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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

統合失調症等・気分障害など、同じ疾患でも入院と入院外とで医療費の構造が全く異なる—健保連

2018.4.27.(金)

 ▼統合失調症、統合失調症型障害および妄想型障害(以下、統合失調症等)▼躁うつ病を含む気分[感情]障害(以下、気分障害)▼神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害(以下、神経症性障害等)―の有病者や医療費を分析すると、入院外において「統合失調症等・気分障害では男性のほうが1人当たり医療費が高い」が、「神経症性障害等では女性のほうが1人当たり医療費が高い」。また同じ疾病でも、入院と入院外では医療費の構造が異なる―。

 健康保険組合連合会が4月26日に公表した、2016年度の「被保険者のメンタル系疾患の動向に関するレポート」から、こういった状況が明らかになりました(健保連のサイトはこちら)(前年度調査に関する記事はこちら)。

統合失調症等、男性で入院外の1人当たり医療費が高い

 主に大企業で働くサラリーマンとその家族が加入する健康保険組合の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)では、データヘルスに積極的に取り組んでいます(関連記事はこちらこちらこちらこちら)、今般、1260組合の被保険者(家族は含まず、サラリーマン本人)1516万4861人(男性1007万8620人、女性508万6322人、月平均で算出しており合計と一致しない)のレセプト1億3041万4858件(男性8203万4130件、女性4838万728件)を対象として、▼統合失調症等▼気分障害▼神経症性障害等—の医療費などを分析しています。なお、2015年度には「入院外」における状況を調べていますが、2016年度は「入院」「入院外」を合わせて調べています。

今般の健保連メンタル系疾患調査における対象疾患

今般の健保連メンタル系疾患調査における対象疾患

 
 まず統合失調症等について見てみましょう。

 入院外では、有病率(被保険者に占める有病者数の割合)は男女とも0.39%。暦月による若干の変動(2017年3月に0.41%とやや高い)があります。

有病者の年齢階層別の構成比率を見ると、男性では45-49歳(18.3%)、40-44歳(18.0%)、50-54歳(14.6%)、35-39歳(13.6%)が多く、35-54歳で有病者全体の64.5%を占めています。女性では、40-44歳(18.2%)、35-39歳(16.1%)、30-34歳(15.6%)、45-49歳(14.6%)が多く、30-49歳で有病者全体の64.5%を占めています。女性では母数集団(被保険者全体)が男性に比べて若いことが、この結果に影響している可能性があります。

統合失調症等における入院外の性別・年齢階級別の有病者構成割合

統合失調症等における入院外の性別・年齢階級別の有病者構成割合

 
 1人当たり医療費を見てみると、男性452円、女性424円で、男性のほうがわずかに高くなっています。これを医療費の3要素(受診率、1件当たり日数、1日当たり医療費)に分解すると、▼受診率は男女ともに同じ(47.4)▼1件当たり日数は男性(1.7日)のほうが、女性(1.6日)よりわずかに長い▼1日当たり医療費は男性(5726円)のほうが、女性(5618円)よりもわずかに高い—ことが分かりました。前年度に比べて男女差は明確に縮小していると言えるでしょう。

 さらに年齢階層別に1人当たり医療費を見ると、男性では40-44歳(588円)、45-49歳(573円)、35-39歳(564円)、50-54歳(525円)で高く、女性では40-44歳(558円)、35-39歳(542円)、30-34歳(500円)、45-49歳(477円)で高くなっています。健保連では「女性のほうが、男性に比べて比較的若い年齢層で1人医療費が高い傾向が示されている」とコメントしています。

統合失調症等における入院外の性別・年齢階級別の1人当たり医療費

統合失調症等における入院外の性別・年齢階級別の1人当たり医療費

 

統合失調症等、女性で入院の1件当たり医療費が高い

 入院に目を移すと、有病率(被保険者に占める有病者数の割合)は男女とも0.01%。有病者の年齢階層別の構成比率を見ると、男性では55-59歳(16.5%)、50-54歳(14.6%)、45-49歳(13.1%)、60-64歳(10.5%)で多く、45-64歳で有病者全体の54.7%を占めています。女性では、40-44歳(12.9%)、45-49歳(12.7%)、30-34歳(12.6%)、35-39歳(12.1%)、が多く、30-49歳で有病者全体の50.3%を占めています。入院と入院外を比べると、入院のほうが▼年齢の高い層で有病者が多い▼幅広い年齢層に有病者が分布している―印象があります。

