2022年度診療報酬改定、「強固な医療提供体制の構築」「医療従事者の働き方改革」が重点課題―社保審・医療部会
2021.12.1.(水)
2022年度の次期診療報酬改定では、「新興感染症にも対応できる強固な医療提供体制の構築」と「安心・安全で質の高い医療の実現のための医師等の働き方改革などの推進」を重点課題に据えるべきである―。
11月29日に開催された社会保障審議会・医療部会において、こうした議論が行われました。2022年度の次期診療報酬改定の「基本方針」論議は大詰めを迎えており、近く取りまとめが行われます。
基本方針論議を「医療提供体制のグランドデザイン論議の足掛かりにせよ」との指摘も
Gem Medで繰り返し報じているとおり、2022年度の次期診療報酬改定に向けた議論が中央社会保険医療協議会を中心に進められています(末尾にこれまでの議論に関する記事を整理)。
このように改定内容の最終決定は中医協で行われます。しかし、かつて中医協を舞台に汚職事件が発生しました。これは「中医協の権能が大きくなりすぎたためである」と指摘され、▼基本方針を社会保障審議会の医療保険部会と医療部会で決定する▼改定率(つまり財源配分の大枠)を内閣が予算編成過程で決める▼基本方針と改定率を受け、中医協で改定内容を詰める―という役割分担が行われています。
基本方針策定論議も医療保険部会・医療部会で精力的に進められており、11月29日の医療部会には、厚生労働省保険局医療介護連携政策課の水谷忠由課長から、これまでの議論を踏まえた「骨子案」が示されました。ただし「骨子案」と言えど、実質は「取りまとめ案」に近いものとなっています。
2022年度の次期改定では、(1)新型コロナウイルス感染症等にも対応できる効率的・効果的で 質の高い医療提供体制の構築(重点課題)(2)安心・安全で質の高い医療の実現のための医師等の働き方改革等 の推進(重点課題)(3)患者・国民にとって身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現(4)効率化・適正化を通じた制度の安定性・持続可能性の向上—の4本柱を基本的視点に据え、それぞれについて具体的な改定方向を示しています。
ポイントを絞って眺めると、例えば重点課題である(1)では▼コロナ感染症への対応▼新興感染症等に対応できる医療提供体制の構築に向けた取り組み▼医療機能や患者の状態に応じた入院医療の評価▼外来医療の機能分化等▼かかりつけ医などの機能の評価▼質の高い在宅医療・訪問看護の確保▼地域包括ケアシステムの推進のための取り組み―などを掲げました。
またもう一つの重点課題である(2)では▼○医療従事者が高い専門性を発揮できる勤務環境の改善に向けた取り組みの評価▼早急に対応が必要な救急医療体制等の確保▼看護職の収入引き上げなどに係る必要な対応について検討するとともに、負担軽減に資する取り組みを推進する―方向を打ち出しました。
この「看護職の収入引き上げなどに係る必要な対応」とは、新たな「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を受けたもので、来年(2022年)2―9月における「1%・月額にして4000円程度」の看護職員給与引き上げ(救急医療に力を入れている医療機関に勤務する看護職などが対象)については「補助金で対応する」ことが決まっていますが、来年(2022年)10月以降については「診療報酬での対応も視野に入れ、2021年末の予算編成過程で検討する」こととされており、診療報酬基本方針に盛り込まれたことが厚生労働省医政局総務課の熊木正人課長から説明されています。ただし、「診療報酬での対応」(例えば看護職員処遇改善加算)が決まったわけではなく、12月下旬の来年度(2022年度)予算案を待つ必要があります。
また(3)では、例えば「アウトカム評価にも着目した評価の推進」などが、(4)では「費用対効果評価制度の活用」などが目立ちます。
これらは、すでに医療部会で交わされた議論をベースにされており、特段の異論・反論は11月29日の会合でも出ていません。
