2016年度は透析医療費が入院・入院外とも大きく増加、単価増が要因の1つ—健保連
2018.6.15.(金)
2016年度における生活習慣病の医療費を分析すると、「人工透析」の医療費が前年度から大きく増加しており、とくに「1日当たり医療費」の増加が、医療費増に結びついていると考えられる―。
健康保険組合連合会が6月14日に公表した2016年度の「生活習慣病医療費の動向に関する調査分析」から、このような状況が明らかになりました(健保連のサイトはこちら)(前年度の状況はこちら)。今後の診療報酬改定でも「透析」に関する適正化が重要なテーマとなる可能性が高いと考えられます。
目次
入院における「透析」医療費、生活習慣病医療費に占めるシェアが増加
主に大企業で働くサラリーマンとその家族が加入する健康保険組合の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)は、さまざまな角度からレセプトを分析し、各種提言を行うなど、かねてからデータヘルスに積極的に取り組んでいますり(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)、今般、1260組合におけるレセプト2億6403万5848件を対象に、生活習慣病(▼糖尿病▼脳血管障害▼虚血性心疾患▼動脈閉塞▼高血圧症▼高尿酸血症▼高脂血症▼肝機能障害▼高血圧性腎臓障害▼人工透析―の10疾患)医療費について分析を行いました。
以下、分析結果を眺めてみましょう。
2016年度における健保組合加入者の医科・調剤医療費は3兆4324億円で、このうち生活習慣病10疾患の医療費は4396億円で、医科・調剤医療費に占める割合は全体の11.2%(前年度に比べて0.1ポイント減)となりました。入院と入院外に分けると、入院567億円(生活習慣病10疾患医療費の12.9%)、入院外3829億円(同87.1%)で、入院外が9割を占めています。
ここから、入院と入院外に分けて、疾患別に医療費の状況を見ていきます。
「入院における生活習慣病10疾患医療費」を100として、疾患別の構成を見ると、▼脳血管障害:33.6%(前年度から0.3ポイント増)▼虚血性心疾患:31.4%(同1.0ポイント減)▼糖尿病:12.7%(同0.2ポイント減)▼高血圧症:10.0%(同0.2ポイント減)▼人工透析:8.9%(同0.9ポイント増)—などが多く、「透析」医療費のシェア増が気になります。
被保険者本人(以下、本人)・家族別に見ると、本人では▼虚血性心疾患:37.2%(同1.4ポイント減)▼脳血管障害:31.5%(同0.7ポイント増)▼糖尿病:11.9%(同0.1ポイント減)▼高血圧症:9.3%(同0.2ポイント減)▼人工透析:7.1%(同1.0ポイント増)―、家族では▼脳血管障害:39.9%(同0.5ポイント減)▼糖尿病:15.2%(同0.4ポイント減)▼人工透析:14.6%(同1.1ポイント増)▼虚血性心疾患:14.3%(同0.4ポイント減)▼高血圧症:12.0%(同0.1ポイント減)―の順となっています。「人工透析」のシェアが本人・家族ともに増加し、家族では虚血性心疾患を抜いて第2位に浮上しています。
1日当たり医療費、つまり単価の増加が「透析医療費」の増加に結び付く
医療費は、「患者数」と「1人当たり医療費」に分解することができますが、疾患別の入院患者数が示されていないので、後者の「1人当たり医療費」について詳しく見てみましょう。ちなみに「加入者に占める有病者割合」を疾患別に見ると、本人では▼高血圧症3.8%▼高脂血症3.4%▼糖尿病2.5%―、家族では▼高血圧症1.3%▼高脂血症1.3%▼糖尿病0.9%—が多くなっています。
本人では、▼虚血性心疾患:1042円(同53円減)▼脳血管障害:882円(同8円減)▼糖尿病:333円(同6円減)▼高血圧症:260円(同10円減)▼人工透析:198円(同26円増)―の順で医療費が高くなっています。透析において「1人当たり医療費」が増加しています。
さらに「1人当たり医療費」を(1)受診率(1000人当たり件数)(2)1件当たり日数(3)1日当たり医療費—の3要素に分解してみると、▼虚血性心疾患では「1日当たり医療費」が4万3321円と他疾患に比べて最も高い▼脳血管障害では「1件当たり日数」が16.5日と2番目に高く、「1日当たり医療費」が2万4845円と3番目に高い▼糖尿病では「受診率」が7.2と2番目に高い▼高血圧症では「受診率」が8.7と最も高い▼人工透析では「1日当たり医療費」が3万3086円と2番目に高い―ことが分かります。「1日当たり医療費」を前年度と比べると、最も高い虚血性心疾患では1105円増にとどまるのに対し、人工透析では2375円も増加しています。
家族に目を移すと、「1人当たり医療費」は▼脳血管障害:468円(同22円減)▼糖尿病:179円(同10円減)▼人工透析:171円(同7円増)▼虚血性心疾患:168円(同10円減)▼高血圧症:141円(同5円減)―の順で医療費が高く、やはり透析で増加しています。
3要素に分解してみると、▼脳血管障害では「1件当たり日数」17.9日、「1日当たり医療費」1万7824円ともに2番目に高い▼糖尿病では「受診率」が4.2で2番目に高い▼人工透析では「1日当たり医療費」が2万7695円で群を抜いて高い▼虚血性心疾患では「1日当たり医療費」が1万44円で3番目に高い▼高血圧症では「受診率」が4.6で最も高い―ことが分かりました。人工透析の「1日当たり医療費」は前年度に比べて410円の増加となっています。
