2022年の薬価乖離率・妥結率等は従前と同水準、23年度薬価改定は「通常通り行える、特別の配慮不要」との声も—中医協・薬価専門部会
2022.12.2.(金)
2022年における薬価と市場実勢価格との平均乖離率は約7.0%で、2021年と同水準であった。また調査客体数は少なく抑えているが、回収率・妥結率は過去の調査と同水準であった―。
12月2日に開催された中央社会保険医療協議会・薬価専門部会に、こうした報告が行われました。
これらのデータを踏まえ、支払側委員からは「通常通りの薬価改定を行える。特別の配慮は不要である」との指摘が出ていますが、診療側委員は「安定供給に支障が出ていることは明らかで、何らかの特別配慮が必要」と訴えています。最終的には「年末の予算編成過程の中で改定内容が決定される」ことになり、今後の動きに要注目です。
2022年度薬価調査、回収率や妥結率、乖離率などは「従前と同水準」
来年度(2023年度)の中間年薬価改定に向けた議論が中医協で続けられています。
2017年末のいわゆる4大臣合意に基づいて、薬価制度の抜本改革が2018年度から進められており(関連記事はこちら(2018年度改革)とこちら(2020年度改革))、その一環として「毎年度の薬価改定実施」(2年に一度、診療報酬改定と同時に行われる通常の薬価改定+診療報酬改定の行われない年に行われる中間年改定)があります。
来年度(2023年度)は中間年改定の実施が予定されていますが、「物価高騰、為替の大幅変動によるコスト増が医薬品産業も苦しめている」「後発品を中心とした医薬品の供給不安が続いている」中で中間改定を行うべきかという大きな問題があります。また仮に中間年改定を行う場合には「対象範囲をどう考えるか」「適用ルールをどう考えるか」といった論点があります。中医協では、主に後者について議論が進められています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
11月16日の薬価専門部会では、改定内容(対象品目の範囲や適用ルールなど)論議を続けたほか、厚生労働省から2020年医薬品価格調査(薬価調査)の速報値が報告されました。
まず後者の薬価調査結果(速報値)を眺めてみましょう。
薬価改定の基本的な考え方は「公定価格(薬価)と市場実勢価格(医療機関等の購入価格)との差を埋めていく」ところにあります。このため改定に当たっては「市場実勢価格を把握するための調査」(薬価調査)が行われます。来年度(2023年度)の中間改定に向けても、新型コロナウイルス感染症への対応状況にも配慮した形での調査が行われ、今般、その速報値が薬価専門部会に報告されました。
まず調査の「回収状況」が気になります。コロナ感染症対応等・医薬品供給不安で医療機関・薬局、卸のいずれもが多忙を極めており、価格交渉が困難なために「調査への協力が得られにくいのでは」と今回調査でも心配されました。回収率が低ければ「結果の信憑性」が問題となるためです。この点、11月4日までの報告ベースでは「87.6%」となり、ここ6年間で最高の水準となりました(2021年:86.1%、2020年:86.8%、2019年:87.1%、2018年:85.0%、2017年:79.2%、2015年:72.3%)。調査結果は「信頼に足るもの」と言えるでしょう。ただし、中間年改定に向けた調査では、卸業者の調査客体数を「3分の2」に絞っており(通常は全数)、データ数は過去に比べて少ない点に留意が必要です。
また、価格妥結率は「94.1%」となっています。過去6年間の調査結果を眺めると、若干低いようにも見えますが、「遜色ない水準」と見ることもできそうです(2021年:94.1%、2020年:95.0%、2019年:99.6%、2017年:97.7%、2015年:97.1%)。「改定から1年目は妥結率が低い」という通常の傾向と合致していると言えます。
この点も「医療機関・薬局と卸との間で価格交渉が進んでおらず、調査結果の信頼性が揺らぐ」とも思われますが、数字だけを見れば「妥結が進んでいる」と考えることができそうです。。
こうした点を踏まえて、薬価と市場実勢価格との乖離率を見ると、次のように「前年と同程度の水準」となっていることが分かりました。
