医科の入院・入院外とも家族の受診率が高い、#8000の周知など含めた健康教育の重要性再確認—健保連
2020.6.5.(金)
医科入院外・医科入院ともに、サラリーマン本人よりも家族の1人当たり医療費が依然として高い。全般的に「受診率の高さ」がその背景にある―。
このような状況が、5月26日に健康保険組合連合会(健保連)が公表した2018年度の「健保組合医療費に関する調査(基礎数値)」から浮かんできました(健保連のサイトはこちら)。傾向としては前年度と同様で、「本当に医療機関受診が必要なのか」を一定程度判断できるような健康教育や相談体制(例えば#8000など)の整備・周知について、各健保組合による改善の余地が依然として大きなことが伺えます(前年度の関連記事はこちら、前々年度の関連記事はこちら)。
目次
医科入院外の1人当たり医療費、受診率の高さゆえ「本人よりも家族のほうが高い」
主に大企業で働くサラリーマンとその家族が加入する健康保険組合の連合組織である健保連では、かねてからデータヘルスに積極的に取り組んでいます(関連記事はこちらとこちらとこちら)。今般、1280組合のサラリーマン本人(1532万6859人)、家族(1181万8777人)の2018年度電算処理レセプト((3億1445万4152件)をもとに医療費の詳細な分析を行いました。
健保組合の2018年度医療費は約4兆251億円(前年度に比べて346億円・0.8%減)で、診療種類別の内訳は、▼医科入院:23.7%(同0.1ポイント増)▼医科入院外:42.9%(同0.1ポイント減少)▼歯科入院:0.2%(同増減なし)▼歯科入院外:12.1%(同0.1ポイント増)▼調剤:21.0%(同0.5ポイント減)―となっています。前年度から構成割合に大きな変化はありません。
医療費を1人当たりで見ると、本人::14万5784円(前年度に比べ870円・0.6%増)、家族:15万1516円(同960円・0.6%増)となりました。
診療種類別に見ると、次のような状況です。
【医科入院】 本人:3万3407円(前年度に比べ1.7%増)、家族:3万7436円(同1.4%増)
【医科入院外】 本人:6万2371円(同2.0%増)、家族:6万5283円(同0.4%増)
【調剤】 本人:3万1051円(同1.6%減)、家族3万1254円(1646円(同1.2%減)
まず最もシェアの大きな「医科入院外」の1人当たりについて見ていきましょう。この点、本人よりも家族のほうが4029円・12.1%高くなっています。この原因・背景を「医療費の3要素」(受診率・1件当たり日数・1日当たり医療費)に分解して探ってみると、次のようなことが分かりました。
▽受診率(1000人当たりの受診件数、つまり医療機関にかかる頻度)
本人:5488.4(前年度から1.3%増)、家族:6789.9(同0.7%増)で、家族が本人の1.24倍(同増減なし)
▽1件当たり日数(いわば一連の治療でかかる日数)
本人:1.4日(同増減なし)、家族:1.4日(同増減なし)で、家族が本人の1.0倍(同0.07ポイント減)
▽1日当たり医療費(いわば単価)
本人:8428円(同1.4%増)、家族:6665円(同0.8%増)で、家族が本人の0.8倍(同増減なし)
ここから、「受診率」(つまり医療機関にかかる頻度)が高いために、家族の医科入院外1人当たり医療費が高くなっていることが分かります。
さらに年齢階層別に、医科入院外医療費の3要素を、本人と家族で比較してみると、次のような状況が分かりました。
▽受診率:全般的に家族の方が高く、本人では存在しない0-4歳(1万715.2、前年度から0.5%減)・5-9歳(7857.9、同0.8%増)で非常に高い
▽1件当たり日数:全般的に本人と家族とで同程度
▽1日当たり医療費:全般的に本人のほうがやや高い
