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経過措置型療養での適正なリハビリ実施、摂食嚥下支援加算の見直しで中心静脈栄養離脱目指す―中医協総会(1)

2021.11.19.(金)

あたかも「ミニ回復期リハビリテーション病棟」の様相を呈している「経過措置型の療養病棟」(看護師20対1以上、看護補助20対1以上を満たせない病棟)がある。療養病棟の本来の姿と言えないことから、経過措置については期限通り「2022年3月末」で終了すべき。それとも行き場所のない患者が生じないよう延長すべきか。経過措置を延長するのであれば「適正なリハビリの実施」を求めていく必要があるのではないか―。

療養病棟の入棟患者において「早期の中心静脈栄養からの離脱」を促すために、【摂食嚥下支援加算】の要件緩和などを検討してはどうか―。

11月19日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こういった議論が行われました。

経過措置型療養で「適正なリハビリ」を実施するために、どういった方策が考えられるか

2022年度の次期診療報酬改定に向けた中医協論議が、ますます熱を帯びてきています。11月19日には▼小児医療▼周産期医療▼精神科救急医療▼慢性期入院医療―を主な議題としました。本稿では慢性期入院医療のうち「療養病棟入院基本料」に焦点を合わせます(他の項目は別稿で報じます)。

療養病棟については、中医協の下部組織である「入院医療等の調査・評価分科会」(入院医療分科会)で、主に次の2点を改善する必要があるのではないかという議論が行われました(関連記事はこちらこちら)。

(1)「経過措置型療養病棟」があたかも「ミニ回復期リハビリ病棟」のように活用されている
(2)早期の中心静脈栄養離脱に向けた「嚥下機能評価・嚥下リハビリ」が十分に行われていない

前者(1)の「経過措置病棟」は、人員配置が薄く重症患者受け入れ基準も設定されていないことから、入院基本料が【療養病棟入院基本料2】の85%と「低く設定」されていますが、請求点数は【療養病棟入院基本料2】よりもはるかに高くなっています。この背景を詳しく分析したところ、▼運動器リハビリを多く行っている▼入棟期間が短い―という具合に、まるで準「回復期リハビリ病棟」・ミニ「回復期リハビリ病棟」とでも言うような使われ方がなされていることが分かりました。これを「経営努力」と見る向きもありますが、「療養病棟の在り方に照らして、適切と言えるだろうか」という声が入院医療分科会で多く出されていました。

入院基本料の低い「経過措置」病棟だが、単価は高い(入院医療分科会(2)2 210806)

経過措置病棟では、運動器リハビリの提供が多い(入院医療分科会(2)3 210806)

経過措置病棟では、入棟期間が3香月程度と短い(入院医療分科会(2)4 210806)



こうした状況を踏まえて厚生労働省保険局医療課の井内努課長は「経過措置型療養病棟」をどう考えるべきか、中医協に議論を要請したものです。

まず経過措置については、現在「2022年3月31日まで設置可」という期限をどう考えるかという問題があります。この点、支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)や松本真人委員(健康保険組合連合会理事)、さらに佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)らは「期限通りの終了」を求めています。上記のような「療養病棟の本来の姿とかけ離れた運用がなされている」点を踏まえた意見と言えます。

これに対し診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「2020年7月1日時点で109施設・5425床が経過措置対象であり、廃止すれば入院患者の行き場所がなくなる可能性もある」として経過措置の延長を要請。

また同じく診療側の池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は「リハビリテーションが必要な疾患、例えば骨折や肺炎などが発症してから30日間は医療区分2に該当するが、31日目からは他の項目に該当しない場合は医療区分1となり、事実上、療養病棟入院基本料1病棟にいられなくなってしまう。そこで、こうした患者(骨折や肺炎などから31日以降の患者)を経過措置病棟で受け入れ、短期間の集中リハビリを行い、自宅復帰等を促している」という実態を紹介。城守委員と同じく「経過措置が廃止されれば、こうした患者は行き場所を失ってしまう。廃止は慎重に考えるべき」との考えを述べています。

療養病棟入院基本料の概要(中医協総会(1)3 191122)



経過措置病棟に入院する患者・家族の状況、例えば「経過措置病棟が診療報酬で廃止され、介護保険施設に移行した場合には、入棟患者が要介護認定を受けられなければ事実上、退所せざるを得なくなってしまう」などの事情を考えれば、「経過措置を延長すべき」との診療側の意見にも頷ける部分があります。