【全体平均】:約7.0%(2021年:7.6%、2020年:8.0%、2019年:8.0%、2018年:7.2%、2017年:9.1%、2015年:8.8%)
【投与形態別】
▽内用薬:8.2%(2021年:8.8%、2020年:9.2%、2019年:9.2%、2018年:8.2%、2017年:10.1%、2015年:9.4%)
▽注射薬:5.0%(2021年:5.6%、2020年:5.9%、2019年:6.0%、2018年:5.2%、2017年:7.3%、2015年:7.5%)
▽外用薬:8.0%(2021年:7.9%、2020年:7.9%、2019年:7.7%、2018年:6.6%、2017年:8.0%、2015年:8.2%)
▽歯科用薬:マイナス4.3%(2021年:マイナス2.4%、2020年:マイナス0.3%、2019年:マイナス4.6%、2018年:マイナス5.7%、2017年:マイナス4.1%、2015年:マイナス1.0%)
【主要薬効群別】
▽内用薬
▼その他の腫瘍用薬:4.2%(2021年:4.6%、2020年:5.1%、2019年:5.1%、2018年5.1%、2017年:6.6%、2015年:7.1%)
▼糖尿病用薬:8.4%(2021年:9.0%、2020年:9.5%、2019年:9.9%、2018年:8.6%、2017年:10.6%、2015年:10.3%)
▼他に分類されない代謝性医薬品:7.2%(2021年:8.2%、2020年:9.1%、2019年:9.0%、2018年:8.0%、2017年:9.5%、2015年:9.1%)
▼血圧降下剤:11.3%(2021年:11.9%、2020年:12.1%、2019年:13.4%、2018年:11.7%、2017年:13.3%)
▼消化性潰瘍用剤:11.3%(2021年:11.2%、2020年:11.7%、2019年:12.3%、2018年:10.8%、2017年:13.1%)
▼高脂血症用剤:12.7%(2021年:12.5%、2020年:13.8%、2019年:13.9%、2018年:12.2%、2017年:12.7%)
▼その他のアレルギー用薬:11.6%(2021年:12.2%、2020年:13.6%、2019年:13.6%、2018年:11.8%、2017年:14.5%)
▽注射薬
▼その他の腫瘍用薬:4.7%(2021年:5.0%、2020年:5.3%、2019年度:5.0%、2018年度:4.3%、2017年度:6.0%、2015年度:6.9%)
▼他に分類されない代謝性医薬品:6.3%(2021年:6.6%、2020年:6.7%、2019年度:6.3%、2018年度:6.0%、2017年度:7.8%、2015年度:8.6%)
▼血液製剤類:2.2%(2021年:2.5%、2020年:3.0%、2019年度:3.3%、2018年度:2.3%、2017年度:4.1%、2015年度:4.1%)
▼その他のホルモン剤(抗ホルモン剤含む):7.2%(2021年:7.5%、2020年:7.9%、2019年度:7.8%、2018年度:6.5%、2017年度:8.4%)
▼その他の生物学的製剤:2.7%(2021年:3.3%、2020年:3.3%、2019年度:3.8%、2018年度:3.8%、2017年度:4.6%)
▽外用薬
▼眼科用剤:8.7%(2021年:8.5%、2020年:8.4%、2019年度:8.0%、2018年度:6.8%、2017年度:7.8%、2015年度:8.6%)
▼鎮痛、鎮痒、収斂、消炎剤:9.1%(2021年:8.7%、2020年:8.6%、2019年度:8.9%、2018年度:7.6%、2017年度:9.3%、2015年度:9.3%)
▼その他呼吸器官用剤:7.2%(2021年:7.2%、2020年:7.6%、2019年度:6.8%、2018年度:6.0%、2017年度:7.6%)
また供給不安が生じている「後発品」のシェア(後発品割合)は「79.0%」で、2021年の79.0%から変わらず、2020年の78.3%よりも高くなっています。
支払側委員は「通常通りの改定を行える、特別の配慮は不要」と指摘するが・・・