ここから、家族では「多くの年齢階級で受診率が高く、かつ乳幼児の受診が多い」ために、入院外医療費が高くなっていると考えられます。乳幼児については、▼本人が状態を口に出すことが難しい▼自治体による医療費助成が行われる―ことなどから、どうしても医療機関受診が多くなりがちです。例えば、国や各都道府県が開設する「子ども医療電話相談事業(#8000)」、「救急相談センター(#7119)」の周知をさらに充実するなどの健康教育を保険者自らが実施することが重要でしょう。
呼吸器疾患による外来受診率、家族で飛び抜けて高い
次に、医科入院外医療費の構成を疾患別に見てみると、▼呼吸器系疾患:18.4%(前年度から0.4ポイント減)▼内分泌、栄養及び代謝疾患:11.5%(同0.1ポイント増)▼新生物:8.8%(同0.3ポイント増)▼循環器系疾患:7.7%(同0.5ポイント減)▼皮膚及び皮下組織疾患:6.9%(同0.2ポイント増)▼筋骨格系及び結合組織疾患:6.8%(同0.2ポイント増)▼消化器系疾患:6.8%(同0.2ポイント増)―などが大きなシェアを占めています。上位疾患のシェアが広がっていることが伺えます。
1人当たり医療費で見てみると、本人では▼内分泌、栄養及び代謝疾患:1万2688円(前年度から2.1%増)▼呼吸器系疾患:1万1663円(同0.1%増)▼循環器系疾患:9332円(同6.5%減)▼新生物:9423円(同4.6%増)―などが高く、家族では▼呼吸器系疾患:2万4131円(同2.8%減)▼皮膚及び皮下組織疾患:8411円(同3.0%増)▼内分泌、栄養及び代謝疾患:8224円(同0.4%減)▼新生物:6549円(同3.2%増)―などが高くなっています。家族では、▼呼吸器系疾患が飛び抜けて高い(乳幼児が含まれるためと推測される)▼皮膚科系疾患が高い―ことなどの点で、本人と様相が異なっています。
さらに、本人と家族について疾患別に受診率を比較してみると、本人では▼呼吸器系疾患:1420.9(前年度から5.9%増)▼内分泌、栄養及び代謝疾患:1263.5(同3.2%増)▼消化器系の疾患:1184.7(同1.4%増)▼循環器系疾患:1081.5(同0.3%減)―などが高く、家族では▼呼吸系疾患:2714.4(同0.7%減)▼皮膚及び皮下組織疾患:1308.9(同8.9%増)▼眼及び付属器疾患:912.9(同2.6%増)▼消化器系疾患:802.4(同0.3%減)―などで高くなっています。呼吸器系疾患の1人当たり医療費が家族で飛び抜けて高いのは、「受診率が飛び抜けて高い」ことに起因していると考えられます。
家族における呼吸器系疾患の受診率の高さの背景には、「乳幼児」が大きく関係していると考えられます。「軽い風邪症状などで医療機関を受診する」ことが本当に必要なのか、前述した「子ども医療電話相談事業(#8000)」「救急相談センター(#7119)」を周知し、そこにまず相談する風土づくりと言えそうです。
医科入院でも受診率の高さゆえ、「家族の1人当たり医療費」が高い
次に「医科入院」について、少し詳しく見ていきましょう。
医科入院の1人当たり医療費は、本人:3万3407円(前年度に比べ1.7%増)、家族:3万7436円(同1.4%増)で、医科入院外と同様に「家族のほうが高い」(本人よりも家族のほうが4029円・12.1%高い)状況です。3要素に分解して探ってみると、次のような状況が分かりました。
▽受診率(1000人当たりの受診件数、つまり医療機関に入院する頻度)
本人:68.8(前年度から0.4%減)、家族:84.7(同1.5減)で、家族が本人の1.23倍(同0.01ポイント減)
▽1件当たり日数(いわば一連の治療における在院日数)
本人:8.1日(前年度から増減なし)、家族:8.8日(同0.1日減)で、家族が本人の1.09倍(同0.01ポイント減)
▽1日当たり医療費(いわば単価)
本人:5万9998円(前年度から2.7%増)、家族:5万353円(同3.8%増)で、家族が本人の0.84倍(同0.01ポイント増)
ここから、やはり「受診率」(つまり入院の頻度)が高いために、家族の入院1人当たり医療費が高くなっていることが分かります。
