Generic selectors
Exact matches only
Search in title
Search in content
Search in posts
Search in pages
GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

狭心症では1日当たり医療費の高さが、脳梗塞では入院日数の長さが医療費に影響—健保連

2017.5.30.(火)

生活習慣病の入院医療費を分析すると、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)では「1日当たり医療費」の高さが、脳血管障害では「1件当たり日数」(入院日数)の長さが、糖尿病では「受診率」の高さが—大きく影響しており、外来医療費では高血圧症・糖尿病・高脂血症でも「受診率」の高さ、人工透析では「1日当たり医療費」の高さが医療費に大きく影響している―。

健康保険組合連合会が25日に公表した、2015年度の「生活習慣病医療費の動向に関する調査分析」からこのような状況が明らかになりました(健保連のサイトはこちら)。こうした分析結果をもとに、疾患の特性に応じた効果的な生活習慣病対策を進めることが重要と言えます。

生活習慣病は医療費の1割超を占め、入院が13%、入院外が87%

主に大企業で働くサラリーマンとその家族が加入する健康保険組合の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)では、データヘルスに積極的に取り組んでおり(関連記事はこちらこちらこちらこちら)、今般、1234組合の被保険者(サラリーマン本人)1447万2130人と家族1200万3043人のレセプト2億9275万2818件を対象として、生活習慣病(▼糖尿病▼脳血管障害▼虚血性心疾患▼動脈閉塞▼高血圧症▼高尿酸血症▼高脂血症▼肝機能障害▼高血圧性腎臓障害▼人工透析―の10疾患)医療費の動向を分析しました。

これら10疾患が総医療費(3兆7848億円、2015年度)に占める割合は11.3%(4291億円)で、うち入院が556億円(10疾患医療費の13.0%)、入院外が3735億円(同87.0%)となっています。

分析結果を眺めてみましょう。

本人の入院では虚血性心疾患、家族の入院では脳血管障害の医療費が多い

まず10疾患について医療費に占めるシェアを見てみると、入院では▼脳血管障害(10疾患における入院医療費の33.3%)▼虚血性心疾患(同32.4%)▼糖尿病(同12.9%)▼高血圧症(同10.2%)▼人工透析(8.0)―、入院外では▼高血圧症(10疾患における入院外医療費の32.2%)▼糖尿病(同26.9%)▼高脂血症(同18.5%)▼人工透析(同14.6%)―などが大きくなっています。

生活習慣病の医療費シェア、入院では脳血管障害や虚血性心疾患が多く、入院外では高血圧症や糖尿病が多い

生活習慣病の医療費シェア、入院では脳血管障害や虚血性心疾患が多く、入院外では高血圧症や糖尿病が多い

 
本人・家族別にみると、入院では「本人では▼虚血性心疾患(10疾患における本人入院医療費の38.6%)▼脳血管障害(同30.8%)▼糖尿病(同12.0%)―の順だが、家族では▼脳血管障害(10疾患における家族入院医療費の40.4%)▼糖尿病(同15.6%)▼虚血性心疾患(同14.7%)―の順」となっており、本人と家族で異なる様相を呈しています。入院外では、割合こそ異なりますが、▼高血圧症▼糖尿病▼高脂血症▼人工透析—という順位に違いがありません。
生活習慣病の入院医療費を本人と家族で分けてみてると、医療費のシェアについて本人と家族で違いがあることが分かった

生活習慣病の入院医療費を本人と家族で分けてみてると、医療費のシェアについて本人と家族で違いがあることが分かった

生活習慣病の入院外医療費を本人と家族で分けてみてみると、割合の違いはあるものの、疾患構成に大きな違いはない

生活習慣病の入院外医療費を本人と家族で分けてみてみると、割合の違いはあるものの、疾患構成に大きな違いはない

 

疾患によって医療費に影響を与える項目が違い、適正化対策も異なってくる

入院の生活習慣病医療費について少し詳しく見てみると、さらなる違いが見えてきます。

本人では、▼虚血性心疾患▼脳血管障害▼糖尿病―の順で医療費が高くなっており、1人当たり医療費も同様で、▼虚血性心疾患:1095円▼脳血管障害:874円▼糖尿病:339円―となっています。これを医療費の3要素である受診率(1000人当たり件数)、1件当たり日数、1日当たり医療費に分解すると、▼虚血性心疾患では「1日当たり医療費」が高い▼脳血管障害では「1件当たり日数」が長く、「1日当たり医療費」も比較的高い▼糖尿病では「受診率」が高い—ことが分かります。

