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診療報酬改定セミナー2024 看護モニタリング

2016年度の健保組合決算は黒字だが、2025年に向けて医療保険改革が必要不可欠―健保連

2017.9.11.(月)

 昨年度(2016年度)には健康保険組合全体で2373億円の黒字決算となったが、被保険者数の大幅増(短時間労働者の適用拡大など)による保険料収入増といった「一時的要因」によるものであり、協会けんぽの平均保険料率(10%)以上の料率を設定しなければならない組合が300を超えるなど、健保組合の財政状況は厳しい。2025年に向けて医療費適正化・高齢者医療費の負担構造改革などを進める必要がある—。

 こうした状況が、9月8日に健康保険組合連合会が発表した2016年度の「健保組合決算見込の概要」から明らかになりました(健保連のサイトはこちら)。

被保険者数の増加などにより保険料収入が増加

 健康保険組合は、主に大企業の従業員とその家族が加入する公的医療保険です。健保連では、昨年度(2016年度)末における1399組合の決算データを集計・分析しました。

 昨年度(2016年度)の経常収入7兆9623億円(前年度比1767億円・2.27%増)、経常支出が7兆7250億円(同674億円・0.88%増)となり、健保組合全体で2373億円の黒字決算となりました(3年連続の黒字)。収入増の要因としては、▼被保険者数の増加▼保険料率の上昇▼標準報酬月額の上昇(上限引き上げを含む)―などを健保連は掲げています。

2016年度の健保組合決算の状況、2015年度よりも黒字幅が増加しているが、健保連は「被保険者数などの増加による一時的なもの」と分析

2016年度の健保組合決算の状況、2015年度よりも黒字幅が増加しているが、健保連は「被保険者数などの増加による一時的なもの」と分析

 
 健保組合の主な収入である「保険料」について少し詳しく見てみましょう。昨年度(2016年度)の保険料収入総額は7兆8475億円で、前年度から1797億円・2.34%増加しています(増加の要因は前述と同様)。2016年2月末時点の平均均保険料率は9.110%(調整保険料率含む)で、前年度から0.075ポイント増加しました。保険料率を引き上げた組合は206(全体の14.7%)で、平均引き上げ幅は0.653ポイントとなっています。また2年連続で保険料率を引き上げた組合は64あり、うち25組合では保険料率引き上げにもかかわらず、法定給付費・拠出金の増加に対応しきれず「2年連続の赤字」となっています。逆に、83組合(同5.9%)では保険料率を引き下げ(平均0.326ポイントの引き下げ)ています。
健保組合の平均保険料率は年々増加している

健保組合の平均保険料率は年々増加している

 
また、主に中小企業の従業員・家族が加入する協会けんぽの平均保険料率(10.0%)以上の保険料率を設定している健保組合は、前年度に比べて13増加し、304組合(全体の21.7%)となりました。協会けんぽ以上の保険料率を負担しなければならないのであれば、事業主にとって「健保組合に加入するメリットがない」ことになり、「健保組合の解散」→「協会への加入の増加」という流れが生じます。協会けんぽには多額の国費が投入されており、これは国家財政の負担増につながってしまいます。
協会けんぽ以上の保険料率が設定されている健保組合は増加傾向にある

協会けんぽ以上の保険料率が設定されている健保組合は増加傾向にある

4分の1を超える健保組合で、支出の過半が高齢者ための支援金

 次に支出を見てみましょう。健保組合の支出で大きいのは、給付費(加入者が医療機関にかかった場合の7割負担などの分、2016年度は3兆8393億円で、前年度比496億円・1.31%増)と後期高齢者支援金・前期退職者給付金(75歳以上の人が加入する後期高齢者医療制度への支援金ほか、2016年度は3兆2819億円で、前年度比77億円・0.24%増)です。

後者の支援金などが義務的経費(法定給付費と高齢者医療への拠出金)に占める割合は46.1%で、前年度から0.3ポイント低下しました。しかし、この割合を健保組合ごとに見てみると、▼40%未満が199組合・14.2%▼40-50%が837組合・59.8%▼50-60%が353組合・25.2%▼60%以上が10組合・0.7%—となっており、「4分の1を超える健保組合では、支出の半分以上が自組合の加入者のためでなく、高齢者のための支出」となっていることが分かります。

4分の1を超える健保組合では、支出に占める高齢者医療への支援金の割合が50%を超えている

4分の1を超える健保組合では、支出に占める高齢者医療への支援金の割合が50%を超えている

 
後期高齢者医療制度が創設される直前の2007年度と2016年度を比べると、「支出の半分以上が高齢者のためのもの」となっている健保組合の割合は6.6%から25.9%に増加しています。医療保険制度は「社会連帯」に基づく制度であり、負担能力のある若人が負担能力の小さな高齢者を支える構造は、いわば「当然」と言えます。しかし、「収入の過半を加入者以外の医療費に充てなければならない」事態があまりに長期間続けば、「社会連帯」という医療保険制度の基盤が崩れていく可能性も否定できません。世界に冠たる国民皆保険制度を維持するためにも、「負担感の公平性」(若人並み、あるいはそれ以上の負担能力を持つ高齢者に応分の負担を求めるなど)をより担保する仕組みが求められるでしょう。
後期高齢者医療制度創設前(2007年度)と2016年度を比べると、高齢者医療への支援金負担が著しく増加していることが分かる

後期高齢者医療制度創設前(2007年度)と2016年度を比べると、高齢者医療への支援金負担が著しく増加していることが分かる

 
 こうした厳しい状況を踏まえて健保連は、▼黒字決算は被保険者数の増加や保険給付費の伸びのなどによる「一時的なもの」である▼保険料率が協会けんぽの平均以上となる健保組合が年々増加している▼2017年度には後期高齢者支援金が全面総報酬割に拡大され、負担増となる▼2025 年には、健保組合全体で高齢者医療のための拠出金総額が法定給付費総額を上回り、義務的経費に占める拠出金負担割合が平均で50.7%に達すると見込まれる—と分析。団塊世代が全て後期高齢者となり、医療・介護費が急増する2025年に向けて、▼医療費の適正化▼高齢者医療費の負担構造改革―など、抜本的な医療保険制度改革が必要と訴えています。

  
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