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後期高齢者支援金への全面総報酬割導入で、2017年度健保組合決算は黒字が大幅減―健保連

2018.9.28.(金)

 昨年度(2017年度)には健康保険組合全体で1346億円の黒字決算となった。しかし、後期高齢者支援金における「全面総報酬割」の導入により、拠出金負担を初めとする支出は大幅に増加し、黒字幅は前年度から1030億円減少した。協会けんぽの平均保険料率(10%)以上の料率を設定しなければならない組合は全体の22.5%となり、支出の過半が高齢者への支援金などとなっている組合は全体の28.7%となっている—。

 こうした状況が、9月25日に健康保険組合連合会(健保連)が発表した昨年度(2017年度)の「健保組合決算見込の概要」から明らかになりました(健保連のサイトはこちら(概要版)こちら(ポイント))(2016年度決算に関する記事はこちら)。

被保険者数の増加、保険料率の引き上げなどで保険料収入は増加したが・・・

 健康保険組合(健保組合)は、主に大企業の従業員とその家族が加入する公的医療保険です。健保組合の連合組織である健保連では、昨年度(2017年度)末における1394組合の決算データを集計・分析しました。

 昨年度(2017年度)の経常収入は8兆1999億円(前年度比2375億円・2.98%増)、経常支出は8兆653億円(同3405億円・4.41%増)となり、健保組合全体で1346億円の黒字決算となりました。

4年連続の黒字決算ですが、収入増(被保険者数の増加や保険料率の引き上げなど)に比べて支出の増加(後述する「後期高齢者支援金の全面総報酬割」など)のほうが大きかったため、黒字額は前年度に比べて1030億円減少しています。

 
収入のうち最も大きな「保険料」について、少し詳しく見てみましょう。昨年度(2017年度)の保険料収入総額は8兆843億円で、前年度から2368億円・3.02%増加しています(増加の要因は前述のとおり、被保険者数の増加や保険料率の引き上げなど)。今年(2018年)2月末時点の平均均保険料率は9.167%(調整保険料率含む)で、前年度から0.057ポイント増加しました。保険料率を引き上げた組合は204(全体の14.6%)で、平均引き上げ幅は0.664ポイントとなっています。

また2年連続で保険料率を引き上げた組合は44か所あり、うち18組合では保険料率引き上げにもかかわらず、法定給付費・拠出金の増加に対応しきれず「2年連続の赤字」となっています。逆に、102組合(同7.3%)では保険料率を引き下げ(平均0.432ポイントの引き下げ)ています。

 
ところで、主に中小企業の従業員・家族が加入する「協会けんぽ」の平均保険料率(10.0%)以上の保険料率を設定している健保組合は、前年度に比べて10組合増加し、314組合(全体の22.5%)となりました。協会けんぽ以上の保険料率を負担しなければならないのであれば、事業主にとって「健保組合に加入するメリットがない」ことになり、「健保組合からの脱退」→「事業所数の減少等に伴う、健保組合の解散」→「協会けんぽへの加入の増加」という流れが生じます。協会けんぽには多額の国費が投入されており、これは国家財政の負担増につながる危険があることを承知しておく必要があります。実際に2017年4月以降、12の健保組合が解散し、うち10組合では、保険料率が10%以上でした。

 

後期高齢者支援金負担は前年度に比べ9.1%の増加

 次に、支出に目を移してみましょう。健保組合の支出で最大の項目は、もちろん「給付費」(法定給付費、加入者が医療機関にかかった場合の7割負担などの分)で、昨年度(2017年度)は3兆9218億円、前年度に比べて826億円・2.15%の増加となりました。

次の大きな支出項目は、高齢者を支えるための「拠出金」で、前年度に比べて2446億円・7.45%増の3兆5265億円となりました。そう遠くない将来、「法定給付費」よりも「拠出金」のほうが大きくなるでしょう。

拠出金の内訳は、75歳以上の後期高齢者医療制度を支えるための「後期高齢者支援金」1兆8324億円(前年度に比べて9.10%増)、70-74歳の前期高齢者の加入割合を調整(国民健康保険で前期高齢者が多く、健保組合や協会けんぽには少ないため、財政調整をする必要がある)するためなどの「前期高齢者納付金」1兆5942億円(同6.34%増)などです。

