要介護高齢者への維持期「疾患別リハ料」は2019年3月末で終了、介護保険への移行完了―中医協総会(1)
2019.3.6.(水)
要介護者・要支援者(以下、要介護者等)に対する維持期・生活期の疾患別リハビリテーションについて、医療保険からの給付(診療報酬における疾患別のリハビリテーション料)は、今年(2019年)3月末をもって終了する。なお、ケアプランの策定などに時間がかかるケースなども考えられ、介護保険制度において一定の配慮を行うこととする―。
3月6日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こうした点が了承されました。2006年度の診療報酬・介護報酬で打ち出された「要介護者への維持期・生活期リハビリの、医療保険給付から介護保険給付への移行」がついに完了します。
目次
要介護高齢者への維持期リハ、医療保険から介護保険への移行を2006年度から進める
医療保険のリハビリテーションに関する評価は複雑ですが、中心となる診療報酬項目として「疾患別のリハビリテーション料」があげられます(入院・入院外ともに患者へのリハビリ提供を評価する)。
このうち、▼脳血管疾患等リハビリテーション料▼廃用症候群リハビリテーション料▼運動器リハビリテーション料―を入院外の患者に提供する場合、発症等からの日数や、患者の状態に応じて次のように分類して考えることができます。
(1)患者が要介護等の認定を受けていない(若人など)
(i)発症等から標準的算定日数(脳血管疾患等リハは180日、運動期リハは150日、廃用症候群リハは120日、以下同)以内に実施されるリハビリ
(ii)発症等から標準的算定日数を超えて実施されるリハビリ
(2)患者が要介護等の認定を受けている
(i)発症等から標準的算定日数以内に実施されるリハビリ
(ii)発症等から標準的算定日数を超えて実施されるリハビリ(下図の赤枠部分)
このうち(i)の標準的算定日数以内のリハビリは、▼早期離床や廃用症候群防止を主な目的とした「急性期のリハビリ」▼在宅への復帰などを目指した心身機能回復・ADL向上を主な目的とした「回復期リハビリ」―に、一方(ii)の標準的算定日数を超えて実施されるリハビリは、心身の機能やADLの維持・向上を図りながら、生活機能の維持やQOL改善を主な目的とした「維持期・生活期のリハビリ」と位置付けられています。
ところで2000年度に創設された介護保険でも「維持期・生活期のリハビリ」を保険給付の1つに位置付けていることから、2006年度の診療報酬・介護報酬改定において、(2のii、上図の赤枠部分)について「医師が医療保険のリハビリが必要と判断した場合を除き、医療保険給付から介護保険給付へ移行する」との方針が打ち出されました。ただし、介護保険のリハビリ提供事業所が少なく、また激変を嫌う患者等も少なくなかったことから、その後の診療報酬改定等において「介護保険給付への移行を目指しながら、次期診療報酬改定まで医療保険からの給付も継続する」旨の経過措置が設けられてきました。なお、要介護認定等を受けていない人については、維持期・生活期のリハビリは医療保険給付が行われます(介護保険給付は受けられないため、そもそも「移行」と言う考えが存在しない)。
2012・14・16・18年度の診療報酬改定等で、介護保険リハビリへの移行を促進
リハビリの医療保険給付から介護保険給付への移行を阻む壁は、リハビリを提供する医療機関サイドと、リハビリを受ける患者サイドの双方にあります。A医療機関でリハビリを受けていた高齢の患者が、B通所介護事業所でリハビリを受けなければならないとなった際、やはり「不安」を覚え、「これまでと同じA医療機関でリハビリを受けたい」と希望することは少なくありません。
この点、患者の希望に応えるためにA医療機関で介護保険の通所リハビリを提供することも可能です(保険医療機関は、介護保険の「みなし指定事業所」となることができる)が、そのためには一定の要件(介護保険の構造設備基準など)を満たさなければならず、これもハードルの1つになっていました。
そこで、2012・14・16・18年度の診療報酬改定と介護報酬改定で、▼医療保険と介護保険でリハビリに関する人員や設備等の「共用」を一定程度可能とする(18年度改定)▼介護保険への移行を目指し、一定期間、医療保険給付と介護保険給付の併用を認める(12年度改定で創設し、その後、見直し)▼医療機関とケアマネジャーが連携し、医療保険リハから介護保険リハへ移行することを評価する「介護保険リハビリテーション移行支援料」を創設する(14年度改定)▼介護保険の通所リハビリを提供しない医療機関では、疾患別リハビリ料を減算する(14年度改定で創設し、その後、厳格化)▼医療機関が、リハビリの目標設定を支援し、介護保険サービスを紹介することなどを評価する「目標設定等支援・管理料」を創設する(16年度改定)―など、ハードルの解消に向けたさまざまな取り組みが行われました(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
