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健保組合の2017年度予算、全体で7割が赤字予算、赤字総額は3060億円に膨張―健保連

2017.4.17.(月)

 今年度(2017年度)は健康保険組合全体では3060億円の赤字決算となり、赤字組合が全体の7割超となる。また介護保険に充てるための納付金(介護納付金)は、総報酬割導入の影響から、1人当たりで見ると前年度に比べて7.73%と大幅に増加する見込みである―。

 こうした状況が、14日に健康保険組合連合会が発表した2017年度の「健保組合予算早期集計結果の概要」から明らかになりました(健保連のサイトはこちら)(前年度の状況はこちら)。健保連では、「早晩、現役世代の保険料負担で高齢者の医療費を支えきれなくなることは明らか。高齢者医療費の負担構造改革、保険適用範囲の見直し、各種医療費の適正化などについて真摯な議論を望む」と強調しています。

赤字額は前年度に比べて1668億円増、全体の7割が赤字

 健康保険組合は、主に大企業の従業員とその家族が加入する公的医療保険です。健保連では、今年度(2017年度)予算データの報告があった1375組合の数値を集計・分析し、健保組合全体(1398組合)の状況を推計しています。

 それによると、今年度(2017年度)は経常収入8兆479億円(前年度比2321億円・2.97%増)に対して、経常支出が8兆3538億円(同4008億円・5.04%増)で、健保組合全体で3060億円の赤字決算となる見込みです。前年度に比べて赤字総額が1668億円も増加(悪化)しています。赤字組合は1015となり、全体の7割を超えています。

2017年度(平成29年度)に、健保組合の財政は大幅に悪化することが伺える

2017年度(平成29年度)に、健保組合の財政は大幅に悪化することが伺える

 

 赤字の最大の要因は、▼75歳以上の高齢者が加入する「後期高齢者医療制度」を支えるための後期高齢者支援金▼75歳未満の高齢者の加入割合を調整するための前期高齢者納付金―などが増加している点にあります。加入者の医療費を賄うための「法定給付費」総額は前年度から3.58%増ですが、高齢者の医療費を賄うための「拠出金」総額は7.23%増となっています。内訳を見ると、▼後期高齢者支援金:8.82%増▼前期高齢者納付金:6.84%増▼退職者給付拠出金:10.6%増―という状況です。後期高齢者拠出金が増加した背景には、高齢化の進展に加えて、医療保険制度改革により「計算方法(負担方法)」が変更されたことがあります。かつては「各医療保険者の加入者数」に応じた負担となっていましたが、「各医療保険者の負担能力」をも加味した負担に徐々に移行し、今年度(2017年度)からは「全面総報酬割」となっています(関連記事はこちら)。

 なお、▼平均標準報酬月額(いわば給与水準)▼平均標準賞与額(いわばボーナス水準)▼法定給付費▼支援金・納付金など—を、「2007年度を100」として、どのように推移しているのかをみると、10年後の今年度(2017年度)には、平均標準報酬月額(いわば給与水準)は99.6、平均標準賞与額(いわばボーナス水準)は90.7となり「収入は減少している」にも関わらず、法定給付費は124.0、支援金・納付金は146.0となり「支出は大幅に増加している」ことが分かります。高齢者医療費の負担の在り方、医療費そのものを適正な水準に抑えるなどを真剣に考えなければ、間違いなく医療保険制度は「破たん」します。

2007年度(平成19年度)を100とすると、収入(平均標準報酬など)は下がっているが、支出(法定給付費や支援金・納付金など)は大きく増加している

2007年度(平成19年度)を100とすると、収入(平均標準報酬など)は下がっているが、支出(法定給付費や支援金・納付金など)は大きく増加している

後期高齢者支援金などの年次推移

後期高齢者支援金などの年次推移

 

協会けんぽ以上の保険料率設定する組合が23%に

 健保組合の主な収入は、加入者が納める保険料です。全組合の平均保険料率は、今年度(2017年度)には9.168%(前年度から0.068ポイント増加)となり、前年度に続いて3年連続で9%を超えました。

 また、主に中小企業の従業員とその家族が加入する「協会けんぽ」の平均保険料率(10.0%)以上の保険料率を設定している組合は316組合となり健保組合全体の23.0%となりました。協会けんぽより高い保険料率となれば、事業主にとって「組合に加入・設立するメリットがない」ことを意味し、組合の解散→協会への加入の増加につながります。協会けんぽには多額の国費が投入されており、この流れは国家財政にとって決して好ましいことではありません。

高齢者支援金などの負担割合、重い方向にシフト

 健保組合の支出で大きいのは、給付費(加入者が医療機関にかかった場合の7割負担分)と後期高齢者支援金・前期退職者給付金などです。支援金などが保険料収入に占める割合を健保組合ごとに見てみると、40-50%の健保組合が全体の47.6%(前年度から2.1ポイント増)と最も多く、次いで40%未満が28.4%(同7.7ポイント減)、50-60%が18.4%(同3.9ポイント増)、60-70%が4.8%(同1.9ポイント増)2.9%、70%以上が0.9%(同0.1ポイント減)となっています。前年度に比べて、支援金などの負担割合が大きくなる(重くなる)方向にシフトしています。医療保険制度の理念は「医療が必要な人を皆で支える」ことにありますから、負担能力のある若人が負担能力の小さい高齢者医療費を支える構造そのものは当然ですが、「収入の過半数を加入者以外の医療費に充てなければならない」事態が極めて長期間継続することに疑問を感じる人が増えれば、「社会連帯」という医療保険制度の基盤が崩れていく可能性もあります。

保険料収入に対する拠出金の割合を見ると、4分の1近い組合で50%以上となっている

保険料収入に対する拠出金の割合を見ると、4分の1近い組合で50%以上となっている

 

 なお、介護保険を支えるための納付金(介護納付金)は、今年度(2017年)には1人当たり9万3182円となり、前年度から6683円・7.73%の大幅増となる見込みです。これは、納付金の計算方法(負担方法)を、後期高齢者支援金と同じく、徐々に「負担能力に応じた負担」に移行していくためです(現在は、加入者数に応じた負担)。現在、国会で審議中の介護保険法改正案では、▼今年(2017年)8月から2分の1総報酬割▼2019年度から4分の3総報酬割▼2020年度から全面総報酬割―という段階的な導入を目指しています。

 

 こうした厳しい財政状況を受け、健保連では「厳しい財政の中、健康増進、疾病の早期発見などに関し先駆的な役割を果たし、データヘルス計画などに全力で取り組む」考えを提示。その上で、「早晩、現役世代の保険料負担で高齢者の医療費を支えきれなくなることは明らか」とし、皆保険制度を堅持するための展望を描き、▼高齢者医療費の負担構造改革▼保険適用範囲の見直し▼各種医療費の適正化など—の改革を実行できるよう、「真摯な議論」を行うべきと強調しています。とかく医療保険制度・介護保険制度改革の論議は国政選挙などに影響され、改革の実行が遅れがちです。目先の動きに左右されず、長期的展望に立った、まさに「真摯な議論」が望まれます(関連記事はこちら)。

  
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