ただし、例えば▼過疎地では医師偏在が深刻であり、地域医療の実態も踏まえた慎重な対応をお願いしたい(遠藤直幸委員:全国町村会(山形県山辺町長))▼「患者のニーズ」を踏まえたかかりつけ医機能の評価などを検討すべきである(河本滋史委員:健康保険組合連合会常務理事)▼医療従事者の働き方改革に向け「国民の理解」が極めて重要である(山口育子委員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)▼岸田文雄内閣総理大臣が述べた「メリハリのある診療報酬改定」などの文言も追記すべき(井上隆委員:日本経済団体連合会常務理事)▼機能分化のみならず、医療機関間などの「連携」が極めて重要であり、そこを強調すべき(神野正博委員:全日本病院協会副会長)▼オンライン診療は「事業者都合」で進めるものでない旨を明確にしておくべきである(今村聡委員:日本医師会副会長)▼コロナ感染症対応では「宿泊・自宅療養者への医療提供」の重要性が再認識されており、ここに留意すべき(相澤孝夫委員:日本病院会会長)▼現行の診療報酬水準では医療機関経営の安定継続は困難であると思う。その点の問題意識も明らかにすべき(小熊豊委員:全国自治体病院協議会会長)—などといった注文がついています。水谷医療介護連携政策課長は「診療報酬改定の基本方針である点を踏まえ、必要な追記などを行いたい」とコメントしています。
医療保険部会でも骨子案に基づく議論が行われる見込みで、間もなく(12月上旬)改定基本方針が固められます。
なお、佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)は「診療報酬改定基本方針論議の中では、将来の医療提供体制の在り方に関する検討も行われてきている。これを改定基本方針として終えるのでなく、我が国の医療提供体制のグランドデザインを考える足掛かりとしてはどうか」という旨の考えも提示しています。佐保委員や相澤委員は「細切れの改革をパッチワーク的に行うだけでなく、一度、将来の医療提供体制の在り方を議論し共通認識を固めておく必要がある」とかねてから述べており、佐保委員は「改定基本方針論議がそのステップになる」と見ているようです。
【これまでの2022年度改定関連記事】
◆入院医療の全体に関する記事はこちら(入院医療分科会の最終とりまとめ)とこちら(入院医療分科会の中間とりまとめを受けた中医協論議)とこちら(入院医療分科会の中間とりまとめ)とこちら(入院総論)
◆急性期入院医療に関する記事はこちら(新指標3、重症患者対応)とこちら(看護必要度5)とこちら(看護必要度4)とこちら(看護必要度3)とこちら(新入院指標2)とこちら(看護必要度2)とこちら(看護必要度1)とこちら(新入院指標1)
◆DPCに関する記事はこちらとこちらとこちら
◆ICU等に関する記事はこちらとこちらとこちら
◆地域包括ケア病棟に関する記事はこちらとこちらとこちら
◆回復期リハビリテーション病棟に関する記事はこちらとこちらとこちらとこちら
◆慢性期入院医療に関する記事はこちらとこちらとこちらとこちら
◆入退院支援の促進などに関する記事はこちらとこちら
◆救急医療管理加算に関する記事はこちらとこちらとこちら
◆短期滞在手術等基本料に関する記事はこちらとこちら
◆外来医療に関する記事はこちらとこちらとこちら
◆在宅医療・訪問看護に関する記事はこちら(訪問看護)とこちら(小児在宅等)とこちら(訪問看護)とこちらとこちら
◆新型コロナウイルス感染症を含めた感染症対策に関する記事はこちら
◆医療従事者の働き方改革サポートに関する記事はこちら
◆がん対策サポートに関する記事はこちらとこちら
◆難病・アレルギー疾患対策サポートに関する記事はこちら
◆認知症を含めた精神医療に関する記事はこちらとこちら
◆リハビリに関する記事はこちら
◆小児医療・周産期医療に関する記事はこちら
◆データ提出等に関する記事はこちら
◆調剤に関する記事はこちらとこちらとこちら
◆後発医薬品使用促進・薬剤使用適正化、不妊治療技術に関する記事はこちらとこちら
◆医療経済実態調査(第23回調査)結果に関する記事はこちら
◆基本方針策定論議に関する記事はこちら(医療部会3)とこちら(医療保険部会3)とこちら(医療部会2)とこちら(医療保険部会2)とこちら(医療部会1)とこちら(医療保険部会1)
【関連記事】
日数に応じた階段状の調剤料は合理的か?制度の抜け穴をついた「事実上の敷地内薬局」に厳正な対処を―中医協総会(3)
外来・在宅・リハビリでもDPC参考にデータ提出を求める、レセプトへの検査値データ記載も推進—中医協総会(2)
退院当日の訪問看護基本療養費算定を認め自宅看取り推進、重度者への複数名訪問看護の評価充実—中医協総会(1)
短期滞在手術等基本料2・3、診療実態を踏まえ廃止や振り替え、新規技術組み入れなど検討―中医協総会(3)
DPCの診断群分類、「他院からの転棟か、直接自院へ入院か」等の要素も踏まえた精緻化を検討―中医協総会(2)
