医療保険制度の維持に向け、給付と負担の在り方を見直し、医療費適正化を進めよ―健保連
2016.11.4.(金)
我が国の医療保険制度を持続するためには「医療費適正化」や「給付と負担の在り方の見直し」を進めていく必要がある。そのために、例えば▼過度なフリーアクセスなどの是正▼診療の標準化の推進▼新たな技術に対する費用対効果評価▼世代間の負担の公平化―などを行うほか、負担能力に限界がある中で「どこまでを給付範囲とし、どこを給付外とするのか」を議論する必要がある―。
健康保険組合連合会が10月31日に公表した「医療費適正化に向けた給付と負担のあり方関する調査研究」報告書では、こういった考え方を強調しています(健保連のサイトはこちら)。
負担能力には限界があるため、「給付範囲」に関する議論もすべき
まず報告書では、医療保険制度の維持に向けて「給付」と「負担」の両面からの見直しを行うとともに、医療費の適正化を図る必要があることを確認。大きな方向としては、冒頭で示したように、▼過度なフリーアクセス(患者の大病院志向、重複受診、容体急変を除く時間外受診など)、残薬・重複検査などの無駄・非効率の是正▼有効性・安全性に加えて、経済性も考慮した診療の標準化▼新たな医療技術に対する費用対効果評価▼世代間における負担の公平化の確保―を行うことが必要と強調します。さらに、負担能力に限界がある中では、「どこまでを給付範囲とし、どこを給付外とするのか」を議論する必要があるとも指摘。今後は、「有効性・安全性が認められた医療技術は原則として保険導入する」という基本的な考えの妥当性も検討すべきとの提案です。
こうした方向性を確認した上で、報告書では、医療制度改革に向けた議論が、厚生労働省の社会保障審議会や中央社会保険医療協議会はもとより、経済財政諮問会議や規制改革会議、産業競争力会議、財政制度等審議会などでも行われていることを指摘。これらの会議で示された論点について見解を明らかにしています。目立つところを見てみましょう。
【給付に関する論点と見解】
現在、一般病床の入患患者については光熱水費にあたる居住費が原則として負担されていません。また療養病床の入院患者については、「65歳以上かつ医療区分1」の場合のみ居住費負担があります。しかし、「在宅療養の患者では光熱水費を負担している」こととの整合性が図れないとして、見直すべきか否かが検討されています。
この点について報告書は、▼治療の一環としての入院ではあるが、居住費が発生している▼在宅療養との公平性▼患者の住む場所で適切な医療・介護サービスを受ける視点の必要性―を考慮し、入院患者の居住費負担を見直すべき(一定の負担を求めるべき)と求めています(関連記事はこちら)。
次に財務省が提唱する「かかりつけ医以外を外来受診した場合の少額の定額負担」(受診時定額負担)については、「国民皆保険を維持するために患者負担を増やすという論理しか示されていない」と批判し、定額負担の趣旨を明らかにすることが必要と指摘。さらに▼改正健保法附則に定められた「医療給付は将来にわたり7割を維持する」との規定がある▼かかりつけ医の定義が定められておらず、制度としても機能していない―点を踏まえて、慎重な検討が必要であることを強調しています(関連記事はこちら)。
また生活習慣病治療薬の選択ルール(費用対効果なども踏まえた順位付け)などについては、英国で導入されている点や、聖マリアンナ医科大学病院など日本でも一部導入されている点等を踏まえて「EBMの推進により、有効性・安全性のほか、『経済性の視点』も含めた処方ガイドラインを整備し、普及・実践を図っていくことが必要」との考えを明らかにしています。
さらに市販品類似薬の保険給付の在り方については「給付からの除外」が必要と指摘。ただし、▼保険給付外とする市販品類似薬の範囲を選定する基準▼患者負担の増加▼市販品類似薬では市販品と異なる重篤な疾患の効能を有しているものがあるなど、保険給付と給付外の切り分けの考え方▼医薬品の安定供給への影響―などを考慮することが必要とも付言しています。
このほか、▼長期収載品の薬価引き下げ▼混合診療の禁止▼物価などに基づき出産育児一時金額を見直すルールへの改定―などが必要としています。
【負担に関する論点と見解】
負担の中で最も注目されるのが「高額療養費」です。現在、高齢者では負担上限が緩やかに設定されるほか、外来に着目した負担上限が設定されるなどの特例措置が設けられています。この点について報告書では「世代間の負担の公平化を図る」必要があるとし、高齢者の自己負担割合の引き上げや、外来特例の廃止をすべきと明確に指摘しています(関連記事はこちら)。
また75歳以上の後期高齢者では、医療機関の窓口負担が若人に比べて低く設定されています(原則1割、現役並み所得者は3割)。しかし報告書では、▼世代間の負担のバランス▼負担能力に応じた負担―という観点から、「75歳以上の自己負担は原則2割」にするとともに、「現役並み所得者」の判定基準も見直す必要があると指摘しています(関連記事はこちら)。
一方、専ら社会保障審議会・介護保険部会で議論されている「介護納付金への総報酬割導入」については、▼自らは給付を受ける可能性が極めて低い第2号被保険者が社会的扶養の観点から公平に負担を分かち合うために加入者割となっている▼協会けんぽへの国庫補助を健保組合に肩代わりさせるものである―といった点を強調し、明確に「反対」としています(関連記事はこちら)。
さらに、負担の公平性を図るために検討されている「マイナンバーなどを活用した金融試算の保有状況などを考慮して負担の在り方」については、我が国の原則(所得に応じた負担を求め、資産は勘案しない)を大きく変更するものであり慎重に検討する必要があると指摘。ただし、いわゆる「クロヨン」(会社員は所得の9割を補足されるが、自営業者は6割、農業などでは4割しか補足されないという不公平感)などの税制上の不合理については見直す必要があると明言しています。
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