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「充実した急性期入院医療を提供する急性期一般1を高く評価すべき」との点では一致しているが・・・―中医協総会(1)

2021.12.1.(水)

ICU等のユニットを設置するとともに、救急搬送や手術等の件数が多いなど「充実した急性期入院医療を提供する」急性期一般1病棟について、新たな加算を設けるなどして特別の評価を行ってはどうか―。

看護職・臨床工学技士を手厚く配置し、質の高い高度急性期入院医療を提供するICUを特別に評価してはどうか―。

また診療実態を踏まえ、ECMO管理を行う患者や臓器移植後患者ではICU等の算定日数上限を延伸してはどうか―。

さらに学会データベースへの協力や、遠隔で他のICU等を支援するなど、高度急性期入院医療の質向上・底上げに尽力するICU等についても特別の診療報酬上の評価を行うべきか―。

12月1日に開催された中央社会保険医療協議会・総会で、こうした議論が改めて行われました。

「充実した急性期入院医療を提供する急性期1を評価」する方向に異論は出ていないが・・・

2022年度の次期診療報酬改定に向けた論議が、ますます熱を帯びてきています。12月1日の中医協総会では「急性期入院医療」「高度急性期入院医療」改革論議を深めています。

前者の「急性期入院医療」に関しては、充実した急性期入院医療を提供する【急性期一般入院料1】病棟(旧7対1)について特別の評価を行うべきか否かが改めて議題となりました。

「入院医療等の調査・評価分科会」(中医協の下部組織)では、▼ICU等のユニット設置▼救急搬送患者の受け入れ数▼手術等の実施数—に着目した評価方法を考えてはどうかという議論が行われてきました(関連記事はこちらこちら)。

ICU設置等と手術などの実施状況(急性期一般1)(入院医療分科会(1)3 211001)

ICU設置等と心臓カテーテル手術などの実施状況(急性期一般1)(入院医療分科会(1)4 211001)

病床規模別に見た、救急搬送件数と時間外加算との関係(急性期一般1)(入院医療分科会(1)6 211001)



「充実した急性期入院医療を提供する急性期一般1について評価を充実させる」(例えば新加算を設ける)方向ですが、11月10日の中医協総会では一部の診療側委員が「ICU等設置をしていない病院でも充実した急性期入院医療を提供しているところはある。そうした病院を評価しないのであれば反対である」とコメント。医療の質向上に向けた努力を続ける病院の足を引っ張りかねない衝撃の展開となりました(支払側委員は評価方向に賛同している)。

こうした議論を受け12月1日の中医協総会において、厚生労働省保険局医療課の井内努課長は、ICU等を設置している急性期一般1では▼救急搬送受け入れ件数が多い▼手術等実施件数が多い—など「急性期入院医療提供体制が充実している」ことを改めて整理。あわせて▼感染防止対策▼認知症ケア▼精神科リエゾンチーム―といった取り組みにも着目したうえで「優れた充実した取り組みを行う急性期一般1に対する特別の評価」を検討してはどうかとの考えが提示されています。

この論点については、診療側・支払側委員ともに「充実した急性期入院医療を提供する急性期一般1を特別に評価することには賛成である」としたうえで、次のような指摘が出ています。以前に本論点を議論した際にも同じ指摘が出されています。

まず「ICU等設置のみに着目した評価を行うべきではない」との指摘があります。「体制を敷けば点数がつく」という単純構図は好ましくないとの指摘で十分に理解できるものです。井内医療課長も「ICU等を設置する病院の急性期一般1に加算を設ける」などの考えは示しておらず、上述の通り、例えば「救急搬送患者の受け入れ件数」や「手術の実施件数」などの「診療実績」も勘案した評価を行う考えを示しています。診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)や支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)も「実績を勘案した評価のをすべき」旨を述べており、この点では中医協・厚労省ともに方向性は一致していると言えます。

一方で「ICU等の設置は要件とすべきでない」旨の指摘もあります。診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)の見解はこちらに近いようです。城守委員は前回論議と同様に「ICU設置等をしていない中小病院においても充実した取り組みを行っているところがあり、そうした中小病院の評価切り下げを行うのであれば厚労省提案に反対する」との考えを改めて示しました。▼ICU等設置▼救急搬送受け入れが多い▼手術実績等が高い―急性期一般1へ新加算を設けるだけであれば城守委員の心配は杞憂に終わります。一方、城守委員は新加算の財源を捻出するため、例えば「急性期一般1の入院料を下げ、新加算を創出する」といった事態を懸念していると思われます。こうした指摘も踏まえて、今後、厚労省で具体案を練っていくことになるでしょう。