統合失調症等における入院の性別・年齢階級別の有病者構成割合

統合失調症等における入院の性別・年齢階級別の有病者構成割合

 
 推計1入院当たり医療費を見てみると、男性56万3612円、女性61万400円で、女性の方が高くなっています。年齢階層別に見ると、男性では15-19歳(78万6502円)、30-34歳(71万3542円)、25-29歳(67万5240円)と比較的若い世代で高く、女性では70-74歳(118万739円)、65-69歳(85万447円)、25-29歳(73万5220円)—と高齢の世代で高くなっています。
統合失調症等における入院の性別・年齢階級別の推計1件当たり医療費

統合失調症等における入院の性別・年齢階級別の推計1件当たり医療費

 
 また推計平均在院日数は、男性で65.0日、女性で52.4日と男性で長く、年齢階層別に見ると、男性では「年齢とともに在院日数が長くなる」、女性では「60歳代後半を過ぎると、急激に在院日数が長くなる」ことが分かります。

 なお推計新規入院件数(1000人当たり)は、▼男性で0.39、女性で0.33と、男性でやや高い▼年齢階級別に見ると、男女とも60歳代後半で急増する―ことが分かりました。

気分障害、男性で入院外の有病率・1人当たり医療費ともに高い

 次に気分障害について見てみましょう。入院外の有病率は男性1.97%、女性1.75%と男性で高く、暦月で見ると、男性では10月、12月、3月にやや高くなる傾向があるようです。

 有病者の年齢階層別の構成比率を見ると、男性では45-49歳(18.8%)、40-44歳(16.9%)、50-54歳(16.0%)、35-39歳(12.4%)で多く、35-54歳で有病者全体の64.1%を占めています。女性では、40-44歳(17.0%)、45-49歳(15.2%)、35-39歳(14.4%)、30-34歳(14.1%)で多く、30-49歳で有病者全体の60.7%を占めています。前述の統合失調症等と同様の傾向と言えそうです。

気分障害における入院外の性別・年齢階級別の有病者構成割合

気分障害における入院外の性別・年齢階級別の有病者構成割合

 
 1人当たり医療費を見てみると、男性3010円、女性2357円と男性のほうが高い状況が分かります。医療費の3要素に分解すると、▼受診率は男性(241.6)のほうが、女性(213.8)よりも高い▼1件当たり日数は男性(1.6日)のほうが、女性(1.5日)よりも長い▼1日当たり医療費は男性(8007円)のほうが、女性(7207円)よりも高い—ことが分かりました。男性では、「気分障害で受診する頻度が多くて長く、かつ1回の医療費も高い」と言えます。

 年齢階層別に1人当たり医療費を見ると、男性では45-49歳(4276円)、50-54歳(4196円)、40-44歳(3736円)、35-39歳(3246円)で高く、女性では40-44歳(2909円)、45-49歳(2765円)、35-39歳(2712円)、30-34歳(2539円)で高くなっています。女性に比べて、男性では「年齢階層別の1人当たり医療費のバラつきが大きい」ことも特徴と言えるでしょう。

気分障害における入院外の性別・年齢階級別の1人当たり医療費

気分障害における入院外の性別・年齢階級別の1人当たり医療費

 

気分障害、入院でも男性のほうが1件当たり医療費が高い

 入院に目を移すと、有病率(被保険者に占める有病者数の割合)は男女とも0.01%。有病者の年齢階層別の構成比率を見ると、男性では55-59歳(17.8%)、50-54歳(17.4%)、45-49歳(15.4%)、40-44歳(10.9%)で多く、40-59歳で有病者全体の61.5%を占めています。女性では45-49歳(14.2%)、40-44歳(14.0%)、50-54歳(12.0%)、30-34歳(11.5%)で多く、やはり入院のほうが「幅広い年齢層に有病者が分布している」ことが分かります。

気分障害における入院の性別・年齢階級別の有病者構成割合

気分障害における入院の性別・年齢階級別の有病者構成割合

 
 推計1入院当たり医療費は、男性30万6380円、女性26万9401円で、男性でやや高くなっています。年齢階層別に見ると、男性では55-59歳(33万3014円)、25-29歳(32万5746円)、45-49歳(32万1928円)で、女性では65-60歳(38万8418円)、15-19歳(31万9745円)、20-24歳(31万7167円)で高く、特段の傾向は見出せません。
気分障害における入院の性別・年齢階級別の推計1件当たり医療費

気分障害における入院の性別・年齢階級別の推計1件当たり医療費

 
 また推計平均在院日数は、男性で45.7日、女性で37.2日と男性で長く、年齢階層別に見ると、統合失調症等と同様に、男性では「年齢とともに在院日数が長くなる」、女性では「60歳代後半を過ぎると、急激に在院日数が長くなる」ことが分かります。

