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診療報酬改定セミナー2024 新制度シミュレーションリリース

脊髄性筋萎縮症治療薬「ゾルゲンスマ」、白血病等治療薬「キムリア」の登場で、医療費上位疾患に衝撃的変化―健保連

2021.9.13.(月)

昨年度(2020年度)において、1か月当たり医療費が1000万円以上となった高額レセプトは1365件あり、前年度に比べて514件・60.4%の大幅増加となった―。

超高額レセプト増加の背景には、脊髄性筋萎縮症治療薬「ゾルゲンスマ」、白血病等治療薬「キムリア」などの保険適用が大きく関係していると見られ、上位7位までは脊髄性筋萎縮症、第10位から26位までは血液がんの患者となっているなど、衝撃的とも言える変化が出ている。また1か月当たり医療費の最高額は、脊髄性筋萎縮症患者の1億7147万3440円であった―。

健康保険組合連合会が9月13日に公表した昨年度(2020年度)の「高額レセプト上位の概要」から、こういった状況が明らかになりました(健保連のサイトはこちら)(2019年度に関する記事はこちら、2018年度に関する記事はこちら、2017年度に関する記事はこちら、2016年度に関する記事はこちら)。

脊髄性筋萎縮症の上位7症例は、いずれも1か月医療費が1億7000万程度

健康保険組合(健保組合)は、主に大企業の従業員とその家族が加入する公的医療保険です。健保組合の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)では、毎年度のレセプトから「1000万円以上の高額レセプト」を抽出し、分析しています。

1000万円以上の高額レセプトは昨年度(2020年度)には1365件発生し、過去最高を更新しました。最近の状況を見ると、次のようにハイペースで増加していることが分かります。

▼2014年度:300件

(61件・20.3%増)

▼2015年度:361件

(123件・34.1%増)

▼2016年度:484件

(48件・9.9%増)

▼2017年度:532件

(196件・36.8%増)

▼2018年度:728件

(123件・16.9%増)

▼2019年度:851件

(514件・60.4%増)

▼2020年度:1365件



また金額階級別に高額レセプトの対前年増加率(2019年度→20年度)を見ると、次のように「2000万円以上」「1000万円以上2000万円未満」の超高額レセプトが激増(2000万円以上の超高額レセに至っては2倍近くに増加)している状況が伺えます。
▽2000万円以上:96.39%増
▽1000万円以上2000万円未満:18.56.51%増
▽500万円以上1000万円未満:19.60%増
▽400万円以上500万円未満:5.06%増
▽300万円以上400万円未満:1.31%減
▽200万円以上300万円未満:2.42%増
100万円以上200万円未満:2.11%増
▽40万円以上100万円未満:2.35%減
―となっており、「1000万円以上2000万円未満」のレセプトが著しく増加していることが分かります。

超高額レセプトの動向(2020年度超高額レセ(3) 210913)



健保連では、例えば▼2015年11月には、造血幹細胞移植後の急性GVHD(移植片対宿主病)治療薬「テムセルHS注」(収載時の薬価は1バッグ当たり86万8680円)が▼2016年5月にはライソゾーム酸性リパーゼ欠損症(コレステロールエステル蓄積症、ウォルマン病)治療薬「カヌマ点滴静注液20㎎」(同10ml1瓶当たり127万7853円)が▼2017年8月には脊髄性筋萎縮症治療薬「スピンラザ髄注」(12mg5mL1瓶当たり932万424円)が▼2018年5月には先天性血液凝固第VIII因子欠乏患者における出血抑制に用いる「ヘムライブラ皮下注」(150mg1瓶当たり134万4343円)が▼2019年5月には白血病等の血液がん治療薬の「キムリア点滴静注」(1患者当たり3349万3407円)が▼2020年5月には脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1患者当たり1億6707万円7222円)が―保険適用載されていることを紹介しており、「高額な医薬品の保険適用が、高額レセプト増加の大きな要因になっている」と考えていることが伺えます。

超高額レセプトの発生動向と、超高額医薬品の保険適用との関係(2020年度超高額レセ(2) 210913)



ここで昨年度(2020年度)における上位100疾患のリストに目を移すと、最高額のレセプトは、脊髄性筋萎縮症の患者で1か月当たり1億7147万3440円でした。また、第1位から第7位まで「脊髄性筋萎縮症」患者が占めており、第2位以下の最高月額医療費は▼第2位:1億6829万3600円▼第3位:1億6810万9980円▼第4位:1億6801万2230円▼第5位:1億6762万9410円▼第6位:1億6761万9660円▼第7位:1億6733万680円―となっています。ゾルゲンスマ点滴静注の保険適用が、ここに大きく関係していることは想像に難くありません。

また第8位は血友病A患者で1億1016万9200円、第9位は血友病A患者で6056万9670円です。

さらに第10位から第26位までは、「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」患者や「B細胞性急性リンパ芽球性白血病」、つまりキムリアが適応となる疾患の患者が占めています(あわせて第29位から第35位も同様)。ここでもキムリアの保険適用が、大きく関係していると推測できます。

2020年度の超高額レセプト、上位100疾患の状況(2020年度超高額レセ(1) 210913)



より長期的に見ていく必要がありますが、上位100件の高額レセプトの「疾病構成」について、「悪性腫瘍」が大幅に増加する(2019年度はゼロ件→2020年度は24件)など、その顔ぶれに大きな変化が生じていることが分かります。今回のデータは「衝撃的な内容」とも言えるでしょう。

悪性腫瘍、つまりがん患者は今後も増加すると見込まれ、同時に「優れた、しかし超高額な治療薬」も相次いで出現すると予想されます。「優れた医薬品」の相次ぐ開発・保険適用は、患者・家族にとっては何よりの朗報ですが、こうした医薬品は「超高額であり、医療費を膨張させてしまう」という事実からも目をそらすことはできません。その際、「薬価」ばかりに目が行き、製薬メーカーの開発意欲を削ぐことは本末転倒です。今後、「薬価算定ルールの在り方」や「対象患者の明確化」(最適使用推進ガイドラインなど)などをめぐる議論も厳しさを増していく可能性があります。





ところで、こうした高額レセプトが発生した場合、健保組合の財政が一時的に苦しくなることがありえます(とりわけ小規模な健保組合では1件が財政に与える影響が大きい)。そこで健保連では、いわば「再保険」とも言える仕組みを用意しています。具体的には保険料の一部をプールし、高額レセプト(2020年度は一般疾病では120万円超、血友病などの特殊疾病では40万円超)が発生した健保組合に対して、基準額(同)を超過した分が交付されます(高額医療交付金交付事業)。

健保組合で、超高額レセプトが発生した場合の「再保険」といえる高額医療交付金の仕組み(2020年度超高額レセ(4) 210913)



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