医療保険リハから介護保険リハへの「円滑な移行」措置は継続
こうした取り組みの結果、▼介護保険の通所リハビリ事業所の増加(2014年4月から2018年度上半期にかけて9.4%増)▼介護保険の通所リハビリを提供する医療機関の増加(2013年10月から2017年10月にかけて24.3%増)▼医療保険の維持期・生活期リハを受給する要介護等の患者(上記2のii)の減少(2014年5月から2018年5月にかけて19.1%減)―という具合に、「医療保険から介護保険への移行」環境が整ってきています。
ここで「2018年5月時点で、3万人を超える要介護者等が医療保険の維持期・生活期リハを受けているのではないか」とも思えます。しかし、診療報酬点数が存在する限り、当該点数の算定は違法なものではなく、また厚労省保険局医療課が個別医療機関を取材した結果、「多くの患者について、この3月末(2019年3月末)をもって医療保険給付から介護保険給付へ移行する」ことが判明しており、「医療保険から介護保険への移行環境は概ね整った」と考えることが妥当でしょう。
なお、従前の診療報酬改定においては「次期改定まで、医療保険給付を継続する」旨の経過措置が設けられていたことから、次の診療報酬改定論議で「次期改定まで経過措置を延長してはどうか」との結論に結びつきやすかったと言えます。この点、2018年度の診療報酬改定では、「当面、2019年3月31日までとする」と1年限りの経過措置が設けられ、医療機関サイドも「介護保険給付への移行」に向けた体制整備や患者への説明などを進めていると考えることができます(関連記事はこちら)。
こうした状況を踏まえ、厚労省保険局医療課の森光敬子課長は、2018年改定どおり「経過措置をこの3月末(2019年3月31日)で終了する」考えを3月6日の中医協総会に提示し、了承されました。2019年4月1日以降は、要介護等の高齢者に対し、維持期・生活期の(標準的算定日数を超える)▼脳血管疾患等リハビリテーション料▼廃用症候群リハビリテーション料▼運動器リハビリテーション料―は、医師が「医療保険のリハビリ継続が必要」と判断した場合や「外傷性の肩関節腱板損傷」「高次脳機能障害」などの場合を除き、算定できなくなります(裏を返せば、医師が必要と判断する場合などは、医療保険リハビリを継続可)。
もっとも、要介護等の高齢者にとって、「ある日を境に、別の介護事業所でリハビリを受けなければならなくなる」ことは、やはり「大きな不安」であることに変わりはありません。森光医療課長は、こうした心情に配慮する必要があると考え、「医療機関から、別の介護事業所に移って維持期・生活期リハビリを受ける場合には、介護保険への移行から2か月間(移行日の翌々月まで)、医療保険リハビリの一部(7単位まで)と、介護保険リハビリの併給を可能とする」仕組みを維持する考えも示しています(2012年度改定で創設され、改善)。従前の医療機関に通院して医療保険リハビリを一部受けながら、併行して通所リハビリ事業所で介護保険リハビリを受けることが、期間限定で可能となります。
ケアプラン策定の遅れなどには、介護保険制度で一定の配慮を行う
ただし、医療機関(A病院)から、別の介護事業所(B事業所)に移って通所リハビリを受ける場合、ケアプランの中に「B事業所での通所介護」が位置付けられていなければ、介護保険給付を受けることはもちろん、7単位までの医療保険リハビリ給付を受けることもできなくなってしまいます。
また、同じ医療機関(C病院)で、医療保険のリハビリから介護保険のリハビリへ移行する場合には、C病院が「みなし介護事業所」となっていなければならず、この手続きが遅れれば、一時的に患者は医療保険のリハビリも介護保険のリハビリも受けられなくなってしまいます。
こうした事態を避けるために、厚労省老健局老人保健課では、▼介護事業所の指定に係る手続き▼ケアプランの策定に係る手続き▼介護報酬の請求に係る手続き―について一定の配慮を行う考えを示しています。例えば、「事業所のみなし指定等を迅速に行う」、「ケアプラン策定が遅れた場合でも、遡って介護保険の通所リハビリ受給を認める(これが可能となれば、7単位までの医療保険リハビリ受給も可能となる)ことなどが考えられそうです。
厚労省では、「要介護等の高齢者における維持期・生活期の疾患別リハビリに関する経過措置が、この3月末(2019年3月31日)をもって終了する」こと、「ケアプラン作成等が間に合わない場合には、介護保険サイドで一定の配慮を行う」ことなどについて、速やかに関連通知等を発出する考えです。
なお、経過措置の終了による影響について、診療側の猪口雄二委員(全日本病院協会会長)と松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は、「データを収集し、問題が生じていないか検証する必要がある」と指摘。森光医療課長も、速やかに検証を行い、問題が生じていれば必要な対応を行う考えを明らかにしています。
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