、生活習慣を改善して病気にかからないようにしたり、不要な医療機関受診を控えるなど)ことと、「1人当たり医療費を低くする」(例えば、検診等によって病気を早期発見し、早期治療に結びつけたり、不要な検査や医薬品投与を是正したりするなど)こととに、分けて考えることが有用です。ここでは後者の「1人当たり医療費」について詳しく見てみましょう。

本人では、▼虚血性心疾患:956円(前年度に比べて109円減)▼脳血管障害:946円(同56円増)▼糖尿病:325円(同8円減)▼高血圧症:254円(同5円増)▼人工透析:195円(同3円減)―の順で医療費が高くなっています。

入院における本人・生活習慣病の1人当たり医療費(2018年度生活習慣病医療費調査4 200813)



さらに、これら疾患の「1人当たり医療費」を、(1)受診率(1000人当たり件数)(2)1件当たり日数(3)1日当たり医療費—の3要素に分解してみると、次のような状況が分かります。

▽虚血性心疾患:「1日当たり医療費」が4万3491円(前年度に比べて1458円増)で、10疾患中最も高い

▽脳血管障害:「1件当たり日数」が16.6日(同0.1日延伸)で10疾患中2番目に高く、「1日当たり医療費」が2万7838円(同2439円増)で3番目に高い

▽糖尿病:「受診率」が7.0(同0.2減)で、10疾患中2番目に高い

▽高血圧症:「受診率」が8.8(同増減なし)で、10疾患最も高い

▽人工透析:「1日当たり医療費」が3万3020円(同167円増)で、10疾患中2番目に高い

入院における本人・生活習慣病の1人当たり医療費の3要素分解(2018年度生活習慣病医療費調査5 200813)



一方、家族の「1人当たり医療費」が高い疾患は、▼脳血管障害:522円(前年度に比べて17円増)▼人工透析:176円(同2円減)▼糖尿病:172円(同11円減)▼虚血性心疾患:146円(同54円減)▼高血圧症:127円(同11円減)―の順で医療費が高くなっています。人工透析が2位に浮上しています。

入院における家族・生活習慣病の1人当たり医療費(2018年度生活習慣病医療費調査6 200813)



3要素に分解してみると、次のような状況が伺えます。

▽脳血管障害:「1件当たり日数」が17.7日(前年度に比べて0.2日短縮)、「1日当たり医療費」が2万844円(同1964円増)で、ともに10疾患中2番目に高い

▽人工透析:「1日当たり医療費」が2万9608円(同1643円増)で群を抜いて高い(10疾患中最高)

▽糖尿病:「受診率」が3.9(同0.3減)で、10疾患中2番目に高い

▽虚血性心疾患:「1日当たり医療費」が1万234円(同210円減)で10疾患中3番目に高い

▽高血圧症:「受診率」が4.4(同0.2減)で、10疾患中最も高い

入院における家族・生活習慣病の1人当たり医療費の3要素分解(2018年度生活習慣病医療費調査7 200813)



こうしたデータをもとに「1人当たり医療費」を低くする方策(もちろん医療の質は担保しなければならない点は述べるまでもない)を考えてみると、次のような大枠の整理ができそうです。

▼受診率の高い疾患(本人・家族ともに高血圧症・糖尿病・高脂血症)については、生活習慣の改善を支援し、「予防」を推進する
→まさに「保険者機能」が問われる部分であり、保険者ごとに「同じ疾患の受診率」を比較するなどの取り組みにも期待が集まる

▼1件当たり日数の長い疾患(本人・家族ともに動脈閉塞や脳血管障害、人工透析)については、「早期退院」に向けて、医療機関における入退院支援や在宅医療体制整備、早期のリハビリテーション実施などを総合的に進める
→診療報酬での対応が効果的であり、中央社会保険医療協議会などでの議論に期待が集まる

▼1日当たり医療費の高い疾患(本人・家族ともに脳血管障害や人工透析)については、医療の質が低下しては本末転倒なため、必要な医療を確保した上で、同じ効果で低価格の後発医薬品の使用を進める
→学会等が主導し、「医療の質を保ちながら、経済性をも考慮した診療ガイドライン」の策定などに期待が集まる

入院外における「糖尿病」の医療費シェア増加続き、2017年度に続き18年度も第1位

次に入院外を見てみましょう。前述のとおり、生活習慣病医療費の9割は入院外で発生しており、その動向を確認することが医療費適正化に向けて極めて重要となります。

「入院外における生活習慣病10疾患医療費」を100として疾患別の構成を見ると、▼糖尿病:31.1%(前年度から2.0ポイント増)▼高血圧症:26.3%(同2.7ポイント減)▼高脂血症:18.1%(同0.2ポイント減)▼人工透析:16.3%(同0.4ポイント増)▼高尿酸血症:2.9%(同0.5ポイント増)▼虚血性心疾患:2.7%(同0.1ポイント増)—などが多くなっています。前年度に続き糖尿病がシェア第1位となっています。

入院外における生活習慣病医療費の疾患別構成(2018年度生活習慣病医療費調査10 200813)