 

2017年度から後期高齢者支援金の「全面総報酬割」を導入で、拠出金負担が大幅増

前者の「後期高齢者支援金」が大きく増加している背景には、計算方法の段階的見直しがあります。75歳以上の後期高齢者の多くは低所得(年金収入のみという方が多い)である一方、医療費は大きくなるため、単独で医療保険制度を賄うことは困難です。そこで、若人(現役世代)の加入する医療保険から財政支援(後期高齢者支援金)が行われています。この点、被用者保険(健保組合や協会けんぽなど)では、従前、「後期高齢者支援金」の計算方法として「各医療保険の加入者数に応じる」(加入者割)が採用されていました。しかし、より公平な負担を目指すために、加入者数に加えて「負担能力、つまり給与・賞与の水準」をも勘案した方式(総報酬割)が段階的に採用され、昨年度(2017年度)からは全面総報酬割となっています。端的に言えば「給与・賞与の高い人が、より多くの支援金を負担する」という仕組みです。協会けんぽに比べて、健保組合のほうが給与・賞与水準が高い傾向にあるため、健保組合の後期高齢者支援金負担は増大していることが分かります。

また、介護保険制度においても、後期高齢者支援金と同様に、「介護納付金(65歳以上高齢者の介護給付を若人が下支えする支援金)の計算方法について、段階的に総報酬割を導入していく」こととなっています(昨年(2017年)8月より、2分の1総報酬割(年間換算で3分の1総報酬割、今年度(2018年度)より2分の1総報酬割、来年度(2019年度)より4分の3総報酬割、再来年度(2020年度)より全面総報酬割)。介護保険においても納付金負担が2020年度にかけて増加していきます。

 
ただし、医療分については、2017年度から18年度にかけて、さらにそれ以降は全面総報酬割が維持されるので、別に「後期高齢者医療費が急騰する」などの要因がなければ、理論上「後期高齢者支援金負担の大幅増加はない」ことになります。

3分の1を超える健保組合で、支出の半分以上が高齢者への支援等に使われる

こうした影響もあり、支援金などが義務的経費(法定給付費と高齢者医療への拠出金)に占める割合は47.35%で、前年度から1.26ポイント上昇しています。しかし、この割合を健保組合ごとに見てみると、▼40%未満が166組合・11.9%(前年度に比べて2.3ポイント減少)▼40-50%が738組合・52.9%(同6.9ポイント増)▼50-60%が468組合・33.6%(同8.4ポイント増)▼60%以上が22組合・1.6%(0.9ポイント増)—となっており、「3分の1を超え、4割近い健保組合では、支出の半分以上が自組合の加入者のためでなく、高齢者のための支出」となっていることが分かります。


 
前年度からのシェアの変化を見れば、より厳しい状況になっていることが伺えるでしょう。また、全面総報酬割が今後も維持されるため、この「厳しい」状況は、そうたやすくは打開できないことも分かります。

 
 後期高齢者医療制度が創設される直前の2007年度と2017年度を比べると、「支出の半分超が高齢者のための支援金等」となっている健保組合の割合は6.5%から35.2%に増加(+28.7ポイント)しています。医療保険制度は「社会連帯」に基づく制度であり、負担能力のある若人が負担能力の小さな高齢者を支える構造は、もちろん「当然」のことです。ただし、「収入の過半を加入者以外の医療費に充てなければならない」事態があまりに長期間続けば、「社会連帯」という医療保険制度の基盤が崩れていく可能性もあります。世界に冠たる国民皆保険制度を維持するためにも、「負担感の公平性」(若人並み、あるいはそれ以上の負担能力を持つ高齢者に応分の負担を求めるなど)をより担保する仕組みの必要性は変わっていません。

 
 こうした厳しい状況について健保連は、「現役世代の負担は限界に達しており、将来にわたり、国民皆保険を維持するため、早急に高齢者医療費の負担構造改革等に取り組むべき」と強調。▼高齢者医療費の負担構造改革▼医療費の伸びの抑制▼健康な高齢者を増やすための保健事業の強化—を政府、国民に強く呼びかけています。

 
 
 
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