75歳以上の自己負担を原則2割に引き上げ、市販品類似薬の保険給付見直しを―健保連
2019.9.10.(火)
2022年度から団塊の世代が75歳以上に到達しはじめ、医療保険財政が厳しくなる。まず75歳に到達する人から一部負担を2割に引き上げるとともに、市販品類似の医療用医薬品について保険給付の在り方を見直すべきである―。
健康保険組合連合会は9月9日、こういった内容を盛り込んだ提言「今、必要な医療保険の重点施策―2022年危機に向けた健保連の提案―」を公表しました(健保連のサイトはこちら)(関連記事はこちらとこちら)。
まず75歳到達者から一部負担を2割に引き上げよ
主に大企業で働くサラリーマンとその家族が加入する健康保険組合の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)は、医療保険をはじめとする社会保障制度についてさまざまな角度から分析を行い、各種の提言を行っています。
「医療技術の高度化」(超高額な医薬品キムリアなどの登場)や「高齢化の進展」などにより医療費は増加を続けています。2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となることから、今後、さらに急速に医療費が増加していくと予想されます。その後2040年にかけて高齢者の増加ペース自体は鈍化するものの、支え手である現役世代人口が急速に減少していくことが分かっています。「より少ない支え手」で「より多くの高齢者」を支えなければならず、公的医療保険制度の基盤が極めて脆くなっていきます。
健保連はそうした中で健保連は、団塊の世代が75以上の後期高齢者となりはじめる「2022年」に注目し、この時点から医療保険財政が極めて厳しくなると強調。健保連はこれを「2022年危機」を呼んでいます。
これを放置すれば医療保険制度の安定運営が困難になることから、健保連は(1)高齢者医療費の負担構造改革を実現し、世代間、世代内の給付と負担のアンバランスを是正するとともに、公費拡充等を通じて、現役世代の負担軽減を図る(2)保険給付を適正化し、医療費を大切に使う(3)保健事業の取り組みを通じて健康な高齢者、つまり「支える側」を増やす―という改革を早急に行うべきと訴えます。
まず(1)の「高齢者医療費の負担構造改革」では、▼後期高齢者の原則2割負担導入(75歳に到達した人から順次2割+段階的拡大)▼後期高齢者の現役並み所得者における公費5割への見直し(基準見直しによる「公費負担の減少=現役世代の負担増(肩代わり)」を回避)▼拠出金負担割合の上限設定(拠出金割合が50%を超えないような公費負担拡充等)▼前期高齢者財政調整の見直し(不合理な調整方法の見直しによる過重な負担の是正等)▼高齢者医療を支えるための保険料負担についての理解醸成、認識共有(特定保険料の明示等)―を行うべきと提言。
75歳以上の後期高齢者の一部負担(医療機関での窓口負担)は、原則「1割」となっています(「現役並み所得者」(概ねの年収が単独世帯では383万円以上、夫婦2人世帯では520万円以上など)では3割負担)。
後期高齢者の多くは年金生活者であり、収入が少ないことからの配慮ですが、1人当たりの「給付と負担のバランス」を年代別に比較すると、現役世代(健保組合、協会けんぽ、市町村国保)に比べて、後期高齢者では「給付が多く、負担が少ない」ことが分かります。高齢になれば傷病のリスクが高まるため、医療を受ける機会が増え、現役世代に比べて給付が多くなることは当然ですが、健保連では「給付に比べて負担が小さすぎる」と考えます。
そこで、一部負担を「2割」とすることで、世代間のバランスをとるべきと健保連は訴えます。この点、健保連が2017年に実施した「医療・医療保険制度に関する国民意識調査」では、後期高齢者の27%が「自己負担の2割への引き上げ」を容認していることも訴えの論拠となっています。
なお、70-74歳の前期高齢者では、すでに「1割負担」から「2割負担」への引き上げが行われています。その際、「新たに70歳に到達した人から2割負担とする」という段階的導入を行ったことで、「個人単位で見れば、69歳までは3割負担、70歳から2割負担」となり、自己負担引き上げにはなっていません。
健保連もこうした段階的な導入(74歳までは2割負担、75歳からも2割負担として、個人単位での自己負担引き上げを行わない)をまず実施すべきと提案。さらに、「1割負担者の自己負担引き上げ」も検討すべきとの考えを示しています。
市販品類似薬、保険給付からの除外または償還率の見直しを
また(2)の「保険給付の適正化」では、薬剤費の増加に注目し、「市販品(OTC)類似薬を保険給付範囲からの除外する、あるいは償還率(現役世代では7割償還、3割が患者負担)の変更」を行うべきと健保連は提案します。
フランスでは、医薬品を分類し、抗がん剤などについては「償還率100%」(つまり患者負担ゼロ)ですが、去たん剤や外皮用消炎鎮痛剤などについては「償還率ゼロ」(つまり100%患者負担)となっています。一定の基準で「医薬品の重要性」を設定するもので、健保連では「薬局・薬店でも購入できる市販医薬品(一般用医薬品)と類似する医療用医薬品」については、「重要性」が低く、保険給付の見直しを検討すべきと訴えているのです。
健保連はこれまでにも「ビタミン剤」「湿布」「保湿剤(ヒルドイド軟膏)」について保険給付の見直しを提言しており(関連記事はこちら)、さらに先ごろ「花粉症治療薬」についても保険料見直しの必要性を訴えました(関連記事はこちら)。
今後、中央社会保険医療協議会や社会保障審議会・医療保険部会などで、どういった議論が行われるのか注目する必要があります。
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