こうした調査結果について支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「前回と比べて大きな変化はなく、後発品割合も後退はしていない」と指摘。同じく支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は、「乖離率や妥結率などは、概ね例年並みであり、通常通りの薬価改定が可能なのではないか」と、より踏み込んだ指摘を行いました。
さらに安藤委員は「燃料費や物価の高騰、製造管理コストなどの高騰などによって医薬品の安定供給に障害が出ていることは十分に理解している。今般の調査結果からは『薬価改定における配慮』が必要とまではいえないのではないか。今後の業界ヒアリングなどで定性的なコメントにとどまり、数字・データ等が示されない限りは、特別の配慮を行う必要がない」との見解を明らかにしました。ただし「薬価改定以外での対応」には一定の理解を示しています。
これに対し、診療側の有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)は「後発品割合が伸びておらず、安定供給に支障が出ている証拠と言える」と述べ、今後の「安定供給確保に向けた特別の対応」の必要性論議を訴えています。
さらに、同じく診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「医薬品の安定供給に支障が出ており、様々な要因でコストが急騰する中で、毎年度連続で薬価を一律に引き下げていくことは合理的とは言えない。現状を踏まえた判断をすべきである」と述べ、「特別の配慮」の必要性を強調するとともに、「中医協で具体策を議論すべき」との考えも示しています。
このほか、対象範囲について「2021年度の中間改定のように平均乖離率を下回る品目を対象にするべきではない。平均乖離率を超過するもののみを対象とすべき」(有澤委員)との指摘が、適用ルールについては「市場実勢価格に連動するものに限定すべき」(有澤委員)、「新薬創出・適応外薬解消等促進加算の累積向上、後発品への置き換えに向けたG1・G2は市場実勢価格に連動するものと言え、2023年度改定で適用すべき」(松本委員)と指摘が出るなど、「従前と同じ主張の繰り返し」が続いています。今後の議論を見守る必要があるでしょう。
なお対象品目について、かねてから松本委員をはじめ支払側委員から「乖離率だけでなく、乖離額にも注目すべき」との指摘が出ています。乖離率が小さくとも「実際に大きな医療費縮減効果のある高額な薬剤」を改定のターゲットに据えれば、医療保険財政の負担軽減効果が大きくなるためです。
この点について有澤委員は、▼高額な薬剤は新薬や希少疾病用医薬品に多い▼投与間隔の少ない医薬品がターゲットに入ってくる—ため「イノベーション評価を阻害し、これまでの薬価制度改革と異なる方向に進んでしまう」ことを強く懸念しました。
後者については、厚労省保険局医療課の安川孝志薬剤管理官から▼1日薬価が同じ品目で比べた場合、1日1錠の品目Aは、1日2錠の品目Bの薬価の2倍となる(類似薬効比較方式では1日薬価合わせで薬価を設定する)。このため乖離率が同一でも、薬価算定単位当たりの乖離額は2倍となる▼1週間に1回投与の製剤Xは、1日1回投与の製剤Yの薬価の7倍となり、薬価算定単位当たりの乖離額は7倍となる—ことを紹介。「投与回数が減る→患者の利便性が高まる」という点を製薬メーカーで考慮して開発された製剤B・Xが「薬価改定のターゲットになりやすくなる」(=薬価が下がりやすくなる)ため、患者の利便性向上に向けた企業努力が「無」に帰してしまう恐れがあると有澤委員は強調しています。また、前者の「高額な薬剤」(=画期的な新規抗がん剤など)や「希少疾病用医薬品」の開発に水を差すべきでない点もここで述べるまでもありません。
医療保険財政の安定性確保は極めて重要なことは述べるまでもありませんが、製薬メーカーの努力を無視することも好ましくありません。保険診療をめぐる様々な点を総合的に踏まえて薬価改定をはじめとする、制度改革を考えていく必要があります。
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