医科入院「家族で在院日数が長い」、医科入院外「家族の呼吸系疾患の医療費が高い」—健保連
2018.4.4.(水)
医科入院外・医科入院ともに、サラリーマン本人よりも家族の1人当たり医療費が高い。細かく分析すると、医科入院外では「家族の呼吸器系疾患」について1人当たり医療費・受診率が飛び抜けて高い。また医科入院では、全年齢階層において家族の在院日数が長くなっている—。
このような状況が、4月3日に健康保険組合連合会が公表した2016年度の「健保組合医療費に関する調査(基礎数値)」から明らかになりました(健保連のサイトはこちら)。「サラリーマン本人と家族」「年齢」別に医療費を分析することで、医療費適正化のために「どの人に、どのような取り組みを行うことが、より効果的か」が明らかになってきており、今後、さらなる詳細な分析に期待が集まります(関連記事はこちら)。
目次
医科入院外の1人当たり医療費は、本人よりも家族のほうが高い
主に大企業で働くサラリーマンとその家族が加入する健康保険組合の連合組織である健保連では、かねてからデータヘルスに積極的に取り組んでいます(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。今般、1260組合(サラリーマン本人:1516万4861人、家族:1214万5288人)の電算処理レセプト(3億564万2871件)をもとに医療費の詳細な分析を行いました。
健保組合の2016年度医療費は約3兆9086億円で、診療種類別の内訳は、▼医科入院:23.8%▼医科入院外:42.9%▼歯科入院外:12.0%▼歯科入院:0.2%▼調剤:21.2%—となっています。前年度に比べて、医科入院外(0.3ポイント増)・歯科入院外(0.3ポイント増)がわずかに増加し、調剤(0.5ポイント減)がわずかに減少していますが、大きな変化はないと言えます。
1人当たりの医療費は本人13万9614円(前年度に比べて501円・0.4%増)・家族14万7491円(同104円・0.1%減)となっており、診療種類別では、▼医科入院:本人3万2149円・家族3万6350円▼医科入院外:本人5万9233円・家族6万4003円▼歯科入院外:本人1万7890円・家族1万6259円▼調剤:本人3万86円・家族3万588円―などという状況です。
最もシェアの大きな医科入院外の1人当たり医療費は、本人よりも家族のほうが4770円高くなっています。原因を、医療費の3要素(受診率・1件当たり日数・1日当たり医療費)に分解して探ってみると、▼受診率(1000人当たりの受診件数)は本人5290.1、家族6673.8▼1件当たり日数は本人1.4日、家族1.5日▼1日当たり医療費は本人8204円、家族6521円―となっており、「家族の受診率が高い」ところにあることが分かります。
さらに年齢階層別に、医科入院外医療費の3要素を、本人と家族で比較してみると、▼受診率:50-54歳を除くすべての階層で家族の方が高く、本人では存在しない0-4歳(1万663.9)・5-9歳(7836.3)などで非常に高い▼1件当たり日数:家族で0-14歳が存在するが、多くの階層では本人・家族での目立った違いはない▼1日当たり医療費:15歳以上のすべての階層で本人のほうが高い―ことなどが分かります。
ここから、「家族では全般的に本人に比べて受診率が高く、かつ乳幼児の受診が多いために、家族において入院外医療費が高くなっている」と考えられそうです。
家族では、呼吸器疾患での外来受診率と1人当たり医療費が飛び抜けて高い
また、医科入院外医療費の構成を疾患別に見てみると、▼呼吸器系疾患:18.9%▼内分泌、栄養及び代謝疾患:11.3%▼循環器系疾患:8.5%▼新生物:8.3%▼皮膚及び皮下組織疾患:6.5%▼消化器系疾患:6.5%▼筋骨格系及び結合組織疾患:6.5%―などが大きなシェアを占めています。
これを1人当たり医療費で見てみると、本人では▼内分泌、栄養及び代謝疾患:1万1875円▼呼吸器系疾患:1万945円▼循環器系疾患:1万42円―などが高くなっていますが、家族では▼呼吸器系疾患:2万4586円▼内分泌、栄養及び代謝疾患:7997円▼皮膚及び皮下組織疾患:7648円―で「呼吸器系疾患」の1人当たり医療費が飛び抜けて高いことが分かります。