では、経過措置を延長(例えば診療報酬・介護報酬の同時改定を見据え、2024年3月31日まで延長)する場合には、上記のような「ミニ回復期リハビリ病棟化」をどう考えるべきでしょう。

まず経過措置病棟について「減算幅を厳しくする」ことなどが考えられるでしょう。現在、経過措置病棟は療養病棟2の入院基本料から15%減の点数を算定していますが、「20%減」「25%減」などと点数をさらに下げていくイメージです。しかし松本委員は「減算を厳しくしても、出来高算定できるリハビリで減算分を取り戻す動きが出ると考えられ、同じことが生じる」と見通しています。

そこで視点を変え、「リハビリを実施するのであれば、必要性の高い患者に、効果的に実施せよ」と促す、つまり「適正なリハビリの推進」を求めていくことも考えられるでしょう。例えば、回復期リハビリ病棟における「リハビリ実績指数の考え方」、つまり「効果の高いリハビリを行っていない病棟では、リハビリ算定上限を通常の『9単位まで』から『6単位まで』に制限する」ことや、地域包括ケア病棟における「入棟時のADLなどを参考にしたリハビリ必要性判断」要件を設けることなどで、「適正なリハビリ実施を促す」ことなどを参考にする考え方です。

2016年度改定で効果の低い漫然としたリハビリ提供を行う回復期リハ病棟では評価の適正化(6単位超のリハビリの算定制限)が行われた(中医協総会(1)1 211119)

2020年度改定で地域包括ケア病棟における適正なリハビリ実施に向けた向けた手立て(数値評価に基づくリハの必要性判断)を行うことが要件化された(中医協総会(1)2 211119)

2020年度改定で回復期リハ病棟における適正なFIM評価に向けた手立て(患者への結果説明など)を行うことが要件化された(中医協総会(1)3 211119)



また池端委員は「リハビリが必要となる疾患(骨折や肺炎など)の発症から1か月以上経過後も、例えば『リハビリが必要な状態になってから1か月間程度は、リハビリ目的での療養病棟入棟を可能とする』(1か月間は医療区分2への該当を認める)などの工夫を行ってはどうか」と提案しています。

今後、厚労省でこうした意見も踏まえながら、「現実的な対応」を考えていくことになるでしょう。

中心静脈栄養からの早期離脱目指し、療養病棟での嚥下機能評価・嚥下リハをどう推進していくべきか

また(2)は従前から問題視されている「長期間の中心静脈栄養カテーテル留置」に関する論点です。

【療養病棟入院基本料1】では医療区分2・3の患者割合が80%以上、【療養病棟入院基本料2】では同じく50%以上が求められています。この点、医療区分3に該当する「中心静脈栄養を実施している状態」を長期化させている(あえて中心静脈栄養カテーテルを抜去せず、長期間留置している)ケースがあるのではないかが問題視されているのです。

長期間の中心静脈栄養カテーテル留置には、「感染リスクが極めて高くなる」などの大きな問題点があり、2020年度の前回診療報酬改定で▼中心静脈注射用カテーテル挿入等を「長期の栄養管理」目的に留置する場合、患者・家族等へ「当該療養の必要性」「管理の方法・当該療養の終了の際に要される身体の状態」など、療養上必要な事項を説明する▼中心静脈カテーテルに係る院内感染対策の指針作成、中心静脈カテーテルに係る感染症の発生状況把握を要件化する―などの見直しが行われました。

しかし、2020年度改定後の調査結果を見ると、次のように「中心静脈栄養からの早期離脱」に向けた取り組みが十分に進んでいるとは言えない状況が確認されました。

▽医療区分3に「1項目」のみ該当する患者を見ると、「中心静脈栄養」が最も多い

1項目のみで医療区分3となった患者の半数近くは中心静脈栄養である(入院医療分科会(5)4 210827)



▽中心静脈栄養を実施する患者への「嚥下機能評価」実施状況をみると、「していない」ケースが大半である

中心静脈栄養抜去の7割には嚥下機能評価が実施されていない(入院医療分科会(5)5 210827)



▽中心静脈栄養を実施する患者への「嚥下リハビリ」実施状況をみると、「していない」ケースがほとんどである

中心静脈栄養抜去の9割には嚥下リハビリが実施されていない(入院医療分科会(5)6 210827)



こうした状況を踏まえれば、2022年度の次期診療報酬改定でも「中心静脈栄養からの早期離脱を促進」の報酬上のサポートを考えていく必要がありそうです。

ところで11月17日の中医協総会では【摂食嚥下支援加算】(H004【摂食機能療法】の加算)について、▼摂食・嚥下支援チームにおける「研修を修了した看護師」要件を緩和してはどうか▼「嚥下機能評価を実施する体制を敷く医療機関との連携」による要件クリアを可能としてはどうか―といった議論が行われています。