2020年度、医業収支は大きく悪化したがコロナ補助で経営好転、21年も医業収支はコロナ前に戻らず—中医協総会(1)
小入管で【無菌治療室管理加算】を出来高算定とする場合、入院料点数をどの程度引き下げるべきか―中医協総会(3)
障害者施設でも栄養サポートチーム加算の取得を認め、緩和ケア病棟で疼痛の定量評価を新加算で評価へ―中医協総会(2)
経過措置型療養での適正なリハビリ実施、摂食嚥下支援加算の見直しで中心静脈栄養離脱目指す―中医協総会(1)
不妊治療の保険適用、対象技術や対象患者、施設基準等を学会GLなど参考に設定していく方向確認―中医協総会(2)
摂食嚥下支援加算の「専門研修受けた看護師」配置要件緩和、透析中の運動療法の新評価など検討―中医協総会(1)
大病院の紹介状なし患者、「患者負担は増えるが病院収益は増えない」点を国・保険者が周知せよ―中医協総会(4)
救急医療管理加算、定量基準導入求める支払側と、さらなる研究継続求める診療側とで意見割れる―中医協総会(3)
質の高いリハ提供に向け、回復期リハ5・6の期間制限、第三者評価導入、管理栄養士配置など議論―中医協総会(2)
自院のpost acute受け入れに偏る地域包括ケア病棟、診療報酬上の評価をどう考えるべきか―中医協総会(1)
小児特性踏まえた緊急往診加算・在宅がん医療総合管理料の評価、重症者救急搬送の特別評価など実施へ―中医協総会(4)
ICU看護必要度のB項目廃止案、支払側は理解示すが、診療側は反対し入院医療分科会の批判も―中医協総会(3)
救急患者受け入れ・手術実施などが充実した急性期一般1の新評価、診療側が一部難色を示す―中医協総会(2)
心電図モニター管理などを看護必要度項目から削除すべきか、支払側は削除に賛成、診療側は猛反対―中医協総会(1)
連携型の認知症疾患医療センターも認知症専門診断管理料2の対象に加えるなど精神科医療の充実を―中医協総会(2)
がん患者等の治療と仕事の両立を支援する指導料、対象疾患等を拡大し、公認心理師等の活躍にも期待―中医協総会(1)
2022診療報酬改定の基本方針論議続く、医師働き方改革に向け現場医師に効果的な情報発信を―社保審・医療部会(2)
リハビリ専門職による訪問看護の実態明確化、専門性の高い看護師による訪問看護評価の充実等進めよ―中医協総会
多種類薬剤を処方された患者への指導管理を調剤報酬で評価すべきか、減薬への取り組みをどう評価するか―中医協総会(3)
専門医→主治医への難病等情報提供、主治医→学校医等への児童アレルギー情報提供を診療報酬で評価へ―中医協総会(2)
外来がん化学療法・化学療法患者への栄養管理・遺伝子パネル検査・RI内用療法を診療報酬でどう推進すべきか―中医協総会(1)
かかりつけ医機能の推進、医療機関間の双方向の情報連携を診療報酬でどうサポートしていけば良いか―中医協総会
在宅医療の質向上のための在支診・在支病の施設基準、裾野拡大に向けた継続診療加算をどう見直していくか―中医協総会(1)
「回復期リハ要する状態」に心臓手術後など加え、希望する回リハ病棟での心リハ実施を正面から認めてはどうか―入院医療分科会(7)
急性期病棟から地ケア病棟への転棟患者、自宅等から患者に比べ状態が安定し、資源投入量も少ない―入院医療分科会(6)
顔面熱傷は救急医療管理加算の広範囲熱傷でないが手厚い全身管理が不可欠、加算算定要件の見直しを―入院医療分科会(5)
ICU用の看護必要度B項目廃止、救命救急入院料1・3の評価票見直し(HCU用へ)など検討へ―入院医療分科会(4)
DPC外れ値病院、当面は「退出ルール」設定でなく、「診断群分類を分ける」等の対応検討しては―入院医療分科会(3)
心電図モニター等を除外して試算し、中医協で「看護必要度から除外すべきか否か」決すべき―入院医療分科会(2)
2022年度改定で、どのように「ICU等設置、手術件数等に着目した急性期入院医療の新たな評価」をなすべきか―入院医療分科会(1)
2022年度の入院医療改革、例えば救急医療管理加算の基準定量化に踏み込むべきか、データ集積にとどめるべきか―中医協
看護必要度等の経過措置、今後のコロナ拡大状況を踏まえて、必要があれば拡大等の検討も―中医協総会(2)
看護必要度やリハビリ実績指数などの経過措置、コロナ対応病院で来年(2022年)3末まで延長―中医協・総会(1)
看護必要度見直し、急性期入院の新評価指標、救急医療管理加算の基準定量化など2022改定で検討せよ―入院医療分科会