 なお推計新規入院件数(1000人当たり)は、▼男性で0.72、女性で0.54と、男性でやや高い▼年齢階級別に見ると、男女ともに年齢が上がるにつれて徐々に高くなり、70歳代で急増する―ことが分かりました。

神経症性障害等、女性のほうが入院外の有病率・1人当たり医療費ともに高い

 最後に神経症性障害等を見てみましょう。入院外の有病率は男性1.53%、女性1.74%で、統合失調症等や気分障害とは異なり女性で高くなっています。暦月で見ると、女性では若干の変動があるようです。

 有病者の年齢階層別の構成比率を見ると、男性では45-49歳(16.5%)、40-44歳(15.5%)、50-54歳(14.6%)、35-39歳(11.7%)で多く、35-54歳で有病者全体の58.3%を占めています。女性では、40-44歳(15.9%)、45-49歳(15.0%)、35-39歳(13.4%)、30-34歳(12.9%)で多く、30-49歳で有病者全体の57.2%を占めています。統合失調症等や気分障害と比べて、幅広い年齢層に分布していることが分かります。

神経症性障害等における入院外の性別・年齢階級別の有病者構成割合

神経症性障害等における入院外の性別・年齢階級別の有病者構成割合

 
 1人当たり医療費は、男性538円、女性679円と女性のほうが高く、医療費の3要素に分解すると、▼受診率は男性(186.7)のほうが、女性(214.0)よりも低い▼1件当たり日数は男女とも同じ(1.5日)▼1日当たり医療費は男性(1981円)のほうが、女性(2173円)よりも低い—ことが分かりました。女性で1人当たり医療費が高い原因は、「受診率」と「1人当たり医療費」にあります。

 年齢階層別に1人当たり医療費を見ると、男性では50-54歳(637円)、45-49歳(629円)、40-44歳(616円)などで高く、女性では40-44歳(769円)、45-49歳(756円)、35-39歳(754円)などで高くなっています。

神経症性障害等における入院外の性別・年齢階級別の1人当たり医療費

神経症性障害等における入院外の性別・年齢階級別の1人当たり医療費

 

神経障害等、入院では男性のほうが1件当たり医療費が高くなる

 入院に目を移すと、有病率(被保険者に占める有病者数の割合)は男女とも0.01%。有病者の年齢階層別の構成比率を見ると、男性では55-59歳(16.1%)、50-54歳(14.7%)、45-49歳(13.5%)、60-64歳(11.2%)で多く、45-64歳で有病者全体の55.5%を占めています。女性では30-34歳(14.2%)、40-44歳(13.2%)、35-39歳(12.7%)、25-29歳(12.5%)で多く、25-44歳で有病者全体の52.6%を占めています。やはり入院のほうが「幅広い年齢層に有病者が分布している」状況です。

神経症性障害等における入院の性別・年齢階級別の有病者構成割合

神経症性障害等における入院の性別・年齢階級別の有病者構成割合

 
 推計1入院当たり医療費は、男性5万685円、女性4万5763円で、入院外と異なり男性でやや高くなっています。年齢階層別に見ると、男性では25-29歳(6万6600円)、35-39歳(6万2319円)、20-24歳(5万9286円)で、女性では15-19歳(14万2203円)が飛び抜けて高く、ほか20-24歳(6万2780円)、25-29歳(5万5172円)で高くなっています。
神経症性障害等における入院の性別・年齢階級別の推計1件当たり医療費

神経症性障害等における入院の性別・年齢階級別の推計1件当たり医療費

 
 また推計平均在院日数は、男性で30.6日、女性で22.7日と男性で長く、年齢階層別に見ると、カーブは異なりますが男女ともに「年齢とともに在院日数が長くなる」傾向が伺えます。

 なお推計新規入院件数(1000人当たり)は、▼男性で0.59、女性で0.70と、女性でやや高い▼年齢階級別に見ると、男女ともに年齢が上がるにつれて徐々に高くなり、70歳代で急増する―ことが分かりました。
 
 
 
 このように、同じメンタル系疾患であっても、疾病の種類によって、有病者の発生状況や医療費の構造(つまり診療内容)は大きく異なっています。また同じ疾病でも、入院外(比較的軽度者)と入院(比較的重度者)では、医療費の構造が全く異なることも明らかになりました。

国は、事業者に従業員に対するストレスチェックを義務付けするなどメンタルヘルスにも力を入れており、疾病別・性別・年齢別・重症度別の「きめ細かいフォロー」が、有病者の抑制(医療費の抑制、生産性の向上、国民自身のQOL向上につながる)に効果的です。
 
 
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