さらに年齢階層別に、医科入院外医療費の3要素を、本人と家族で比較してみると、次のような状況が分かりました。
▽受診率:家族では、本人に存在しない0-4歳と、25-34歳の階層で著しく高い
▽1件当たり日数:全般的に家族で長い
▽1日当たり医療費:本人存在しない14歳以下を除き、全般的に本人のほうが高い
ここから、家族では▼乳幼児の入院▼出産・妊娠に伴う疾患での入院―に起因して、1人当たり医療費が高くなっていると考えられそうです。また、家族では「在院日数が長い」点も気になり、早期退院の可能性を探っていく必要があります。
0-4歳の乳幼児、依然として1日当たりの入院医療費(単価)が最も高い
また、医科入院医療費の構成を疾患別に見てみると、▼新生物:19.4%(前年度に比べ0.1ポイント増)▼循環器系疾患:15.8%(同0.2ポイント減)▼消化器系疾患:8.5%(同0.1ポイント増)▼損傷、中毒及びその他の外因の影響:7.9%(同0.2ポイント増)▼呼吸器系疾患:6.9%(同0.1ポイント減)▼筋骨格系及び結合組織疾患:6.1%(同0.2ポイント増)▼妊娠、分娩及び産褥:5.1%(同0.2ポイント減)―などが大きなシェアを占めています。
1人当たり医療費で見てみると、本人では▼新生物:7447円(前値度に比べ2.1%増)▼循環器系疾患:6841円(同0.4%増)▼消化器系疾患:3214(同2.3%増)―などが高く、家族では▼新生物:4902円(同0.7%増)▼呼吸器系疾患:3247円(同1.5%減)▼循環器系疾患:3024円(同1.3%減)―などが高くなっています。
さらに、本人と家族について疾患別に受診率を比較してみると、本人では▼消化器系疾患:28.0(前年度から1.1%減)▼新生物:18.5(同1.1%減)▼循環器系疾患:17.8(同7.8%減)▼内分泌、栄養及び代謝疾患:15.3(同1.3%減)―などが高く、家族では▼消化器系疾患:24.0(同2.4%減)▼呼吸器系疾患:20.0(同2.4%減)▼内分泌、栄養及び代謝疾患:14.6(同3.3%減)▼神経系疾患:13.5(同5.5%増)—などが高くなっています。
なお、0-4歳では、1日当たり医療費が全年齢階層の中で最も高く(6万6503円、前年度から3.3%増)、受診率も比較的高い(181.3、前年度から1.1%増)ことから、「乳幼児の入院」も、家族の1人当たり医療費に相当程度の影響を与えていると推測できます。
サラリーマン本人、外来では生活習慣病、入院ではがんの医療費が依然として高い
さらに「1人当たり医療費」について、より詳細な疾病分類で見てみると、医科入院と医科入院外では、それぞれ次のようになっています。
【医科入院】
▼本人:「その他の悪性新生物」2537(前年度から4.0%増)、「その他の心疾患」2278円(同1.3%増)、「その他の消化器系の疾患」2131円(同0.5%増)
▼家族:「その他の妊娠、分娩及び産褥」1813円(同4.4%減)、「その他の消化器系の疾患」1612円(同1.1%増)、「その他の損傷及びその他の外因の影響」1422円(同5.3%増)
【医科入院外】
▼本人:「糖尿病」6486円(同2.6%増)、「高血圧性疾患」5526円(同8.4%減)、「その他の消化器系疾患」5092円(同3.1%増)
▼家族:「喘息」5884円(同0.2%増)、「アレルギー性鼻炎」5599円(同2.6%増)、「その他の皮膚及び皮下組織疾患」4696円(同5.3%増)
これまで見てきたように、年代・世代によって医療費に特性のあることがうかがえます。保険者の枠組みを超えて、「後期高齢者医療」(75歳以上)や「国民健康保険」(70-74歳の前期高齢者の加入割合が高い)を組み合わせた分析を行えば、さらに「年代・世代別の医療費の特徴」が顕著になり、適正化に向けた効果的な対策を打つことが可能になると考えられます。
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