生活習慣病の入院医療費を「1人当たり」で見てみると、本人では虚血性心疾患がもっとも高く、家族では脳血管障害がもっとも高い

生活習慣病の入院医療費を「1人当たり」で見てみると、本人では虚血性心疾患がもっとも高く、家族では脳血管障害がもっとも高い

生活習慣病の入院1人当たり医療費を3要素に分解すると、疾患それぞれで特性があることが分かる(本人)

生活習慣病の入院1人当たり医療費を3要素に分解すると、疾患それぞれで特性があることが分かる(本人)

 
家族に目を移すと、▼脳血管障害▼糖尿病▼虚血性心疾患―の順で医療費が高くなっており、1人当たり医療費も同様で、▼脳血管障害:490円▼糖尿病:189円▼虚血性心疾患:178円―となっています。これを医療費の3要素に分解すると、▼脳血管障害では「1件当たり日数」が長く、「1日当たり医療費」も高い▼糖尿病では「受診率」が高い▼虚血性心疾患では、「1件当たり日数」が長い—状況となっています。本人とことが分かります。
生活習慣病の入院1人当たり医療費を3要素に分解すると、疾患それぞれで特性があることが分かる(家族)

生活習慣病の入院1人当たり医療費を3要素に分解すると、疾患それぞれで特性があることが分かる(家族)

 
ここから「生活習慣病での入院医療費」を適正化するための手法が見えてきそうです。

例えば、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)では、とくに本人について1日当たり医療費が高くなっていますが、これは冠動脈形成術などの高点数手術が必要なためと考えられます。この手術を控えることは難しく、やはり「予防」、つまり生活習慣の改善に向けた指導を強力に進める必要があるでしょう。

一方、脳血管障害では「1件当たり日数」が長いことから、医療費適正化に向けては、早期の集中的なリハビリなどによる在宅復帰の促進が重要と考えられそうです。

また糖尿病では「受診率」の高さが注目され、「予防」や「重症化予防」(入院に至らない程度に病状を抑える)ことが必要と考えられます。

入院外の生活習慣病医療費、高血圧症、糖尿病、高脂血症、人工透析の順で高い

次に入院外の生活習慣病医療費を見てみましょう。

本人・家族ともに▼高血圧症▼糖尿病▼高脂血症▼人工透析―の順で医療費が高く、1人当たり医療費を見ると、本人では▼高血圧症:6358円▼糖尿病:5279円▼高脂血症:3380円▼人工透析:2608円―、家族では▼高血圧症:2345円▼糖尿病:1994円▼高脂血症:1693円▼人工透析:1406円―となっています。

生活習慣病の1人当たり入院外医療費を見ると、本人・家族ともに高血圧症がもっとも高い

生活習慣病の1人当たり入院外医療費を見ると、本人・家族ともに高血圧症がもっとも高い

 
医療費の3要素に分解すると、▼高血圧症では「受診率」が高い▼糖尿病でも「受診率」が高い▼高脂血症でも「受診率」が高い▼人工透析では「1件当たり日数」が長く、「1日当たり医療費」が高い—状況が伺えます(本人・家族とも同じ構造)。
生活習慣病の1人当たり入院外医療費を3要素に分解すると、疾患それぞれで特性があることが分かる(本人)

生活習慣病の1人当たり入院外医療費を3要素に分解すると、疾患それぞれで特性があることが分かる(本人)

生活習慣病の1人当たり入院外医療費を3要素に分解すると、疾患それぞれで特性があることが分かる(家族)

生活習慣病の1人当たり入院外医療費を3要素に分解すると、疾患それぞれで特性があることが分かる(家族)

 
このうち人工透析については、日数の短縮や単価(1日当たり医療費)の抑制を行うことは難しく、「透析に至らないような重症化予防」が極めて重要なことが再確認できます。

また高血圧症・糖尿病・高脂血症—については、受診率を抑えるための「予防」施策を強化することが重要でしょう。糖尿病の予防は、結果として「人工透析の予防」にもつながるため、生活習慣の改善に向けた指導や運動指導をさらに充実させる必要がありそうです。