さらに、本人と家族について疾患別に受診率を比較してみると、本人では▼呼吸器系疾患:1347.0▼内分泌、栄養及び代謝疾患:1199.6▼消化器系の疾患:1164.2▼循環器系疾患:1069.6―などが高くなっており、家族では▼呼吸系疾患:2707.4▼皮膚及び皮下組織疾患:1213.3▼眼及び付属器疾患:843.8▼消化器系疾患:818.7▼内分泌、栄養及び代謝疾患:684.7—となっています。家族では、呼吸器系疾患について「受診率も飛び抜けて高い」ことが分かります。
家族に含まれる「乳幼児」において、喘息などの呼吸系疾患での受診が多いことも考えられますが、「軽い風邪などで、安易に医療機関を受診している」可能性もあるでしょう。年齢階層と疾患をクロス分析し、例えば後者の比率が多いようであれば「家族の医療機関外来受診を適正化する余地がないか」を検討することも必要でしょう。
医科入院、すべての年齢階層で、本人よりも家族の在院日数が長い
医科入院に目を移してみます。
医科入院の1人当たり医療費は、本人3万2149円・家族3万6350円で、医科入院外と同様に「家族のほうが4201円高い」状況です。3要素に分解して探ってみると、▼受診率:本人68.5、家族86.3▼1件当たり日数:本人8.2日、家族8.9日▼1日当たり医療費:本人5万7133円、家族4万7270円―となっており、家族で「受診率が高く、在院日数が長い」ところにその原因がありそうです。
また年齢階層別に、本人と家族で3要素を比較すると、▼受診率:家族では、本人に存在しない0-4歳(174.3)で極めて高く、また25-34歳の階層で著しく高い(25-29歳で203.4、30-34歳で194.3)▼1件当たり日数:すべての年齢階層で家族の方が高く、とくに20-24歳では、本人よりも3.4日長い▼1日当たり医療費:本人存在しない14歳以下を除き、すべての階層で本人のほうが高い―ことが分かります。
家族には女性が多く、出産・妊娠に伴う疾患での入院に起因するところが大きそうです。ただし、「すべての階層で、家族の在院日数が長い」点については、適正化の余地が内か再点検する必要があるでしょう。
0-4歳の乳幼児、1日当たりの入院医療費(単価)が高く、受診率も高め
また、医科入院医療費の構成を疾患別に見てみると、▼新生物:19.3%▼循環器系疾患:15.5%▼消化器系疾患:8.6%▼損傷、中毒及びその他の外因の影響:7.4%▼呼吸器系疾患:7.2%▼筋骨格系及び結合組織疾患:5.5%▼妊娠、分娩及び産褥:5.4%―などが大きなシェアを占めています。
これを1人当たり医療費で見てみると、本人では▼新生物:7208円▼循環器系疾患:6550円▼消化器系疾患:3164円―などが高く、家族では▼新生物:4856円▼呼吸器系疾患:3314円▼循環器系疾患:2918円―などが高くなっています。本人と家族で若干の相違はありますが、医科入院外ほどの違いはありません。
さらに、本人と家族について疾患別に受診率を比較してみると、本人では▼消化器系疾患:28.2▼循環器系疾患:19.1▼新生物:18.7▼内分泌、栄養及び代謝疾患:15.4―などが高く、家族では▼消化器系疾患:24.9▼呼吸器系疾患:20.3▼内分泌、栄養及び代謝疾患:15.1—が高くなっており、やはり、医科入院外ほどの差異はないようです。
なお、0-4歳では、1日当たり医療費が全年齢階層の中で最も高く(6万3471円)、受診率も比較的高い(174.3)ことから、「乳児の入院」が家族の1人当たり医療費に一定の影響を与えていると推測できます。
サラリーマン本人、生活習慣病の外来医療費が高い
さらに「1人当たり医療費」が高い疾患を見てみると、医科入院と医科入院外では、それぞれ次のようになっています。
【医科入院】
▼本人:「その他の悪性新生物」2406円、「その他の消化器系の疾患」2124円、「その他の心疾患」2085円
▼家族:「その他の妊娠、分娩及び産褥」1974円、「その他の消化器系の疾患」1588円、「良性新生物及びその他の新生物」1353円
【医科入院外】
▼本人:「高血圧性疾患」6236円、「糖尿病」5971円、「その他の内分泌、栄養及び代謝疾患」5102円
▼家族:「喘息」6493円、「アレルギー性鼻炎」5062円、「その他の内分泌、栄養及び代謝疾患」4768円
サラリーマン本人において「生活習慣病よる医科入以外の医療費が高い」ことが再確認でき、各健保組合においては、これまで以上に「特定健診」「特定保健指導」に積極的に取り組むことが、地道ではあるものの、医療費適正化に効果的であることが分かります。
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