ICUの算定日数上限、ECMO管理患者や臓器移植患者等で延伸を

高度急性期入院医療に関しては、これまでに中医協や入院医療等の調査評価分科会において、▼看護必要度の見直し▼手厚い人員配置を行うユニットの評価▼設備要件の見直し▼算定日数上限の見直し―などが議題に上がっており(関連記事はこちらこちらこちら)、今回は▼手厚い人員配置を行うユニットの評価▼算定日数上限の見直し▼集中治療に関するデータベースへの協力や遠隔ICUなどの評価―を議論しています。

まず算定日数上限については、特定集中治療室管理料や救命救急入院料で「原則として14日、ただし「広範囲熱傷で特定集中治療が必要な患者は60日」という上限が定められています(特定入院料の算定可能日数)。

ただし、▼実際のICU滞在日数を見ると、例えば「血液浄化療法と人口呼吸器を併用する患者」や「ECMO(体外式心肺補助)装着患者」、「臓器移植後の患者」などでは平均滞在日数が14日を超えていること▼小児のICUでは2016年度改定では、急性血液浄化を必要とする状態などでは21日まで・ECMOを必要とする状態では35日までと算定日数上限の延長が行われていること―などを踏まえ、算定日数上限を見直してはどうかとの議論が入院医療等の調査・評価分科会で行われて来ました。

ECMO装着患者等では、ICU入室期間が長くなるケースが少なくない(その1)(入院医療分科会(2)7 210827)

ECMO装着患者等では、ICU入室期間が長くなるケースが少なくない(その2)(入院医療分科会(2)8 210827)

臓器移植患者では、ICU入室期間が長くなるケースが少なくない(入院医療分科会(2)9 210827)



この点、「ICUで比較的長期間の集中管理が必要な患者について特定集中治療室管理料の算定可能日数上限を引き上げる」方向に異論は出ていませんが、単純に「●●疾病は14日超の算定(例えば21日までなど)を認める」という形での延伸は好ましくないとの指摘が、診療側・支払側双方の委員から出されました。「真に高度急性期入院医療が必要な患者」に貴重な医療資源を集中投入すべきとの考えに基づく指摘です。

診療側の島委員は「例えば、現在、ICUで測定を義務付けているSOFAスコア(生理学的スコア)を活用し、ほんとに14日を超えるICU管理が必要か否かを見極めたうえでの算定を認めるべきではないか」と具体的な提案を行いました。SOFAスコアでは、▼呼吸機能▼凝固能▼肝機能▼循環器機能▼中枢神経の状態▼腎機能—のそれぞれを0点から6点で評価し、合計点数で患者の状態を把握するものです。島委員の提案を踏まえれば、例えば「●●疾患で、SOFAスコア合計(TMS)が◆点以上の場合には算定日数を■日(例えば21日など)とする」などと細かく設定していくことになるでしょう。

今後、こうした点も加味しながら、厚労省で具体案を詰めていくことになります。

看護職・臨床工学技士を手厚く配置するICU等、診療報酬で特別の評価へ

また、新型コロナ感染症対応を進める中で「ICUにおけるECMO管理等を行える医療技術者(看護師、臨床工学技士)の不足」が強く認識されたこと、手厚い看護職・臨床工学技士配置を行うICU等ではトラブル回避などが円滑に行えていることなどを踏まえ、「手厚い人員配置を行うICU等の特別評価」が重要論点として浮上しています。重症患者への対応力を強化するとともに、専門人材の育成・確保を通じて「有事への対応」力を底上げする狙いもあると考えられます。

V-V ECMO療法では最大4名の看護師が必要となる(中医協総会(3)5 211110)

ICUへの臨床工学技士の手厚い配置(専任→専従)で人工呼吸器関連トラブル回避などの効果あり(中医協総会(3)6 211110)



中医協ではこの方向に反対する意見は出ていませんが、▼将来的に「人員配置が進んでいるので専従・専任要件に引き上げよう」などと考えたのでは本末転倒である(診療側の城守委員)▼専門人材の奪い合いが生じないかなど、現場の状況をフォローしていく必要がある(支払側の松本委員)▼多職種カンファレンスの実施状況なども組み合わせた評価を検討してくべき(診療側の島委員)▼「実際に有事対応を行う」という担保要件等を組み込むべき(支払側の眞田享委員:日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会部会長代理)—などの注文が付いています。こうした意見も踏まえて、具体的な制度設計(新加算の要件など)を厚労省で進めていくことになります。

集中治療データベース「JIPAD」への協力や遠隔ICU支援などを診療報酬で評価すべきか

さらに、▼ICUにおける診療の状況をリアルタイムで把握するデータベース「JIPAD」(日本集中治療医学会が運営、このデータを活用して医療の質を改善し「患者アウトカムの改善」につなげる)へ協力するユニットへの診療報酬上の評価▼夜間休日等において、遠隔(オンライン)より集中治療専門医が適切な助言を行い、現場の「集中治療が専門ではない医師」をサポートする取り組みの診療報酬での評価—も議題に上がっています。