ところで中央社会保険医療協議会では、健保連の幸野庄司理事が委員として参加しており「ICTを活用した生活習慣病治療」を提唱しています(関連記事はこちら)。同様の考えは塩崎恭久厚生労働大臣からも示されていますが(関連記事はこちら)、受診率の高い高血圧症や糖尿病において、患者の日々の状況を把握するためにICTを活用することがどこまで効果を及ぼすのか、今後の研究にも注目が集まります。

サラリーマン本人、年齢が上がるにつれ虚血性心疾患の医療費が高くなる

健保連では10疾患それぞれについて、入院・入院外別、本人・家族別の分析に加え、「年齢階層別」の分析も行っています。

例えば10疾患の生活習慣病医療費(入院)を100として、年齢階層別に「10疾患の構成割合」を見てみると、本人では「若年では糖尿病の割合が比較的高いが年齢が上がるにつれて減少し、逆に虚血性心疾患の医療費が高まる(50歳代から60歳代では4割程度)。脳血管障害の医療費は年齢による大きな変動はない」ことなどが、家族では「虚血性心疾患と人工透析について、年齢が上がるにつれて医療費の割合が高くなる」ことなどが分かります。

年齢階層別に生活習慣病の入院医療費を分析すると、本人では年齢が上がるほど「虚血性心疾患」のシェアが高まる

年齢階層別に生活習慣病の入院医療費を分析すると、本人では年齢が上がるほど「虚血性心疾患」のシェアが高まる

年齢階層別に生活習慣病の入院医療費を分析すると、家族でも、本人ほどではないが、年齢が上がるほど「虚血性心疾患」のシェアが高まる

年齢階層別に生活習慣病の入院医療費を分析すると、家族でも、本人ほどではないが、年齢が上がるほど「虚血性心疾患」のシェアが高まる

 

1入院当たり医療費、脳血管障害では82万円、人工透析では73万円

なお、10疾患別の「1入院当たり医療費」を推計すると、本人では▼脳血管障害:82万2243円▼人工透析:73万3072円▼虚血性心疾患:54万6146円▼動脈閉塞:24万3587円―が高く、家族では▼人工透析:99万4811円▼脳血管障害:72万8941円▼動脈閉塞:25万5318円▼虚血性心疾患:24万7656円―が高くなっています。

生活習慣病の1入院当たり医療費を推計すると、本人では脳血管障害が、家族では人工透析がもっとも高い

生活習慣病の1入院当たり医療費を推計すると、本人では脳血管障害が、家族では人工透析がもっとも高い

 
被保険者本人・家族に対して生活習慣病対策の重要性を説くためには、この「家計に与える医療費負担など」も重要かつ効果的でしょう。生活習慣病で入院しなければならなくなれば、「これだけ高額の医療費」(もちろん高額療養費による上限はあるが)がかかる点も説明し、生活習慣病の予防や重症化予防の重要性について認識を深める必要がありそうです。

 
病院ダッシュボードχ 病床機能報告MW_GHC_logo

【関連記事】
統合失調症や気分障害は男性で、神経症性障害は女性で1人当たり医療費が高い—健保連
医科入院・入院外とも、本人より家族の1人当たり医療費が高い—健保連
感冒やアレルギー性鼻炎の医療費分析、サラリーマン本人は家族に比べ「受診せず」―健保連
肥満や血圧などの健康リスク保有者、罹患疾病トップは高血圧症―健保連
がん医療費は医療費全体の1割強、うち乳がんの医療費が最多で14.5%占める―健保連調査
肥満者のほうが健康リスクが高く、その内容も複雑―健保連調査
健保組合の生活習慣病対策、特定健診実施率は72.4%、特定保健指導では15.2%にとどまる―2014年度健保連調査
気分障害患者は全体の1.76%、神経症性障害等患者は全体の1.43%―健保連の2014年度調査
特定保健指導に生活習慣病リスク軽減や肝機能改善などの効果があることを実証―健保連
特定保健指導の未受診者は医療費1.5倍、医療費適正化に効果―健保連
医療保険制度の維持に向け、給付と負担の在り方を見直し、医療費適正化を進めよ―健保連

2018年度診療報酬改定で、オンライン診療を組み合わせた生活習慣病対策などを評価—未来投資会議
2018年度診療報酬改定に向け、臨床現場でのICTやAIの活用をどう考えるか―中医協総会(1)