【摂食嚥下支援加算】は、2020年度の前回改定で従前の経口摂取回復促進加算から改組・バージョンアップされたもので、「摂食嚥下支援チームの対応により、摂食・嚥下機能回復が見込まれる患者に対し、医師・看護師・言語聴覚士・薬剤師・管理栄養士等が共同して摂食・嚥下機能回復に必要な指導管理を行う」ことを評価するものです。ただし、▼「研修を修了した看護師の確保」「専任の常勤歯科衛生士の確保」などが難しい▼月1回以上の「内視鏡嚥下機能検査・嚥下造影の実施」などの体制確保が難しい―というハードルもあり、上記の議論が行われたものです。

摂食嚥下支援加算のハードルとしては「専門研修を修了した看護師」などの確保のようだ(中医協総会(1)5 211117)

耳鼻咽喉科などのある他医療機関と連携し、接触機能評価を行っている医療機関もある(中医協総会(1)6 211117)



こうした要件緩和が行われれば、療養病棟においても【摂食嚥下支援加算】の取得が進み、「摂食・嚥下機能の評価が進む」→「中心静脈栄養からの早期離脱が進む」ことが期待されます。井内医療課長は、こうした点についての議論を中医協に要請しており、診療側の城守委員や池端委員、支払側の安藤委員らは、この方向に賛意を示しています。今後、厚労省で具体的な施設基準・算定要件等を詰めていくことになるでしょう。



関連して、支払側の松本委員は「医療区分3に中心静脈栄養を位置づけていることが、長期間の中心静脈栄養カテーテル留置を誘発しているのではないか。早期離脱をより強力に推進していく必要がある」とも指摘しています。「中心静脈栄養実施のみで医療区分3に該当する」という今の医療区分の見直しを求める考えと受け止めることもできそうです。

ただし診療側の池端委員は「嚥下機能評価・嚥下リハビリを行ったとしても、さまざまな理由で経口栄養や経腸栄養などに移行できず、長期間の中心静脈栄養カテーテル留置が必要な患者は一定程度いる。そうした患者について『カテーテルを抜去せよ』と求めるのは『死ね』と言っているのと同じことである」と指摘。「中心静脈栄養カテーテルを抜去後も一定期間(例えば1か月程度)は医療区分3と見做す」などの工夫を行うことも検討してほしいと要望しています。





【これまでの2022年度改定関連記事】
◆入院医療の全体に関する記事はこちら(入院医療分科会の最終とりまとめ)こちら(入院医療分科会の中間とりまとめを受けた中医協論議)こちら(入院医療分科会の中間とりまとめ)こちら(入院総論)
◆急性期入院医療に関する記事はこちら(新指標3、重症患者対応)こちら(看護必要度5)こちら(看護必要度4)こちら(看護必要度3)こちら(新入院指標2)こちら(看護必要度2)こちら(看護必要度1)こちら(新入院指標1)
◆DPCに関する記事はこちらこちら
◆ICU等に関する記事はこちらこちらこちら
◆地域包括ケア病棟に関する記事はこちらこちらこちら
◆回復期リハビリテーション病棟に関する記事はこちらこちらこちらこちら
◆慢性期入院医療に関する記事はこちらこちら
◆入退院支援の促進などに関する記事はこちらこちら
◆救急医療管理加算に関する記事はこちらこちらこちら
◆短期滞在手術等基本料に関する記事はこちら
◆外来医療に関する記事はこちらこちらこちら
◆在宅医療・訪問看護に関する記事はこちら(小児在宅等)こちら(訪問看護)こちらこちら
◆新型コロナウイルス感染症を含めた感染症対策に関する記事はこちら
◆医療従事者の働き方改革サポートに関する記事はこちら
◆がん対策サポートに関する記事はこちらこちら
◆難病・アレルギー疾患対策サポートに関する記事はこちら
◆認知症を含めた精神医療に関する記事はこちら
◆リハビリに関する記事はこちら
◆調剤に関する記事はこちらこちら
◆後発医薬品使用促進・薬剤使用適正化、不妊治療技術に関する記事はこちらこちら
◆基本方針策定論議に関する記事はこちら(医療部会3)こちら(医療保険部会3)こちら(医療部会2)こちら(医療保険部会2)こちら(医療部会1)こちら(医療保険部会1)



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