本人・家族別に見ると、本人では▼糖尿病:31.7%(前年度から2.0ポイント増)▼高血圧症:27.0%(同2.9ポイント減)▼高脂血症:17.3%(同0.2ポイント減)▼人工透析:15.3%(同0.5ポイント増)▼高尿酸値血症:3.5%(同0.5ポイント増)―、家族では▼糖尿病:29.0%(同1.9ポイント増)▼高血圧症:23.8%(同2.4ポイント減)▼高脂血症:20.7%(同0.2ポイント減)▼人工透析:19.7%(同0.3ポイント増)▼脳血管障害:2.7%(同増減なし)―の順です。本人についても糖尿病がシェア第1位となりました(前年度までは高血圧症が1位)。

入院外における本人・生活習慣病医療費の疾患別構成(2018年度生活習慣病医療費調査11 200813)

入院外における家族・生活習慣病医療費の疾患別構成(2018年度生活習慣病医療費調査12 200813)



1人当たり医療費を見てみると、本人では▼糖尿病:5987円(前年度に比べて237円増)▼高血圧症:5110円(同666円減)▼高脂血症:3266円(同114円減)▼人工透析:2893円(同33円増)―の順で高くなっています。やはり糖尿病が第1位に躍り出ています。

入院外における本人・生活習慣病の1人当たり医療費(2018年度生活習慣病医療費調査13 200813)



3要素に分解してみると、次のような状況です。

▽糖尿病:「受診率」が581.2(前年度に比べて21.4増)で、10疾患中3番目に高い

▽高血圧症:「受診率」が864.4(同20.9増)で、10疾患中最も高い

▽高脂血症:「受診率」が777.9(同29.0増)で、10疾患中2番目に高い

▽人工透析:「1件当たり日数」12.4日(同増減なし)と「1日当たり医療費」3万658円(同66円増)が、飛び抜けて高い(いずれも最多)

入院外における本人・生活習慣病の1人当たり医療費の3要素分解(2018年度生活習慣病医療費調査14 200813)



一方、家族に目を移すと、「1人当たり医療費」が高い疾患は、▼糖尿病:2103円(前年度に比べて22円増)▼高血圧症:1728円(同280円減)▼高脂血症:1501円(同100円減)▼人工透析:1427円(同60円減)―などです。

入院外における家族・生活習慣病の1人当たり医療費(2018年度生活習慣病医療費調査15 200813)



3要素に分解してみると、次のような状況が分かります。

▽糖尿病:「受診率」が247.7(前年度に比べて3.4増)で10疾患中3番目に高く、「1日当たり医療費」が6054円(同7円増)で、2番目に高い

▽高血圧症:「受診率」が336.7(同3.9減)で、10疾患中2番目に高い

▽高脂血症:「受診率」が362.4(同1.7増)と10疾患中最も高い

▽人工透析:「1件当たり日数」が12.5日(同0.1日減)と「1日当たり医療費」が2万8256円(同559円減)と、飛び抜けて高い

入院外における家族・生活習慣病の1人当たり医療費の3要素分解(2018年度生活習慣病医療費調査16 200813)



人工透析については、2018年度・20年度改定で「適正化」(例えば合併症治療薬の後続品登場を踏まえた点数の引き下げなど)が行われており、今後の医療費動向に注目する必要があるでしょう。

また、本人・家族ともに受診率の高い▼糖尿病▼高血圧症▼高脂血症―に関しては、生活習慣の改善による「予防」、適正な医療機関受診による「重症化予防」が極めて重要となります。この点、オンライン診療の活用により「軽症者の治療からのドロップ(多忙かつ面倒である)を防止し、重症化を予防できるのではないか」という点に注目が集まっており、今後の診療報酬改定等に注目が集まるでしょう。

40歳を過ぎると、虚血性心疾患、脳血管障害、高血圧症のリスクが急騰

さらに、「生活習慣病10疾患の医療費」を100として、年齢階層別に「10疾患の構成割合」を見てみると、次のような状況が浮かんできました。ここからも40歳以上を対象とした「特定健診」「特定保健指導」の重要性を再確認することができます。

【入院】
▽本人では、40歳代後半から「虚血性心疾患」の医療費シェアが急激に高くなり、55歳を過ぎると4割程度を占める

入院・本人の生活習慣病医療費の疾患別・年齢階層別シェア(2018年度生活習慣病医療費調査8 200813)



▽家族では、「脳血管障害」の医療費シェアが高く、また60歳をすぎると「虚血性心疾患」の医療費シェアが2桁になる

入院外・本人の生活習慣病医療費の疾患別・年齢階層別シェア(2018年度生活習慣病医療費調査17 200813)



【入院外】
▽本人・家族とも、40歳代から「高血圧症」の医療費シェアが増加する

入院・家族の生活習慣病医療費の疾患別・年齢階層別シェア(2018年度生活習慣病医療費調査9 200813)

入院外・家族の生活習慣病医療費の疾患別・年齢階層別シェア(2018年度生活習慣病医療費調査18 200813)

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