日本集中治療医学会が運営するJIPDAにより、集中治療の質が向上している(入院医療分科会(2)10 210827)

遠隔のICUが、他院のICUを支援する遠隔ICU(Tele ICU)の取り組みが行われている(中医協総会(1)1 211201)

遠隔ICU(Tele ICU)の実施で死亡率リスク減少などの効果が出ている(中医協総会(1)2 211201)



いずれも高度急性期入院医療の質向上・底上げを目指す取り組みと言えますが、診療側の城守委員や支払側の松本委員、安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)らは「実態などのデータをより細かく見てから検討してはどうか。2022年度の次期改定での対応は時期尚早である」との考えを述べました。

ただし、診療側の島委員は「高度急性期医療提供体制の質向上は、経済的な支援がなければなかなか難しい。将来に向けた高度急性期医療の質向上・全体の底上げも考えた評価を検討してもよいのではないか」との考えを示しています。今般のコロナ感染症対応においても「高度急性期入院医療の重要性」が再確認され、専門人材の確保・育成が重要論点の一つになっています。こうした点を踏まえても「将来を見据えるべき」との島委員の指摘には十分な合理性があると考えられそうです。

ただし慎重意見が多いことから、今後、どういった対応がなされるのか注目する必要があります。



なお、支払側の松本委員は「急性期入院医療、高度急性期入院医療改革の中で重要となる『重症度、医療・看護必要度』が論点として示されていない。今後の医療機能の強化・集約化、連携の強化などを考えるうえで欠かせない論点であり、2022年度の次期改定に向けて議論できるようシミュレーション結果などを準備し、次回以降の会合に提示してほしい。支払側の早期である」とも要望。井内医療課長も「しかるべく対応する」と答弁しています。

重症度、医療・看護必要度をめぐっては、「コロナ禍で大変な時期に見直しを行うべきではない。医療機関の負担が過重になる」とする診療側委員と、「コロナ禍でも少子高齢化は止まらず、医療提供体制改革は待ったなしである。問題点の見直しなどを進め、急性期機能集約を進めるための厳格化を検討しなければならない」と訴える支払側委員との間で、大きな見解の相違があります(関連記事はこちら)。今後の中医協論議から目を離せない状況です。





【これまでの2022年度改定関連記事】
◆入院医療の全体に関する記事はこちら(入院医療分科会の最終とりまとめ)こちら(入院医療分科会の中間とりまとめを受けた中医協論議)こちら(入院医療分科会の中間とりまとめ)こちら(入院総論)
◆急性期入院医療に関する記事はこちら(新指標3、重症患者対応)こちら(看護必要度5)こちら(看護必要度4)こちら(看護必要度3)こちら(新入院指標2)こちら(看護必要度2)こちら(看護必要度1)こちら(新入院指標1)
◆DPCに関する記事はこちらこちらこちら
◆ICU等に関する記事はこちらこちらこちら
◆地域包括ケア病棟に関する記事はこちらこちらこちら
◆回復期リハビリテーション病棟に関する記事はこちらこちらこちらこちら
◆慢性期入院医療に関する記事はこちらこちらこちらこちら
◆入退院支援の促進などに関する記事はこちらこちら
◆救急医療管理加算に関する記事はこちらこちらこちら
◆短期滞在手術等基本料に関する記事はこちらこちら
◆外来医療に関する記事はこちらこちらこちら
◆在宅医療・訪問看護に関する記事はこちら(訪問看護)こちら(小児在宅等)こちら(訪問看護)こちらこちら
◆新型コロナウイルス感染症を含めた感染症対策に関する記事はこちら
◆医療従事者の働き方改革サポートに関する記事はこちら
◆がん対策サポートに関する記事はこちらこちら
◆難病・アレルギー疾患対策サポートに関する記事はこちら
◆認知症を含めた精神医療に関する記事はこちらこちら
◆リハビリに関する記事はこちら
◆小児医療・周産期医療に関する記事はこちら
◆データ提出等に関する記事はこちら
◆調剤に関する記事はこちらこちらこちら
◆後発医薬品使用促進・薬剤使用適正化、不妊治療技術に関する記事はこちらこちら
◆医療経済実態調査(第23回調査)結果に関する記事はこちら
◆基本方針策定論議に関する記事はこちら(医療部会4)こちら(医療部会3)こちら(医療保険部会3)こちら(医療部会2)こちら(医療保険部会2)こちら(医療部会1)こちら(医療保険部会1)



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