「人工透析」の入院医療費増は、「受診率」や「1件当たり日数」に大きな変化がないことから、「1日当たり医療費」の増加に起因していると考えられそうです。予防による「受診率」引下げに力を入れるとともに、透析に関連する診療報酬の適正化などもさらに進められる可能性があります(2018年度には、単なる適正化(引き下げ)ではなく、患者の状態を踏まえ「メリハリ」がつけられている、関連記事はこちらとこちら)。
また虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)でも「1日当たり医療費が高い」ことがシェアの高さ(つまり医療費の多さ)に結びついています。冠動脈形成術などの高点数な手術が必要なためと考えられますが、手術点数の引き下げなどは困難であり、やはり生活習慣の改善など「予防」に向けた指導にこれまで以上に力を入れる必要があるでしょう。
一方、脳血管障害では「1件当たり日数」が長いことがシャアの高さに結びついていることから、早期リハビリの強化などで「より早期の在宅復帰」が、医療費適正化に向けて重要と言えます。
また糖尿病や高血圧症では、予防・重症化予防に力をいれ「受診率」を下げることが医療費適正化に向けた近道と言えるでしょう。
入院外では、糖尿病と透析の医療費シェアが大幅増加
次に入院外を見てみましょう。前述のとおり、生活習慣病医療費の9割は入院外で発生しており、その動向を確認することが極めて重要です。
「入院外における生活習慣病10疾患医療費」を100として、疾患別の構成を見ると、▼高血圧症:30.5%(前年度から1.7ポイント減)▼糖尿病:27.9%(同1.0ポイント増)▼高脂血症:18.4%(同0.1ポイント減)▼人工透析:15.6%(同1.0ポイント減)▼虚血性心疾患:2.6%(同0.1ポイント減)—などが多く、「透析」医療費のシェア増が気になります。糖尿病と透析のシェアが増加しています。
本人・家族別に見ると、本人では▼高血圧症:31.5%(同1.6ポイント減)▼糖尿病:28.5%(同1.0ポイント増)▼高脂血症:17.5%(同0.1ポイント減)▼人工透析:14.6%(同1.0ポイント増)▼高抗尿酸値血症:2.7%(同0.5ポイント増)―、家族では▼高血圧症:27.5%(同1.9ポイント減)▼糖尿病:26.1%(同1.1ポイント増)▼高脂血症:21.1%(同0.2ポイント減)▼人工透析:18.8%(同1.1ポイント増)▼脳血管障害:2.8%(同0.2ポイント減)―の順です。
1人当たり医療費を見てみると、本人では、▼高血圧症:5995円(同363円減)▼糖尿病:5427円(同148円増)▼高脂血症:3342円(同38円減)▼人工透析:2782円(同174円増)―の順で医療費が高くなっています。
3要素に分解してみると、▼高血圧症では「受診率」が830.8と最も高い▼糖尿病では「受診率」が546.5と3番目に高い▼高脂血症では「受診率」が830.8と2番目に高い▼人工透析では「1件当たり日数」12.4日と「1日当たり医療費」3万363円が飛び抜けて高い―状況です。人工透析を前年度と比較すると、「1件当たり日数」は0.2日短縮しましたが、「1日当たり医療費」は1591円増加しています。
家族では、「1人当たり医療費」は▼高血圧症:2128円(同217円減)▼糖尿病:2015円(同21円増)▼高脂血症:1631円(同62円減)▼人工透析:1452円(同46円増)―の順で医療費が高くなっています。
3要素に分解してみると、本人と同様に▼高血圧症▼糖尿病▼高脂血症—では受診率が高く、人工透析では「1件当たり日数」と「1日当たり医療費」が飛び抜けて高いことが分かります。人工透析を前年度と比べると、「1件当たり日数」は0.2日短縮、「1日当たり医療費」は1310円増加しています。
こうした結果を踏まえると、▼高血圧症▼糖尿病▼高脂血症—については「予防」が極めて重要であることが再認識できます。各健保組合はもとより、加入する企業が「特定健診」の受診を強く勧奨するとともに、健診や保健指導を理由なく受けない場合には一定のペナルティを課す(保険料の引き上げなど)ことなども方策の1つとして検討する必要があるかもしれません。「ペナルティは好ましくないのではないか」という声もありますが、「健診の受診→適切な保健指導→生活習慣の改善→疾患の予防」は、対象者自身においても「医療費自己負担の減」「QOLの向上」というメリットがある点を踏まえて検討すべきテーマと考えられます。
また人工透析については、1件当たり日数は増加しているものの単価(1日当たり医療費)が増加し、これが医療費増に強く結びついている可能性が高いため、今後の「診療報酬改定」でも適正化のターゲットとなる可能性があります。
40歳を過ぎる頃から虚血性心疾患、脳血管障害、高血圧症のリスク急騰
さらに、「生活習慣病10疾患の医療費」を100として、年齢階層別に「10疾患の構成割合」を見てみると、次のような点が分かります。ここからも40歳以上を対象とした「特定健診」「特定保健指導」の重要性を再確認できます。
【入院】
▽本人では、30歳代後半から「虚血性心疾患」の医療費シェアが高くなり、55歳を過ぎると4割程度になる
▽家族では、「脳血管障害」の医療費シェアが高く、とくに40-59歳では4-5割を占める
【入院外】
▽本人・家族とも、40歳代から「高血圧症」の医療費シェアが増加する
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