回リハ病棟ごとにADL改善度合いに差、「リハの質に差」か?「不適切な操作」か?―入院医療分科会(5)
心電図モニター管理や点滴ライン3本以上管理など「急性期入院医療の評価指標」として相応しいか―入院医療分科会(4)
一部のDPC病棟は「回復期病棟へ入棟する前の待機場所」等として活用、除外を検討すべきか―入院医療分科会(3)
ICUの看護必要度においてB項目は妥当か、ICU算定日数を診療実態を踏まえて延長してはどうか―入院医療分科会(2)
救急医療管理加算、加算1・加算2それぞれの役割を踏まえながら「対象患者要件」の明確化・厳格化など検討していくべき―入院医療分科会(1)
高齢化・コロナ感染症で在宅医療ニーズは増大、量と質のバランスをとり在宅医療提供を推進―中医協総会(2)
コロナ禍の医療現場負担考え小幅改定とすべきか、2025年度の地域医療構想実現に向け大胆な改定とすべきか―中医協総会(1)
1泊2日手術等の「短手2」、4泊5日手術等の「短手3」、診療実態にマッチした報酬へ―入院医療分科会(3)
【経過措置】の療養病棟、あたかも「ミニ回リハ」のような使われ方だが、それは好ましいのか―入院医療分科会(2)
入退院支援加算等の最大のハードルは「専従の看護師等確保」、人材確保が進まない背景・理由も勘案を―入院医療分科会(1)
後発品の信頼性が低下する中でどう使用促進を図るべきか、不妊治療技術ごとに保険適用を検討―中医協総会(2)
医療従事者の働き方改革、地域医療体制確保加算の効果など検証しながら、診療報酬でのサポートを推進―中医協総会(1)
かかりつけ薬剤師機能、ポリファーマシー対策などを調剤報酬でどうサポートすべきか―中医協総会
回リハ病棟でのADL評価が不適切に行われていないか、心臓リハの実施推進策を検討してはどうか―入院医療分科会(2)
入院料減額されても、なお「自院の急性期後患者」受け入れ機能に偏る地域包括ケア病棟が少なくない―入院医療分科会(1)
かかりつけ医機能・外来機能分化を進めるための診療報酬、初診からのオンライン診療の評価などを検討―中医協総会(2)
感染症対応とる医療機関を広範に支援する【感染対策実施加算】を恒久化すべきか―中医協総会(1)
2020年度改定で設けた看護必要度IとIIの基準値の差は妥当、「心電図モニター管理」を含め患者像を明確に―入院医療分科会(2)
急性期入院の評価指標、看護必要度に加え「救急搬送や手術の件数」「ICU設置」等を組み合わせてはどうか―入院医療分科会(1)
2022年度診療報酬改定に向け「入院医療改革」で早くも舌戦、「看護必要度」などどう考えるか―中医協総会
大病院の地ケアでpost acute受入特化は是正されているか、回リハ病棟で効果的リハ提供進む―入院医療分科会(3)
適切なDPC制度に向け、著しく「医療資源投入量が少ない」「自院の他病棟への転棟が多い」病院からヒアリング―入院医療分科会(2)
看護必要度II病院で重症患者割合が増、コロナ対応病院よりも「未対応」病院で重症患者割合増が顕著―入院医療分科会(1)
不妊治療の方法・費用に大きなバラつき、学会ガイドライン踏まえ「保険適用すべき不妊治療技術」議論へ―中医協総会(3)
2022年度診療報酬改定論議、コロナ感染症の影響など見据え7・8月に論点整理―中医協総会(1)
かかりつけ医制度化を検討すべきか、感染症対策と医療提供体制改革はセットで検討を―社保審・医療保険部会(1)
平時に余裕のない医療提供体制では有事に対応しきれない、2022年度診療報酬改定での対応検討を―社保審・医療部会(1)
コロナ感染症等に対応可能な医療体制構築に向け、2022年度診療報酬改定でもアプローチ―社保審・医療保険部会(2)
「平時の診療報酬」と「感染症蔓延時などの有事の診療報酬」を切り分けるべきではないか―社保審・医療部会
診療報酬で医療提供体制改革にどうアプローチし、医師働き方改革をどうサポートするか―社保審・医療保険部会(1)
2022年度は診療報酬プラス改定する環境にない、メリハリをつけ急性期病床の集約化など進めよ—中医協・支払側委員
かかりつけ医機能評価する診療報酬を患者視点で整理、慢性疾患にはオンライン診療やリフィル処方箋活用を―健保連
かかりつけ医要件を法令等で明確化せよ、医療資源散在是正のため地域医療構想の実現を急げ―健保連
自院の急性期後患者割合に基づく地ケア病棟減算、拡大はコロナ対策阻害しかねない―地ケア病棟協・仲井会長
コロナ禍では「post acute患者割合」に着目した地域包括ケア病棟の点数減額拡大など避けよ―地ケア病棟協・仲井会長