健保組合の「がん医療費」は全体の11.2%と増加傾向、うち乳がん医療費が最多で14%占める―健保連
2018.11.14.(水)
健康保険組合連合会の医療費総額(3兆3307億円)のうち、11.2%はがん(悪性新生物)が占めており、年々、シェアが増大している。がんの種別に見ると、乳がんが最も多く、次いで大腸がん、肺がんの順となっている。また、がんの種別に1入院当たり医療費を推計すると、男性では甲状腺がん(56万7061円)、女性では乳がん(56万8627円)が最も高い―。
健康保険組合連合会が11月9日に公表した2016年度の「悪性新生物(がん)の動向に関する調査分析」から、こういった状況が明らかになりました(健保連のサイトはこちら)(関連記事はこちら)。
がん医療費のシェア、2014年度→15年度→16年度と増大傾向
がんは我が国の死因第1位を独走しており、当然のことながら医療費に占める割合も高くなってきています。国は、我が国の「がん対策」の基本となる「がん対策推進基本計画」を定め(現在、第3期計画を推進中)、生活習慣の改善による予防や検診受診による早期発見・早期治療や、医療・生活支援の充実などを進めています。健保連では、これを「医療費」という視点で眺めています。
今回の調査は、1260の健康保険組合(主に大企業の従業員とその家族が加入する公的医療保険)の加入者2730万9913人のレセプトデータ(2016年度、2億6403万5848件)をもとに、(1)胃がん(2)肺がん(気管・肺)(3)大腸がん(結腸・直腸がんを含む)(4)子宮がん(5)乳がん(6)男性生殖器がん(7)肝がん・肝内胆管がん(以下、肝がん)(8)甲状腺・その他内分秘腺がん(以下、甲状腺がん)―の状況を調べたものです。
1260健保組合の2016年度医療費総額(医科+調剤)は3兆3307億円で、疾患別のシェアを見ると、▼呼吸系疾患:15.8%▼新生物:11.2%▼循環器系疾患:10.3%▼内分泌、栄養・代謝疾患:9.1%▼消化器系疾患:7.1%▼筋骨格系・結合組織疾患:6.2%—などが大きくなっています。
がんの医療費は、呼吸系疾患に次ぐ「第2位」ですが、▼2014年度:10.5% → (0.3ポイント増) →▼2015年度:10.8% (0.4ポイント増) →▼2016年度:11.2%—とシェアが拡大してきています。画期的ながら極めて高額な抗がん剤の相次ぐ登場も強い追い風となり、がん医療費はますます増加していくと考えられます。
がん医療費の内訳、乳がん14%、大腸がん10%、肺がん7%など
2016年度のがん医療費について、がん種別(上述(1)-(8))のシェアを見ると、▼乳がん:14.0%▼大腸がん:9.9%▼肺がん:6.8%▼胃がん:6.4%▼男性生殖器:3.8%▼子宮がん:3.1%▼肝がん:2.1%▼甲状腺がん:1.2%―となりました。これら8がん種で、がん医療費の47.4%とほぼ半分を占めています。
メディ・ウォッチでも何度かお伝えしていますが、医療費を考えるに当たっては、3要素(受診率、1件当たり日数、1日当たり医療費)に分解することが有用です(逆に言えば、3要素を掛けたものが医療費となる)。
まず「受診率」(1000人当たりの件数)は、男性では「大腸がん」(46.1)、「男性生殖器がん」(39.0)、「胃がん」(34.5)の順で、女性では「乳がん」(67.8)、「子宮がん」(47.7)、「大腸がん」(37.2)の順で高くなっています。
次に「1件当たり日数」を見ると、男性では「肺がん」(2.6日)、「胃がん」(2.1日)、「肝がん」(2.0日)の順で、女性では「肺がん」(2.3日)、「大腸がん」(2.2日)、「胃がん」(2.1日)の順で長くなりました。男性で、がん種別のバラつきが少し大きいようです。
さらに「1日当たり医療費」を見ると、男性では「肺がん」(2万2097円)、「乳がん」(2万388円)、「大腸がん」(1万5948円)の順で、女性では、「乳がん」(2万9421円)、「肺がん」(2万667円)、「大腸がん」(1万3892円)の順で高くなりました。
乳がんでは、「受診率が高く(つまり罹患者が多い)、医療資源投入量が大きい」ことが医療費の高さの要因となっています。例えば、乳がんについて、より詳しく「ステージ別の医療費等分析、医療内容(手術や化学療法、放射線療法など)分析」などに期待が集まります。
なお、8がん種別に1入院当たり医療費(推計)を見ると、男性では「甲状腺がん」が最も高く56万7061円、次いで「肺がん」51万9029年、「胃がん」45万1202円となりました。女性では、「乳がん」が最も高く56万8627円、次いで「甲状腺がん」52万5963円、「肺がん」52万1972円となっています。
がんの種類によって、年齢階級別の受診者割合に特徴あり
次に、がん種別に「年齢階級別の受診者数(月平均)」を見てみましょう。
8つのがん種の合計では、「55-59歳」が最多で、次いで「50-54歳」、「60-64歳」となりましたが、がん種別に見ると、特徴のあることが分かります。
