花粉症の1人当たり医療費、家族の受診率増・1日当たり医療費増により「本人と家族で同程度」との構図崩れる―健保連
2021.6.25.(金)
▼感冒(風邪)▼インフルエンザ▼アレルギー性鼻炎▼花粉症―の医療費を分解すると、「感冒やアレルギー性鼻炎では、家族のほうが本人に比べて受診率が高い」など、疾病によって状況が異なり、医療費適正化に向けた取り組みも異なってくる―。
花粉症について、「家族」で受診率の上昇・1日当たり医療費の上昇によって「1人当たり医療費」が大きく増加し、これまでの「本人と家族と同程度」という構図が変化している―。
健康保険組合連合会(健保連)が6月23日に公表した2019年度の「かぜ(感冒)・インフルエンザ等、季節性疾患(入院外)の動向に関するレポート」から、こういった状況が浮かび上がってきました(健保連のサイトはこちら)(2018年度の分析に関連する記事はこちら、2017年度の分析に関連する記事はこちら、2016年度の分析に関する記事はこちら)。
目次
感冒、新型コロナとの鑑別に留意しながら、「医療機関受診の必要性」考慮を
主に大企業で働くサラリーマンとその家族が加入する健康保険組合(健保組合)の連合組織である健康保険組合連合会(健保連)は、かねてからデータヘルスに積極的に取り組んでいます。具体的には、保有するレセプト情報をさまざまな角度から分析し、加入者に対して「自分自身で生活習慣や医療機関受診行動を変容させる」ような情報知恵協を行っています。
今般、1295組合における約2億6892万件のレセプトを対象に、(1)急性鼻咽頭炎(かぜ<感冒>)(2)インフルエンザ(3)血管運動性鼻炎・アレルギー性鼻炎<鼻アレルギー>(4)花粉によるアレルギー性鼻炎<鼻アレルギー>―の4疾患について、有病者数や医療費の3要素などを分析しています。
まず(1)の感冒について、本人・家族別に「年齢階級別の有病者数の構成割合」(有病者の最も多かった2019年12月)を見ると、前年調査と同じく▼「0-4歳の家族」(乳幼児)がとりわけ多い▼「0-9歳の家族」で有病者全体の過半数を占めている―状況を確認できます。
感冒の1人当たり医療費を見ると、本人は99円(前年度から2円減)ですが、家族は289円(同32円減)で、家族が本人の3倍弱となっています(格差は0.26ポイント縮小)。本人・家族別、年齢階級別に見ると、▼「0-4歳の家族」が1328円(同159円減))が飛び抜けて高い▼全般的に、家族が本人よりもやや高い—状況も、変化ありません。
ここで「1人当たり医療費」を、(1)受診率(どのくらいの頻度で医療機関にかかるのか)(2)1件当たり日数(医療機関に何日ほどかかるのか)(3)1日当たり医療費(1日の医療費はいくから)—の3要素に分解してみましょう。ここから、「医療費を適正化するためには、どの点に留意して対策を進めれば効果的なのか」が分かります。例えば、▼受診率が高い疾患については「予防」が重要となるため、保健指導などを充実して生活習慣の改善等を促す▼1件当たり日数が長い疾患では、受診日数短縮等に向けて診療報酬での対応(例えば「オンライン診療」の活用なども一手)を検討する▼1日当たり医療費が高い疾患では、後発品使用等を促す―ことなどで、医療費の適正化が期待できるのです。
感冒について、医療費の3要素を本人・家族で比較してみると、次のような状況が明らかとなりました。
▽受診率:本人67.9、家族167.5で、家族が本人の2.5倍(格差が前年度から0.1ポイント縮小)
▽1件当たり日数:本人1.4日、家族1.7日で、家族が本人の1.2倍(同増減なし)
▽1日当たり医療費:本人1048円、家族1037円で、本人が家族の1.01倍(格差が同0.1ポイント拡大)
3要素の傾向は前年調査から変化なく、「家族の受診率」が感冒の医療費に大きく影響していることが再確認できます。この点、感冒にかかる医療費を適正化するためには、例えば「本当に医療機関を受診する必要があるのか」などの健康教育を充実していくことが重要と考えることもできます。ただし、現下の「新型コロナウイルス感染症」という要素を考慮したとき、「早期に受診し、鑑別診断を受ける」ことが重要である点を忘れることはできません。
インフルエンザ、「手洗い実行」など衛生面への配慮による予防が極めて重要
次に(2)のインフルエンザを見てみましょう。
本人・家族別に「年齢階級別の有病者数の構成割合」(有病者の最も多かった2020年1月)を見ると、20-64歳では「本人の有病者数が家族よりも圧倒的に多い」(例えば40-44歳では本人が家族の3.6倍)ことが分かります。会社務めをするサラリーマンでは、他者と接触する機会、つまり「感染の機会が多い」ことなどが推測されます。