【胃がん】
▼70-74歳:1.91%(加入者に占める受診者割合、以下同)▼65-69歳:1.33%▼60-64歳:0.95%―と、年齢が上がるにつれ、受診者の割合も徐々に増加する
【肺がん】
▼70-74歳:1.27%▼65-69歳:0.85%▼60-64歳:0.57%―と、年齢が上がるにつれ、受診者の割合も徐々に増加する
【大腸がん】
▼70-74歳:2.26%▼65-69歳:1.60%▼60-64歳:1.18%―と、年齢が上がるにつれ、受診者の割合も徐々に増加する
【子宮がん】
20歳代から受診者が増えはじめ、▼45-49歳▼50-54歳―でピーク(0.41)を迎え、その後、加齢とともに減少していく
【乳がん】
20歳代から40歳代まで加齢に伴って受診者が増加するが、50歳代を過ぎると大きな変動はない
【男性生殖器がん】
40歳代後半から患者が増加し初め、60歳以降、急増する
【肝がん】
▼70-74歳:0.63%▼65-69歳:0.46%▼60-64歳:0.36%―と、年齢が上がるにつれ、受診者の割合も僅かずつ増加する
【甲状腺がん】
▼70-74歳:0.22%▼65-69歳:0.20%▼60-64歳:0.16%―と、年齢が上がるにつれ、受診者の割合もごく僅かずつ増加する
このように、がん種によって特徴があるため、検診等の勧奨内容も変えていくことが効果的でしょう。
なお、「CQI(Cancer Quality Initiative)研究会」(代表世話人:望月泉:八幡平市病院事業管理者・岩手県立病院名誉院長)では、DPCデータをもと「がん医療の質向上」に向けた研究を行っています(グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンがデータ分析等を担当)。さまざまな切り口で「がん医療」の研究が行われており、将来的には「総合的な分析」がなされることが期待されます(関連記事はこちら)。
【関連記事】
がん医療費は医療費全体の1割強、うち乳がんの医療費が最多で14.5%占める―健保連調査
2017年度、1か月当たりの医療費最高額は血友病A患者の7915万円―健保連
肥満者は複合的な健康リスクを抱えており、血圧・血糖のリスクは高齢になるほど高まる—健保連
2018年1月、健保組合全体で後発品割合は74.1%に—健保連
2016年度は透析医療費が入院・入院外とも大きく増加、単価増が要因の1つ—健保連
統合失調症等・気分障害など、同じ疾患でも入院と入院外とで医療費の構造が全く異なる—健保連
健保組合財政は改善しているが6割が赤字、2割強が協会けんぽ以上の保険料率―2018年度健保連予算
風邪やアレルギー性鼻炎、乳幼児で受診率高く、家族の1人当たり医療費が高い―健保連
医科入院「家族で在院日数が長い」、医科入院外「家族の呼吸系疾患の医療費が高い」—健保連
健保組合加入者の5.47%は血糖、11.90%は肝機能に問題があり医療機関受診が必要―健保連
高齢になるほど血圧リスクが高まり、50歳代以降の被扶養者では脂質リスクが高い—健保連
狭心症では1日当たり医療費の高さが、脳梗塞では入院日数の長さが医療費に影響—健保連
統合失調症や気分障害は男性で、神経症性障害は女性で1人当たり医療費が高い—健保連
医科入院・入院外とも、本人より家族の1人当たり医療費が高い—健保連
健保組合の2017年度予算、全体で7割が赤字予算、赤字総額は3060億円に膨張―健保連
感冒やアレルギー性鼻炎の医療費分析、サラリーマン本人は家族に比べ「受診せず」―健保連
肥満や血圧などの健康リスク保有者、罹患疾病トップは高血圧症―健保連
がん医療費は医療費全体の1割強、うち乳がんの医療費が最多で14.5%占める―健保連調査
肥満者のほうが健康リスクが高く、その内容も複雑―健保連調査
健保組合の生活習慣病対策、特定健診実施率は72.4%、特定保健指導では15.2%にとどまる―2014年度健保連調査
気分障害患者は全体の1.76%、神経症性障害等患者は全体の1.43%―健保連の2014年度調査
特定保健指導に生活習慣病リスク軽減や肝機能改善などの効果があることを実証―健保連
特定保健指導の未受診者は医療費1.5倍、医療費適正化に効果―健保連
医療保険制度の維持に向け、給付と負担の在り方を見直し、医療費適正化を進めよ―健保連
がん医療の内容、実績、クリニカルパスを他院と比較し、がん医療の質向上を目指す―CQI研究会
胸部食道がん、平均値では胸腔鏡手術のほうが開胸手術よりも術後日数が長い―CQI研究会
ベンチマークと臨床指標でがん医療の均てん化を推進―CQI研究会、8月開催
大腸がんの在院日数、短縮傾向もなお病院格差-CQI研究会が経年分析
乳がんの治療法、放射線実施率など格差鮮明―CQI研究会、臨床指標20項目を調査
前立腺がん手術、在院日数最短はダヴィンチ、合併症発生率は?―第10回CQI研究会
拠点病院は現場の使命感で支えられている、今こそ「医療の質評価」の普及を――九がん・藤院長