1人当たり医療費を見ると、本人1072円(前年度から762円減)、家族1978円(同360円減)で、家族が本人の1.8倍強となりました(格差が0.2ポイント拡大)。
本人・家族別、年齢階級別に1人当たり医療費を見ると、有病者数と同じく「本人のほうが家族よりも高い」傾向がうかがえます。家族において1人当たり医療費が高いのは、「0-14歳の医療費」が原因と言えるでしょう。
1人当たり医療費を3要素に分解してみると、次のような点が分かります。
▽受診率:本人152.6、家族261.5で、家族が本人の1.7倍(格差が前年度から0.2ポイント拡大)
▽1件当たり日数:本人1.3日、家族1.5日で、家族が本人の1.2倍(同増減なし)
▽1日当たり医療費:本人5315円、家族4916円で、本人が家族の1.1倍(同増減なし)
家族においてインフルエンザにかかる1人当たり医療費が高い背景には、「0-14歳の小児で受診が多い」点が大きく影響しているようです。「予防接種の励行」や「手洗い等の履行」などを進めることが重要でしょう。
なお、新型コロナウイルス感染症が蔓延する中で、多くの国民が「手洗い等の履行」を意識し、季節性インフルエンザをはじめとする感染症が激減したと考えられています(いわゆる「ウイルス干渉」の影響も考えられる)。今後も、感染症予防のために、さらなる衛生面の向上に努めることが重要でしょう。
アレルギー性鼻炎、感冒と同様に「医療機関受診が本当に必要性か」も考慮すべき
(3)の血管運動性鼻炎・アレルギー性鼻炎について、本人・家族別に「年齢階級別の有病者数の構成割合」(有病者の最も多かった2020年2月)を見ると、(2)のインフルエンザと同じく「20-64歳では、本人の有病者数が家族よりも圧倒的に多い」ことが分かります(45-49歳では2.3倍で、格差は前年度に比べて0.1ポイント拡大)。この背景についても詳しく分析する必要があるでしょう。
また1人当たり医療費を見てみると、本人2931円(前年度から158円減)、家族5189円(同261円減)で、家族が本人の1.77倍(格差が0.01ポイント拡大)となりました。年齢階級別に見ると、0-14歳を除き「本人と家族とで同程度(若干、家族のほうが高め)」という状況に変化はありません。
さらに1人当たり医療費を3要素に分けてみると、次のような状況となっています。
▽受診率:本人605.6、家族1115.6で、家族が本人の1.8倍(前年度から格差が0.1ポイント縮小)
▽1件当たり日数:本人1.3日、家族1.5日で、家族が本人の1.2倍(同増減なし)
▽1日当たり医療費:本人3638円、家族3076円で、本人が家族の1.2倍(同増減なし)
家族における1人当たり医療費の高さは、主に受診率に起因していることが分かります。感冒と同様に「本当に医療機関を受診する必要があるのか」といった点などに関する健康教育が医療費適正化に向けて重要と考えられそうですが、やはり「新型コロナウイルス感染症との鑑別」という重要テーマを考慮しなければなりません。
花粉症、「家族」の受診増・1日当たり医療費増で1人当たり医療費が大きく上昇
最後に(4)の花粉によるアレルギー性鼻炎について見てみましょう。
本人・家族別に「年齢階級別の有病者数の構成割合」(有病者の最も多かった2020年2月)を見ると、(2)(3)の疾患よりも顕著に「20-64歳では、本人の有病者数が家族よりも多い」ことが分かります。背景をしっかりと探る必要があるでしょう。
1人当たり医療費を見ると、本人160円(前年度から17円増)、家族222円(同74円増)で、家族の本人の1.4倍となり、これまでの「本人>家族」という構図が逆転しています。家族の1人当たり医療費増が顕著であり、その背景をしっかりと分析する必要があります。。
1人当たり医療費を3要素に分けると、次のような状況が明らかになりました。
▽受診率:本人28.9、家族36.4で、家族が本人の1.2倍(前年度から格差が0.1ポイント拡大)
▽1件当たり日数:本人1.3日、家族1.4日で、家族が本人の1.1倍(同0.1ポイント縮小)
▽1日当たり医療費:本人4315円、家族4414円で、家族の本人の1.02倍(同逆転)
家族における1人当たり医療費が増加した背景には、▼受診率の上昇▼1日当たり医療費の上昇—の両側面があります。さらなる分析の深堀りを進めると同時に、必要に応じて「後発品の使用促進」「適正受診」の勧奨などを着実に進めていくことが重要です。
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